それからエリックとフィーリウスは周囲に何事もなく振る舞い、夜にはエリックの自室で行為を繰り返した。
精通が済んだフィーリウスの体は年相応の反応を見せ、エリックの与える快感を求めて彼の手や口の愛撫で果てる、そんなルーティンが出来上がっていた。
その中でも、フィーリウスがランスと話しているところをエリックが見かけた日は必ず部屋に呼ばれ、激しく責め立てられ、首に痕を残された。
そんな日々が続いたある日、いつものように部屋に呼ばれたフィーリウスはエリックが出張で1週間不在にすると聞かされた。
内心、こうして呼ばれることはないのか、と安堵と不安が相反してフィーリウスを包んだが、彼の心情を知らないエリックはいつものようにフィーリウスの手を取ると寝室へ誘った。
「しばらく不在にするから、今日は時間をかけるよ」
ベッドに座らせたフィーリウスの手の甲にキスをすると、彼は顔を赤くする。
そして長く、ゆっくりとフィーリウスの全身を手と口で愛撫し、陰部で果てさせた。そのまま眠りにつきそうになるフィーリウスの頬を手の平で撫でれば、眠そうな目でエリックを捉える。
フィーリウスはいつもなら終わりなのにと逡巡したが、下半身が期待するかのようにひくつき、エリックはそれを見逃さなかった。
イったばかりの敏感なそれを再び口に含む。
「ひっ!あっ、ん…!?」
フィーリウスの腰が浮き、悲鳴に似た嬌声が上がった。
女のような自分の声に驚き、口をつぐみ手で抑えたが、エリックは彼の快楽のダムを再び貯めるように、口や手で愛撫を重ねる。
快感を逃がそうとする足を逃げられないようベッドに張りつけ、彼自身を口で強く吸い上げると、2度目の絶頂がフィーリウスを襲った。
その瞬間、エリックは陰部から口を離し、先端から精液が潮のように吹く。
「あえッ、あっ、んあッ、うぁ…?」
ガクガクと大きく腰を震わせた後、四肢を脱力させ、快楽に浸るフィーリウスにエリックは微笑む。
「潮吹き、上手にできたね」
「し、お…?」
「さあ、お休み」
脳天までエリックの与える快楽に支配されたフィーリウスは、頭を優しく撫でられると瞼を閉じて眠りについたが、時折、体に残った快感に震える様子がひどく愛らしい。
エリックはフィーリウスの首筋にキスをし、自分のものだと印を付けた。
翌日、エリックの出発を見送ったフィーリウスの体は快楽を求めて熱を持ち、行為を思い出しては動きや反応を鈍らせることが増えていた。
この頃にはガイウスとバネッサも彼らの関係に気が付いていたが、口を出すこともできず、ただ見守るしか無かった。
フィーリウス自身も自分の様子を自覚しており、エリックとの行為を思い出さないようにと意識するが、意識すればするほど逆効果になる。
日が経つにつれ自分の卑しい体に嫌気が指すと同時に、快楽を求めて腰の疼きが強くなっていった。
(中佐がお戻りになるまで耐えなくては…)
自分が欲情している事実にもう嘘はつけなかった。
エリックが発って4日目の朝、眠りから目を覚ましたフィーリウスが起き上がろうとすると、下半身に違和感を感じた。
「?…えっ」
自身のそれが服の下で膨らみを持っており、所謂、朝勃ちを知らない彼は驚き戸惑ったが、エリックとの行為の最中でしかならなかったそれに、何とかしなければと恐る恐る触れた。
「う…」
しかし、エリックの与える快楽に慣れてしまった体は自分の手を一切受け付けなかった。
(やっぱり中佐でないと…)
自分の体はなんて卑しいんだろう、とため息をつき、自身が鎮まるのを体を丸めてしばらく待った。
「フィーリウス様、お疲れ様でした」
一足先にシミュレーション演習を終えていたバネッサが、同じく演習を終えたフィーリウスに声をかける。
「ん…」
ヘルメットを取り、乱れた髪を直すように頭を振って、小さくふう、と息をつく。その姿は誰が見ても美しい少女で、その仕草を見て、罪なお方だな、と改めてバネッサは思った。
程なくしてガイウスも合流し、少し雑談するとそれぞれ解散した。
久しぶりに午後の予定は何もない。自室で本でも読もう、とフィーリウスは帰路に着く。
途中、何人かの男性士官とすれ違ったが、エリックが出発前夜につけた首の印のおかげか、声を掛けられることはなかった。
フィーリウスは未だにその痕が、行為をしていることを示すと同意であることを理解しておらず、純粋にお守りのようなものと捉えていた。
そしてその無頓着さが幸か不幸か、堂々と歩く彼から一歩引かれ、極めつけは夜にエリックの部屋に出入りするフィーリウスの度々の目撃情報から、中佐と関係があるのではないかと噂となり、声をかけられなくなるという状況を生んでいた。しかし、
(中佐のおかげだ)
当の本人は一人で歩くのも気楽になり、印をくれるエリックをなおも敬愛しているのだが、それも全てエリックの計算通りであった。
自室に戻ったフィーリウスはしばらく読み進められていなかった本を手に取り、文字をなぞる。
著名な作家の小説で、主人公はフィーリウスと同い年の少年だった。若くして軍属となったフィーリウスにとって、同い年の者の人生がどんなものであるか興味が湧いたのだ。
しかし読み進めるにつれフィーリウスの顔は険しくなっていき、
(…もうこれは読めない)
パタ、と本を閉じる。店頭ではヒューマンドラマと謳っていたから買ったのに、開けてみればよりによって同い年の少年が、エリックと同い年の好青年と行為を重ねる官能小説だった。
しかもその内容はフィーリウスとエリックを行為をそっくりそのまま文字にしたようなもので、はぁ、と息をつく。
まさか、と思いしばらく読み進めてしまった為、フィーリウスの体はまた火照りをぶり返していた。
夕食の時間が近づくまでベッドでじっと耐え、やっと体を落ち着かせたフィーリウスは起き上がり、食堂に行くために着替えをし、部屋を出た。
しばらく横になっていたから空腹ではないし、なんなら食べたい気分ではないが、行かなければガイウスとバネッサが心配するだろう。
フィーリウスが少し重い体を食堂に向かわせようと歩き出したその時、
「やあ、少尉じゃないか」
背後から聞きなれた声に呼び止められた。
振り返るとやはりランスが立っていた。
「ランス中佐…」
今は会いたくなかった、と内心ひっそり思う。
そんなフィーリウスの胸中を知らず、ランスはフィーリウスのまだ新しい首の痕に気づいて目を逸らし、そうだ、と口を開く。
「最新のシミュレーション機を入れたと聞いたよ。少尉は使ったか?」
「はい、午前中に」
「そうか、マンスフィールド中佐の手配したものらしいな」
「!」
ランスからエリックの名が出て、体がひどく反応する。
何気なく口にした話題だったが、ランスはその様子を見てフィーリウスと行為をしている相手がエリックだと確信した。
今後は話題に出さないようにしなくては、と頭をかくランスに、フィーリウスも勘づかれたと気づき、沈黙が流れる。
やがてランスが居た堪れずに、ではまた、と声を出すより先に、珍しくフィーリウスが口を開けた。
「中佐、お願いがございます」