「あぁ……アーチェ……アーチェ、可愛い。気持ちいいね……♡」
「う、うん。ディーネ。私も気持ちいいよ」
――ある高級宿の、ある特別な防音部屋。
広く清潔なベッドの上で絡み合うのは、褐色ギャルなアーチェと、不愛想魔女のディーネだった。
全裸でぬちぬちとそのマンコ同士を擦り合わせる二人……しかし、どこか、濡れ具合が足りない。
原因はアーチェだった。アーチェは、いつもなら庇護される弱い恋人だったはずなのに、どうにも様子がおかしく、どこか心ここにあらず、何か別の事を思い浮かべているような、そんな気さえする。
「……何か、気になる事でもあるの。アーチェ」
「あ、いやぁ……あはは、ごめん。ディーネ。ちょっと、外に出て来る。適当に依頼でもやって、気分転換してくるよ」
「あっ――アー……チェ……」
服を着て、そそくさと宿を出ていった恋人の姿に、ディーネは一抹の不安を覚える。
アーチェは弱い。護ってあげないと、風に吹かれて壊れてしまいそうな脆さが彼女にはある。
虚勢で身に着けたあのギャルの仮面も、本来はほとんど正反対の性格だ。いつ剥がれて、その弱みに付け込まれるか分からない。
実力はあるのだ。ただ、本人が、過去の経験から自分を信じ切れず、常に誰かに護られることを期待しているのだ。その弱さは愛おしいが、同時に心配が尽きない。そう思ったディーネは、自身も服を着て装備を整え、外に出る。
「……追いかけよう」
何処へ行ったかは分からないが、ディーネには魔術がある。
仲間たち同士で使える追跡の魔術は逸れた時の対策だったが、今はこれに頼るべきだろう。
そうして、ディーネが辿り着いたのは、沈黙の森の中だった。
※ ※ ※
影に覆われた森の中。
すぐに気が付いた。この影はあのアルフという少年に付き従っていた魔物のチカラ。外界と自分を遮断する檻だと。
そして、当然。その黒い靄の中から姿を現したのはアルフと――アーチェだった。
「! アーチェ!」
「動かないでください、ディーネさん」
「うぅ……ごめん、ディーネ……捕まった……」
人質。
頭の芯まで怒りが込み上げるが、心は冷静なままに、状況を分析する。
あの少年は肉体が強いが、純粋な戦いとなれば私が勝つ。それは向こうも分かっているのだろう。だから卑怯な手を使った。
アーチェは……怪我はない。ただ、武器も無く、奴隷のような穴が開いただけの麻布を着せられていて、あのままでは何をさせられるか分かったものではない。
どうする。
人質を取られた経験は初めてではないが、仲間は、恋人は初めてだ。どうでもいい相手なら怪我させてでも敵ごと打ち抜いてきたし、仲間がいればリーナが敵だけを敵よりも早く撃ち抜くから心配いらなかった。だが、今は私一人。私だけでどうにかする必要がある。
魔術は武術に比べて予備動作が大きい。遅さはこの場においては致命傷だ。
――いや? おかしい。
アーチェが捕まる?
無傷で、それはあり得るのだろうか。
いや、あり得ないだろう。怪我させられてなら分かる。アーチェは単騎では強力な大剣使いに過ぎない。その過ぎない……というレベルが高すぎて大半の相手は薙ぎ倒せるわけだが、搦め手に対して余り強くないのは事実だ。であれば、罠にハメられたとしよう。
しかしだ。その後、行動不能なほどの怪我や呪縛が無いのであれば大人しく捕まっているというのはあり得ないだろう。あるとすれば、あのアルフという子供の身体能力が、アーチェの身体能力を圧倒的に上回っているということ。もしくは――
あれが、アーチェじゃない、ということ。
「『アイシクルバースト』」
影の世界で、影の化け物が姿を見せない。
それも踏まえれば、あれが化け物がアーチェの姿に変化しているという可能性は高い。
最悪、この魔術ならアーチェ本人だったとしても殺すことは無い――そう判断し、撃ち込んだ。
「っ! ディーネ……っアルフ!」
「っ……まさか、本当に撃つなんて思わなかったよ」
「……まさか、本物だというの?」
どういうことだ。
アーチェが本物だった……読み違えた、これは反省だ。
ただ、アルフがアーチェを庇った? 人質だったのに?
