春の東京は、息苦しいほどに賑やかだった。
満開の桜がキャンパスを淡いピンクに染め上げる中、新入生勧誘の声が飛び交い、色とりどりのチラシが風に舞っていた。
笑い声、呼びかけ、足音――すべてがルビィの小さな胸をざわつかせる。
浦ノ星女学院でスクールアイドルとして輝いていた黒澤ルビィは、高校を卒業し東京の大学に進学したばかりだった。慣れない都会の空気、広すぎる校舎、見知らぬ人々の波。鞄を胸の前でぎゅっと抱きしめ、彼女は小さく息を吐いた。
「うゅ……人、多いよぉ……」
足取りは自然と小さくなり肩をすくめて歩く。心臓が早鐘のように鳴っていた。
誰にも気づかれず、ただ静かに過ごせたらいいのに――そんな願いが、すぐに打ち砕かれる。
「あれ!? Aqoursの黒澤ルビィじゃね!?」
突然、目の前に三人の男子学生が立ちはだかった。
「マジだ、本物じゃん!」
「結構可愛いな、リアルで!」
彼らは笑いながらぐいぐいと距離を詰めてくる。
ルビィの肩がびくりと跳ね、喉が乾いた。
昔から、男性に強く押されるのが苦手だった。特に初対面で囲まれると身体が勝手に強張り、声も出にくくなる。
「あ、あの……ルビィ、ちょっと……」
視線を泳がせ、逃げ道を探す。その瞬間――
「その辺にしておいた方がいいですよ」
低く、よく通る声が割って入った。
三人の前に立ったのは、長身の青年だった。
がっしりとした肩幅、鍛えられた体躯、太く凛々しい眉。威圧感のある体格なのにその声は不思議なほど穏やかで、静かな怒りを含んでいた。
「その子、困ってるでしょ?」
「……あ?」
三人組は一瞬強気な顔をしたが、青年の堂々とした佇まいに気圧され、「ちっ」「行こうぜ」と舌打ちを残して去っていった。
春風だけが静まり返った空間を吹き抜ける。
「あ、大丈夫?」
青年が振り返り心配そうに覗き込む。さっきまでの迫力とは打って変わって目元は優しかった。
ルビィはまだ震える声で答えた。
「は、はい……ありがとうございます……怖かったです……」
「ごめんね、もっと早く気づけばよかった。俺、初島隆。二年だよ」
「……黒澤ルビィです。一年生です。初島……先輩」
ぺこりと頭を下げるルビィに、隆は照れくさそうに頭を掻いた。その仕草がまるで大型犬のようで、ルビィの胸の奥にふっと温かいものが広がった。
――怖そうに見えるのに近くにいると不思議と安心する。
これが、黒澤ルビィと初島隆の出会いだった。
それから二人は、大学で顔を合わせる機会が増えていった。
授業後に学食でご飯を食べ、図書館で隣り合って勉強する。最初は距離を測っていたルビィも隆の穏やかで押しつけがましくない優しさに、少しずつ心の殻を解いていった。
「黒澤さん、それ苦手なんだ?」
ある日、ノートを覗き込んだ隆が柔らかく尋ねてきた。
「ぴぎっ!?え、えっと……数学がちょっと……」
「じゃあ教えるよ。この授業、俺得意なんだ」
隆の横顔をルビィは何度も盗み見た。
真剣に説明する声、丁寧に線を引く大きな手。押しつけず、ただ寄り添うような優しさ。
(この人は……本当になにも求めないんだ)
ルビィの心に静かな安堵が満ちていく。
東京に来て初めて誰かと一緒にいて「苦しくない」と思えた。
ある日、ルビィはふと気づいた。隆は自分の過去をほとんど知らないことに。
「えっ?黒澤さん、スクールアイドルやってたの?」
「う、うん……Aqoursっていうグループで……」
「へぇーすごいな!」
その反応はあまりにも自然でルビィは拍子抜けした。
東京ではAqoursを知る人が多く、“元スクールアイドル”として見られる視線に慣れていた彼女にとって隆の態度は特別だった。
最初からずっと「大学一年生の黒澤ルビィ」として接してくれていた。
それがたまらなく嬉しかった。
大学の学園祭。
