この街でのラスボス戦になります。
※導入シーンです。エロシーンは次回から。
―――それは突然だった。
合間にノーチェとの戦いがあったものの、無事D級冒険者へと昇格したボク―――アルフは、女達に褒められたり、心配されたりしながら次なる依頼を受け、森へと繰り出していた。
昇格してもD級はまだまだ初心者。大した依頼ではなく、ボクの天性の肉体と、結局居候しているクランハウスの住人たちとの訓練で身に着けた初歩的な武術に魔術、そして保険である同化したノクトレアと、影に潜むノーチェ、究極的には街の内外に潜伏する淫魔の集団も合わせれば負けるような事態は無い。そもそも今回もなんやかんや採取系の依頼だ。武器も敵が出てからで間に合う。
ただ、採取依頼だろうが討伐依頼だろうが、ボクは一人での達成、勝利を好む。それを知っている彼女たちは基本的に手を出すことは無く、ただ好いた雄、主である雄の成長を見守る存在として共にいるだけだった。
平和だ。
率直にそう思った。ある意味完全に守られていた村を出た外の世界で、最初は随分と緊張していた。
出立した当初、ノクトレアの事は信用しきってはいなかったし、弱みは見せられず、しかし頼らずには旅も出来なかっただろう。
今は違う。確かな、女としてモノにした感触と、群れを率いている雄としての感覚、それらが雄として以上に、人間としてよりボクを強くし、より直接的な実力もメキメキと上達している今は心なしか肉棒もさらなる進化をしている気さえする。ヤりすぎなだけかもしれないけれど。
そんな最中。今日は、今までとは違った。
ふわり、と風が起こる。
真横に突き付けられた170cmはあろうかという長大な杖。
そこから放たれる砕けた氷片の散弾―――明確な殺意。
「『アイシクルバースト』」
「っ!」
咄嗟に前に出る。リーナとの訓練で会得した危険に対して間合いを潰して攻撃を避ける回避運動。急加速の足遣いはエクレシアの格闘技の1つで、そこから右手で敵を、左手で武器を抑えに行く。これはコユキの二刀を真似た、攻防一体の動きだ。
同時に敵の姿を見上げたボクの視線と、こちらを見下ろす冷たい視線と交錯する。
凄まじく冷たい瞳を持った、ローブ姿の魔女だ。長い髪はその全てが―――ボクのほうへ先端を向けて槍のように蠢き、刺突してきた。
咄嗟に背後へ飛び退く。地面を蹴り割る勢いで加速すれば、さっき射出された氷の破片が背中に当たる。それを感じる間もなく、魔女の構えたままだった杖の先端がボクの方を向き、再びその唇が薄く開いた。
「繋げ、『フリーズライン』」
突如、壁にぶつかったかのような衝撃と共にボクの身体が停止する。
背中に当たっていた破片が空中に固定されていた。さらに、そこから杖へ、射出された軌跡をなぞるように氷の線が出来上がっている。射線に割り込んでいたボクの肉体はなぞるようにその氷の線に囚われ、咄嗟に殴りつけるも細いそれがビクともしない。
読まれている。全て、それを悟ったボクは、咄嗟に魔術を詠唱しようとして、それらの氷の破砕音と共に凄まじい揺れを受けた。
気付けばどこかの樹に叩きつけられていた。何かに強打されて、吹き飛んだのだ。あの氷の呪縛を破壊できるほどの威力を身に受けて大した影響が無いのは、この強い身体と―――咄嗟に割り込んだらしい影の防壁のおかげだろう。
間髪入れず、開いた目の前に見えた振り下ろされる蹴り脚を両手を交差させて防げば、容易に背後の樹が破砕されて、ボクの身体は地面にたたきつけられた。
「は~ぁ!? 硬すぎんだけどこのガキ! なんか影にいるし、リーナ達の動きもちらほら見えるし、きっっっっっしょ!」
即座に立ち上がり、前を見てみれば二人目の敵だ。
