※この作品はR-18です。

元スクールアイドル達の恋物語   作:ゴンザス

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大学に進学してある研究室に所属することになった四季はある男性と出会います。


運命の出会い〜若菜四季編〜

春の雨が、大学の研究棟の窓を静かに叩いていた。

 

結ヶ丘女学院を卒業して一年。

 

かつてスクールアイドルグループ『Liella!』のメンバーとして輝いていた若菜四季は、今は白衣を羽織り大学の研究室でパソコンと睨めっこをする日々を送っていた。

 

アイドル時代の華やかな日々とは違う。

 

蛍光灯の冷たい光、薬品の匂い、積み上げられた論文の山。

 

けれど四季にとって、この場所もまた自分らしい居場所だった。

 

「……よし、あと少し」

 

細い指でキーボードを叩きながら四季は小さく呟いた。

 

明日中に提出しなければならないレポート。そのデータ整理もようやく終盤に差し掛かっていた。

だが…

 

次の瞬間、画面が固まった。

 

「……え?」

 

カチ、カチ、とマウスを動かす。

 

反応しない。

 

数秒後、無情にも画面が暗転した。

 

「……うそ」

 

再起動しても震える指で探しても保存されていなかった。

 

数週間分の解析データ、考察、グラフ……すべてが消えていた。

 

四季は唇を強く噛んだ。泣いている暇などない。提出期限は目前だった。

 

その日から彼女は研究室に籠もりきりになった。

 

深夜二時。人気の消えた研究室で、四季は赤くなった目を擦りながらモニターを見つめていた。

 

ふと、視線を横へ移す。少し離れた席で、柳沢夏彦が一人で作業を続けていた。

 

研究室の院生で四季の先輩。

 

鋭い目つきに、大柄な体格。無精髭を生やし、いつもよれた白衣を羽織っている姿は研究者というよりどこか荒々しい印象だった。

 

四季は入学当初から彼を遠巻きに見るだけで苦手意識を抱いていた。

 

一見眼光が鋭く、ほとんど笑わない。挨拶をしてもぶっきらぼうな返事しか返ってこない。

 

研究室の先輩たちの中でも特に近寄りがたく話しかける機会などほとんどなかった。

 

(……怖いし、無愛想だし、何を考えてるかわからない……)

 

四季はそっと目を逸らした。

 

今も暗い研究室の隅で一人黙々と作業する夏彦の横顔を遠くからチラチラと見るのが精一杯だった。

 

「……まだやってたのか」

 

突然、低くぶっきらぼうな声が響いた。四季はびくりと肩を震わせて振り返った。いつの間にか夏彦が立っていた。

 

鋭い目が彼女の疲れ切った顔をじっと見下ろしている。

 

「顔色やばいぞ、お前」

「……先輩」

 

四季は思わず身を固くした。まさか彼から話しかけられるとは思っていなかった。精神的にも限界に達していた四季は呟くように自分の現状を打ち明ける。

 

「……データ、消えました」

「は?」

「バックアップも……途中までしかなくて……」

 

言葉にした途端胸が苦しくなった。夏彦はしばらく黙って画面を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「レポートの内容の詳細を教えろ」

「……え?」

「まとめくらいなら、こっちでも手伝える」

 

四季は目を瞬かせた。

 

あの遠くから見るだけで苦手だった先輩がそんなことを言うなんて…。

 

「でも先輩…先輩にも自分の研究が……」

「徹夜には慣れてる」

 

夏彦はそれだけ言うと隣の椅子にどかっと腰を下ろした。

 

「ほら。ぼーっとしてる暇あるなら説明しろ」

 

その横顔は相変わらず怖かった。けれど疲れ果てた今、不思議と少しだけ安心できた。

 

「……はい」

 

そこからは本当に必死の時間だった。

 

四季が解析を進め、夏彦が文章をまとめていく。行き詰まれば二人で議論し眠気が来ればブラックコーヒーを流し込む。

 

夏彦の指摘は無愛想だったが驚くほど的確だった。

 

「その考察は根拠弱いな…」

「……っ、じゃあ…この論文を参考に再構成するのは…」

「ん。それなら通ると思うぞ」

 

一度も彼女のミスを責めなかった。

 

窓の外が白み始めた頃。

 