ルビィはサークルの出し物で久しぶりにステージに立った。
スポットライトの熱。観客の歓声。胸の奥で再び灯る、懐かしい情熱。アイドル衣装を纏い、歌い、踊るルビィの姿は、かつての輝きをそのまま取り戻していた。
ステージが終わると、息を切らして控室に戻った瞬間――
「ルビィちゃん!!」
駆け寄ってきた隆が、勢いよく彼女の両手を取った。
「すっごく……すっごく素敵だったよ!かわいいのにかっこよくて、キラキラしてて……見惚れた!」
興奮したまま、真っ直ぐに言葉をぶつけてくる隆。ルビィの頰が一瞬で真っ赤に染まる。
「ぴ、ぴぎゃ!?そ、そんな……初島先輩……」
「本当にすごかった。ルビィちゃんの輝き、胸に刺さったよ!」
手を握って真っ直ぐにライブの感想を言っていた隆だったが、『あること』に気付き、手を離して謝る。
「って…ご、ごめん!距離近過ぎたし何よりいきなり下の名前で呼んだりしてびっくりしたよな?ライブ中の歓声に釣られてつい…!本当にごめん!」
飾らない、熱のこもった真っ直ぐな言葉。ルビィの心臓が、激しく高鳴った。
(この人……私の全部を、素直に喜んでくれる)
「ううん、ルビィで良いよ。……ありがとう、隆くん!」
その時、ルビィも自然と隆を名前で呼んでいた。
隆も優しく笑って頷いた。
季節は巡り、夏。
照りつける太陽の下、大学のキャンパス内を肩を並べて歩くルビィと隆。隆は珍しくそわそわとしていた。
「あのさ…ルビィちゃん」
「うゅ?なぁに?」
「今度の夏祭り…一緒に行かないか?」
ルビィの心臓がどくんと跳ねた。
胸の奥が熱くなり、言葉より先に想いが溢れ出す。
「……行く!絶対行く!」
祭りの当日…
淡いピンクの浴衣に身を包み、髪を大人っぽく結い上げたルビィは、鏡の前で何度も深呼吸を繰り返していた。
胸が苦しい。期待と不安が混じり合い、手のひらが汗ばむ。
待ち合わせ場所に現れた隆はルビィを見た瞬間、言葉を失った。
「……すごい、似合ってる。すごく…綺麗だ」
「!ぴぎゃっ…!?ほ、ほんと?」
ぽつりと零れた言葉にルビィの耳まで真っ赤になった。同様にルビィの浴衣姿を褒めた隆も真っ赤になりながらうんうんと頷き、2人の祭りデートは順調にスタートを切った。
祭りは楽しかった。
屋台を回り、ベビーカステラを分け合い、射的では隆が熱中し過ぎて店員を困惑させる姿にルビィは止めながらも自然と楽しいと笑みが浮かんだ。
しかし、人混みの激しい通りで――
「あっ……!」
肩をぶつけられたルビィの身体が人波に飲み込まれる。
「ルビィちゃん!」
隆の声が遠ざかる。
知らない人ばかりの中で一人になった瞬間、幼い頃に迷子になった時の孤独感が蘇り胸がぎゅっと締めつけられた。
(隆くん……どこ……怖いよ……)
涙が滲みかけたその時――
「――見つけた!」
力強い手がルビィの手を強く掴んだ。
息を切らした隆がそこにいた。額に汗を浮かべ、必死の表情。
「よかった……!ごめん、離しちゃって」
「ご、ごめんなさい……!」
「謝らなくていい。怖かったよね」
隆はそう言うと離さないように指を絡めて握り直した。その手の温もりが、ルビィの凍えた心を溶かしていく。
「このまま、俺についてきて」
「う、うん!」
やがて二人は、花火が美しく見える穴場とされる小高い丘に辿り着いた。
「へぇ〜、こんな場所があったんだね!」
「う、うん!俺もゼミの先輩から聞いた場所でさ…!」
夜風が浴衣の袖を優しく揺らし、遠くから祭囃子の音が聞こえてくる。
頭上には星が散らばる夏の夜空が広がっていた。
隆はルビィの隣に立ちしばらく無言で花火の準備を待っていた。
その横顔は、いつもより真剣だった。
拳を軽く握りしめ、胸の内で何度も言葉を反芻しているのがルビィにも伝わってきた。
(今だ……今しか言えない…!)
