※この作品はR-18です。

よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES   作:山上真

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綾小路清隆は、初めてのお泊りをする。

 少しばかり暴走してしまったりもしたが、あの後、平田もまた『後ろ手縛り』をマスターした。

 池が成功してから程なくのことだったので、もしかしたら池に遠慮していたのかもしれない。

 実際、平田よりも先に成功させたのが功を奏したのだろう。池はうざったいほどに上機嫌となり、流れるが如くに『後手縛り』をもマスターしてしまったのだから驚きだ。

 恵曰く、『実は池くんってすごく手先が器用なのかもしれない』とのことだ。オレとしても、その意見には頷かざるを得ない。

 平田は池よりも苦戦していたが、それでも、こちらもまたその日のうちにマスターしてしまったのだから大したものだ。

 とはいえ、『緊縛』の道は奥深い。オレ自身が途上の身故に偉そうに言えることではないが、二人とも入り口の門を潜ったばかりと言えるだろう。

 そうこうしている内に夜を迎え、協力して夕食を作って食べた後、平田の部屋に泊まるオレを除いて他の三人は帰っていった。

 

「今日は楽しかったね」

 

 夜。

 ベッドに横になった平田が言った。

 

「いや、普通に考えてお(・)か(・)し(・)な(・)こ(・)と(・)を言っている自覚はあるよ。何せ内容が内容だしね。『緊縛』にしろ『シチュエーションプレイ』にしろ、やってることだけを見ればイジメと大差はない。それは分かってるんだ。

 だけど、イジメと違ってお互いの間に『許容する空気』があったのは否めない。あんなことをやりながら、それでも互いに受け入れられる。僕はそのことがすごく嬉しいんだ」

「まあ、如何に双方の合意があれ、やってること自体は問題になりかねないから、決して表に出せないのも事実だけどな。現状はヒッソリとやるしかない。不便ではあるけどな……」

「どうしたって、個室に招ける人数には限りがあるからね」

「そういうことだ。せめて、自由に使える広い部屋があればな。いくらかはマシになるんじゃないかとは思うんだが……」

 

 オレと平田はつらつらと言葉を交わす。

 

「可能性自体は、無くはないんじゃないかな?」

「……なに?」

 

 その言葉は、オレの胸を打った。思わず訊き返す。

 

「すぐに、とはいかないかもしれないけどね。――綾小路くんは生徒会に入会したんだろう?」

「ああ」

「そして、三年の先輩にも勉強を教えている」

「ああ」

「池くんや軽井沢さんたちの勉強も面倒を見た」

「まあな」

「つまり、今時点でもある程度の下地はあるんだ。そこに『生徒会役員』としての実績が加われば、少しくらいは我儘も通るんじゃないかな?」

「と言うと?」

「『ペナルティありきの生徒の育成』。それを、『生徒会役員:綾小路清隆』主導の計画として、大々的に学校側に申し出るのさ。

 この学校は、『一科目の赤点』でも生徒に退学を科すくらいには厳しい。『次代の日本を牽引する人材を育成する』という謳い文句を鑑みれば無理もないけどね。

 でもその一方で、退学者が増えすぎるのは学校側も望んでないと思うんだ。曲がりなりにも教育機関だしね。

 人の口に戸は立てられないし、現在の情報化社会を鑑みれば、どこからどう情報が広がるかも分かったもんじゃない。少子化問題と合わさって、常に『受験生の減少』というリスクを抱えているのは間違いないと思うんだ。

 それに、須藤くんや外村くんみたいに『一能突出』タイプの人間は、この学校と致命的に相性が悪いのは否めない。どうも、この学校が求めているのは『総合力』みたいだからね。『一能突出にしろ、他の部分も最低限度には修めてほしい』って言うのが学校側の本音だとは思うけど、そこまで育つ前に潰れる生徒の方が多いと思う。

 学校側がキチンと手を差し伸べれば救われる生徒も多いとは思うけど、根底に『放任主義』を敷いているから、『手を差し伸べたくても差し伸べられない』っていうジレンマも多いんじゃないかな?