訳が分からないまま、思考が停止する。その瞬間、私の背後から無数の黒い糸が伸びてきて、全身を縛り上げた。
杖が手から離れる。身動きが、取れない……!
『坊や、大丈夫かしら』
「大丈夫だよノーチェ……自分でも驚くほど、強くなってる。それより、怪我は無いよね、アーチェ……いや、ベアトリーチェ姫」
「大丈夫だって、それよりお前が――んっ♡」
「なっ、アーチェ!?」
「んちゅ……ちょっ……戦闘中に――♡ しょうがないな……もう……んぢゅ……♡」
混乱がますます大きくなる。
なんだ? 何が起きている。
幻術とか、幻覚の類か?
アーチェが、アルフと、キスをしている? しかも嬉しそうに、舌を絡めて……ベアトリーチェ? なぜその名前をアルフが知っている?
話したのか。自分のルーツを、獣の国の第三王女ベアトリーチェとしての過去を。私にしか……私とだけのヒミツだと言っていたのに!!!
一体、一体何があったというのか。
「ん……ごめん、ディーネ。でもさ、ディーネも悪いんだよ」
「な……え……? わた……わたし……悪い……なにが……?」
「あーしの事をさ、ちゃんと守り切ってくれないから、アルフみたいな強い男に取られるんだよ」
「は……取られ……なんで……?」
意味が分からない。何年も一緒にやってきた。恋人として、仲間として、いつも一緒にやってきた。なのに、なんで、なんで出会ったばかりの、しかもそんな男とも呼べないような可愛らしい容姿の子供を相手に、なんで。
「アルフはさ、つえーんだ。すげぇつええ。戦闘はまだまだ成長途中って感じだけど、努力も逆境も知ってるし、一人じゃなくて群れとしても強いから安心だ。ディーネはさ、才能が凄くて、あーしじゃ理解できないような事もたくさんあって……正直、理解できないって意味で、なんか、寂しいっていうかさ、釣り合うなんて最初っから思っちゃいなかったけど、その距離が……ありすぎたんだ」
「わ、私。アーチェのこと、かんがえて、いつも」
「分かってる。だからディーネのことを嫌いになったとかじゃないんだ。それは本当……でも、あーし弱くて、クズだから。もっと強くて好きな奴が出来ちゃったんだ……」
自分を卑下するアーチェが、再びアルフにキスをする。
その手は媚びるように胸元へ這わされ、徐々に股間へと下りていく。
やめて。
アーチェが、男のそんな汚らわしいところに触れてしまう。
アーチェが、私の、彼女が。あんな魔物と契っているような男に。
「なあ、アルフ。キスしながらパコパコしよーぜ……♡ あーしのドロドロマンコ、なんか、すげーイイんだろ……? ほら、好きなオスにキスされて、求められて、もうとろとろだからさ……な? もう挿れちゃえよ……ぶぴっ、て、卑猥な音させながら元王族の落ちこぼれマンコにナマ中出ししちまえよ……♡」
「落ちこぼれなんかじゃない」
「ぇっ?」
「ボクが選んだメスだ。ボクのメスだ。キミは他人に縋るしかない雑魚女で、獣の国では相手を幸福にする女の意味っていうベアトリーチェの名前に相応しくないって言ってたけど……今のところ、淫魔も合わせたって、交尾中にボクを空っぽにして萎れさせたのはキミだけだ……だから、少なくとも、ボクのことは幸福にしてくれる……ボクを幸せに出来るなら、もうそれでいいんじゃない?」
「……アルフ♡」
アーチェ……いや、ベアトリーチェが頬を染めて、求愛する獣のように片足を上げ、アルフの股間に自分の股間を擦り付ける。
「アーチェ……だめ……そんな……」
「ディーネ、ごめん」
「あ……あぁ……」
濡れている。
ベアトリーチェが擦り付けた部分が、愛液で。
どうしてそんな、男なんて……
クランハウスに戻った時、リーナやコユキ、エレクシアの様子に変化は無かった。
魔物の痕跡は無く、魔術の痕跡も無い、皆、全くの健康体。
でもまさか、彼女が、恋人のベアトリーチェがヤられていたなんて。