隆は深く息を吸い、意を決した。
ゆっくりとルビィの方へ向き直る。
背筋を伸ばし、がっしりとした肩をわずかに緊張させながら彼女の瞳を真正面から見つめた。
その視線は熱く、揺るぎなかった。
「ルビィちゃん」
低く、けれどはっきりとした声。
風に紛れそうな震えを隆は意志の力で抑え込んだ。
「……俺、ずっと迷ってた。ルビィちゃんが大切すぎて、間違った一言で傷つけたらどうしようって。怖かった。でも、もう我慢できない」
彼は一歩踏み出し、ルビィの小さな手を自分の両手で包み込んだ。
大きな温かい手…祭りの喧騒の中でまるで世界が二人だけになったかのように感じた…。
「好きだ。ルビィちゃんのことが大好きだ」
告白の言葉が、夜空に響いた。
「最初に助けたあの日から…ずっと…ルビィちゃんが緊張して肩をすくめる姿も、数学の問題で『ぴぎっ!?』ってなる顔も、学園祭でステージに輝く姿も……全部、全部全部!俺の胸に焼きついて離れない」
隆の声がわずかに熱を帯びる。
「この手をもう離したくない。ルビィちゃんの笑顔を守りたい。泣きそうな時は俺が全部受け止めて、嬉しい時は一緒に笑いたい。ルビィちゃんの全部を、俺のものにしたいんだ……!」
真っ直ぐで、情熱的で…覚悟を決めた告白だった。
ルビィの瞳が大きく揺れた。
胸の奥が熱くなり、苦しいほどに想いが溢れ出す。
涙が滲み、視界がぼやける。
「……隆くん」
彼女は震える声で…けれどはっきり答えた。
「ルビィも……隆くんのことが大好き。出会った日から…ずっと安心できた。隆くんがそばにいてくれるだけで私の世界が明るくなるの。だから……離さないで。ずっと、一緒にいて」
その言葉を聞いた瞬間、隆の表情が緩んだが、すぐに強い意志が戻った。
彼は優しく、けれど力強くルビィを抱き寄せた。
大きな胸に包まれルビィも震える腕を隆の背中に回す。浴衣越しに伝わる鼓動が二人の想いを激しく重ね合わせた。
夜空に――大輪の花火が轟音と共に咲き誇った。
黄金の光が二人の姿を鮮やかに照らす中、隆はルビィの顎をそっと持ち上げ、そして唇を重ねた。
花火の音が響くたびに二人のキスは深くなり、想いは確かな形となって結ばれていった。
鮮やかな光の雨が降り注ぐ中、寄り添う恋人たちは、まるで運命に祝福されているかのように輝いていた。
交際を始めてからというもの、ルビィと隆の毎日は穏やかで幸せだった。
大学では学年が違うため講義は別々であったが休み時間には一緒に過ごし、帰り道に寄り道をして、休日には映画や水族館へ出かける。
手を繋ぐことも、抱きしめ合うことも、キスをすることも、もう自然にできるようになっていた。
けれど――。
二人には、密かな悩みがあった。
それ以上の関係へ、進めないこと。
もちろん怖さはあった。未知の領域へ踏み込む不安もある。
だが、それ以上に好きだからもっと知りたい。
触れたい。もっと近くで、相手を感じたい。
そんな想いが、少しずつ二人の胸の中で大きくなっていた。
隆はそんな思いを抱えながら『いつか使う時が来るかもしれない』と自分に言い聞かせながらコンドームを買って用意していた。
そんな日常が続いていたある雨の日だった。
映画を観終わった頃にはすっかり夜も更け、外は激しい雨になっていた。
「あっ……終電……」
スマホを見たルビィが小さく声を漏らす。大雨の影響で電車のダイヤが変わり、表示された時刻は無情にも終電後だった。
「ご、ごめんね隆くん……!」
「なんで謝るの?雨すごかったし仕方ないよ」
隆は苦笑しながら頭を掻いたあと、少しだけ真面目な顔になる。
「……嫌じゃなければ…俺の部屋来る?」
その言葉に、ルビィの心臓が跳ねた。
「……っ」
沈黙。
けれどルビィは逃げなかった。
頬を真っ赤に染めながらも小さく頷く。
「……うん」
隆のアパートは、彼らしい部屋だった。広くはないが整理整頓されていて、どこか安心感がある。
