大学3年の春。
東京の街は今日も忙しなく動いていた。
就職活動。大学の講義。そしてアルバイト。
2年前に沼津から上京し大学生活を送っていた渡辺曜にとって、かつてスクールアイドルとして輝いていた日々は今では少し遠い思い出になりつつある。
それでも曜は変わらない。
どんな時も笑顔で前を向く。それが曜という人間だった。
そんな曜が働くコンビニに、新しいアルバイトが入ってきたのは4月のことだった。何でも曜と同じ大学の2年後輩だと店長からも事前に聞いていた。
「本日からお世話になります。桐原大我です」
店長の隣に立つ青年を見て、曜は思わず目を瞬かせた。
綺麗に刈られた坊主頭。鋭いつり目。高い身長。がっしりした体格…。
曜から見た大我の第一印象は正直怖かった。
「渡辺曜です!よろしくね!」
曜が明るく声を掛けると、
「…よろしくお願いします」
大我は少し緊張した様子で頭を下げた。
その様子を見て曜は思った。
(あれ?意外と怖くないかも)
怖いと言うよりむしろ謙虚で不器用そうに見えた。
大我がバイトに入った最初の数日は曜が大我の教育係になった。
「ここがレジ操作ね!」
「はい」
「お客さんが来たら笑顔!」
「はい」
「もっと笑顔!」
「!…こう…ですか?」
ぎこちなく口角を上げる大我。
曜は思わず吹き出した。
「かたい!表情かたいよ〜!」
「俺…接客向いてないと思います」
真顔で返されてさらに笑う。
「大我くん面白いね!」
「そうですか?」
大我は訳がわからないと言った風に首を傾げていた。
だが大我は、仕事に対しては真面目だった。
誰よりも早く業務を覚え、ミスをしても言い訳をしない。
分からないことは必ず聞くし、そして何より笑顔がぎこちないながらもお客さんにも真摯に接し曜や同僚達にも優しかった。
ある日、曜が飲料ケースを持ち上げようとした時だった。
「俺やります」
「大丈夫だよ?」
「その飲料ケース…かなり重いので」
「私、そんなにか弱くないよ?」
すると大我は少し考えてから、
「でも、俺の方が力あります」
と言って軽々と持ち上げた。
曜は思わず笑った。
「それは認める!」
その時だった。
大我が少しだけ笑った。
「っ…!」
ほんの一瞬…。けれど曜はその笑顔が妙に印象に残った。
そして数週間後…『あの日』が訪れる。
理不尽なクレーム客に絡まれた日のことだ。
「だからお前の態度が気に入らねぇんだよ!」
怒鳴り声が店内に響く。
曜は何度も頭を下げていた。しかし、元々理不尽に当たり散らせる相手を探していたのかまるで話が通じない。
どうしようかと思ったその時だった。
「その辺にしてもらえますか」
低い声が響いた。
振り返ると大我がいた。
「店員さんは十分対応してます…それ以上何かあるようなら、俺が対応させていただきます」
静かな声だった。
だが有無を言わせない迫力があった。
「…チッ…!」
客は大我の毅然とした態度に気圧されたのか舌打ちすると去っていった。
「大丈夫ですか?」
そう声を掛ける大我。曜は少しだけ胸が熱くなった。
「助かったよ!ありがとう!」
「いえ」
照れたように視線を逸らす大我。
その横顔を見ながら曜は思う。
(やっぱり…優しい人だなぁ…)
それから更に数週間経過し、大我も仕事にすっかり慣れた頃、二人は休憩時間にも自然と一緒にいる時間が増えていった。
バックヤードで、曜は菓子パンを頬張りながら大我に気軽に質問を投げかける。
「大学楽しい?」
「普通です」
「友達は?」
「少ないです」
「彼女は?」
「いません」
「へー」
曜は正直に答える大我に思わずニヤニヤする。すると今度は大我が逆に曜に対して質問を投げかけてきた。
