・アーチェ
アルフを襲ったB級冒険者。
長大な剣を振り回すパワータイプの剣士。
比較的小さめの体躯をした少女だが、活発そうなその顔。ちらりと覗く八重歯。褐色気味の肌。
早い話が褐色ギャルで、光のギャル......のように見える。
「ディーネ......なぁ、もういいだろ......?」
「だめ。アーチェ、もっとイカせてあげる―――」
ぬちゅり、ぬちゅり、とディーネの女陰が、あーしの女陰と擦れ合ってクリトリスからぴくぴくと優しい快感が襲ってくる。
びくんっ、とあーしの肉体が跳ね、ディーネはそれに微笑みながら乳首を口で啄んだ。
気持ちいい。ディーネと恋人になってから、忙しい依頼の間を縫って時折こうして身体を重ねていると、幸せを感じる。
ディーネはかっこいい。冷たい瞳も、少ない口数も、
あーしはもっと強く、カッコよくなりたくて、憧れて、ディーネと組んだ。組めるところまで努力した。
組んでからしばらくして、リーナとコユキ、エレクシアが集って、あーし達は一個の冒険者クランになり、名声を上げ続けた。
そんな最中で、あーしはディーネに襲われた。
ディーネは自分を慕う女に弱いらしく、そして女相手に欲情出来るレズだった。
あーしは多分、最初はそうじゃなかったと思う。でも、何度か身体を求められるうちに、あーしという存在を求めてくれる事に凄い快感を得るようになって、凄い幸せだった。
強がりで構成されたあーしは、強いディーネに庇護されることに、何より安心を感じたんだ。
でも。
最近、疼くんだ。
ディーネじゃ届かない、身体の奥。
密かに使ってみた玩具でもダメだった。
たまたま視えちまった、犯罪組織の運営する違法奴隷娼館で見た雄のアレ。
アレが、頭の片隅から離れない。
あーしは......わたしは......強い奴に、抱かれてみたい。
いつの間にか、そんな、恋人のディーネを裏切るような考えが生まれてしまって、それ以来、実はちゃんとイケてないんだ。
「......驚いたぜ。お前のほうから来るなんてよ」
「話してみたかったんだ。急に襲われただけだったし」
悶々とした日。
ディーネがリーナ達に精密検査するとかで、1日完全に空いたあーしは酒場に来ていた。
エレクシアが言っていた荒くれ者ばかりの酒場だ。店主はクズだけど、料理が美味くてお気に入りなのだという。普通は女が来るところじゃないけど、あーしらに手を出せる奴なんていないし、いてもどうとでもなる。いつもの大剣は持ち込まないけれど、あーしは剣以外何も出来ないわけじゃない。B級は伊達じゃないから。
そうしたら、アイツが来た。
ディーネが異常な魔物と契約していると見破った、あの少年が。
「ディーネに見つかったら街中だろうと殺されちまうぞお前」
「逆にアーチェさんはそうしないんだね」
「そりゃお前......言ったろ。子供相手に殺しなんて趣味じゃねーんだ。やらなくていいならやらねぇ。まだ疑いだしな」
「そう思うのに襲って来たんだね」
「ディーネがやるって言ったしな、あいつ容赦ねぇし......あーしは......いや何でもねぇ」
ディーネに嫌われたくないから。
そんな言葉を飲み込んで、誤魔化すように酒を飲む。
よくない。そう思った。弱いあーしが出そうで、そのいつもの弱気に腹が立つ。
あーしは強い、強いから、強いディーネと一緒にいられるんだ。嫌な事でもやるし、敗ける事も許されない。危険は先に潰して、罪は避ける。清らかな身こそがディーネにも相応しいだろう。もしディーネに嫌われるような事をして、ディーネと恋人じゃなくなったら―――
ディーネは冒険者として、クランメンバーとしてのあーしを捨てたりはしないだろう。彼女は優しい。冷たいように見えて、仲間の事は誰よりも熱く想っている。例え破局してもそれで追放したりしない事は信頼以上に理解している。
でもだめだ。ディーネの庇護下にいるっていうのはあーしの誇りであり、あーしの根幹なんだ。
なんだろう、凄く、思考が後ろ向きだ。やっぱり、あの悩みが生まれてからあーしは余計に弱くなってしまった。