「適当に座ってて。先にお風呂入る?」
「じゃ、じゃあお先に……」
借りたタオルと着替えを抱え、ルビィは浴室へ向かった。
熱いシャワーを浴びながら、胸が落ち着かない。
(隆くんのお部屋……)
その事実だけで、顔が熱くなる。
風呂から上がったルビィは借りた隆のパジャマに袖を通した。当然ながらサイズはぶかぶかで上だけ着るとワンピースみたいになる。
しかも風呂上がりで髪も下ろしたままだ。
「お、お待たせしました……」
リビングへ戻った瞬間、隆が固まった。
「……っ」
心臓が跳ねる。
いつもと違うルビィの姿は、あまりにも無防備で、柔らかそうで、可愛すぎた。
視線を向けてはいけない気さえするのに、どうしても目が離せない。
そんな隆を見てルビィは不思議そうに首を傾げる
「……隆くん?」
「い、いや! ごめん!食い入るように見ちゃって!その……すごく…似合ってるよ…」
「ぴ、ぴぎゃ……!」
ルビィは隆からの言葉に真っ赤になって俯いた。
一方の隆は、完全に冷静さを失いかけていた。
「……俺も風呂入ってくる!」
半ば逃げるように浴室へ向かう。
そしてシャワーを頭から浴びながら必死に自分へ言い聞かせる。
(落ち着け……落ち着け俺……!)
好きだからこそ大事にしたい。
怖がらせたくない。焦らせたくない。
何度も深呼吸しながら、隆は熱くなる鼓動を抑え込もうとしていた。
風呂から上がると、ルビィはすっかりくつろいだ様子でソファに座っていた。
自分のパジャマを着た彼女が自分の部屋で穏やかに笑っている。その光景があまりにも愛おしくて、胸が締め付けられて目を奪われたままゆっくりと彼女に歩み寄る。
そんな隆の様子を見たルビィも意を決して声を上げる。
「た…隆くん!」
「!?…な、なに?」
ルビィは頬を染めながら、まっすぐ隆を見上げた。
「大好きだよっ……」
その一言だけで、心臓が苦しくなる。
「ルビィは……隆くんとなら……!」
彼女が何を言おうとしているのか、分かってしまった。だからこそ、隆はそっと彼女の言葉を遮る。
「……待ってくれ」
「っ……」
驚いたように目を丸くするルビィを隆は優しく抱き寄せた。
震える肩を包み込みながら、静かに言う。
「全部ルビィちゃんに言わせるの、ずるいから」
そして、真っ直ぐ彼女を見つめる。
「俺が言う」
隆の手が、そっとルビィの頬に触れる。
「ルビィちゃん……君が大好きだ。今から…君の大事なもの……もらってもいいか?」
その瞬間、ルビィの瞳が潤んだ。
怖くないわけじゃない。
でも、それ以上に嬉しかった。
隆が自分を大事に想ってくれている気持ちが、伝わったから。
頬を赤く染め、一筋涙を零しながらルビィは小さく頷く。
「……うんっ……!」
次の瞬間、隆はルビィをそっと抱き上げた。
「ぴ、ぴぎゃっ!?」
「ごめん、でも……ずっと…こうしたかったんだ!」
お姫様抱っこされたまま、ルビィは恥ずかしそうに彼の胸へ顔を埋める。
そのままベッドへ優しく寝かされると、隆はゆっくり覆い被さった。
「ルビィちゃん……」
深く、長いキス。
「ふっ…んぁ…隆く…ん…!」
唇が重なり舌が絡み合う。
最初は優しく、徐々に熱を帯びていく。息が乱れ、互いの吐息が混じり合う。
一度唇を離した後、二人は熱い視線を交わした。
そこには言葉にできない想いと覚悟があった。再び口付けを交わしながら、隆の手がルビィのパジャマのボタンをゆっくり外していく。白い肌が露わになる度にルビィは小さく身を震わせた。
「怖い……?」
「……少し。でも、隆くんなら……大丈夫」
隆は事前に用意していたコンドームを枕元に置き、ルビィに気づかれるように見せた。ルビィはその気遣いに胸を熱くし、隆の首に腕を回した。
露わになったルビィの控えめな胸の膨らみを隆は両手で優しく包み込み、柔らかな感触を味わうように揉みしだいた。