比較的小さめの体躯をした少女だが、活発そうなその顔と、ちらりと覗く八重歯に、褐色気味の肌。淫魔たちの中にも少し見たことがある、王都都心部で流行っているファッションの1つ―――ギャルだ。
「ふぅ―――どちらにせよ、ここで殺すだけ」
「おっけー! ディーネ。そのまま援護ね!」
「『ネーヴェアームズ』」
構え、ノーチェが影から放った鉄棒を両手に握った時には既に次が来ている。
魔女の方―――ディーネと呼ばれたその女の周囲には巨大な氷柱が複数浮かび、その先端には魔術陣が設置され、浮いた氷柱がボクの周囲を跳び回りながら先のアイシクルバーストを小規模にしたような散弾の雨あられを降らせてきた。
前後左右全てから襲い来る攻撃は鉄棒では防ぎようがない。脚を動かし、極力速度で避けながら徐々にダメージを受けつつも肉体で凌ぎ切る。
あまりの攻撃に目を開けてられない。眼球は強化魔術で強くしても所詮眼球。柔らかい物を鉄にするには専門家並みの魔術練度が必要で、それはボクにはないものだ。
―――耳が捉える。地面を踏みしめる音。
氷の暴風の中、聴こえる風切り音。あてずっぽうで頭を守れば、脚に衝撃が来た。
感触からして巨大な剣か槍だ。転ばされる。ノーチェが守ったか、脚は切れたりしていないが、強烈な打撲の痛みがあった。
「マジか! あーしのコレでぶった切れないとかマジでなんなん!?」
「『アイシクル』―――」
「誰に手を出しておる......っ!」
ノクトレアの声。
魔女ディーネの詠唱が止まり、魔力が霧散した気配がする。同時に身を打ち続けていた氷柱の嵐が止み、目を開けてみれば全ての氷柱が水になって地面を軽く濡らしていた。
「―――出たわ。アーチェ、あれが恐らく、この森一帯に放たれていた魔物の本体」
「ガキの方じゃねーの?」
「分離して分かった。あっちが魔物で、男の子のほうは人間みたい」
「ならガキは救出か?」
「いえ―――契約が結ばれてる。両方殺すわ」
「チッ、気分わりーなぁ! おらぁ!」
ギャル......アーチェと呼ばれた長大な剣を振り回す女は、その刃を遠慮なく振り回し、ボクの身体を正面から狙う。
動きは分かりやすいが、凄まじい速さで引き戻され、二の太刀、三の太刀が飛来する。恐らく受け止められないそれが高速で振られ続ける中、ボクは反撃の糸口がないままに徐々に後退する。だが避ける選択をすれば待っているのは氷の嵐だ。
少し離れて顕現したノクトレアが氷の魔術の出がけを全て潰そうとしている中で、それでも飛んでくる氷はディーネの魔術行使速度がノクトレアより上だという事だ。目を含めた急所に当たり、致命傷になりそうなものはノーチェが影で防いでくれるがボクの経験ではこのまま防戦で耐えきれるのか、攻めなければいけないのかが分からない。
ダメだ、2人を同時に相手するのはチカラも経験も足りない。かといって、明らかなピンチで眷属たちが見当たらないということは、先に眷属の方を対処されたという事。全員と繋がっている契約を元にした僅かな魔力のパスが彼女たちが無事であることを知らせているが、戦いに近寄れない程度には困っているか、負傷しているのだろう。
「坊や、影の世界で二対一にしましょう♡」
「! ノーチェ、魔女の方だ!」
咄嗟の機転。ノーチェがボクを襲った時のような黒い靄が広がり、やがて喧騒が消え、ノクトレアとアーチェの気配が感じられなくなる。
対面するのは眉間に皺を寄せたディーネと、ボクと、ボクの背後にシルエット体で出現し、付き従うノーチェ。
「これは報告にあった怪異型魔物の―――そう、なら『極聖砲』」
驚いたような言葉を発しつつも、即座に光の魔術を行使したディーネのそれは、直径がボクの身長より幅広い光線で、黒い靄を祓い、避けようとしたノーチェを襲った。