「曜先輩は?」
「え?」
「彼氏」
「いないよ!?」
「そうですか」
どこか安心したような声だった。
曜は気付かなかった。大我自身も気付いていなかった。
その頃にはもう、彼の心は曜へ向いていたことに…。
ある日。
曜は就活帰りにバイトへ来た。しかし面接の結果があまり芳しくなく陽の気分は落ち込んでいたが周りには悟られまいと明るく振る舞っていた。
だが、大我はいつもの曜との違いに気付いていた。
バイト終了後…
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ様でした」
口々にそう言って2人で駅へと向かう曜と大我。大我はいつもの真面目な口調で曜に気になってことを問いかける。
「先輩」
「ん?」
「何かありました?」
曜は少し驚き、問い返す。
「な、なんで?」
「元気ないから」
「えっ」
「いつもより笑顔少なかったです」
曜は思わず苦笑した。そんなところまで見られていたとは思わなくて驚いたが気付いてもらえたのがなんだか嬉しかった。
「…実はさー…」
曜はぽつりぽつりと話し始めた。
面接の失敗。将来への不安。周りとの比較。
大我は最後まで黙って聞いていた。
そして話が終わると一言だけ言った。
「先輩は大丈夫ですよ」
「え?」
「俺、先輩みたいに何事にも一生懸命で頑張り屋な人見たことないです」
曜は目を瞬かせる。
「誰にでも優しいし」
「そんなことないよ」
「あります」
即答だった。
「店でも大学でも周りの人達はみんな先輩のことを慕ってます」
曜の頬が少し熱くなる。
「だから…きっと上手くいきます」
大我は真っ直ぐ言った。その瞳に嘘はなかった。
曜は大我の真っ直ぐな励ましの言葉に胸が温かくなるのを感じた。
「…ありがとう」
その日からだった。
曜が大我を意識し始めたのは…。
2人がバイトを通して親しくなるにつれ通っている大学でも顔を合わせるようになった。
学食。図書館。帰り道。
一緒に過ごす時間が確実に増えていたある日のこと…。
学食で大我と一緒に食事をしていた時に曜がスマホ画面のある写真を見せた。
「これ見て!」
「何ですか?」
「高校の時の私!」
そこにはスクールアイドル時代の曜の写真が映っていた。
大我は思わず固まった。
「…え?」
「私、Aqoursってスクールアイドルのグループのメンバーで衣装デザインも担当してたんだ〜。可愛い衣装でしょ?」
「…いや」
「ん?」
「衣装だけじゃなくて…写真の先輩、めちゃくちゃ綺麗で…その、見惚れました」
「っ!!?」
心を許し何の気なしに見せたスクールアイドル時代の写真を不器用ながら真っ直ぐに褒められて曜は照れ臭さから頬を赤く染めながら誤魔化すようにこう言った。
「そ、そんなことないって〜!」
「あります」
大我は真剣な表情でスマホと曜を何度も見比べた。
「先輩ってすごい人だったんですね」
「だったって何よ〜」
「訂正します…今もですね」
曜の顔は大我の言葉を聞きますます赤くなる。
曜は真っ直ぐ褒められるのは照れ臭くて苦手だったが、同時に胸が温かくなるのを感じていた。
(大我くんと一緒にいると私らしくいられる…とってもあったかい気持ちになれる)
何気ない日常を大我と過ごす中で、曜は最近そう思うことが多くなっていた。
…大我自身も曜と過ごすことに安らぎを感じているとも知らずに。
そしてある日の夜のバイト終わり。
東京は記録的な豪雨に見舞われ、電車は止まり、駅は大混乱していた
「電車…止まっちゃったね」
「ですね…」
途方に暮れる大我。