最後の提出ボタンを押した瞬間、四季は机に突っ伏した。

 

「……お、終わった……」

「お疲れさん」

 

ぽす、と缶コーヒーが机に置かれる。顔を上げると夏彦が缶コーヒーを片手に立っていた。

 

「あ……ありがとうございます……」

 

冷たい缶を受け取る。熱を持った手に心地よかった。夏彦はそんな彼女を見て小さく笑った。

 

その笑顔は本当に一瞬だったが、いつも遠くから見ていた無愛想な先輩の顔が初めて優しく見えた。

 

四季の胸がどくりと高鳴った。

 

「あの……先輩のおかげです。本当に、ありがとうございます」

 

夏彦は少し目を細めた。

 

「ん」

 

それだけ言うと彼は自分の机へ戻っていった。

 

白衣の背中、無骨な横顔、キーボードを叩く大きな手。

 

四季はしばらくその姿から目を離せなかった。春の朝日が研究室に差し込む。

 

その日、四季は初めて自分が誰かに恋をする心の鼓動をはっきりと聞いた。

 

 

 

レポート作成の一件以来、四季の大学生活は静かに、けれど確かに色づき始めていた。

 

朝の研究室へ向かう足取りが軽い。

 

胸の奥が、微かな期待でざわめく。

 

その理由を四季自身が誰よりもよく理解していた。

 

「……おはようございます」

 

白衣の裾をそっと整え扉を開ける。奥の席で夏彦がいつものようにモニターに向かっていた。

 

無精髭に覆われた顎、わずかに乱れた黒髪、鋭い眼光。

 

以前ならただ「怖い」と感じていたその姿が、今は胸を締め付けるほど愛おしい。

 

「ん」

 

短い返事。

 

しかしその声にはほんのわずかな柔らかさが混じっている気がした。四季はそれを敏感に感じ取り頰が熱くなるのを抑えきれなかった。

 

(先輩……最近、少しだけ優しくなった……?)

 

レポートを一緒に作ったあの日以来、四季は無意識に夏彦の姿を目で追うようになっていた。

 

夜遅くまで作業する疲れた横顔。

肩を回す大きな手。

時折漏らすため息。

 

すべてが気になってしまう。

 

――もっと休んでほしい。

――あの無茶な生活を止めてあげたい。

 

そんな想いが日を追うごとに募っていった。

 

恋愛などほとんど知らない四季にとってそれは戸惑いと甘い痛みを伴う感情だった。

 

だからこそ、彼女は小さな行動で想いを伝えようと決めた。

 

最初は缶コーヒーだった。

 

夏彦が好むブラックコーヒーの銘柄をこっそり覚え朝一番に机の端に置いておく。

 

最初は緊張で手が震えた。

 

「……これ、誰だ」

 

夏彦が缶を手に眉を寄せる。四季は慌てて視線を逸らし、か細い声で答えた。

 

「その……差し入れ、です……」

 

夏彦は彼女をじっと見つめた後、小さく鼻を鳴らした。

 

「……サンキュ」

 

その一言だけで四季の胸は熱く溶けそうになった。一日中、頰が緩みっぱなしだった。

 

それから四季の“小さな献身”は続いた。

 

眠気覚ましのチョコレート。

栄養ゼリー。

そしてある日、夏彦の食生活の惨状に気づいた時、四季は本気で頭を抱えた。

 

ゴミ箱に溢れるカップ麺の容器…机に放置された空の弁当箱…時には栄養バー一本で一日を過ごしているらしい。

 

(……こんなんじゃ身体が持たない……)

 

だから数日後、彼女は勇気を振り絞って手作り弁当を作ってきた。

 

昼休み。夏彦が研究室に戻ると綺麗に包まれた弁当箱と小さな付箋が置かれていた。

 

『たまにはしっかりしたものを食べてください  若菜四季』

 

夏彦はしばらく無言でそれを見つめた後に四季に声をかける。

 

「……若菜」

「は、はい……!」

「これ、お前が作ったのか?」

 

四季は肩を縮めながら小さく頷いた。夏彦は椅子に腰を下ろし、割り箸を割る。

 

一口、卵焼きを食べる。

 

「……うまい」

 

その低い呟きに四季の顔が一瞬で真っ赤に染まった。

 