親指で硬くなった乳首を転がし、口に含んで舌先で丁寧に舐め回す。
「あっ……んんっ……!隆くん、そこ……はぁ……」
ルビィの甘い声が漏れるたびに隆の胸は熱くなった。
(なんて可愛いんだ……ルビィちゃんがこんな顔するなんて。俺だけが見ていい表情…)
隆はさらに下へ移動しルビィの細い腰を両手で掴み、柔らかな下腹部にキスを落とした。
指が秘部に触れると、すでに熱く濡れているのがわかった。優しく花弁を撫で、敏感な芽を指の腹で円を描くように刺激する。
「ひゃうっ……!あっ、んあぁ……!」
ルビィの腰がびくびくと跳ね、シーツを握りしめる。初めての快感に翻弄されて瞳を潤ませて喘ぐ姿に隆は理性が軋むのを感じた。
(我慢しろ……今はルビィちゃんを気持ちよくしてあげたい。焦らせるな)
隆は指を一本ゆっくりと沈め、内部を優しく掻き回した。ルビィの内壁が指を締めつけ愛液が溢れ出す。
「隆くん……気持ち……変になっちゃう……」
ルビィは快感に溺れながらも、隆を見つめる瞳に愛情が溢れていた。
(隆くん……こんなに優しくしてくれる。私の身体の全部を…こんなに大切に触れてくれて……怖いはずなのに、隆くんなら…私の全部を預けられる)
隆はルビィの反応一つ一つを慈しむように見つめ、コンドームを丁寧に自身に装着した。
そしてルビィの脚を優しく開き、熱くなった先端を濡れた入り口に当てた。
「ルビィちゃん……行くよ。息、吐いて……」
ゆっくりと腰を進め、処女の窄まりを押し広げながら挿入を始める。
「んっ……あ……っ!い…痛いっ……!」
ルビィの眉がきつく寄り、目尻から大粒の涙が溢れた。
身体が強張り小さな悲鳴が上がる。隆はすぐに動きを止めて苦痛に歪むルビィの顔を見て慌てた。
「!ごめん!抜くよ!今はまだ――」
しかしルビィは震える腕を隆の背中に回し、必死に引き止めた。
「大丈夫だから……!痛くても……隆くんと一緒なら……このまま進めるって…安心できるから……だから……」
ルビィは涙を浮かべたまま自分から隆の唇にキスをし、掠れた声で囁いた。
「……きて?」
その言葉に、隆の胸は激しく打たれた。愛おしさと責任感が溢れ、目の奥が熱くなる。
「……ルビィちゃん。わかった…!」
隆はルビィの負担を少しでも減らそうと深く息を吐きながら極力ゆっくりと腰を進めた。
根元まで完全に埋め、動きを止めてルビィの内部に慣れるのを待つ。額に何度もキスを落として涙を唇で拭いながら、優しく抱きしめ続けた。
やがて痛みが薄れ、代わりに熱い快感がルビィの身体を包み始めた。
「んっ…大丈夫……動いても……いいよ、隆くん」
ルビィからの合図を受け、隆は優しくゆっくりと抽送を始めた。
ルビィの内部が熱く締めつけ湿った音が部屋に響く。
「あんっ……!隆くん………気持ちいい……っ」
ルビィの甘い喘ぎが徐々に大きくなり、隆の動きが深くなるにつれて声も艶を帯びていく。
隆はそんなルビィの姿に胸を熱くしながらも愛情を込めて腰を使い続けた。
(ルビィちゃん……君の中がこんなにも熱い…俺の全部を受け入れてくれている……愛してる)
ルビィも快楽の波に飲み込まれながら、隆の優しい眼差しを見て心が震えた。
(隆くん……辛そうな顔してるのに笑ってくれてる…私を一番に考えてくれてる……こんなに大切に抱いてもらえて、幸せ……)
隆の動きが徐々に激しくなる。
二人は激しく唇を重ねて互いの名前を呼び合いながら深く交わり合った。
隆が腰を強く打ちつけるたび、ルビィの身体が跳ね、
「あっ、あんっ、隆くんっ……!」
という甘い悲鳴が部屋に響いた。
やがて二人は同時に頂点に達した。
「ルビィちゃん……!」
「あっ……隆くんっ……!ルビィ…もう…!」
隆が最奥で熱く脈打ち、ルビィの内部が激しく痙攣する。
二人は抱き合いながら絶頂の余韻に震えていた。