 生徒側からの申し出があれば手を差し伸べることも可能なのかもしれないけど、それが正しいとして、そのことに気付く生徒がどれだけいるか……。基本、『先生への質問』なんてのは真面目な生徒くらいしか行わないからね。

 だから、学校側にそういった諸々を伝えた上で、代わりに綾小路くんが手を差し伸べるんだ。生(・)徒(・)の(・)代(・)表(・)である『生徒会役員』なら、その資格は十分にあると思う。

 学校側の至らない部分をフォローする部分もあるから、多少怪しい部分があれ、学校側も無下には出来ないと思うんだ。言ってしまえば、生徒にペナルティを科しているのは学校側も同じだしね。

 それに綾小路くんの申し出を受け入れれば、たとえ『間接的』という形ではあっても、学校側も今まで以上に生徒に手を差し伸べることが出来るようになる」

 

 平田の言葉にオレは頷いた。

 オレは将来的に政界進出を目論んでいるわけだが、要は『それと同じことをしろ』と平田は言っているわけだ。

 尤もらしい理論武装を並べ立てることで学校側に無理を通し、その上で援助をも引き出す。将来の練習としても都合が良い。

 何ら実績のない身で言えば『妄言』に等しいが、実績があるなら、能力があるなら、立場があるなら、話は別となる。

 或いは、『感情面の未発達』というオレの弱点を正直に打ち明けた上で支援を求めるという手もある。基本方針が『放任主義』だろうと、限度があることに違いはない。実際、生徒の理解具合を確認しないだけで、授業自体はキチンと行われているわけだからな。生徒の『切実な願い』を無視しきれる筈はないと思う。

 オレの琴線に引っ掛かった生徒を対象に、オレは生徒の能力を向上させる。そこに『ご褒美制度』と『ペナルティ制度』を組み込むことで、より濃密な感情の変化を、より身近な部分で味わう。それを以てオレの教材とする。

 要は、今現在池たちに対して行っていることを、『学校側の認可』を受けた上で規模拡大して実行するわけだ。

 正式に認可を受けているのだから、専用の部屋ぐらいは与えられてもおかしくはない。

 事前に『ペナルティ内容には体罰じみた行いも含む』ことを明言しておけば、監視カメラのない部屋を与えられるだろう。何せ監視カメラを設置してしまえば、体罰を見過ごすことになるのだ。学校側としては、それは旨くないに決まってる。それよりは、『実力ある生徒の言葉だから無条件に信用してしまった』とする方が、仮にバレた場合のダメージも少ないだろう。

 

「可能性はあるな。学校では部室相当の部屋を、寮では集団生活可能な部屋を与えられれば言うことなしだ」

「基礎能力の低い生徒ほど、育て上げるのには時間がかかるからね。学校生活の、『放課後僅かな時間』だけでど(・)う(・)に(・)か(・)で(・)き(・)る(・)わ(・)け(・)が(・)な(・)い(・)ことを強調すれば、意見が通る可能性はあるんじゃないかな? ――もっとも、その分だけ綾小路くんが負うリスクも大きくなるとは思うけど……」

「単にオレの学力や身体能力を確認されるだけなら押し通せる自信はあるが……」

 

 そう。そこを求められるだけなら、たぶん問題はない。

 問題があるとすれば、こっちの言い分を学校側が認めて、許可が下りて、その上で『いついつまでに確かな成果を出せ』と言われることだ。その『確かな成果』の範疇次第では、余りにもリスクが大きくなってしまう。

 

「そこばかりは、実際に交渉してみるしかないな。まあ、まだ先のことだが……」

 

 何せ、こちとら生徒会に入会したばかりである。発言力など無いに等しい。

 期末では過去問が通用しないため、個人的には早めに着手したいところではあるが、勉強を教えている三年生との折り合いもある。ポイント稼ぎの貴重な手段であるため、オレとしても即座に手を切るのは痛い。

