よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES 作:山上真
僕がこの『高度育成高等学校』に入学してからまだ一ヶ月と少ししか経っていないけど、その間にも色々とあったのは間違いない。
だけど、僕史上で言うのなら、今日こそ衝撃的な日は無かっただろう。
僕が抱えていた、僕を苦しめていた『闇』。それが祓われたのだから。
もちろん、完全に祓われたわけじゃない。幼馴染みは、今以て病院のベッドの上で眠ったままだろう。
しかし、僕を包んでいた闇に陽が射したのは間違いのない事実なんだ。
そもそもにして、中学時代の僕が果断な行動に出たのは
そして、実際に学校からはイジメが根絶された。その代償に活気と笑顔は失われてしまい、それが僕を苦しめていた。
良かれと思って行動した結果がそれなのだから、無理はないと思う。
ただ、綾小路くんに言わせるならば、それは『高望みのし過ぎ』なのだと言う。結果としてイジメを根絶することは叶ったし、その点で言えば贖罪は叶っているのだと。
言われて気付いたけど、僕自身、『特定の誰か』のために行動したわけではなかった。強いて言えば僕自身のために行動したわけで、見て見ぬ振りはしなかったし、『悲劇を繰り返さないための土壌』を作り上げることは出来た。
なら、そこで満足するべきだったのだ。それで是とするべきだったのだ。――にも拘らず、僕は元から感情に入れてもいない『誰かの笑顔』を求めてしまった。
落ち着いて考えれば、その時点で破綻している。そりゃあ、僕が満足感を得られないのは当然だ。
人独りに出来ることなど多くはない。だから人は群れるし、組織を作る。
それで言うならば、中学時代における僕の役割は『掃除人』とのこと。時代の流れと共に、腐り、風化した箇所に手を入れるに当たり、掃除は欠かせない。
しかし、学校は教育機関であるからして、時にはそれが足を引っ張ることもある。何せ、手を入れるべき問題は『イジメ』で、それを行っているのは『生徒』だからだ。
問題は、表沙汰にならない限り『問題』とは見做されない。そして学校側が大々的に手を入れれば、どうしたって表沙汰になってしまう。
学校だって生徒が入らないことには成り立たないのだ。その観点で言えば、『誰が
イジメを放置はできない。――けれど、『新入生の減少』に繋がる行為は避けたい。
そんな二律背反が、結果として学校側の動きを硬直させてしまったのだろう。少子化により、全体的な生徒数が減少傾向にあるのだから尚更だと思う。
それに我慢できずに動いてしまったのが僕で、学校側はこれ幸いとそれを利用した。……言ってしまえばそういうことらしい。
よく、『他人から言われることで気付くこともある』と聞くけれど、それは真実だろうと思った。
だって、たかだか一生徒の動きなのだ。学校側がその気になって止めようと思えば、もっと早くに僕を止められた筈なのだ。だけど、実際にはそんな動きを学校側が見せることはなく、それもあって僕は行き着くところまで行ってしまった。
これを『学校側の怠慢・硬直』の一言で片付けるべきではないだろう。きっと、学校側では幾度も職員会議が開かれていた筈だ。或いはPTA会議もか。
何せ、イジメによって人一人が『飛び降り自殺』を図っているのだ。生命そのものが失われることはなかったけど、脳死状態には陥った。これは
そんな事態が起こって、会議が行われない方がどうかしている。行わない方がどうかしている。
そうして、暫しの空白期間を得て、ターゲットを変更してイジメは再開された。人一人を自殺に走らせておいて、それでもなおターゲットを変更してイジメを続行したのだ。その人間性は、正直信じられないものだ。
だからこそ僕は絶望したわけだけど、それは学校側やPTAも同じだったんじゃあないだろうか……? 今になってそう思うことが出来るようになった。
きっと、学校側も『断固たる処置が必要』だと判断した筈だ。とはいえ、組織たるもの、よほどの柔軟性がなければ判断して即座に動ける筈もない。そうして下準備を進めている内に、耐えきれなくなった生徒――僕が自発的に行動を起こした。