隆はルビィの耳元で熱く囁いた。
「愛してる……ルビィちゃん。大好きだ」
ルビィも涙を浮かべ、隆の背中に腕を回しながら応える。
「ルビィも……隆くんのこと、愛してる……ずっとずっと…大好きだよ」
二人は深くキスを交わし、繋がったまま長い間抱き合っていた。
翌朝――
柔らかな朝陽がカーテンの隙間から差し込み、ベッドを優しく照らしていた。
ルビィが先に目を覚ますと隆の広い胸に頰を預けたまま、昨夜の記憶が蘇って頰が熱くなった。
隆もまもなく目を覚まし、腕の中のルビィを優しく見つめた。
「おはよう、ルビィちゃん」
「……おはよう、隆くん」
隆はすぐに表情を曇らせ、気遣うようにルビィの腰や太ももにそっと手を這わせた。
「大丈夫?まだ痛くない…?昨日、かなり無理させたから……」
ルビィは少し照れながらも幸せそうに微笑んで隆の胸に顔を埋めた。
「まだちょっと痛いけど…大丈夫だよ。それに隆くんと一緒に前に進めたと思ったら…嫌な痛みじゃなくなるの。なんだか嬉しくて、胸が温かい…」
そう言いながら、ルビィは隆の身体にさらに寄り添った。
二人は自然と顔を近づけ朝の柔らかいキスを交わす。唇が触れ合い、昨夜の情熱とは違う穏やかで愛情深いキスだった。
すると――
ぐぅ……。
隆のお腹が情けなく鳴った。
二人は唇を離して呆気にとられた顔で一瞬見つめ合った。
「……ぷっ」
「……あはっ!」
次の瞬間、二人同時に笑い出した。ルビィはくすくすと、隆は照れくさそうに大きな声で笑う。昨夜の激しい夜とは対照的な軽やかで幸せな朝の空気が部屋に満ちた。
隆は耳まで赤くなりながらベッドから起き上がり、脱ぎ捨てられていた下着とズボンを履いた。
「お…お腹空かない?朝だし、何か作るよ!」
ルビィはベッドの中で上半身を起こし、そんな隆の背中を愛おしげに見つめながら微笑んだ。
「うんっ!ルビィにも手伝わせて。昨日は泊めてもらったんだし、そのお礼だよ」
二人はキッチンで肩を並べて朝食を作った。
隆が目玉焼きを焼いてルビィがトーストを焼きながら時折顔を見合わせては笑う。
出来上がったシンプルな朝食をテーブルで向かい合い、食べながら他愛もない会話を交わした。
昨夜、一線を越えたばかりの二人は朝の陽光の中でさらに深く、温かく結ばれていた。
ルビィと隆の交際は穏やかに、けれど確かに深まっていった。
恋人同士になってからも二人の関係はどこか初々しいままだったが、一線を越えてからは自然と肌を重ねるようになっていた。
それでも2人の純粋さは変わらず、朝「おはよう」と送られてくるメッセージだけで嬉しくなって大学で顔を合わせれば自然と笑顔になる。
講義終わりに学食で待ち合わせをして、帰り道にコンビニでアイスを買って半分こする――そんな何気ない日々が二人にとっては宝物だった。
休日になればデートにも出かけた。
水族館では、巨大な水槽の前でルビィが「わぁ……っ!」と目を輝かせ、隆はそんな彼女を見て微笑む。
「ルビィちゃん、魚見るの好きだよね」
「うんっ!なんだか癒されるの」
ペンギンコーナーではしゃぐルビィを見て、隆がスマホを向ける。
「撮るよー」
「ぴぎゃっ!?きゅ、急に!?」
慌てるルビィの表情すら愛おしくて隆は思わず笑ってしまうのだった。
互いのアパートを行き来することも増えた。
ルビィの部屋では一緒に夕飯を作ることが多かった。
「隆くん、味見して!」
「ん……美味しい!」
「ほんと!?」
「うん。お店出せるよ」
「そ、それは褒めすぎだよぉ……!」
照れながらも嬉しそうに笑うルビィを見ると隆まで幸せな気持ちになる。
一方で、隆の部屋ではルビィが自然にくつろぐようになっていた。ソファに座って課題をしたり、隆のジャージを借りて眠そうに欠伸をしたり。
そんな姿を見るたび、隆は“この子とずっと一緒にいたい”と思うようになっていった。
