※この作品はR-18です。

よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES   作:山上真

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綾小路清隆は、理事長と面談する。

 生徒会に相談して間もなく、オレは理事長に呼び出されることになった。

 

「生徒会所属、一年の綾小路清隆です」

 

 理事長室の扉をノックし、名乗る。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 許可が下りたので入室する。

 

「どうぞ、かけてください」

 

 生徒会役員とはいえ一生徒に対し、腰を低くして接してくる。その表情と言葉も柔和だ。この男が、理事長――坂柳成守か。

 お言葉に甘えて着席する。

 

「さて。まずは当たり障りのない会話から始めて緊張を解すべきだとは思いますが、君相手にそれは無用でしょう。

 私は綾小路先生とは親交がありましてね。ホワイトルームのことも知っています。もっとも、子供たちのことを思えば、個人的にはホワイトルームの存在は素直に応援できませんがね。その一方で、必要性を認めているのも確かです。――それほどに、我が国は人材難です。

 そんなわけで、君のことも以前から一方的に知ってはいました。施設内でガラス越しに君を目撃したこともあります。

 そんな君の入学願書が送られてきたわけですからね。驚きましたが、何となく事情を察することは出来ましたし、私の独断で君の入学を認めました。――まあ、理事等とはいえそこまで無理が出来るわけもありませんからね。入学を認めるので精一杯でもありました。

 そうしてDクラスに配属された君が、相手側からのポイント提供があったとはいえ入学早々にクラス移籍を果たし、今ではAクラスで生徒会役員ですからね。無理を押し通した甲斐もあるというものです」

 

 成守から一方的に語られる、その事情。

 まあ、相手は天下の『高度育成高等学校』理事長だ。今言った程度のことであれば押さえていても不思議はない。

 

「ただ、君の活躍を嬉しく思うと同時、疑問があるのも確かです。

 故に私は、君の本音が知りたい。君は何を考えているのですか? 何を目指しているのですか?」

 

 成守の危惧は当然と言っていい。あの施設を知っているのなら、血縁上の父親――綾小路篤臣を知っているのなら、オレの行動の裏にあの男を意識しないわけにはいかないだろう。

 

「説明する分には構いませんが、言葉を崩してもいいですか? 正直、敬語には慣れてませんので」

「構いませんよ。あの環境で育てば、それも無理はないでしょう」

 

 オレの求めに、成守は苦笑して頷いた。

 

「最初にあったのは『外への憧れ』だった……。物心ついた時には既にあの環境だったからな。故にそこに疑問を覚えることもなかったわけだが、知識の収集が進むにつれ、やはり疑問を覚えずにはいられなくなったわけだ。

 そんな折、ホワイトルームは活動を停止することになり、その期間、オレは篤臣の執事である松雄に預けられることになった。

 結果、松雄はオレに同情したらしい。『自分にも息子がいるから』と言っていたが、アイツはオレにここへの入学を薦めてきたんだ。『ここであれば、ほんの一時でも学生らしい生活を送れるかもしれない』と、そう言ってな……」

 

 当時は松雄の言葉と行動の意味が分からなかった。しかし、今ならば分かる気もする。

 

「そうですか……。松雄さんがそんなことを……。私も一児の親ですからね。松雄さんの気持ちは分かる気がします。

 ホワイトルームの始まりは、政界の重鎮、直江仁之助が提示した『政府直属の人材育成機関の設立』にありました。当時、彼に師事していた綾小路先生がプロジェクトの責任者に任命され、著名な教育者家系『坂柳』に生まれた私は、当然の如く出資しました。私とホワイトルームの付き合いはそこからです。

 しかしホワイトルームは、『理念は気高くともその実態は……』というものの定番でした。我が校も偉そうにどうこう言えたものではありませんが、ホワイトルームはそれに輪をかけて酷かった。余りにも非人道的でした。特に、君の父親である綾小路先生が直接指導をし、君以外が全員脱落した通称『魔の四期』は、到底言語化できるものではありません。

 それを機に、私はホワイトルームと距離を置き始めたのです」

 

 成守が語るホワイトルームの事情は、オレ自身も把握していない部分が含まれていた。 

 

「その後、松雄について何か知っていることは? 堂々と、しかし騙し討ちの如くあの男に逆らったんだ。ただで済む筈がないと思うんだが……。

 情けない話。コレだけ世話になっておきながら、当時のオレは余りに松雄に対して無関心だった」

 

 だからこそ、そこに関しては今でも悔やまずにはいられない。『何故、もっと関心を持たなかったのか?』と、今更になってそう思うことが増えたのだ。

 

「残念ながら……。ただ、綾小路先生の執事だっただけあって、彼にも相応の人脈があります。先生に逆らったことに対する危機感も持ち合わせていたでしょうから、何らかの手は打っているとは思うのですが……」

「そうだな……。あの男の傍仕えを許されたような男が、何の危機感も持ち合わせていない筈がないか……」

 

 成守も松雄のその後に関しては知らなかったが、その言葉には説得力があった。少なくとも、期待を持つには十分だ。――正確には、期待するしか出来ない。

 