おそらく、事の真相はそんなところだろう。そう考えた方が精神的に救われるし、一定の筋が通るのも確かだ。
そして、僕の行動はある意味で徹底的だったため、学校側はそれを利用した。『表沙汰になることは避けられない』と判断したからこそ、学校側は徹底的に僕を利用したのだ。
きっかけは義憤だからこそ、最終的には学校側も庇うことが出来る。一生徒の行動だからこそ、教育機関たる学校側では取れないような果断な行動も取れる。たぶん、学校側にはそんな思惑もあったのだと思われる。
双方で『意思の疎通』が図れていなかっただけで、図ることが出来なかっただけで、『イジメの根絶』という目標は一致していたわけだ。
まあ、そう考えれば、学校側が最後の最後まで僕にコンタクトを取ってこなかったことにも納得がいく。途中でコンタクトを取ってしまえば、その分だけ僕の『非』が、僕の『責』が多くなってしまうからだ。『学校側の意向を無視した』という一点では、そうなることは避けられなかっただろう。
「は、はは……!」
綾小路くんの論法を聞いて、皆から慰められて、他の皆が歌っているのを余所に、僕はひたすらに自らの携帯端末を弄っていた。全国の『イジメ』に関するネットニュースを漁っていたのだ。
その中には、僕の母校のニュースもあった。当時は半ばやけっぱちになっていたから気付かなかったけど、学校側は確かに僕を庇っていたのだ。
『当校でイジメが行われていたのは事実です。それを認識しつつ、我々も手を拱いていました。そんな中で起こったのが、イジメを受けていた生徒の「飛び降り自殺」です。件の生徒は一命こそ取り留めましたが、脳死状態になったのは事実であり、何の慰めにもなりません。
我々は苦悩する一方で安堵もしました。「ここまでの事態になってしまえば、イジメる側も尾を引くだろう」。そんな楽観論に身を寄せてしまったのです。結果――標的を変えてイジメは続行されました。これほどの事態を起こしてなお、イジメた側は「良心の呵責」すら起こしていなかったのです!
我々は、今度こそ「断固たる態度」を取ることを決断しました。そうして準備を進めている内に、耐えきれなくなったのでしょう。一人の生徒が義憤に駆られ、我々よりも先に行動を起こしました。それを見て――我々はその生徒を利用することを選びました。
「イジメの根絶」と言葉で言うのは簡単ですが、実現は至難の業です。簡単であれば、これほど長く問題視されておりません。そして、我々は教職者であるが故に「打てる手」には限りがあります。どれだけ「教育的指導」を謳ったところで、生徒に暴力を働いてしまえば「体罰教師」のレッテルは避けられません。そのレッテルは、「辞職」に繋がり、「再就職の妨げ」になります。
ですが、「生徒間の行い」であれば、どれだけ「暴力」が絡んでも「喧嘩」の一言で済ますことが出来ます。その理屈を言い訳に、私たちは「徹底的な黙認」を選んだのです。彼の行いが実を結ぶまで。学校からイジメが根絶されるまで。
無論、我々の行いが「教育者」として最低であることは認めます。その点については反論もいたしません。――ですが、その上で言いたい!
コレは「現在の硬直した教育体制の弊害である!」……と。
やってはいけないことを咎めた結果、「体罰教師」のレッテルを貼られる。そんな、現在の風潮が齎した悲劇であることを、生徒、教師、保護者を問わず、皆様には正しく認識していただきたい! 教育体制は、「変わらねばならない」ところに来ているのです!』
僕の出身中学校はそんなコメントを発表しており、それは賛否両論を齎していた。
だけど、それ以降、全国的に『イジメの公表』に打って出た学校があったのも事実だった。
『自由』と『権利』、それが齎した『弊害』。その波は、『教育委員会』は勿論のこと『日本政府』にも及んでいた。
全国的な学校の数と比べれば少ないけれど、それでも、こんな事態が起こるまで『イジメの黙認と隠蔽』を選んでいた学校がそれだけあるのも事実なのだ。そしてその理由は、大半が『学校の名誉を気にして』、『レッテルを貼られるのを恐れて』というものだった。
