よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES 作:山上真
『自分の作品の文法やらについて』という題です。
興味があればご一読ください。
その日の放課後。
ホームルームが終わった直後、オレはもう一人の相手――椎名ひよりをハーレムに誘うために席を立った。
迅速に行動しなければならない。何せ、椎名は茶道部に入っているため、モタモタしていると部活動に行ってしまうからだ。
「椎名、少しいいか?」
そう、オレが椎名に声をかけた瞬間だった。ピタリと教室が静まり返る。
「はい?」
振り返った椎名は不思議そうに小首を傾げている。
「椎名にもオレのハーレムに加わってほしい」
朝方、帆波に対して行ったのと同様に最敬礼で頼み込む。
「あらあら、私もですか……? 困りましたね。困惑している一方で喜んでいる私がいます」
その言葉は本当なのだろう。椎名は片頬に手を当てながら首を傾げているが、その表情は笑みを浮かべている。
「芸がない質問になってしまいますが、どうして私を? 私は一之瀬さんのように
「その言葉を否定する気はない。オレが椎名を求めたのは、帆波とは全く別のベクトルによるものだ」
椎名の質問に、オレはそう前置きを返す。取り敢えず、そのことは認めてもらわなければならない。
「……聞きましょう」
椎名は頷いた。どうやら理由を聞いてくれるらしい。
「今朝がた帆波に伝えたことから分かると思うが、オレは少々過去が特殊だ。そんな中での唯一の趣味が読書――奇を衒わずに言えば『知識の収集』と言っていいだろう。おそらく、最初は課題をこなす上で必要に駆られてのことだとは思うが、正直に言えば覚えていない。
重要なのは、『知識の収集』が趣味ではあるものの、その収集した知識の
オレはその過去故にいろんなモノに対する興味関心が人より強いわけだが、強過ぎるが故に
一般的な生活を送る上で、それは流石に勿体ない。なので、オレ自身の願望や欲望と結び付ける形で、どうにかこうにか
端的に言おう。椎名、手始めにオレに縛られてくれ」
「……は?」
コテン。
椎名の首が、更に傾きを増した。
「……こほん。まあ、驚きはしましたが、綾小路くんの言わんとするところは理解できたと思います」
暫しの後。
体勢を立て直した椎名は、咳ばらいをしてそう言った。
「いわゆる、『収集した知識の実践』が、『学術的欲求』や『美術的欲求』と結び付いてしまったわけですね? それが新たな『知識の収集』になると……」
「端的に言えばそうなる」
「私も大概『本の虫』ですからね。自然、そういう部分は持ってますし理解できないわけでもありません。
推理小説における犯人の動機・思考・振る舞いなどがいい例でしょう。尤もらしい説明がされており、実際に一定の筋が通るのは確かです。――ですが、その一方で疑問がよぎるのも確かなのです。『本当に?』……と。
無論、疑問に思ったからといって確かめることなんて出来ませんけどね。実行すれば、大凡『犯罪』と結び付いてしまいますので……」
実に残念そうに椎名は言った。
「そして、そういったものは何も推理小説だけに当て嵌まるわけではありません。理論上、何であれ当て嵌まるのです。サッカーのコミックを読んでサッカーの楽しさに惹かれた人間が、実際にサッカーを始める。こんなのは特段に珍しいことではないでしょう。
まあ、サッカーであれば『健全』と言えましょうが、中には『健全』とは言えない事柄だってあります。綾小路くんが言った『縛り』――『拘束』、『緊縛』と呼ばれるそれらは特にそうでしょう。相手の同意なしに無理矢理行えば、それこそ『犯罪』と捉えられても文句は言えません。
ですがその一方で、相手の同意さえあるならば『犯罪』と言えないのも確かなわけです。でなければ、俗に『SM』と呼ばれる行為が一大ジャンルを形成してはいませんよ。
皆さんがパッと思いつきやすいのは映像作品――『AV』の方でしょうけども、小説にだってそれらを題材にしたものは沢山あります。なんなら、既に死去しておりますが、『責め絵』を得意とし『日本緊縛の祖』と謳われているというとある日本の画家は、その功績を認められて『出版美術連盟賞』を受賞してもいます。
そういう事実があることを鑑みれば、ただ『縛り』というだけで忌避感を示すのは『愚の骨頂』と言えるでしょうね」
まるでクラスメイトに言い聞かせるように、椎名はそう言った。