すると曜は少し考えてからこう提案した。
「良かったらうち来る?」
「え?」
「雨宿り!雨宿りだから!ほ、ほら!私のアパートはちょっと時間かかるかもだけど歩いても行ける距離だし!」
「そう…ですか…そういうことなら…お世話になります」
顔を真っ赤にしながら慌てて付け加える曜に釣られるように大我も顔を赤くし雨宿りの提案に応じた。
こうして2人は曜のアパートへ向かった…。
アパートに到着した大我は緊張を滲ませた表情で「お邪魔します…」と入室し、先に部屋に入りタオルと着替えを用意していた曜は「あがって」と言いながら大我にタオルと着替えを差し出してきた。
「はい、これ」
曜が差し出した着替え用の服は大きなスウェットだった。
「良かったらこれ着て!お父さんが泊まりに来た時用なんだけど」
「ありがとうございます…」
脱衣所を借りて着替えた大我を見て曜は思わず吹き出した。
「ぶかぶかだね!」
「先輩のお父さんデカいんですね」
2人は思わず笑いあった。
…だが、夜が深まるにつれて空気が変わっていく。
テレビも消えた静かな部屋。聞こえるのは雨音だけ。
互いを意識してしまう。
沈黙が妙に心地良くて。妙に落ち着かなくて。
そんな時だった。
「て、テレビでも見ようか!」
曜が慌ててリモコンへ手を伸ばす。
同時に大我も手を伸ばして、不意に指先が触れる。
一瞬だった。だが…その瞬間、時間が止まったような気がした。
曜の大きな瞳が自分を映しているのを見て大我の鼓動が激しくなる。
曜もまた胸が苦しくなるほど心臓が鳴っていた。
見つめ合う。視線が離れない。
徐々に互いの顔が近付いていく。自然に。引き寄せられるように…。
そして――
気が付いた時には2人の唇は重なっていた。
柔らかくて、温かくて、短い口付け。
唇が離れた瞬間、2人とも真っ赤になった。
「す、すみません!」
大我が我に返り慌てる。
「突然…こんなことしてしまって…!でも…先輩の瞳を見ていたら、自分が止められなくて…本当にすみません!」
大我の必死の謝罪に曜も顔を真っ赤にしながら言葉を返す。
「こっちこそごめん!わ、私も止められなくて…!その…っ」
心臓が壊れそうだった。すると大我が真剣な声で言った。
「よ…曜先輩」
曜が顔を上げる。
大我は真っ直ぐ見つめていた。
「突然キスをしておいてこんなこと言うの厚かましいと思いますけど…俺…好きでもない相手にキスしたりしないです」
大我の言葉に曜の呼吸が止まる。
「好きです…先輩のことが」
震える声。けれど嘘はない。
「曜先輩のことが、ずっと……ずっと、気になってました」
その言葉を聞いた瞬間。曜の目から涙が零れた。
嬉しかった。ずっと聞きたかった言葉だった。
「私も…っ」
声が震えながらも曜は一生懸命に大我の愛の言葉に応える。
「私も大我くんのこと大好き…!」
涙を流しながら笑う曜。大我も思わず笑った。
次の瞬間。
2人は強く抱きしめ合っていた。
やっと届いた想い。やっと重なった心。
「俺…すごく幸せです」
「私も…想いが通じ合うってこんなに心があったかくなるんだね」
「はい。…先輩」
「ん?」
「もう一回…キスしてもいいですか?」
「っ!その聞き方…反則だよっ!…いいよ」
再び交わした口付けは先ほどよりも優しくて温かかった。
やがて唇が離れる。
大我は耳まで真っ赤だった。曜は思わず吹き出す。
すると大我も照れながら笑った。
「大我くん…さっきからほんとに耳まで真っ赤だよ!」
「…それは先輩もでしょ」
額と額をそっと合わせる。
「そうだね」
曜は幸せそうに笑った。
その夜。
2人はソファに並んで座りながら朝まで話した。