現実問題、理想だけで組織運営はやっていけない。けれど、理想なくして環境がよくなる筈もない。理想の実現を妨げる法など、悪法以外の何でもない。
なるほど。先生が僕をこの学校に推薦したのには、確かな理由があったらしい。僕の起こした行動は確かに問題だらけだったけれど、それがこれだけの事態を起こしたのも事実なのだ。事の善悪や是非は置いておいて、時には『まず行動する』ことが必要な場合もあるということだ。
そういう点で、僕が『イジメ問題』の対処に関する
「どうしたの? 平田くん」
歌い終わった軽井沢さんが、僕の目じりに指を這わせた。離した指には水滴が付いている。どうやら僕は泣いていたらしい。
「うん? ちょっと、ここら辺のニュースを見ていてね」
「……あ。コレ、私の出身中だ」
そう言って軽井沢さんはとある記事を指し示したわけだが――うん、その学校は物の見事に叩かれていた。
よくよく記事を読んでみると、軽井沢さんが受けていただろう仕打ちについても言及されている。時期的には、当然ながら僕の母校がコメントを発表した後。
そりゃあまあ、普通に考えても『全クラスの強制解体と再編』なんて一朝一夕で出来ることではないのだ。――逆説、それが『非常にスムーズに進んだ』という事実そのものが、『母校が入念な下準備を進めていた』証明になり、発表したコメントの信憑性を高めることにも繋がる。
地域は別でも、『学校』で無視しきれない問題が起こり、それを公表したのは事実なのだ。ならば、同じ『教育者』として、『教育機関』として、『学校』として、
軽井沢さんの一件は、『それを怠った結果』として盛大に叩かれていた。流石に軽井沢さんの実名は載せられてはいないけど、『K・Kさん』としてイニシャルは載せられているし、目線を引かれた顔写真も載せられている。彼女が同校の生徒からイジメを受け、最終的には暴行によって入院、『消えない傷』を負ったことも。
「あっはは……! 盛大に叩かれてやんの! いい気味!」
記事を読んだ軽井沢さんは、そう言って自らの母校を嘲笑した。そこに、母校に対する愛着心などは微塵も感じられない。
「あ~、気分良くなってきた! よし、歌うよ平田くん! いい加減、平田くんも歌ってリフレッシュだ!」
言って、軽井沢さんは僕の手を引っ張って立ち上がる。僕もまた、その流れに逆らわずに立ち上がった。
手始めに軽井沢さんとデュエットをし、その後は単独で歌ったり、他の人ともデュエットをしたり。
歌うの自体が久しぶりだったけど、本当に心の底から楽しめた気がする。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
カラオケを楽しんだ後は、モールのフードコートに向かって食事を楽しんだ。『カラオケの食事は高い!』ということでそうなった。
まあ、分かる。ポテトの詰め合わせなど、軽いスナックを頼む分にはそうでもないけど、本格的に食事でお腹を満たすのには向かないだろう。量と値段の兼ね合いもある。育ち盛りの高校生にとっては尚更だし、手持ちに余裕がないDクラス生徒にとっては倍ドンだ。
フードコート故に、飲食店は多い。それぞれが好きな店から好きな料理を頼み、一塊となって席に着いたら『あ~ん』が待っていた。『グループデートの醍醐味』と言われたら、よく知りもしない僕が反論する筋合いはない。
基本的には女性陣が男性陣に、男性陣が女性陣にという形ではあったけど、女性陣同士、男性陣同士もなくはなかった。まあ、女の子同士で食べさせ合っているのを目にした僕が、軽い気持ちで綾小路くんに差し出したら、何の遠慮斟酌もなくパクリとされたのがきっかけなんだけど。
その後は『平田も食うか?』なんて言いながら綾小路くんが自分のメニューをスプーンに乗せて差し出してきたので、僕もパクリとさせてもらった。それを見て周りはキャーキャー言ってたけど、そこまで驚くようなことかな……?