「ほ、ほんとうですか……?」

「嘘つく理由がねえだろ」

 

ぶっきらぼうに言いながらも夏彦は最後まで綺麗に平らげ、弁当箱を丁寧に洗って返してくれた。

 

その時の夏彦の表情を、四季は一生忘れられないと思った。

 

いつもは尖った眼差しがほんの少しだけ柔らかく、困ったように細められていたから。少しずつ。本当に少しずつ。二人の距離は確実に縮まっていった。

 

 

そしてある朝…。

 

「四季、このデータまとめといてくれ」

「……え?」

「…聞こえなかった…?」

「!いいえっ…わかりました…!」

 

夏彦が当然のように彼女の名前を呼んだ。

 

“若菜”ではなく、“四季”。

 

四季の心臓が激しく跳ね上がった。胸の奥が熱くなり指先が震える。

 

(名前で……呼んでくれた……)

 

特別になった気がした。

 

自分だけが許された領域にようやく足を踏み入れられたような…そんな甘い錯覚に四季は一日中浮かれていた。

 

そしてその夜。

 

大型台風が関東を直撃していた。研究棟は激しい雨風に揺れ、窓ガラスが激しく鳴っている。

 

大学最寄り駅は運転見合わせ。帰宅は不可能だった。

 

「……今日は帰れそうにないな」

 

夏彦がテレビを見ながら低く呟く。

 

四季は勇気を振り絞るように、震える声を出した。

 

「先輩……私は椅子で大丈夫です。先輩がソファを使ってください…」

「いや、俺は資料室で寝る。お前がソファ使え」

 

夏彦が白衣を肩にかけ、資料室へ向かおうとした瞬間…四季の胸が強く締め付けられた。

 

――今を逃したら、きっとまた言えなくなる。

 

そう思うと次の瞬間、四季の身体が勝手に動いていた。

 

「……先輩!」

 

後ろからぎゅっと抱きつく。夏彦の背中が一瞬、固くなった。

 

「四季……?」

 

低く驚いた声。

 

四季は震える腕に力を込め、顔を彼の背中に押し付けた。頰が熱い。耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かった。

 

「このまま……一緒にいてくれませんか……?」

 

外では雷が鳴り響く。長い沈黙の後、夏彦がゆっくりと四季の腕に触れた。

 

優しく解き、振り返る。

 

至近距離で向き合う二人の視線が絡み合う。

 

夏彦の瞳にはいつもの鋭さの中に抑えきれない熱と葛藤が浮かんでいた。

 

「あんまり思い切ったことすんなよ……」

 

掠れた低い声。

 

「本気で……我慢できなくなる」

 

その言葉に、四季の瞳が潤んだ。

 

「構いません……」

 

彼女は涙を浮かべながらもはっきりと言った。

 

「先輩のことが……好きです。ずっと…好きでした」

 

その瞬間、夏彦の中で何かが決壊した。

 

彼は荒々しく、しかし大切なものを扱うような優しさで四季を抱き寄せた。

 

「!せんぱっ…!?」

 

四季が驚き声を上げた次の瞬間には2人の唇は重なっていた。

 

「……っ」

 

初めてのキス。

 

2人がよく飲む缶コーヒーのほろ苦い味が互いの舌に広がった。

 

夏彦の大きな手が四季の背中を強く抱きしめ、四季は必死にその首に腕を回してしがみつく。

 

やがて唇が離れた時…夏彦は熱を帯びた瞳で彼女を見つめた。

 

「好きだ……四季」

 

低く、掠れた、魂を揺さぶる声。

「俺も……お前が、ずっと気になってた」

 

四季の目からぽろりと涙が零れ落ちた。

 

嬉しさで、愛おしさで、溢れそうになる想い。

 

「私も……先輩が好きです……!」

 

再び唇が重なり、今度は互いの想いを確かめ合うように、深く、熱く、絡み合った。

 

研究室の外では台風が荒れ狂っているというのに、

二人のいる空間だけは、穏やかで、甘く、熱を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

台風の夜。研究室のソファで互いの体温を確かめ合うように寄り添い、短い眠りについた夜から四季と夏彦の関係は静かにけれど決定的に変わった。

 

翌朝。

 

柔らかな春の光が研究室の窓から差し込む中、四季はゆっくりと目を開けた。

 