好きな映画。将来の夢。中学や高校時代の思い出。
曜のスクールアイドル時代の話を聞いて大我は何度も驚き
「先輩すごすぎません?」
と何度も感心していた。
曜はそんな反応が嬉しくて笑い続けた。
やがて夜も更けていく…。
いつの間にか曜の肩にもたれかかる大我。同じように大我の肩に寄りかかる曜。
穏やかな温もり。安心感。気付けば2人とも眠っていた。
いつの間にか外の雨は止んで綺麗な月が夜空を照らしていた。
まるで恋人同士として過ごす最初の夜を祝福するように…。
翌朝…目を覚ました2人は顔を見合わせて同時に赤くなった。
「お、おはよう!」
「お、おはようございます……」
昨夜の出来事を思い出してしまう。
けれど、一緒に朝食を作るうちに自然と笑顔が戻っていた。
卵焼きを焦がしそうになる大我に慌てて助ける曜…何気ない時間が幸せだった。
そして朝食後、無事に電車も復旧したニュースを見て大我は自分のアパートに帰ることになった。
玄関先で2人は別れを惜しむように会話する。
「昨日は本当にありがとうございました」
大我が頭を下げる。
「ううん!」
曜は笑顔を向けた。
「また大学でね」
そう言ったものの、曜は胸の奥が少しだけ寂しかった。
すると…
大我が一歩近付く。
そして…
そっと曜に口付けた。
短く、優しい、触れるだけのキス。
「先輩」
大我は顔を耳まで真っ赤にしながら至近距離で囁くようにこう言った
「また明日」
「っ…!?えっ!?あっ、う、うん!!」
キスをされた曜の顔も真っ赤になり焦った様子で返事をすると大我は照れたように笑った。
「お邪魔しました」
そう言い残して去っていく背中。
曜はしばらくその場から動けなかった。
やがてキスの余韻に浸るように自分の唇へそっと指を添える。まだ温もりが残っている気がした。
窓の外では雨上がりの青空が広がっていた。
(なんだか……)
曜は小さく微笑む。
(行ってらっしゃいのキスみたいだったな)
そう思った瞬間。胸の奥がくすぐったくなった。
きっと明日も会える。
大学で。バイト先で。
そしてこれから先も…。
恋人になった2人の物語は、まだ始まったばかりだった。
雨宿りの夜。
想いを伝え合ったあの日から、大我と曜は互いのアパートを行き来する半同棲生活を送るようになっていた。
大学へ行く日も、アルバイトへ向かう日も、帰り道も…気付けばいつも隣に相手がいた。
「おはよう、大我くん」
「おはようございます、先輩」
そんな何気ない挨拶ですら、二人にとっては特別だった。
大学の講義やバイトが終われば待ち合わせをして一緒に帰る。
スーパーで夕飯の材料を選び、どちらかのアパートで料理をする。
「今日は何作る?」
「先輩がこの前作ってくれたハンバーグ、また食べたいです」
「えー?またー?」
「…美味しかったので」
真面目な顔で言う大我に、曜はいつも笑ってしまう。
食卓を囲みながら今日あった出来事を話す時間も2人は好きだった。
就活の話。大学の話。アルバイトの話。
将来の夢。
2人は少しずつお互いの人生を共有していった。
夜になれば同じベッドで眠る。
最初は緊張していた曜も、今では夜に隣に大我がいないと落ち着かなくなっていた。
「おやすみなさい…先輩」
「…おやすみ、大我くん」
手を繋ぎながら眠ることも珍しくなくなっていた。
そんな日々が、2人にとって当たり前になっていた。
なんでもない日常が、2人にとってかけがえのない幸せになっていた。
けれど…そんな穏やかな日々を重ねる中で、互いに抑えきれない想いが募り始めていた。
「今以上に、深く繋がりたい」
大我も曜も、心の奥底でそう願っていた。