「......アーチェさん、飲みすぎてますよ」
「あ? 大丈夫だよ、心配すんな......それより、お前、魔物と契約してんのは本当なのかよ」
「はい。まぁ一方的に憑いてきてるような感じではありますが」
「......なんでそうなったんだ?」
話題を変える。
あーしは正直、このアルフとかいう子供に大した興味はない。でも、子供は弱い、弱い子供を守るのは強い者の役目だ。
わざわざ会いに来たんだ、この子は何か話に来た。それは間違いない―――だから、聴いてみようと冒険者のあーしが囁く。
その先に、何か......言い様もない何かをうっすらと感じて、直感を信じて話を続けることにした。
「ボクは出身が―――」
そうして聞いた話は、なんとも信じがたい話だった。
沈黙の森、あーしらがそう呼ぶ森の奥に村があって、そこは淫魔に家畜化された人間たちの牧場になっていた。
しかし、家畜の一匹でしかなかったこの子は、皆と切磋琢磨して邪神を打倒。逆に邪神から仕えられるようになってしまう。
志が高い、心が強い、そして彼を支えた周囲の村人、守り続けた母親、家族、最後には彼自身の体力もあるだろう。
羨ましい程に、彼は強い子供だった。いや、子供というには余りに、大きな人間だったのだ。
嘘かとも思ったが、嘘じゃないのは分かった。
語る口が、その顔が、嘘をついてる奴のソレじゃない。どこか誇らし気で、受けてきた愛情を受け止めきっている男の顔で、敵を平らげて来た戦士の顔で。
「すごいね......」
つい、言葉が漏れていた。取り繕う事も出来ない本心。
あーしも、彼のような強い人間になりたくて色々やってきたのだから、よく分かる。
共感してしまったらもう敵には見えなかった。ただ、一つ疑問もあった。
「でもよ、あーしから見てお前はせいぜいC級......カラダは強そうだし、子供にしちゃぁそりゃ強いけどさぁ。邪神を倒せるようには見えないぞ? ていうか今、その邪神はいないのか?」
「邪神はいつもは憑いてるんだけど、あの戦いからここ数日いなくて......療養してるのかも、わかんないけど」
「ふーん。で、どうなんだよ。どうやって倒したんだ?」
「......言いにくいです」
「んだよ、いいじゃん。教えてくれよ」
「違うんです。周りの耳があると、言いにくいんです」
なんだろう、と興味をそそられた。
全うな倒し方、つまりは拳や剣で正面からっていうわけにはいかなかったのは分かる。武術も魔術も伝わっていなかったというから、それじゃ自称だろうが神は倒せないだろう。なら、何か、智謀か、群力か、賭けか、何かしらがあったのだ。
あーしは既にちょっとこの子のファンだ。その強さの秘密を知りたい、そう思う心があるし、戦士として同調して、年下の子供に少し憧れすら感じている。
ディーネ相手とはまた違った感覚だ。今までも強い人間はたくさん見てきたけれど、あーしが自分とどこか重ねて見てしまう境遇、努力の過程、そういうのを持っているのは初めてだった。
「......そういや、ここの地下ってなんかあるんだよな。プライベートルームみたいのが」
「清潔だけど、密室ですよ」
「別にいいって。あーしと二人は怖いか?」
「アーチェさんこそ、大丈夫ですか? もしかしたら地下室で邪神が待ち伏せしてるかもしれませんよ」
「大丈夫だって。あーし、お前の事はもう悪い奴とは思ってねぇよ。まぁ邪神云々とかは直接戦闘担当のあーしじゃどうにもならねぇけど、話相手ぐらいにはなってやるからさ。ディーネが殺すって言っても止めてやるって」
魔物が何か悪さしていれば投獄は免れないかもな、とチクリと罪悪感が胸を刺したが、あーしの意見ならディーネだって聴いてくれる。クランメンバーも、良い人ばかりだから子供を処刑しろとは言わないだろう。
そうして、酒場のマスターから鍵を受け取り、あーしはアルフと一緒に地下室へと入って言った。