「……ん……」

 

すぐ隣で規則正しい寝息が聞こえる。視線を上げると夏彦がソファにもたれかかりながら眠っていた。

 

無精髭の残る顎、少し乱れた黒髪、いつもは鋭い目が今は穏やかに閉じられている。

 

自分が彼の腕の中にすっぽりと収まっていることに気付き四季の頰が一瞬で熱くなった。

 

(昨夜……私、先輩に抱きついて……キスして……)

 

胸が激しく高鳴り、恥ずかしさで顔を埋めたくなる。それでも離れたくなくて四季はそっと夏彦の白衣の裾を掴んだ。

 

「……起きたか」

 

低く、朝特有の掠れた声。夏彦がゆっくり目を開け至近距離で視線が絡み合う。

 

「あ、お、おはようございます……先輩」

「ん……おはよう、四季」

 

名前を呼ばれるだけで胸の奥が甘く疼いた。昨夜よりずっと親密で甘い響きだった。

 

四季が思わず気が緩んでふにゃりと笑うと、夏彦は照れくさそうに後頭部を掻いた。

 

「……顔、赤いぞ」

「だ、だって……昨日のことが……」

「忘れられるかよ」

 

夏彦は小さく笑い、四季の額に軽く唇を寄せた。

 

 

その日から、研究室の空気は二人だけの秘密で満ちるようになった。

 

もちろん二人は研究を疎かにしなかった。四季は真面目にレポートや実験に取り組み、夏彦も院生としての責任を果たしていた。

 

しかし、合間の時間は以前とは比べものにならないほど柔らかく、甘いものに変わっていた。

 

「四季、この式の意味、分かるか?」

「……途中までは理解してるんですけど……」

 

2人きりの研究室で夏彦は四季の隣にぴったりと寄り、大きな手でノートにさらさらと書き込んでいく。

 

「ここ、考え方が逆だ。こう見ると……」

 

息がかかる距離。

低い声。

時折触れる肩。

 

四季は集中など到底できず、頰を赤らめて俯いた。

 

「……おい、聞いてるか?」

「っ…!はい…っ!聞いてます…!」

「顔、真っ赤だぞ。俺のせいか?」

「先輩が……近すぎるんです……!」

「今さら照れるなよ」

 

夏彦は呆れたように笑いながらも四季の頭を軽く撫でてくれた。

 

そんな何気ないやり取りが四季にとっては宝物だった。季節は巡り、恋は深まっていった。

 

 

夏。

 

初めての夏祭り。

 

四季は浴衣姿で少し緊張しながら夏彦を待っていた。

 

「先輩、遅い……」

「悪い。研究が長引いて…」

 

現れた夏彦を見て四季は目を輝かせた。無精髭を少し整え、黒いシャツにジーンズというラフな装いでも、夏彦は堂々としていてかっこよかった。

 

一方、夏彦の方もいつもとは違う四季の可憐な浴衣姿に思わず目を奪われていた。

 

 

夜空に大きな花火が上がる。

 

「……すごい…先輩、見てください!」

「ん。綺麗だな」

 

人混みが苦手そうな夏彦だったが、四季がはぐれそうになると自然に手を繋ぎ指を絡めて離さない。

 

りんご飴を頰張る四季を見て夏彦は珍しく柔らかい笑みを浮かべた。

 

「可愛いな、お前」

「……っ!」

 

四季は耳まで真っ赤になりながら、照れ隠しをするように夏彦の腕にぎゅっとしがみついた。

 

 

 

海水浴ではさらに波乱があった。

 

水色のビキニ姿の四季を見て夏彦が珍しく言葉を詰まらせた。

 

「し、四季……その格好、反則すぎるだろ」

「え?…変…ですか……?」

「変じゃない。むしろ……他の奴らに見せたくない」

 

夏彦は視線を逸らしながらぶっきらぼうに言い、結局四季の肩に自分のシャツを羽織らせた。

 

その独占欲に四季は嬉しさで胸がいっぱいになった。

 

 

 

秋。

 

紅葉が綺麗な街路樹の道を2人で並んで歩き、冷えた手を自然に繋ぐ。

 

落ち葉を踏む音を聞きながら夏彦がぽつりと零した。

 