しかし、一度その言葉を口にしてしまえば、今の甘くて脆い関係が壊れてしまうのではないか——
そんな不安が、2人の口を塞いでいた。
…そんな想いを抱えたまま過ごしていたある日のこと。
いつものようにバイト終わりにコンビニから手を繋いで帰る道中だった。
「…先輩、今日もお疲れ様でした」
「大我くんも、お疲れ!」
曜がいつもの明るい笑顔を向ける。
…だが、大我の胸の中は先程目撃したある出来事が原因でざわついたままだった。
夕方、店に来た常連客の男子大学生が曜に告白したのだ。
「渡辺さん…ずっと好きでした!俺と…付き合ってください!」
握手を求めるように片手を前に出して意を決した様子で告白した男子学生であったが、曜は丁寧に、けれどはっきり断った。
「私には付き合っている大切な人がいるので…気持ちには答えられません。ごめんなさい」
店内で品出し中だった大我はその光景を見て今にも自分が彼氏だと名乗り出て告白を止めたい衝動に駆られたが、飛び出す前に曜がハッキリと告白を断り、相手の男子学生も残念そうに「そうですか…いきなりすみませんでした」と言って潔く退店して行ったため、大我はその場に立ち尽くす他なかった…。
愛する人が他の男に告白を受けたという衝撃と同時にその瞬間、大我の中で熱いものが噴き上がった。
嫉妬。独占欲。
そして、曜を誰にも渡したくないという、強烈な想い。
今まで抑えていた感情が限界に達していた。
手を繋いだまま歩く道で、大我は突然曜の手を強く握り、路地に入る少し手前で彼女を抱き寄せた。
「え…っ?」
曜が驚いて顔を上げる。
大我は耳まで真っ赤になりながらも、瞳だけは真剣だった。
声がわずかに震えていた。
「先輩…今夜、先輩のことを…抱いても良いですか?」
一瞬の沈黙の後…曜の瞳が大きく見開かれた。
心臓が激しく鳴り、顔が一瞬で熱くなる。
けれど、驚きと共に胸の奥から溢れてきたのは、長い間自分も抱えていた願いだった。
曜は大我の背中にそっと腕を回し、照れくさそうに…けれどはっきり答えた。
「……うん。いいよ」
その言葉を聞いた瞬間、大我の瞳が熱を帯びた。
帰り道のドラッグストアに立ち寄り、大我は緊張した手つきでコンドームを買った。
曜のアパートに着くと、2人はほとんど言葉少なに順番にシャワーを浴びた。
先にシャワーを済ませた曜は、寝室のベッドの端に座り、膝の上で指を絡めていた。
心臓の音がうるさい。
手が震える。
でも、怖いというより期待と愛おしさで胸がいっぱいだった。
やがて大我が部屋に入ってきた。
濡れた頭をタオルで拭きながら、いつもより緊張した面持ちで曜の隣に腰を下ろす。
しばらく沈黙が落ちた後、大我が低く掠れた声で切り出した。
「突然すみません…でも、今日…先輩がお客さんに告白されてるのを見て、俺、嫉妬で我慢できなくなってしまいました。先輩を…俺だけのものにしたいって…すごく思ったんです。カッコ悪いですよね、こんなの」
申し訳なさそうに俯く大我の横顔を見て、曜の緊張がふっと解けた。
愛おしさが溢れて彼女は自然と大我の唇に優しくキスをした。
そして両手で彼の熱くなった頰を包み、柔らかく微笑んだ。
「そんなことないよ…。そう思ってくれて、私すごく嬉しい。大我くんが私を強く想ってくれてることが…私もっ…ずっと前から大我くんと…もっと深く繋がりたいって思ってたから」
その言葉を聞いた瞬間、大我の理性の糸が緩んだ。
「大好きです…曜先輩」
熱い声で囁きながら、大我は曜を強く抱き寄せた。
曜も彼の広い背中に腕を回し、震える声で答える。
「私も…大好きだよ。大我くん」