そう、とかく『常識』というものが、『技術』や『文化』の発展を妨げることは往々にしてあるのだ。『犯罪の抑止』だの何だのと、そういう観点から見れば『仕方ない』と理解を示しはしても、それによって歯噛みを余儀なくされている層が一定数存在するのは間違いない。
「しかし、凄いですね綾小路くんは……。今の世の中、思っても中々口に出しては言えませんよ。それを、真っ向切って『縛られてくれ』と言ってくるとは……。しかも、
フフ、これを受け入れた場合、果たして私はどこまで行ってしまうんでしょうかね……? それは紛うことなき恐怖であり、その一方で興味があるのも確かです」
微笑を浮かべたまま、椎名はそんなことを言う。
そう、『両者間の合意』があることを盾にして行為がエスカレートしていった場合、果たしてどこまで行ってしまうのかはオレにも想像が付かない。――だからこそ、興味があるのは間違いない。
その一方で、そうと知った上で
そんな中で、例外的に受け入れてくれるだろう存在として、オレは椎名に白羽の矢を立てた。
「ですがそうですね。私だけが綾小路くんの行為を受け入れるのは不公平だとは思いませんか?」
「尤もな意見だな。――そして、そんな反応を返してくると思ったからこそ、オレはお前に声をかけたんだ」
「フフ……。まあ、実際に合意を結ぶ前に、決して侵してはならない『一線』は決めておくべきでしょうね。――そこについては後々、余人を交えないところでゆっくりとお話しましょうか。流石に表立って話せることではありませんからね」
「異存はない。今はそちらが前向きに受け止めてくれただけで十分だ」
「では、そういうことで。私は部活に行かせてもらいますね」
「ああ、またな」
オレは教室を出て部活に向かう椎名を見送った。
「異議ありです!」
そんなオレに対し、教室内に響き渡るかのような大声で異を唱えたのは白波だった。
「そうね。ここは私も千尋に便乗させてもらおうかしら」
そして、櫛田までもがそれに乗っかった。
「いや、いきなりそんなことを言われてもな……。椎名の方は、おそらく朝に帆波をハーレムに誘って、今また椎名をハーレムに誘ったオレの『節操のなさ』に対するものだとは思うが……」
「はい、その通りです! 私だって、帆波ちゃんのことが一人の人間として好きなんですよ! だけど、『常識の壁』やら『世間体』やら、果ては綾小路くんの境遇やらが重なった結果、泣く泣く諦めようとしたのに……。
それがなんですか、この有様は! こんなんじゃあ、私、帆波ちゃんのことを諦めきれませんよ!」
白波は本当に帆波のことが好きなのだろう。涙混じりにオレへと訴える。
まあ、同性同士の恋愛はな……。おおらかに、そして前向きに受け止める動きは世界的に出てきているが、その一方で、その根底にはどうしたって『子供が出来ない』という事実が付き纏う。その一点で以て『不健全』の誹りを受けるのは免れない。
それを思えば、白波が尻込みするのも不思議はない。
或いは、実際に行動に移す前にオレが帆波をハーレムに誘い、帆波がそれを受け入れてしまったから、自分の想いに蓋をすることを選択したのかもしれない。
何せ、自分だけでなく相手にも同様の障害を与えることになるんだからな。そう考えれば、思いやりのある人物ほど相手を慮って中々行動には移せないだろう。
「なら、諦めなければいいだろう」
「……え?」
「はっきり言うぞ、白波。お前のその思考は『逃げ』だ。お前が本当に帆波のことが好きならば、愛しているならば、『常識』だの『世間体』だのは蹴り飛ばしてしまえ。オレのことも、帆波のことだって気にするな。自分の想いで帆波の想いを染めてしまえば、結局は合法だ。帆波をオレから奪うことでオレの報復を恐れるならば、報復されない方法を見出せばいい。
優先順位を付けて思考を巡らせれば、どこかしらに妥協点は見付かる――かもしれない」
「そこは断言しないんですか……」
オレの言葉に、白波は呆れ顔で返した。
「少し考えさせてください」
そして、そう言って瞑目した。おそらくは妥協点を探しているのだろう。……なお、当の帆波は置いてけぼりである。驚愕の表情で、オレと白波の間を顔が行ったり来たりしている。
その間にオレは櫛田へと向き直った。
「で、櫛田の方はどんな異議があるんだ?」
「はぁ……。分からない?」
「分からないから訊いている」
「本当に?」
「本当だ」
「アンタ、私のこともハーレムメンバーに考えたんでしょ? 何で声をかけないのよ?」
「いや、普通に成功確率が低かったからだが? お前のことだから、今の段階で誘っても受け入れはしないだろう? それとも、受け入れてくれたのか?」
「んなわけないじゃん」