「四季といると…研究以外のことも悪くないなと思える」

「私も……先輩と一緒だと…毎日が楽しいです」

 

 

 

冬。

 

イルミネーションが輝く夜。

 

マフラーを巻き合い、吐く息が白くなる中、四季は小さな包みを差し出した。

 

「クリスマスプレゼントです。スーツ着るようになったら使ってください」

 

中にはシンプルで上品なネクタイが入っていた。

 

夏彦はしばらく無言でそれを見つめていたが優しく笑みを浮かべながらこう言った

 

「……ありがとな。四季が選んでくれたんだろ」

「はい……」

「大事にする。…俺の方からもプレゼントだ。ホラ」

 

そう言って四季にラッピングされた長細いプレゼントを渡す夏彦。なんだろう?先輩からのプレゼントならばなんでも嬉しいと思いながら包装を解き、中に入っていたケースを開けた四季が見たものは…

 

「!ネックレス…ですか?」

「お前に似合うと思って選んだ…どうだ…?」

「すごく綺麗です…ありがとうございます…!あっ…でも、高かったんじゃ…」

「そんな野暮なこと気にすんな。ほら、付けてやるから後ろ向け」

「!は、はい」

 

言われるがまま後ろを向いた四季の首にジュエリーケースから手に取ったネックレスを優しくかける夏彦。ネックレスをつけた後、「こっち向いて見せてくれ」と言った夏彦に言われるがまま再び彼の方を向くと優しく目を細めながら思うままの言葉を告げた。

 

「似合ってるぞ…すごく綺麗だ」

「!ありがとうございます…このネックレス、一生の宝物にします…!」

 

その夜、二人は寒空の下で長く抱き合い、温もりを分け合った。

 

 

 

そして…。

 

桜の季節。

 

夏彦の大学院卒業式の日。

 

スーツ姿の夏彦は、無精髭を剃りいつもより整った顔と、着崩した四季の贈ったネクタイがよく似合っていた。

 

桜並木の下、四季は私服姿で彼の隣を歩いていた。首元にはクリスマスに夏彦が贈ったネックレスが輝いている。

 

ひらひらと花びらが舞う中、四季は口数が少なかった。

 

(もう……毎日一緒にいられなくなる……)

 

繋いだ手に無意識に力が入る。

 

「四季」

 

夏彦が立ち止まり、彼女の頭を優しく撫でた。

 

「俺は卒業するけど、お前はまだ大学に残るんだ。自分のやりたいことをちゃんとやれよ」

 

穏やかな低い声。

 

「俺はどこに行っても、何をしていても……お前のことは変わらずに想ってる」

 

四季の瞳が潤んだ。

 

春風が吹き、花びらが二人の間を舞う。

 

夏彦は少し照れくさそうに視線を逸らしながら言葉を続けた。

 

「卒業するまで待っててやるから……頑張れ」

 

その言葉の意味を理解した瞬間、四季の胸が熱く溢れた。

 

「……待ってて…くれるんですか?」

「ああ。俺とお前の『将来の話』…ちゃんとしたいからな」

 

四季は堪えきれず夏彦の胸に飛び込んだ。

 

「はいっ……!絶対に頑張ります…!先輩を待たせないように……!」

 

ぎゅっとスーツを掴む四季を夏彦は優しく抱き締め返した。

 

「おう。待ってる」

 

短い返事。

 

けれど、そこに込められた想いは言葉以上に重く温かかった。

 

桜の花びらが静かに舞う中、二人は自然と顔を近づけ柔らかな口づけを交わした。

 

一年で育んだ確かな絆。

 

そして、これからも続く未来への約束。

 

四季と夏彦の物語はまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

それから数年後…。再び桜が舞う春の季節。

 

大学院を卒業した四季は、研究棟の窓から外を眺めながら小さく息を吐いていた。

 

「……終わった…私の大学生活…」

 

修士論文の提出、最終発表、そして卒業式…すべての手続きが終わりようやく肩の荷が下りた。

 

けれど胸の奥には、別の緊張と期待が渦巻いていた。

 

――今日、夏彦に呼び出されている。

 

夕方、四季は指定された研究室の前に立っていた。

懐かしい扉。二人がたくさん研究に向き合い、交流を重ね、初めて想いを伝え合いキスを交わした思い出の場所。

 

「……先輩?」

 