 しかし、三年生の相手をする機会を減らさないことには、どの道上手く機能することもないだろう。必然、勉強を教えている三年生には『機会の減少』を通達し、そのことに理解を求める必要が出てくる。その調整にはある程度の時間がかかることだろう。

 そんなことを考えている内、いつしかオレの意識は闇の中に沈んでいた。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「おはよう。よく眠れたかい?」

 

 朝。

 パッチリと瞼を開いたオレに、そう声がかけられた。

 視線を動かして周囲を確認する。そこで気付いた。どうやらオレは、いつの間にか平田に抱き着いていたらしい。

 

「おはよう。すごくよく眠れた。目覚めはスッキリだ」

 

 言いながら、オレは平田を拘束から解き放った。

 

「なら良かったよ」

 

 何て微笑を浮かべて言いながら、平田は己の身体を揉んでいる。

 

「すまんな。いつの間にか抱き着いていたようだ。苦しくはなかったか?」

「まあ、苦しくなかったと言えば嘘になるけど、綾小路くんの事情もある程度は聞いているからね。この程度なら許容範囲だよ」

「そう言ってくれるか。ありがとう」

 

 その後は諸々の準備を済ませ、オレは平田と一緒に登校した。

 何だかんだ、平田と登校するのは初めてだったと思うから、割と新鮮な気持ちである。

 教室前で別れ、俺は独り自分の席へ。

 暫くすると、やや慌てた様子で帆波が姿を現した。

 

「おはよう! 清隆くん!」

 

 言うなり、ぎゅ~っ! と抱きしめてきた。

 

「大丈夫だった? 寂しくなかった?」

 

 なんて訊いてくるが、この様子を見ると寂しかったのは帆波のように思えてならない。

 

「昨日は寂しかったが、今日は問題ない。実は平田に相談してな。泊まらせてもらったんだ。いいものだな、『友人同士のお泊り』というものは……」

「そっか。平田くんに……」

 

 オレの言葉に、帆波はホッと安堵の息を吐いた。

 

「う~ん。でも、毎日平田くんとのお泊りは、流石に問題だよね……?」

「落ち着いて、帆波ちゃん。『過保護極まれり』な状態になってるから」

 

 言いながら小首を傾げる帆波に対し、僅かに遅れてやってきた千尋がツッコミを入れた。

 

「おはようございます、清隆くん」

「ああ。おはよう、千尋」

 

 その後、オレに向き直って挨拶をしてきたので、オレもまた挨拶を返す。

 

「平田の判断によると、どうやらオレは幼稚園児や保育園児並みの感性を手に入れたらしい。『愛情を与えてくれる』家族から巣立ち、外へと『感情を向ける相手』を探している状態にあるんだとか……」

「そうなんだ!? おめでとう!」

「ありがとう。――だが問題もあってな。巣立ったばかりということもあり、『他人の熱』を求めずにはいられないんだ。

 実際、今日も目が覚めたら平田に抱き着いていたからな。平田は笑って受け流してくれたが、平田以外の男子だと難しいだろうとのことだった」

「それは、そうだろうね……」

 

 オレの言葉に、帆波は深刻そうな表情で頷いた。

 

「どうにも難しいところですね。学校で『他人への熱』を求めすぎれば、部屋に帰った時の孤独感が増す。かといって、何もしないことには『精神的な成長』もない」

 

 千尋もまた、深刻そうに意見を述べる。

 結局はそういうことになる。

 一般的な家庭で生まれ育った子供の場合、外に熱を求めだしたところで、家に帰れば家族がいるのだ。愛情を与えてくれる相手、熱を得られる相手に困ることはない。孤独ではないのだから、十分に寂しさを紛らわせることが出来る。

 しかしながら、オレは感情面の発達が足りず、然るに精神年齢が幼いだけで、肉体は立派に成長してるし、実年齢もまた然り。

 如何に教育機関とはいえ、優先すべきは組織のルールであることは否めない。個人的に気を向けてくる人物はいるかもしれないが、当然ながらそれにも限度がある。如何な特殊固体と言えど、組織人としては基本的に公平に扱わねばならないのだ。早い話、『学生寮での一人暮らし』という事態は避けようがないのである。