やがて季節は巡る。大学生活にも慣れた頃、隆には人生の大きな転機が訪れていた。
就職活動。
教育学部に所属していた隆は高校時代の柔道部の顧問教師に憧れ、教師を目指していた。
厳しいが、生徒一人ひとりをちゃんと見てくれる先生だった。落ち込んでいる時には黙って隣にいてくれて、悩んでいる時には真正面から向き合ってくれた。
そんな人になりたい。
その想いは大学に入っても変わらなかった。
就活用のスーツに身を包み、採用試験へ向かう隆をルビィはずっと応援していた。
「隆くんなら絶対いい先生になれるよ!」
ある日、カフェで履歴書を書いていた隆にルビィは真っ直ぐ言った。
「真面目でその人の目線に立って物事を考えられる優しい隆くんなら、きっと生徒さんも安心すると思う」
「……ありがとな」
その言葉は何より励みになった。
けれどルビィには、胸の奥に小さな寂しさもあった。
隆は自分より一学年上。つまり、先に卒業してしまう。今まで当たり前のように一緒だった大学生活が終わる。
それを考えるだけで胸が少しだけ締め付けられた。
そして春。
隆は無事、教員採用試験に合格し大学を卒業することになった。
卒業式の日。
スーツ姿に卒業証書の筒を持った隆はどこか大人びて見えた。
大学のキャンパスには桜が咲き始めている。二人はゆっくり並んで歩いていた。
「……卒業、しちゃうね」
ルビィがぽつりと呟く。
「うん」
「なんだか不思議……」
少しだけ寂しそうな声…そんなルビィを見て、隆は立ち止まった。
「ルビィちゃん」
「うゅ?」
「……ちょうど一年後の今日、聞いてほしいことがあるんだ」
「え?」
「待っててくれる?」
真剣な眼差しだった。けれど内容までは教えてくれない。
ルビィは不思議そうに首を傾げるが承諾の返事をした。
「?うん!わかった!」
そして、にこっと笑った。
「どんなお話か楽しみにしてるね!」
その無邪気な笑顔を見て隆は少しだけ照れたように笑うのだった。
社会人と学生。生活は大きく変わった。
教師になった隆は忙しかった。
朝早くから学校へ行き、部活動の指導もある。帰宅は遅くなる日も少なくない。
一方、ルビィも大学四年生となり、就職活動に追われていた。
それでも二人は時間を作った。
電話をしたり、休日に会ったり、互いの家でご飯を食べたり…会えない日が続くほど会えた時の嬉しさは大きくなる。
そしてルビィもまた、無事に就職が決まった。
スクールアイドル時代に衣装制作に夢中だった経験を活かしアパレル企業への内定を勝ち取ったのだ。
「すごいじゃないか!おめでとう!」
報告を聞いた隆は自分のことのように喜んだ。
「本当に頑張ったな、ルビィちゃん!」
「えへへ…!」
隆に抱きしめられながらルビィは幸せそうに笑った。
そして――。
隆の卒業式から、ちょうど一年後。
今度はルビィの卒業式の日がやって来た。
袴姿のルビィは以前より少し大人びて見えた。
「卒業おめでとう」
「ありがとう、隆くん!」
帰り道、隆は少し緊張した様子で言った。
「…ルビィちゃん!この後…来てほしい場所があるんだ」
「えっ?どこ?」
「…着いてからのお楽しみ」
そう言われ、ルビィは首を傾げながらも頷く。
電車を乗り継ぎ、辿り着いたのは夜景が綺麗な大きな公園だった。
そしてその中心には有名な観覧車。
「わぁ……!」
ライトアップされた巨大な観覧車を見上げ、ルビィが目を輝かせる。
隆は二人分の整理券を買うとそっと彼女の手を取った。
「行こう」
「うんっ」
ゴンドラに乗り込む。
ゆっくりと扉が閉まり、観覧車は静かに動き始めた。
夜景が少しずつ遠ざかり街の光が広がっていく。
「すごい……綺麗……!」
窓に顔を寄せるルビィはまるで子供みたいにはしゃいでいる。
だがその隣で隆は緊張で心臓が爆発しそうだった。
(やばい……落ち着け俺……!)