地下室はあんな酒場からは想像もつかない綺麗な部屋だった。ベッドがあり、椅子があり、机があり、狭いけど照明も薄暗く、でも陰りがなくて清潔だ。
「へ~ぇ、面白い部屋だな。ちょっと高かったけど」
「それで、本当に聴くんですか? ボクが邪神を倒した方法」
「なんだよ、勿体ぶるなって。別に卑怯な手でも軽蔑したりはしないからさ。神を倒す大変さは分かるつもり......ってきゃぁっ!? 何してるの!?」
ぱさり、と音がしたので、部屋の観察をしていた目を戻して見てみれば、アルフが服を脱いでいた。
「アーチェさん、これなんです。これで勝ったんです」
「こ、これって......んんっ。あー、あーしが見るにだ、その......下半身で、ってことか?」
「邪神には戦闘で勝てる見込みはありませんでした。だから、奇跡に懸けて、そして勝ったんです」
「ま、マジか......性行為で神を堕としたって歌にも聴いたことないぞ......」
ちらり、と意識して目を背けていた部分を見る。
根元から先端まで、一切の弛みなく硬化し尽くした男性器だ。
僅かに脈動しているそれがビクビクと動くたび、ズシリとした重みを感じさせる睾丸が中で子種を蓄え、今にも吐き出そうと準備しているのが嫌でも理解させられる。
亀頭の割れ目は今にも弾けんばかりに開き、いやらしい先走汁が漏れてギラギラと光っているし、竿に浮き出る血管はどんな筋骨隆々のマッチョ冒険者の剛腕よりも強靭だ。
色も凄い。赤黒く、綺麗な身体をしているアルフの全身からそこだけが異様で、気付けばその臭いが部屋を支配している。この臭いがまた、凄く......凄く雄らしい。
全てが凄まじい。あーしが見たことのあるそれは、ディーネとの秘め事のために読んだ色本のそれか、変態犯罪者や畜生貴族の行為中に踏み込んだ強襲の時のものだけだ。特に後者は誰も彼も女を穢そうとする嫌な感じしかしなかったし、魅力など当然無かった。
あれが、邪神を倒した男性器かと、結局まじまじと見てしまい、咄嗟に恥ずかしくなって目を逸らす。
あんなものが入ってきたら、一体どうなってしまうのか――
予感は、予感で終えるには余りに、余りにあーしの心に深く突き刺さっていた。
「お、男のって......そんなすごい見た目のも......あるんだな......」
「? あんまり経験が無いんですか?」
「いや、経験ないっていうか......あーし、男とエッチしたことないし」
顔を隠したまま、妙に素直に自白してしまったあーしは余計に顔が赤くなるのを感じる。
アルフは笑ってないだろうか。年上の、こんな荒っぽさを出してる女がレズセックス以外に未経験なんて。
なんだか、この男に嫌われるのは嫌だった。
「......やってみます?」
「は? はぁ!? そ、そんなことしたら浮気だろ!」
「え? でも男と経験が無いってことは......もしかして付き合いたてとか」
「ち、違うんだよ......あーし、ディーネと恋人なんだ。裏切れねぇって......そういう事だよ」
違う。
違うだろう、男性器なんて興味が無いと、汚らしいと、そう突っぱねるべきだろう。
なんだ、裏切れねぇ、なんて。裏切りじゃなければ欲しいみたいじゃないか。
あーしは......あーしはこの男にも、ディーネと同じような、自分を守ってくれる存在としての格を感じてしまったのか? まともに話したのは今日、この僅かな時間だけで、ディーネみたいにあーしを倒せる実力者でもないっていうのに。
「―――じゃあ、触るだけでどうですか」
「え?」
「ボク、この事を話したのはアーチェさんが初めてなんです。それは、話しても信じてもらえないだろうっていうのもあったし、その、特訓のせいでこうしてすぐ勃起してしまうようになったんです。見せたらそれこそ捕まりそうで」
感じた、アルフの嘘。
違う、この男、今何か嘘があった。多分、勃起してしまうのは特訓のせいじゃない。アルフのやつ、ただあーしで興奮しただけだ。
あーしで......あーしでこの男性器が大きくなったんだ......