池くんにも差し出してみたんだけど、彼はパクリとはしてくれなかった。ただ、それによって女性陣からブーイングが飛んだことで、結局池くんも食べさせ合いに参加することになったけど。泣き笑いながら料理を咀嚼する池くんが印象的だった。
そうして綾小路くんの部屋にやって来て、普段の勉強風景を見せてもらうことになったわけなんだけど……。
「これがペナルティ……?」
僕はそう呟くのが精一杯だった。
何せ、僕の目の前では下着姿の軽井沢さんが、綾小路くんの手によりロープで縛られているのだから。それも、ただ縛っているだけじゃなく、凝った縛り方だ。
「どう、平田くん。恵ちゃん、美しいと思わない?」
驚愕に囚われる僕の耳に、そっと佐藤さんが囁いた。
美しい。……そう、確かに美しい。
僕は縛りとかには詳しいわけじゃないけど、そこには確かな『美しさ』があった。軽井沢さんの表情には
「一応、それぞれにペナルティカードとご褒美カードが用意されていてな。ボーダーの未達成でペナルティ、ボーダーのクリアだけじゃなんもないけど、好成績でクリアすればご褒美スタンプがもらえるんだ」
言いながら、池くんが件のカードを見せてくれた。ペナルティの種類はいくつかあり、レベルも存在している。どう進めていくかは受け手の自由。
「軽井沢なんかは、『トラウマの払拭だー!』とか言って、敢えて屈辱的なペナを受けることが多いな。触れないのが残念ではあるけど、視覚的には俺も楽しませてもらってるよ」
ヘッヘッヘ……と、池くんは偽悪的な笑みを浮かべた。
「最初のうちは嫌悪感もあったんだけどね。続けている内に慣れてきたって言うか、池くんの為人を知れたことで嫌悪感も薄れてきたって言うか。まあ、ある程度までは許容できるようになっちゃったんだよね。――でも、『ある程度』止まりなのも事実だから、危機感がなくなったわけでもない。
変わらず、ボーダーをクリアするための、ペナルティを避けるための努力は出来ている。無理がないって言えばいいのかな……? ある程度まではペナルティを許容した上で、それ以上は受けないようにする。そんな目算を立てられるようになったし、それを実行できるようにもなった。
何せ、私たちって元が『底辺の中の底辺』だからさ。意気込みだけじゃあ如何ともしがたいのよね。『着実なステップアップ』って部分じゃあ、凄く効果的だと思うよ。ある意味、ペナルティがあるから危機感が刺激されるし飽きがこない」
そう語る佐藤さんの表情には、目に見える不満はない。傍目からは、この状況を『普通に受け入れている』ように見える。
「個人的な意見を言わせてもらえばさ、私って平田くんにも
平田くんにはクラスの女子を抱いてもらって、平田くんに落ちてもらって、その上で成果を出せない女子は男子に還元する。平田くんの寵愛が欲しい女子は努力するし、『クラスの支配者』の下で合法的に女子を抱きたい男子も努力する。その上で、平田くんも手出しを出来ない安全圏を用意して、私たちはそこに身を置く。
いやまあ、これが割と最低な意見なのは認めるけどさ……。でもうちのクラスの場合、そうでもしないと『Aクラスの卒業』どころか『クラス逆転』すらも叶いそうにないじゃない?」
松下さんの意見は、確かに
どうせ、今のままのクラスじゃあ
「松下さんの意見が効果的なのは認める。だけど、すぐに同意は出来ない」
「非難されず、そう言ってもらえるだけでもこっちは御の字だよ」
この場はそれで終わったけど、僕自身、自分が黒く染まりつつあることを自覚していた。
そう、今すぐの同意は出来ない。――だけど状況次第では、僕はかつてのように容赦のない行動を取るだろう。
今までとは違い、それが『良い結果』に繋がる可能性があることを、今の僕は知っているのだから。である以上、躊躇う理由はない。
ただ、決して表沙汰にするわけにはいかないのも事実だ。僕はサッカーを諦める気は微塵もないんだから。
そんなことを考えながらも、僕の視線は
まあ、こんな感じです。
これにて、『清隆のハーレム入りしないDクラスの女子』を緊縛したりR-18したりするための筋道が通りました。
半ば無理繰りではありますが、その点においてはご了承をお願いします。
もっとも、本編との兼ね合いもありますので、平田が本格的に活動するのは期末試験後になります。
既に一般の方の本編で描写した通り、期末試験において山内が退学となります。その事実を以て吹っ切れるわけですね。
それまでは清隆に『縛り』を教えてもらって恵で実践する練習期間です。
既に平田自身は恵を清隆に託しましたが、それでも表向きはカレカノ関係ですからね。互いの部屋に行き来するのにも不都合はありません。
清隆とも『元クラスメイト』という接点がありますので、そちらも同様です。
サラッと流しましたが、本当は『あ~ん』関係で一話書きたかった思いもあります。
チャラ小路チャラ隆に至るに当たって、そういう描写は避けられないと思いますし。
まあ、平田を加えたことで書けた描写もありますので、是としておきます。
それが清隆と平田の『特異性』ですね。この二人、現状においてはどちらも『個人』どころか『性別』すらも重視していないんですよね。
だから、双方共に男相手の『あ~ん』にも抵抗がありません。
女子から『あ~ん』してもらうためとはいえ、巻き込まれた池は不憫です。
まあ、清隆については『個人』を重視するための兆しが見えてますが、童貞卒業するまでは『兆し』のままです。
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