 つまり、自室に帰ったところで、愛情を与えてくれる相手、熱を得られる相手はいないということになる。これでは寂しさを紛らわせることなど出来やしない。

 

「である以上、答えは限られたようなものですね」

 

 口を挿んできたのはひよりだった。その表情には、相変わらず柔らかな笑みが浮かんでいる。

 

「私たちと平田くんでローテーションをする。現実問題、取れる手はそれしかないでしょう」

「平田くんには迷惑を掛けることになっちゃうけど、それしかないか……」

「ですね。清隆くんの場合、元が歪なことに加えて帆波ちゃんが一ヶ月近く泊り込んで愛情与えてますので今更感が強いのは否めませんけど、それでも男性との付き合いを無くすわけにはいかないでしょう。

 学校生活でなら神崎くんや柴田くんなど候補はいますが、寮生活となると途端に候補は減ります。流石に、その二人も寝てるところを清隆くんに抱き着かれて笑って済ませることは出来ないと思いますし……。

 それとも、出来ますか? 神崎くん、柴田くん」

「綾小路の状況には理解を示すし、同室で一緒に寝る分には許容も出来るが、寝てるところを抱き着かれるとなれば、流石に難しいな」

「俺もだ。起きてる状況で、喜びを分かち合うとかで抱き合うんならまだしも、寝てるところを野郎に抱き着かれれば普通にキレるわ」

 

 千尋が神崎と柴田に水を向けたが、二人揃って難を示した。

 

「神崎くんと柴田くん以外でもいいんだけど、男子で誰かいない?」

 

 帆波の言葉にも、返ってくるのは否定的な返事のみ。如何に『協調性が高い』、『団結力が高い』と言っても、限度があることが如実に示された瞬間だった。

 

「となると、やはり平田くんの助力は欠かせませんね。家族枠が一之瀬さんと白波さん、友人枠が私と平田くんということにして、暫くはそれで様子を見るしかないでしょうね」

「それが妥当なところかな……? 取り敢えず、月水金は私たち、火木は平田くん、土日は臨機応変にってことで」

「異議なしです。全く、世話の焼ける兄さんです」

 

 帆波、千尋、ひよりの間で話し合われた結果、取り敢えずはそういうことになったのだった。




後々、今回話題に出たことが実現化され、キレ散らかす神崎と柴田の姿があった……。
本編での無人島編での描写から逆輸入してみました。

本作の平田はフル・フロンタルみたいな部分があります。
今現在の平田は、『周りに求められたこと』を返しているだけです。
綾小路くんは『緊縛仲間』を求めている。なら、僕が加わろう。
綾小路くんは他人の熱を求めている。なら、僕が与えよう。
極論すればそんな感じです。

平田に根付いた『贖罪の念』は強いですからね。『脱却の道』は示されましたが、そうすぐには歩めません。暫くは『利他的』な行動が続きます。

自覚がありませんが、本作の帆波は『母子家庭育ち』ということもあって、身近な男性に『父親像』を投射する部分があります。
つまり、清隆と帆波は互いが互いに『親』を求めていることになるのです。
いや、最初は気付かなかったんですけどね。帆波を清隆の『母親役』に据えて暫くしてから、『これ、逆もあり得るんじゃね?』と気付きました。
清隆自身は、感情の未発達が要因ではありますが、それによって『悠然』・『泰然』としている部分がありますからね。
実際、それに違わぬほどに能力はバカ高いです。
帆波がそこに『頼れる人物像』――『父親』を重ねてしまっても無理はないと思います。
今回の帆波が慌てふためいていたのは、無意識下で『自身が不意に父親と離れたこと』に対する寂しさを覚えたからでもありました。

或いは、原作の帆波が清隆に執着するのも、そういう部分が働いている可能性もありますね。
この推測が正しいなら、『私の男を取るな!』という思いと、『あたしの父親を奪うな!』という思いが重なっているわけです。
そりゃあ、必要以上に攻撃的にも不気味にもなるでしょう。

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