次の瞬間、2人は激しく唇を重ねた。
キスはすぐに深くなり、互いの体温が混じり合う。
大我は曜を優しく、けれど確かな力でベッドに押し倒した。
大我は曜を優しくベッドに押し倒すと、覆い被さるように何度も唇を重ねた。
キスが深くなるにつれて2人の息が次第に乱れていく…。
「…服…脱がせていいですか?」
曜は耳まで真っ赤になりながら、小さく頷いた。
「うん……」
大我の大きな手が震えながら曜のシャツを脱がせ、ブラジャーを外す。
露わになった柔らかな胸と白い肌を見て、大我は息を飲んだ。
「…曜先輩、すごく綺麗です…」
低い声で呟きながら、大我は曜の首筋に唇を寄せてゆっくりと吸う。
舌で丁寧に舐め上げ、鎖骨へ、そして胸の膨らみへと唇を這わせていく。
「ん……っ、あっ…!」
曜が控えめに声を漏らす。
大我は片方の胸を大きな手で包み込み、親指で先端を優しく擦りながら、もう片方へ舌を這わせた。
「あっ…ん…はっ…やぁ…」
曜は恥ずかしさで顔を背けようとするが、甘い刺激に体が小さく震える。
大我は不器用に、しかし愛情を込めて丹念に胸を愛撫し続けた。
「…可愛いです。曜先輩…」
やがて一方的に愛撫を受けていた曜は息を乱しながら、大我の胸に手を置いた。
「…私ばっかりしてもらうの、フェアじゃないよね…」
真っ赤な顔でそう言いながら、曜は大我の身体を押し返して彼の一物を口に含んだ。
「!先輩…!?」
不慣れながらも一生懸命に舌を動かすと、大我は荒い息を吐いた。
「くっ…!先輩…ダメです…!出る…!」
限界を迎えた大我は、曜の口内に熱いものを放ってしまった。
「ごめんなさい…口の中に…」
曜は少しむせながらも微笑んだ。
「大丈夫だよ…大我くんのなら、私は大丈夫」
「!先輩…っ」
その言葉に大我はたまらなくなり、曜を再び押し倒して脚を開かせ陰部に顔を埋めた。
舌で優しく舐め上げ、敏感な部分を丁寧に刺激する。
「あっ…んっ、大我くん…そこ…は…ああっ…!」
曜の腰が小さく跳ね、控えめな喘ぎ声が漏れる。
大我は低い声で呟いた。
「……曜先輩のここ…すごく熱いです…!」
「んっ…そういう恥ずかしいこと…言わなっ…ああっ…!!」
曜が達した後…大我は体を起こし、曜の唇に深くキスをすると掠れた声でこう言った。
「…先輩。挿れても、いいですか?」
その瞬間、曜は恥ずかしそうに大我の首に腕を回し震える声で囁いた。
「…先輩じゃなくて…曜って呼んで?」
大我は一瞬目を丸くしたが、すぐに熱を帯びた瞳で頷いた。
「!…わかりました。…曜さん」
その呼び方に、曜の胸が甘く締めつけられた。
大我はコンドームを付け、曜の脚を優しく持ち上げた。
熱く硬くなった先端を入口に当てゆっくりと腰を進める。
「…んっ…あ…あっ…ん…」
「…大丈夫ですか?」
大我は敬語のまま、曜の反応を気にしながら少しずつ奥まで沈めていく。
全てが入った瞬間、二人は同時に息を飲んだ。
「…曜さんの中…きついです…すごく、温かい……」
「私もっ…大我くんの…あったかい…」
「動いても…いいですか?」
「!…うんっ」
大我は曜の了承を得ると言葉少なに腰を動かし始めた。
最初はゆっくりと、しかし徐々に深く、確かなリズムで。
「あっ…は…んんっ……あん…!」
曜は控えめに喘ぎながら大我の背中に爪を立てる。
大我は曜の胸を再び愛撫し首筋にキスを落としながら、低く囁いた。
「…曜さん、すごく可愛いです…曜さんの乱れる顔…すごく綺麗です…!」
「や…そんなこと、言わないで…あぁっ……!」
曜の声が少し大きくなり、控えめながらも甘い喘ぎが部屋に響く。