ノーチェの動きは遅い。その弱点にモロに刺さってしまった光線は、その身を大きく削り取る。
「......影に戻った。世界はそのまま。聖術の直撃で生きているなんて、思ったよりタフな怪異」
「一撃でノーチェが。それにさっきから詠唱も無い」
どうするか。
明らかにボクの手に余る存在だ。リーナ達を知っている風な様子から、もしかすると彼女たちが姿を見せなかった4人目と5人目のクランメンバーだろうか。だとすれば、片方は確実にA級。最高峰の冒険者で、最強格の魔物を狩る英傑ということになる。
状況はすこぶる悪い。しかし不本意だが、ボクには勝ち筋というより、逃げ筋が存在した。プライドはそれを許したくないが、この影の世界を使った時点で考えていた最後の手段だ。
そのためには、時間が必要だった。
「ディーネさん、どうしてボクを襲うんですか」
「時間稼ぎは嫌い」
再び放たれるアイシクルバースト。取り付く島もない。時間を稼ぐには戦うしかないようだ。散弾を横っ飛びに回避し、そのまま走り出す。
これを連打されるだけなら逃げ切れる、スタミナには自信がある。
「子供なのに身体が強いのは分かった。でも、魔物の援護無しに逃げ切れるというのは、甘く見ている」
「!」
動かしていた脚が急に停止する。
見れば、踏んだ地面には魔術陣が設置されていて、そこを踏んだ足裏から急速に氷が這い上り、鎧のように体表を覆って固定しつつあった。
踏み出せない。全力で力を入れても、脚は動かず、太ももまで氷に覆われてもはやまともに動けなくなってしまう。
「―――潰えろ、『フリーズ』―――」
飛来する巨大な氷塊を前に、ノーチェがボクを守ろうと崩れかけの影のまま前に立ち塞がる。それを制止するために、咄嗟に手を伸ばしたところへ......ようやく、ソレが来た。
黒い靄の世界が強大な光の刃に切断され、ノーチェが瞬時に姿を隠して気配を消す。現れたのは、全身を白い服で護る純白の麗人。
セラフィエットの到着だ。
「少年、大丈夫。もう大丈夫だ......これはどういう状況なのかなディーネ=プレヤデス。アーチェ。少年は君たちのクランの客人だったはずだが」
「なにぃ? こんなガキのD級に聖女が加勢してくるってのはどういうことだ?」
「......私たちはその子と契約で結び付いた魔物が街で暗躍している事を察知した。だから殺しに来た」
「少年も殺そうとしていなかったか?」
「契約者を殺せば、契約された魔物は死ぬ。逆も然り、ならばどちらを狙っても同じ」
「噂通りの冷たさだね、『氷心』ディーネ......でもこの少年はダメだ。私が与かる」
無言の睨み合いが続く。
ノクトレアの姿は見えないが、ボクの元にも戻ってきていない。靄が消えた瞬間はあのギャル冒険者のアーチェと戦っていたから、恐らくは上手く隠れたのだろう。セラフィエットにも見えていたと思うが、彼女はそちらには何も言及しなかった。あの日の誤認が続いていれば、セラフィエットにとってはノクトレアこそが影女。影世界の切断と共にまた逃げたと思ったのだろうか。
いい誤解の連鎖だ。あとは、無事ここを離れて撤退できれば。
「―――退く。アーチェ、久しぶりにクランハウスに戻って、皆の様子を確認する」
「おっけー。まぁ、あーしは聖女教会が上手くやるんなら正直それでもいいよ。出来れば殺したくないしなー」
「......いこう。少年。一旦教会に行って、色々検査しよう」
「......分かりました。セラフィエットさん。あと、ありがとうございました」
ボクの感謝になぜかセラフィエットは面白そうに笑う。
「本当に、少年。君は、なんというか、ふふっ、男の子だな」
「?」
「顔に書いてある。自分のチカラで勝利して終わりたかったと。でもまぁ、今はただ、生き延びたことを喜ぶべきだね。私と一緒に」