手汗が止まらない。喉も乾く。
そして、観覧車が高く昇るにつれその緊張はどんどん強くなっていく。
やがて、隆は意を決して口を開いた…。
「…ルビィちゃん」
「ん?」
「一年前に言ったこと、覚えてる?」
ルビィは振り返る。
「もちろん覚えてるよ!」
そう言いかけたところで彼の異変に気づいた。
顔が真っ赤だった。
耳まで赤い。
緊張で震えているのが分かる。
「……っ」
その瞬間、ルビィも察してしまった。胸がどくんと跳ねる。
釣られるように彼女の頬も赤く染まっていく。
隆はルビィの手を取った。大きな手が、少し震えている。
それでも真っ直ぐ彼女を見つめながら、言った。
「ルビィちゃん」
一呼吸。
「俺と――結婚してください」
世界が止まった気がした。
「……っ」
次の瞬間。
ルビィの瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「えっ!?る、ルビィちゃん!?」
隆は慌てる。
「ご、ごめん!急すぎた!?困らせ…」
「違うの…っ!」
ルビィは涙を拭いながら、必死に首を横へ振った。
「嬉しいの…っ」
しゃくりあげながらそれでも笑う。
「嬉しすぎて……どうしたらいいかわからなくて……っ」
その言葉を聞いた瞬間、隆の胸いっぱいに安堵が広がった。
彼はそっとルビィの両肩に手を置く。
そして、これまでずっと“ルビィちゃん”と呼んでいた彼女を――。
「ルビィ」
初めて、呼び捨てにした。
ルビィの瞳が大きく揺れる。
「俺の奥さんになってほしい」
真っ直ぐな声だった。
ルビィは涙を拭い…そして満面の笑みを浮かべる。
「うんっ!」
その笑顔は、花が咲くみたいに眩しかった。
「私も……隆くんの奥さんになりたい……!」
そして、少し照れながら続ける。
「だから…隆くんもっ…私の旦那さんになってください!」
「……もちろんだ!」
隆は感極まったように笑った。
「ありがとう、ルビィ」
二人は強く抱きしめ合う。
観覧車はゆっくりと頂上へ辿り着く。
そして――。
街の灯りが一番綺麗に見えるその瞬間…二人は静かに口付けを交わした。
ゆっくり下降していく観覧車の中。
ルビィは隆の肩に頬を寄せながら小さく笑った。
「ねぇ、なんでこの場所にしたの?」
「えっ」
隆は一瞬言葉に詰まり気まずそうに視線を逸らす。
「…この観覧車、告白とかプロポーズがうまくいくって有名らしくてさ…」
「ふふっ」
「ご、ごめん!もっとムードある場所の方がよかったかな!?ホテルのレストランとか夜景の見える――」
「ううん」
ルビィはそっと彼へ寄り添った。
「そんなことない」
幸せそうに微笑む。
「最高のプロポーズだよ」
「……っ」
その言葉に隆は照れ臭そうに笑った。
そして二人は顔を見合わせ、同時に吹き出す。
観覧車は静かに地上へ戻っていく。
けれど二人の未来はこれからもっと高く、もっと遠くへと続いていくのだった…。
後編につづく
ルビィちゃんとオリ主の出会い〜プロポーズまでを書きました。ルビィちゃんには優しくて守ってくれる系の男性が合いそうだなと思って書きました。
ここまで読んでくださりありがとうございました。続きも読んでくださると嬉しいです。