大我は敬語を崩さず、しかし熱を込めて腰を打ちつけた。
「…好きです…曜さん…!…愛してます…!」
「あんっ…私もっ…大我くんが…好き…大好きっ…!んあっ…!」
2人は何度もキスを交わし、肌を重ねながら頂点へと昇りつめた。
ほぼ同時に絶頂を迎え、曜の体が小さく痙攣し、甘い喘ぎを漏らした。
事後…大我はコンドームを処理すると、すぐに曜を優しく抱き寄せ、汗ばんだ裸体を密着させた。
額に、頰に、唇に何度も柔らかいキスを落としながら穏やかな声で囁く。
「…曜さん…大丈夫でしたか?痛くありませんでしたか?」
曜は大我の胸に顔を埋め、幸せそうに微笑んだ。
「ううん…すごく気持ちよかったよ。大我くんが優しかったから…」
大我は曜の背中を大きな手でゆっくり撫でながら、照れくさそうに続けた。
「俺っ…、曜さんのこともっと大事にしたかったのに我慢できなくて…ごめんなさい」
「そんなのいいよ…大我くんにいっぱい愛されて私すっごく嬉しかった…。大我くんが私を欲しがってくれるのがたまらなく幸せだったの…」
曜が上目遣いに見つめてくる。
大我は耳まで赤くなりながらも、強く抱きしめた。
「…愛してます、曜さん…!」
「私も…大好きだよ。大我くん」
二人は再び唇を重ね、裸のまましっかりと絡み合いながら朝を迎えた。
互いの体温と穏やかな鼓動を感じ、幸せに包まれて静かに眠りについた。
季節は巡り…大学卒業を目前に控えた冬の終わり頃のことだった…。
曜と大我の穏やかな日常は、ある一本の電話によって大きく変わることになった。
その日。
曜はアパートの自室で実家の母親と長い電話を終えた後、しばらくスマートフォンを握りしめたまま動けずにいた。
顔色が明らかに悪い。
リビングでレポートを書いていた大我もすぐに異変に気付いた。
「…曜さん?」
呼びかけても返事がない。大我は席を立ち、曜の隣へ座った。
「…何かありましたか?」
曜はゆっくり顔を上げる。
その目は少し赤かった。
「お婆ちゃんがね…倒れたんだ」
「っ!」
大我は驚きながらも静かに曜の話に耳を傾け続ける。
母方の祖母が突然倒れたこと。介護が必要になること。母親が仕事を辞めて介護に専念すること。
そして――
「…私、沼津に帰ろうと思う」
その言葉がぽつりと部屋に落ちた、曜は無理に笑いながらこう言った。
「本当は東京で就職する予定だったんだけどね!」
笑顔は少し震えていた。
「…お母さん一人じゃ大変だし…というかおばあちゃんだけでなくお母さんのことも心配で1人にしておけないと思ったんだ…うち、仕事の都合でお父さんがあまり家にいないから」
「……」
「私も…家族を支えなくちゃって…そう思ったの」
そこまで話したところで曜は視線を落とした。
本当に言いたかったことは別にあった。
沼津へ帰るということは、大我と離れるということだったからだ…。
「ごめんね」
ぽつりと漏れた言葉。
「…なんで、謝るんですか?」
大我の静かな問いかけに曜は声が震わせながら答える。
「だって…遠距離になっちゃうし…」
涙が滲む。
「そばにいられなくなるし…」
大我はしばらく黙って曜を見つめていたが、考えた後に静かにこう言った。
「行ってください」
「えっ?」
曜が顔を上げる。
大我は真っ直ぐ曜を見ていた。迷いのない目だった。
「曜さんがお母さんやお婆さんを支えたいと思うなら、迷わず行くべきです」
優しい声、けれど力強かった。
「俺の気持ちは離れていたって変わりませんから」
大我の言葉に曜の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「大我くん……」