脳に経験の無い揺れのような感覚が押し寄せる。視界がぐらぐらして、大人っぽくてかっこいいと彼女が言ってくれた髪も、瞳も、高い身長も、彼女がディーネなら似合うと買ってくれたカラダのラインがハッキリ出る王都のモデルローブも、全てが淡く夢のように消えてしまいそうで。
浅くなる呼吸と共に、自分で自分を抱き締めると、奇妙に冷たく、寒く感じた。
怒りがある。だが、誰にぶつけろというのか。
恋人が好きな男が憎い。でも、その男を攻撃すれば、恋人が悲しむ。それは、あの顔を見れば分かる。それに、もしそうした事で――ベアトリーチェが反撃してきたら、私は耐えられるだろうか。
無理だ。今度こそ壊れてしまう。俯き、地面を見る。心が、これ以上現実の直視を拒んでいる。
『――だめよ、元恋人の新しい旅路を応援しなきゃ』
「っ――貴様ァッ……淫魔ァ!!!」
『怖い怖い。そんな声も出るのか――ほら、見えるか?』
ぐいっ、と背後からする声の主が、手を私の顎に添えて、無理やり顔を上げさせる。
そこにはズボンを脱がせて露出させた巨大な陰茎を嬉しそうに下着を抜いて露出させた自分の秘裂に宛がうベアトリーチェがいた。
『あの娘の中、どういう構造なのか……気になるのう。娘を殺すなら手伝ってやろうか? 妾が試行錯誤した膣内でも主様を搾り切るなど出来なかったというのに』
「やめろ……!」
『全く驚いたわ。後から聴いてみれば、その膣だけで愚直に奉仕して、技術らしい技術も無しにあの無制限と思っていた主様の精の製造を上回る即ヌキ生ハメ連続中出し……まさか、天然であんな者がおるとは……』
即ヌキ生ハメ連続中出し。
淫魔が言う淫乱な言葉は、残念ながら意味が分かってしまった。
ベアトリーチェが、アルフの精液を、生で挿入して、何度も、中で、それを受け止めて。
さっき、宿で愛し合っていたと思っていたのに。
あれはもう、アルフによって、心が奪われた後だったのだ。
反応が悪いはずだ。気まずそうなはずだ。ベアトリーチェは私を嫌いになったわけじゃなくても、刺激ではとてもじゃないが勝てなかったというのだ。
何年も重ねた、恋人としての愛が、汚らわしい男との交わりに。
『ほら……入れようとして、あの子、慣れてないから何度もヌルって入り口で滑っちゃって、それでも健気に何度も挑戦して……』
「うっ……うっ~~~……ごめん、ごめんアルフ、すぐ挿れるから……んっ♡」
『主様は優しいの~……焦ってるメスに軽いキスをして、頭を撫でて。アレ、妾やってもらったことないんじゃが……なんかあのメス、新米のクセに可愛がられすぎではないか……うっ……頭が……』
まるで重力が増したような苦しさの中、ついに、ベアトリーチェの膣内にあの大きすぎる陰茎がずるり、と潜り込む。
「んんん……ぁぁあ……♡」
「くぅ――前より刺激が……強い……っ」
「えへへ♡ どうだアルフ♡ きもちいーだろ♡ よくわかんないけど、あーしのナカ、いいんだろ? ほら、ほら、こうしてぎゅーってしながら……立ったまま向き合って……あの日に躾けられたあーしのおまんこ♡ ちゃんと誰のモノか覚えてるからさ……アルフの形になってる気がするんだ♡」
『あーぁ……完全にメスじゃ。見えるか? クールを気取った魔女の娘よ。あっちの娘は、幸せになってるみたいじゃ……お主はどうなんじゃ?』
私?
この淫魔、この期に及んで、何を言うのか。
私は、お前たちのせいで、幸せを壊されたというのに。
『ディーネ=プレヤデス。貴族の冒険者。少し夢を見物させてもらっての……』
夢?
私の夢――夢なんて、もう長く見た覚えが無い。
いつの間に……いやそれより、何を見物したというのだろうか。
『おぬし、毎回同じ夢を見ておったな。余程嫌な記憶なのか、起きたら覚えてない様子ではあったが……やけに攻撃的て排他的な態度も、氷のような振る舞いも、恋人や仲間への依存具合も……色々と合点がいったわ』
淫魔が嗤っている。
何を見たんだと、問い質したりはしない。
私は、この淫魔が何を言いたいのか分かっているのだから。
嫌でも思い出される。出来るだけフタをした。あの記憶を――ここまでの、強がりを――