ノックすると中から低い声が返ってきた。

 

「入っていいぞ」

 

ドアを開けた瞬間、四季は目を丸くした。

 

研究室は自分が所属していた時とほとんど変わらない配置のままだった。

 

夕陽が差し込む窓際の机、パソコン、薬品棚、そしてあのソファ。

 

夏彦が白衣を羽織ったまま立っていた。

 

「先輩……不法侵入ですか?」

 

四季はイタズラっぽく微笑みながら言った。

 

夏彦は少し困ったように肩をすくめ首から下げた入館許可証を手に取り見せた。

 

「教授にOBのよしみで特別に許可を取ってる。今日だけこの研究室を貸してもらった」

 

四季は許可証をじっと見てくすくすと笑い出した。

 

「相変わらず……準備がいいんですね」

「お前を驚かせたくてな」

 

夏彦も小さく笑い、二人で顔を見合わせて懐かしさに浸った。

 

深夜の徹夜、消えたデータを一緒に復活させた日、初めて名前で呼ばれた瞬間、台風の夜。

 

様々な思い出が蘇り自然と笑い合う。

 

「随分、遠回りしたな……俺たち」

「ええ。でも…その全部が大事な道のりでした」

 

夏彦は四季の両手を取り、真剣な眼差しを向けた。

そしてポケットから小さな箱を取り出し、ゆっくりと膝を折る。

 

「四季」

「……っ」

「散々待たせたな。これからは、毎日そばにいて、お前を幸せにしたい。俺と…結婚してくれ」

 

箱の中のシンプルで美しい指輪が夕陽に輝いた。

 

四季の瞳に涙が溢れた。

 

「はい……! よろしくお願いします……先輩……!」

 

夏彦は立ち上がり、四季を強く抱き締めた。

 

二人はそのまま思い出の研究室で長く唇を重ねた。

 

 

 

 

 

それからしばらくして。

 

二人は小さなチャペルで結婚式を挙げた。両家の両親と近しい親戚、大学時代のお世話になった教授や仲の良かった仲間達…そして高校時代に四季が青春を共にしたLiella!のメンバー達が参列するささやかな結婚式…。

 

白い光が差し込む静かな教会。

 

バージンロードの先には、タキシード姿の夏彦が立っている。

 

その姿を見た瞬間、四季は思わず息を呑んだ。

 

いつもの無精髭は綺麗に剃られ、髪もきっちり整えられている。

 

普段のラフな雰囲気とは違う、凛々しい大人の男の姿。

 

「……かっこいい……」

 

小さく漏れた本音に、夏彦は少し照れくさそうに視線を逸らした。

 

一方の四季もまた、純白のウェディングドレスを纏っていた。

 

「そう言うお前も、最高に綺麗だぞ。四季」

「っ…!」

 

夏彦の真っ直ぐな言葉に四季は顔を真っ赤にして思わず言葉を詰まらせた。

 

大学時代より長く伸びた四季の青い髪は丁寧に編み込まれ、淡い花飾りが添えられている。

 

まるで夢の中みたいだった。

 

神父の前で向かい合う二人。

 

「健やかなる時も、病める時も――」

 

静かな誓いの言葉。

 

そして。

 

「誓いのキスを」

 

夏彦はそっと四季の頬へ触れた。

 

昔、研究室で初めて触れ合った時よりもずっと自然に。

 

優しく、愛おしむように。

 

唇が重なる。

 

四季は目を閉じながら、幸せを噛み締めていた。

 

ーーこの人と、ずっと一緒に生きていくんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

式の後…二人は私服に着替えていた。

 

四季はシンプルな白いワンピース姿で、夏彦は黒のシャツにジャケットというラフな装いだった。

 

チャペルと隣接するホテルにチェックインし、スイートルームのドアが閉まった瞬間——

 

二人の間に長い間抑えていた想いが一気に溢れ出した。

 

夏彦は四季を優しく壁に押し付け、首筋に唇を這わせた。

 

「四季……ずっと、欲しかった」

「ん……私も……先輩のことが、ずっと……」

「先輩じゃない…夏彦だ……ちゃんと…名前で呼んでくれ」

「っ!夏彦……さん……」

 

四季が小さく頷くように名前を呼び直した直後、夏彦の唇が激しく四季の唇を塞いできた。

 