オレの言葉に、櫛田は顔の前で手を振ってバッサリと切り捨てた。
「アンタの選択は確かに合理的ではある。――だけどね? 今回に限って言えば悪手とも言える。
何せ、私ってば『承認欲求の怪物』よ? そして、私がアンタのことを少なからず評価してるのは、アンタも分かってたことでしょうが。――にも拘らず、アンタは私に誘いをかけない。
それを受けた私のアンタに対する心証がどう変化するかなんて、考えなくても分かりきってるでしょうが……」
そのように説明してくれた櫛田は、分かりやすいように溜息を吐いた。
確かにそうだ。間違いなくオレに対する心証は低下するだろう。だが、どうせ成功する見込みがないのだから、オレはそのことを重視しなかった。
「いい? 人の感情ってのは厄介なものなの。コツコツとした日頃の積み重ねによって左右される部分が大きいのよ。
確かに、アンタの推測した通り、私がアンタの誘いに一発目から応える可能性は低い。ゼロと言ってもいい。――だけどね? それを承知の上でアンタが私に誘いをかけてきたのであれば、それは『アンタが私のことを高く評価している』ことの裏付けになる。当然、私のアンタに対する心証だって上がるでしょうが……」
再び溜め息。
言われてみればその通りだ。これでは溜息を吐かれても無理はあるまい。
「アンタは自分の能力に自信を持っている。高い能力を持っていることを自負している。それ故でしょうね。心のどっかでは『どうとでもなる』、『どうとでも出来る』と高を括ってんのよ。そして、それが行動に表れてる。
ちょっとした一手間で後々を楽にできるかもしれないのに、そこまで気を回さない。気を回せない。
アンタの経緯を鑑みれば理解はできるから今回は失点を付けないでおいてあげるけど、この社会で生きてこうってんなら本当に気を付けなさいよ?」
そう言って、櫛田は人差し指でオレの顔をつついた。
これは櫛田なりの忠告なのだろう。オレが櫛田を本当にハーレムに誘おうとするのなら、真摯に受け止めねばなるまい。
「綾小路くんに提案があります!」
そうこうしている内、白波も妥協点を探し終えたらしい。
「聞こうか」
「最初に確認ですが、綾小路くんがハーレムを形成するのは、将来的に『複数婚の樹立』に対する説得力を上げるためですね?」
「それだけが理由ではないが、まあ、そうだな」
「では、そこに条件付きでも構いませんので『同性婚の樹立』も加えてください」
白波は、真っ直ぐにオレの顔を見つめてそう言った。
思いもよらぬ提案に、オレは呆気に取られてしまった。
「ク、クク、ハハハハハ……! 面白い! 面白いぞ、白波!
普通に考えて、『同性婚』は『少子化対策』とは結び付かない。だって肝心の子供が生まれないんだからな! ――だが、そこに『複数婚』を絡めることで『新たな可能性』を見出すか!
ハーレムメンバー同士の婚姻。それが叶うならば、『同性婚』と『少子化対策』が結び付く。何故なら、同時に『異性間婚姻』も果たすことになるからだ。
考えたな、白波。余りにも突拍子がなさ過ぎて、さしものオレも想定外だった」
「綾小路くんが自分で言ったんですよ? 私のことも『ハーレムメンバーに考えている』と……。なら、あとはそこから一歩踏み出して考えるだけです!
そもそも、私にしてみれば『ハーレム』だの『複数婚』だのの時点で突拍子がないんですよ。だったら、そこに更なる『突拍子がない意見』を加えて何の不思議がありますか!」
「だがいいのか? それは、お前もまたオレのハーレムに加わることと同義だぞ? そして、そうまでしておきながら、必ずしも目的が叶う保証はない」
「元々、同性愛そのものがマイノリティーで、叶う可能性が低いことに違いはないんです! それを思えば十分過ぎるリターンです! 恋愛には夢ばっか見てもいられないんです!」
オレの忠告にも、白波は真っ直ぐな目を返したまま。
「いいだろう! 結ぶぞ、その契約を!
白波千尋、お前はオレのハーレムに加わり、その一員たる努力を欠かさないことだ。
さすれば、オレもまたお前の願い――『同性婚の樹立』を果たすために全力を掲げることを誓おう!」
「はい! ここに契約成立です! 私は、絶対に帆波ちゃんと添い遂げるんです! そう、たとえ悪魔――綾小路くんと契約をしてでも!」
なんだかノリがおかしかった気もするが、こうして千尋もオレのハーレムに加わったのだった。
幾分かの正当性を携えて、真っ直ぐに『問題行動』を突っ走るのが本作の綾小路です。
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