よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES 作:山上真
「やあ、綾小路くん。久しぶりだね」
そう言って清隆に声をかけてきたのは平田洋介だった。
今日は清隆、池、平田、恵、麻耶、千秋による『グループデート』なのである。
既に恵と平田のカレカノ関係が偽装であることは承知の上。であるならば、『キチンと平田にも説明した上で協力を願うべきではないか?』という話になるのは、ある意味で当然のことだった。
率直に言って、今回のグループデートはそのための隠れ蓑だった。
「軽井沢さんから聞いたけど、彼女たちに勉強を教えてあげてるんだって? 彼氏としては情けない話だけど、本当に助かってるよ」
「ああ。久しぶりだな、平田。気にする必要もなければ自分を卑下する必要もない。オレにもメリットがあってやっていることだ」
「挨拶はいいけどよ。まずはとっとと移動しようぜ?」
「そうだね。……そっちもそれで構わないかな?」
池の言葉に平田が頷き、その流れで女子にも確認を取る。非常にスムーズだ。
『いいよ~』
女子の同意を受けたことで、早速移動することにした。真っ先に向かうのはカラオケである。平田に事情を説明する上で、無用な人目に付くのは好ましくない。それを思えば妥当なチョイスだった。
既に五月も半ばを過ぎており、中間テストも刻一刻と近付いている。清隆は移籍して以降、平田と会うことはなかったので、近況を交わしながら道中を進む。
「課題の達成率に対するペナルティ……か。効果的であるのは認めるけど、個人的には好ましくないかな。――でも、本人が許容しているのなら僕がどうこう言うことではないのも事実だ。
僕の不満や文句をぶつけるのは簡単だけど、それをするなら僕が綾小路くんの代わりに勉強を面倒見るべきだからね。そして、こればっかりは僕の一存でどうこう出来ることでもない。教える側の意欲だけじゃ不十分で、教わる側の意欲も必要になる」
「で、少なくとも俺は平田に教わる気はない。俺が『イケメン嫌い』ってのもあるけど、お前が進んで苦労を背負い込んでいるのも分かるからな。ただでさえ本堂たちの面倒も見てるんだ。他の選択肢がある以上、わざわざお前の世話になる気はねえよ」
「イケメン云々はともかく、そこは私たちも同じでね。いくら過去問があるったって、基礎学力があるに越したことはない。で、小テストの成績を鑑みると、そこを教えるのには大変な苦労が伴う。平田くんだけに任せっきりにする気はないよ」
「それで他クラスの綾小路くんに頼るってのも、我ながらどうかと思うのは事実だけどね。そこは『元クラスメイト』ってことで一つ。『他クラスとの繋がり』があるに越したことがないのも事実ではあるし……」
「実際、綾小路くんの解説って分かりやすいのよね。トコトンまで理屈詰めだから、分からない原因がハッキリ分かるって言うか……。上手く言えないけどそんな感じ」
そんなことを話しながら歩いている内に、目的のカラオケに辿り着いた。
前以てアプリで予約は取っていたため、スムーズに部屋へと案内される。
飲み物やら諸々の準備を済ませて一息吐いたところで、清隆たちは本題へと入った。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「……そっか。僕と軽井沢さんとの関係についてはもう知ってるんだね?」
「ああ。恵が過去にイジメを受けていたこと。それを防ぐための『防波堤』としての役目をお前に頼んだことは聞いた。――そして、おそらくお前が過去にイジメをしていただろうことも」
「ッ……!?」
清隆が切り込んだ瞬間、平田は分かりやすく動揺した。表情を歪めた。息を呑んだ。
誰もが沈黙を保ったまま、果たしてどれだけ経ったか。聞こえてくるのは、ドアで遮断され、それでも通ってくる騒音のみ。
「……軽井沢さんが僕に『彼氏のフリをしてほしい』と頼んで来たとき、不思議には思ったんだ。だけど、その理由を聞いて氷解した。彼女からは、僕の幼馴染みと同じ雰囲気がしていたから。――そう。イジメに遇った結果、飛び降り自殺を図って脳死状態になり、今なお入院を余儀なくされている幼馴染みとね……」
平田の言葉を聞いた面々は、綾小路を除いて絶句した。イジメ被害は度々耳にしているが、『飛び降りからの脳死状態』など早々起こり得ることではない。
「いい機会だ。僕の懺悔を聞いてくれるかい? ああ、聞き流してくれても構わないよ。僕が勝手に垂れ流すだけだ」
そう前置きして、平田は己が過去を紡ぎ始めた。
件の幼馴染みは、小学校六年間同じクラスで、毎日一緒に登下校をする程の仲だった。学区の都合上、中学も同じであり、けれど教室は別になった。それを理由に平田も同じクラスの友人と遊ぶようになり、幼馴染みとは徐々に疎遠になっていった。