深いキスを繰り返しながら壁に四季を押し付け、首筋に歯を立てるように吸う。

 

「あ……っ、んん……!」

 

四季の身体がびくりと震える。

 

その敏感な反応に夏彦の瞳が熱を帯びた。ワンピースの肩紐をゆっくりと滑り落とす。

 

露わになった白く柔らかな胸を大きな手で包み込むように揉みしだき、親指で頂を転がす。

 

「はぁ……あっ……夏彦さん……っ」

 

四季は耐えるように唇を噛み、甘い声を抑えようとするが夏彦の指が巧みに刺激を強めると膝がガクガクと崩れそうになった。

 

「可愛いぞ四季……ずっと、こうやって触りたかった」

 

夏彦は四季を抱き上げてベッドに運び、覆い被さる。

 

胸の先端を舌で舐め回し、時折優しく吸う。

 

「んぁっ…ひゃぁ…んぁ…っ!」

 

四季が背を仰け反らせて喘ぐたび、夏彦の息が荒くなり、手の動きが激しさを増していった。

 

夏彦の指が腹部を滑り下り、ワンピースの裾を捲り上げる。

 

既に湿り気を帯びた秘部に指を這わせ、優しく、しかし執拗に花弁を割り敏感な芽を刺激する。

 

「や……あっ、そこ……っ!あんっ……!」

 

四季はシーツを強く掴み必死に声を堪えようとするが、腰が勝手に跳ねてしまう。その淫らで無防備な反応に夏彦の理性が急速に溶けていった。

 

「……四季」

 

低く唸るような声。

 

夏彦は四季の両脚を大きく開かせ、顔を埋めるように秘部を舐め上げた。

 

舌先で丁寧に、時には強く吸いながら四季の最も敏感な部分を攻め立てる。

 

「だめ……っ!あぁ……っ、そこ…はっ…!…おかしくなる……!」

 

四季の声が泣きそうに上擦る。

 

その涙目と震える太ももを見て夏彦の欲望は限界を超えた。

 

「もう……挿れていいか?」

「!ん…」

 

四季は潤んだ瞳でこくりと頷く。四季の承諾を得ると夏彦は自身の熱く張りつめたものを四季の入り口に当て、ゆっくりと腰を進めた。

 

「……んんっ……!あ…………夏彦…さ…ん…っ!」

 

四季は眉を寄せ、痛みと快楽の狭間で夏彦の背中に爪を立てる。

 

内壁が彼をきつく締め付ける感覚に夏彦は低く唸った。

 

「くっ………締まりすぎだ……」

 

最初は優しく腰を動かしていたが、四季が甘く喘ぐたび動きに激しさを増していく。

 

四季をベッドに寝かせて夏彦が彼女に覆い被さりで深く突き続け、子宮口を何度も叩くように激しく腰を打ち付ける。

 

「あっ、あっ……!夏彦さん……激し……い……!」

 

四季の青い髪が乱れ、涙が頰を伝う。

 

快楽に溺れながらも愛しさが胸を満たしていた。

 

(夏彦さんの……全部…私の中に……繋がってる……好き…大好き……)

 

快楽に溺れながらもこちらに嬉しそうに微笑みかけてくれる四季に夏彦が耐えきれなくなった。

 

「四季……っ」

「夏彦……さん……」

 

覆い被さる体位から四季を後ろから突く体位に変えて彼女を激しく抱きすくめながら腰を打ち付ける。腰を打ち付けながら快感に溺れる四季の胸を背後から揉みしだき、彼女の顔を振り向かせて激しいキスを交わす。

 

「んあっ…!夏…彦…さん…!んぅ…ああっ…!!」

「四季…最高に綺麗だ…大好きだ…!」

「わ…私も…っ…あぁん!」

 

しばらく様々な体位で愛を交わし合った後、二人は最初の体位に戻って夏彦が四季の脚を肩に担ぎ、子宮を抉るような深い抽送を繰り返す。

 

 

「夏彦さん……っ!あぁん……!奥……にっ…気持ち…い……んぁっ!」

 

四季は愛しさと快楽の狭間で完全に溺れていた。

 

(夏彦さんの……熱い……私を、全部欲しがってる……こんなに激しくて……幸せ……)

 