「俺は曜さんが好きです」
大我は少し照れながらも続けた。
「だから応援します」
曜は涙を拭きながら笑った。
「ありがとう」
それしか言えなかった。
けれどその一言に全ての想いが込められていた。
その日から卒業までの時間は、2人にとってより大切なものになった。
一緒に食事をした。一緒に大学へ通った。休日には東京の街を歩いた。
何気ない景色を写真に残した。
「離れても寂しくないように!」
そう言って曜は何枚もツーショットを撮った。大我も照れながら付き合った。
「そんなに撮るんですか?」
「撮るの!」
「曜さん、絶対後で見返して泣きますよ」
「泣かないもん!」
「いや泣きます」
「泣かないってば!」
そんなやり取りさえ愛おしかった。
そして卒業式の日…それは2人の別れの日でもあった。
東京駅。
ホームには多くの人が行き交っている。沼津への乗り換え駅へと向かう電車が静かに停車していた。
曜は大きな荷物を持ちながら、それでも笑顔を作っていた。
「私がいなくなるからって無茶しちゃダメだよ?」
「はい」
「ちゃんとご飯食べること!」
「はい」
「野菜も食べる!」
「はい」
「夜更かししない!」
「はい」
「それから―」
言葉が続かない。
本当は離れたくない。
そんな気持ちが胸いっぱいに広がっていた。
…すると突然、大我が曜の腕を引いた。
次の瞬間、曜は力強く抱きしめられていた。
「大我くん…?」
曜を抱きしめた大我の身体は少し震えていた。
「…わかってます」
必死に絞り出すような声。
「毎日連絡します」
言葉を続ける度に、抱きしめる力が少し強くなる。
「毎日ちゃんと飯も食います」
「うん……」
「大学もバイトも頑張ります」
曜の目から涙が溢れた。
すると大我はさらに言葉を続けた。
「それで…立派な男になって」
その声には決意が込められていた。
「必ず曜さんに会いに行きます」
曜は顔を上げる。大我の目も少し赤くなっていた。
「だから――」
彼は真っ直ぐ曜を見つめた。
「どうか待っていてください」
その言葉を聞いた瞬間、曜の涙は止まらなくなった。
胸がいっぱいになる。嬉しくて。愛しくて。切なくて。
曜は大我の胸に顔を埋めた。
「うん…!」
震える声でこう言葉を返した。
「待ってる…待ってるからっ…!」
そして、涙混じりの笑顔で愛の言葉を紡いだ
「大好きだよ、大我くん」
大我は曜の頬へそっと手を添え、優しく涙を拭う。
そして少しだけ照れながら微笑んだ。
「俺も」
彼はゆっくりと言った。
「愛してます」
二人はしばらく見つめ合い、引き寄せられるように、別れを惜しむように長いキスを交わした。
周囲の雑踏も。発車ベルの音も。その瞬間だけは聞こえなかった。
互いの存在しか感じていなかった。
…やがて発車時刻を知らせるアナウンスが流れる。
曜は何度も大我の方を振り返りながら電車へ乗り込んだ。
ドアが閉まる。
窓越しに見える大我の姿を見ながら曜はガラス越しにスクールアイドル時代にもよくやっていた『全速前進ヨーソロー』の敬礼ポーズをする。
大我も同じように手を上げる。
言葉は届かない。それでも気持ちは伝わった。
電車がゆっくりと動き出し、大我の姿が少しずつ遠ざかる。
それでも曜は最後まで、姿が見えなくなるまで大我の方を見続けていた。
大我もまた、曜が乗る電車が見えなくなるまでホームに立ち続けていた。
2人は離れてしまう…けれど、想いまで離れることはない。
そう信じながら、それぞれの未来へ向かって歩き始めるのだった。
後編へつづく
ここまで読んでくださりありがとうございます。後編の更新もしばらくお待ちくださいませ。