そんな中、件の幼馴染みがクラスでイジメを受けていることを平田は知った。だけど、平田は自分がイジメの標的にされることを恐れて見て見ぬふりをした。『友人の安寧』よりも『己が保身』を選んだのだ。『イジメと言っても、そこまでヒートアップすることもないだろう』。――そんな風に、自分に都合のいい言い訳を用意して。
「だってそうだろう? 真実そう思っていたのなら、割って入ることだって出来た筈なんだから。――そうしていない以上、言い訳に過ぎないのは間違いない。
そして、幼馴染みにすら見捨てられたと判断した結果、彼は飛び降り自殺を図った……。
当然、僕は後悔したよ。深い罪悪感も抱いた。何度も何度も自分を責めた。――けれど、そんなことをしても彼が目覚めることはない。
そうして、僕は一つの結論を出したんだ。『彼への贖罪は、他の誰かを救うことでしかなし得ない』ってね……」
その言葉にこの場の面々は理解を示した。恵の頼みを引き受けたことにも筋が通る。
「分からんな。いや、そのような理由があるのなら、お前が恵の頼みを引き受けたことには納得できる。――だが、現実としてお前は恵を救うための――『彼氏』らしい行動を取っていない」
「僕は既に失敗したからさ。僕が能動的に行動すれば、不幸しか生まないんだ」
「……なに?」
清隆のみならず、それを聞いた全員が怪訝な表情を浮かべた。
「飛び降りからの脳死まで起こったんだ。普通なら、イジメは収束すると思うだろう? ――終わらなかったんだよ。今度は、僕のクラスから新しいイジメのターゲットが出た。
だから僕は決意した! 今度こそ行動を起こした! 彼のような悲劇を繰り返さないために!
揉め事が起これば、大小拘わらず必ず割って入った! イジメのように片方に『明らかな非』がある場合は別だけど、それ以外は徹底して両方を本気で殴り飛ばした! 揉め事を放置すれば、それが『新たなイジメ』の温床となる! そう判断したからだ!
そうして、気付いた時には僕がスクールカーストの頂点に立っていて、学校からイジメは根絶されていた……」
そう語る平田の顔に笑みはない。その顔に広がるのは、徹底した虚無だけだ。
「そこで終われば、ハッピーではなくとも『グッドエンド』だったのかもしれない。――けれど、そんなことはあり得なかった。
僕の行いは、代償として学校から活気を奪うことに繋がった。僕からの鉄拳制裁を恐れる余り、生徒たちからは笑顔が消えることになった。……無理はないね。
結果として一つの学年が機能不全に陥った。全クラスが強制的に解体・再編され、卒業まで厳しい監視体制が取られることになった。
学校側としても異例の対応でね。僕の住んでいた地域ではかなり有名な事件になったよ。
だからさ、ダメなんだよ。僕が能動的に動いたところで、皆から笑顔が消えるだけなんだから……」
そう、平田は自分を
「そんなニュース、ネットで見たことがあるかも……」
ポツリ。深刻そうな表情で千秋が呟いた。
「やはり、分からんな。平田、お前の行動のどこに問題がある?」
「……話を聞いていたのかい? 僕は皆から笑顔を奪ってしまったんだ! それが問題じゃなくて何だって言うんだ!?」
「それは学校の責任だろう?」
激昂する平田を余所に、清隆は冷静に訊き返した。
「『責任をどこに置くか?』を考えた場合、それが学校という『教育機関』にして『閉鎖施設』で起こった以上、学校に帰属するのは間違いない。本来なら、お前が動く前に学校側が動いて然るべきだった。――しかし動かなかった。『学校の名誉』だか何だか知らんが、おそらくはそんな
だから、お前は学校に見切りを付けた。自分で動くことにした。お前が動くことになった。
先に『お前』という生徒の期待を裏切ったのは学校の方だ。――そして、お前は都合のいい『掃除屋』として利用された。
極論、問題があるのは学校の方だ。ハッキリ言って、オレにはそうとしか思えんのだが……。オレの見解は何か間違っているか?」
淡々と語った清隆は、場の面々を見渡して問いかけた。
清隆の意見を聞いた平田は、呆然とした表情を浮かべている。
「学校は別だけど、イジメられてた身として言わせてもらえば、平田くんは全然間違ってないよ! そりゃあ、私は平田くんの幼馴染みと違って自殺を図ったりはしてないけど、それでも病院に担ぎ込まれたことに違いはないし、『消えない傷』を負ったのも間違いないんだから!
うちの学校は、そこまでの事態になって漸く動いたんだよ! それだって、被害者である私や私の家族への対応はおざなりなものだし、私をイジメてた奴らの処分だって軽いものよ!