夏彦もまた、理性の限界を超えていた。

 

(四季が俺の名前を呼ぶ……この中が俺を受け入れてる……愛おしすぎて…壊れそうになる……)

 

「四季……愛してる……!ずっと…欲しかった……お前だけが……!」

「私もっ…あっ…ずっと…夏彦さんと…こう…んっ…したかった…!」

 

汗にまみれ、肌が激しくぶつかり合う音と、甘い喘ぎが部屋に響く。

 

最後は最初の体位で深く繋がったまま、夏彦が四季の中で熱く放った。

 

「……四季……」

 

荒い息の中、夏彦は四季を強く抱き締め汗まみれの額に、頰に、唇に、何度もキスを落とす。

 

四季はぐったりとしながらも幸せに満ちた笑みを浮かべ夏彦の背中に腕を回した。

 

「夏彦さん……大好き……愛してます……」

「俺もだ…愛してる…四季…」

 

 

 

散々二人で愛を確かめ合った夜が明けて幸せな朝。

 

朝陽がカーテンの隙間から差し込む中、四季は夏彦の胸に頰を預けて目を覚ました。

 

「…………おはようございます…私の旦那さん」

「……おはよう、俺の奥さん」

 

夏彦も四季も言ってから照れくさそうに笑い、夏彦は四季の額にキスを落とした。

 

二人の指には、昨日受け取ったばかりの指輪が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

数年後。

 

二人の間には、小さな命が生まれていた。

 

「ふふ……」

 

ベビーベッドの中で眠る、小さな女の子。

 

名前は、秋。

 

「四季が一番好きな季節だから」

 

そう言って名付けられた娘だった。

 

秋が生まれてから二人の生活はさらに賑やかになる。

 

結婚後、夏彦と四季は共同研究所を立ち上げていた。

 

自宅と研究所が一体になった建物。

 

白衣姿で並んで研究をする時間もあれば、娘の送り迎えに慌てる日もある。

 

論文締切前は夫婦揃って徹夜しかけて、秋に「ちゃんと寝なさい!」と怒られることすらあった。

 

けれどそんな毎日が、たまらなく幸せだった。

 

そしてある春の朝。

 

「いってきまーす!」

 

ランドセルを背負った秋が、元気よく玄関を飛び出していく。青みがかった髪が朝日に揺れる姿は、どこか四季にそっくりだった。

 

「いってらっしゃい、気をつけてね」

 

四季が手を振る。その隣で夏彦も、

 

「車気をつけろよー」

 

と声を掛けた。

 

娘の姿が見えなくなるまで見送った後、四季はふっと笑う。

 

「さて…お仕事再開しないとですね」

 

白衣を羽織り、研究所スペースへ向かおうとした瞬間だった。

 

後ろからふわりと身体を抱き締められる。

 

「きゃっ……」

 

驚いて振り返ろうとするが、夏彦の腕が優しく四季を包み込んでいた。

 

背中越しに伝わる体温、昔より更に少し低くなった落ち着いた声。

 

「どうしたの?急に?」

 

四季が微笑みながら尋ねる。

 

すると夏彦は、彼女の首筋へ顔を埋めながらぼそりと呟いた。

 

「いや〜……幸せだなぁって思ってな」

 

その声は、心の底から満たされたように穏やかだった。

 

四季はくすりと笑う。そしてゆっくり振り返ると、夏彦の頬へ両手を添えた。

 

昔より少しだけ増えた目元の皺。けれど、優しい瞳は何一つ変わらない。

 

「私もだよ」

 

そう言って、そっと口づける。

 

柔らかな朝日が研究所へ差し込む。

 

薬品棚。

パソコン。

積み重なった論文。

 

かつて二人が出会った研究室の延長線上みたいなこの場所で、今も変わらず二人は寄り添っている。

 

窓の外では、桜が静かに舞っていた。

 

こうして。

 

夏彦と四季と秋の、幸せな一日は巡っていく。

 

春も。

夏も。

秋も。

冬も。

 

いつまでも。

 

本当に、いつまでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり




恋物語の四季ちゃん編でした。ここまで読んでくださりありがとうございます。四季ちゃんには年上の男性が合いそうだなと思い書きました。また他のキャラの小説を投稿したいと思うのでよろしくお願いします。
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