......可哀そうか、このまま、彼を放置するのは。あーしはアルフを罪人だと思って無いから衛兵に突き出す気も無い。なら、一般的な、普通の経験ついで、男が所詮ディーネみたいな強い奴に及ばないと理解するのもいいか。
触るだけだし、うっかり現場に踏み込んで見ちゃったのと同じ、うっかり、仕方なく触っちゃうだけだ。
手を伸ばす。
どう触れていいか分からなくて、とりあえず指先で先端に触れてみる。
触れた瞬間、あーしの脳裏にパチリと火花が散ったような衝撃が走った。
「―――っ!?」
熱い。いや、熱いなんて生易しいものじゃない。まるで鍛冶屋の炉から取り出したばかりの鉄塊のようで、それでいて生き物としての悍ましいほどの脈動が、指の腹を通じてあーしの心臓にまで直接ドクドクと伝わってくる。
ディーネの、あの滑らかで、どこかひんやりとした、だけど愛おしい肌の感触とは何もかもが違っていた。
これが、雄か。これが、アルフか。
声にならない吐息が漏れる。触るだけ、ほんの一瞬、確かめるだけのはずだった。なのに、指先が吸い付いたように離れない。
アルフは拒む風でもなく、ただじっとあーしを見つめている。その瞳は子供のそれというにはあまりに深く、あーしの揺れる芯を見透かしているようで、全身の血が逆流するほど恥ずかしい。でも、それ以上に......ぞくぞくと背筋を駆け上がるような感覚に、あーしの膝が小さく震えた。
「......っ! お前が、変なモノ触らせるからだろ……!」
アルフは何も言っていないのに、変な言い訳のような言葉が出る。
声は完全に上擦っていて、みっともない。でも、ここで止めるつもりにはならなかった。
続ける。
震える手で、恐る恐る握り込んでみる。あーしの手ではとてもじゃないけれど包み込みきれない。圧倒的な硬さと、皮膜の下でうごめく太い血管の感触。これが邪神を倒したというチカラそのものなのだと理解する。
強さを感じる。そして何より、明確な......この男性器というものを通じて、アルフに対する好意を感じる。
頭の片隅で、冷徹なディーネの瞳がこちらを見下ろしているような幻影が見えた。裏切りだ。間違いなくこれは、あの人を、あーしを護ってくれて来たあの人を裏切る行為だ。
だけど。
一度火がついてしまった身体の奥の疼きは、もう指先を動かすだけで、あーしの秘部をじわリと熱い愛液で濡らしていく。玩具でも、ディーネの優しい指先でも届かなかった、もっと奥の、あーしを完全にめちゃくちゃにしてくれるような強固な存在が、今、目の前にある。
ディーネでは満たせない部分を満たしてくれそうな男だ。
あーしが為せていない、弱いながら強き者を挫いた男だ。
努力と才能で鍛え上げた、強い男だ。
魔物を、あの対峙した淫魔を、敵すらも従える男。
そして......女を―――従える男か。
「アーチェさん」
アルフがそっと、あーしの手の上に小さな、なのに大きく感じる男の手を重ねてきた。
子供だと思っていた彼の体温が、あーしの逃げ場を無くすように包み込んでいく。
「触るだけって言いましたけど......本当に、それだけで満足できますか?」
その問いかけは、悪魔の囁きよりも深く、あーしの脆い防壁を粉々に打ち砕いていった。