それに比べれば、平田くんはよっぼど立派だよ!」
真っ先に答えたのは恵だった。涙ながらに平田の
イジメられていた恵にしてみれば、曲がりなりにもイジメを根絶した平田がそのことで苦しんでいるのは我慢できないのかもしれない。
そして、次に口を開いたのは千秋。
「『生みの苦しみ、味わうは必定』って言うからね。……平田くんの行為は、確かに平田くんの代からは笑顔を奪ったのかもしれない。――だけど、平田くんは『その後』にまで考えを巡らせた?」
「その後……?」
千秋の質問に顔を上げた平田は、茫洋と繰り返した。
「そう、その後。学校側の監視体制が厳しくなったんでしょう? 普通に考えて、果たしてそれは平田くんの代だけで終わるものかしら? 平田くんが卒業しただけで途切れるものかしら?」
「そんな筈はないよね。だって、根底にあるのはイジメなんだから。間違いなく、学校側は再発を恐れて監視を継続するよ。それは確かに生徒にとっては息苦しいかもしれないけど、『イジメの抑止』にはなる筈だよ」
「もっとも、発端となった奴らは揃って卒業していなくなってるんだ。監視は継続されるだろうが、ある程度緩んでも不思議はねえぜ。それってよ、新しく入学する生徒にとっちゃあ天国だと思わねえか? 何せ、学校側はシッカリと監視してるし、その分だけイジメを受ける心配がねえんだからよ」
それらの言葉を聞いて、平田の顔にはゆるゆると表情が戻っていく。
「平田、自らの行為を嘆くな。嘲るな。やり方はどうあれ、お前は確かに学校を苦しめる『イジメ問題』を無くしてみせたのだから。――むしろ誇れ。でなければ、イジメを受けていた恵みたいな奴らが報われない。
お前の行いは、確かにイジメを受けている奴らの『希望』になったのだからな」
「綾小路くんは、本当にそう思うのかい?」
「ああ。だってニュースにまでなったんだろう? 昔ならいざ知らず、昨今の情報化社会を鑑みれば、地方ニュースだって瞬く間に全国・全世界へと行き渡る。
平田の行いは、恵に起こった出来事は、『イジメを放置した場合の前例』となるんだ。吹っ切れれば、『人はここまでのことをやる』という前例にな。
直近で起こった『前例』だ。当然、学校側は無視しきれない。『自発的な公表』と『どうしようもなくなった末の暴露』、
淡々とした清隆の語り口。――けれど、それを聞いて平田は確かに涙した。歓喜の涙を流した。
清隆たちの言葉は、言ってみれば聞こえの良い可能性に過ぎない。それは平田も理解している。理解していて、喜びを隠せなかった。――だって、現実に起こり得る可能性も確かに存在するのだから。
「ありがとう、皆。すぐに吹っ切れることは出来そうにないけど、少しは前向きになってみることにするよ」
「それでいい。……そもそもにして、お前はオレたちに言われるまでもなく能動的に動いていたじゃないか。自己紹介は『クラスの輪』を優先した結果かもしれないが、『サッカー部への入部』は違うだろう? 少なくとも、それはお前自身の衝動に従った結果の筈だ」
「……はは。言われてみればそうだね。僕は能動的に動くのを厭っていた一方で、その実は能動的に動いていたわけか。何て矛盾だ」
そうして、平田は高らかに笑った。そこにはもう、鬱屈とした表情は存在していなかった。
「綾小路くん、軽井沢さんをお願いしてもいいかな? 前向きになるとは言ったけど、そう簡単には難しいからね。『特定個人の味方』よりは『皆の味方』を優先しそうだし、きっとすると思う。――それは、曲がりなりにも『彼女』である軽井沢さんを苦しめることになる」
「それは構わんが、どっちがマシかは分からんぞ? オレは千秋たちの勧めもあって、ハーレムを形成することにしたからな」
平田の言葉に真顔でそう返した清隆は、そうなった経緯を説明した。
「はは! 何ともぶっ飛んでいるね! でも、大真面目にそう言える綾小路くんなら、やり遂げてしまいそうな気がするよ。
そうだな。僕からも一つ依頼してもいいかな?」
「お前もか……。何だ、『イジメを根絶してほしい』とでも言うつもりか?」
嘆息しながら清隆が確認すれば、平田は大きく頷いた。
「確約は出来んが、微力は尽くす。――その代わり、お前もオレに協力しろ」
「そうだね。僕に出来ることなら、そして君たちが望むことなら、喜んで」
清隆と平田は握手を交わすのだった。
恵をハーレムに加える以上、いつまでも平田を無視はできませんからね。
取り敢えず、これにて平田問題は概ね解決です。
実際、解釈や可能性としては普通にありじゃないかなと思ってます。
それに伴い、平田からの友好度、親愛度、愛情度が上昇しました。
率直に言えば清隆以外の竿役候補です。プレイ内容によっては、やっぱり竿役は複数いた方がいいですし、本ルートの清隆がするにはそぐわない内容を行う際にも都合が良いので。
基本的には、清隆とお相手女性が望む場合のみ参加する方向性で考えてます。
まあ、基本的には『皆の平田』なんですが、場合によっては『ガンダムW』の黒カトル並みに豹変して容赦のない行いをします。
少なくとも、今回の話で清隆たちには受け入れられましたのでね。その分だけ忌避感が減ったのは間違いなく、いくらかは前向きに狂化状態になります。
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