「この学校に入学するに当たり、オレはオレなりに『一般常識』を掻き集めて臨んだ。――まあ、最初は『理屈』と『実態』の落差に気付かず、齟齬が目立ったわけだがな……」

「確かにそうでしたね。まさか、入試問題をオール50点で揃えるような人物がいるとは私も思いませんでした。報告を聞いた時は驚きましたよ。名前を見てすぐに納得しましたがね」

 

 オレの言葉を受け、成守はクスクスと笑う。しかしながら、そこに嫌味は感じられない。彼の纏う雰囲気によるものだろう。

 

「そうして入学したオレは、すぐに違和感を覚えた。事前に仕入れた知識に比べると、余りに落差が激しかったからだ。

 オレも人のことを言えたもんじゃないが、隣席の女子は他人と会話をする気があるのかも分からない。

 クラスメイトの大半は、授業中の私語、携帯操作、居眠り、無断遅刻に無断欠席、廊下の走行……と、一般的に『校則違反』とされる行いのオンパレードだ。

 加え、教師も教師でそれらを一切咎める気がないし、各所には監視カメラなんかも設置されている。

 実態が分からないから『そういうものか』と受け入れそうにもなったが、そうなる前に現在のクラスメイトと交流を持てたのが幸いだったな。彼らはこの学校に対して確かな危機感と疑問を持ち、それを自分たちのクラスだけで独占しようとはしなかった。

 それにより、オレの違和感は『確かな疑問』へと変わった。そうして暫くクラスで過ごしたのち、オレはクラスに見切りを付けた。『ポイントで買えないモノは無い』という言葉を信じて、移籍するためのポイントを稼ぐことにしたんだ」

「それが現役三年生に勉強を教える奇妙な一年生、通称『綾小路先生』、『後輩先生』の始まりだったわけですね?」

 

 やはり理事長だけあって、ある程度の情報は押さえているらしい。

 

「ま、実際にはどういう方法を使ってか現在のクラスメイトが一ヶ月で信じられないほど大量のポイントを集めて、それで移籍させてくれたわけだがな……。

 だが、そうして移籍した後で思ったんだ。『オレにとって過ごしやすいのは現在のクラスだが、感情面に刺激を与える上で都合が良いのは元のクラスだったんじゃないか?』ってな。何せアレだけハチャメチャな奴らが揃っているクラスだからな。

 そして一度そう思ってしまえば、どうにか繋がりを維持しておきたくなった。その点において、現在のクラスの方針は都合が良かった。

『自クラスを最優先に、余裕があれば他のクラスにも手を差し伸べよう』。その名目を盾に、オレは元のクラスに接触を図った。

 折りしも学校の実態の一端が周知され、それと同時に中間テストのことも伝えられていたからな。接触する理由とタイミング、その双方に特段の問題はなかった。

 とはいえ、元クラスメイトではあるが、オレは交流を持っている相手の方が少なかったからな。実際に接触するに当たっては今のクラスメイト――同じ生徒会役員の櫛田桔梗に協力を頼んだ」

「櫛田桔梗さんですか……。彼女も入学時点で教師の間では有名でしたよ。そのコミュニケーション能力は学年一、ともすれば学(・)校(・)一(・)と言っても過言ではなく、他の能力も優秀な成績を維持してましたからね。

 特に、努力でコミュニケーション能力を今のレベルに鍛え上げた事実が秀逸でした。過去に遡れば、彼女は確かに優秀ではありましたが、今ほど全方面に愛想がよかったわけではありませんからね。もっとも、何がきっかけになってそうしたのかまでは分かりませんでしたが……」

 

 成守の言葉は重要だろう。限度はあるにせよ、『入学を認められた生徒は、かなり過去まで遡って調査されている』事実を示している。

 

「そうして勉強を教え始めたんだが、『今後も勉強を教えて欲しい』って、向こうの女子から頼まれたんだよ。告げられた学校の実態にかなり悲観している様だった。まあ、オレの移籍やら何やらが、ショックを高めることになったようだったが……。

 そうは言っても、この学校で単(・)純(・)な(・)善(・)意(・)に期待するのは問題だと向こうも理解してもいたようだった。本来なら、そこを保証するのがポイントになるんだろうが、生憎と向こうのポイントに余裕はなかった。

 だからか、そいつは提案してきたんだよ。『ペナルティありきの教導』をな。そのペナルティには、グレーだったり言(・)語(・)化(・)で(・)き(・)な(・)い(・)内容も含まれる。

 オレのような特殊な事情を持っているわけではない。故に、たかが退学にどうしてそこまでするのか理解はしきれなかったが、その熱意は、その感情の波は、オレにも確かな刺激を与えると思った。

 結果、オレはその提案を受け入れた」

「……ええ、そのまま言語化はしないようにお願いしますね。されてしまえば、私としては処罰せざるを得なくなりますからね。お願いしますよ!」

 

 オレの言葉を聞いた成守は、些か焦ったように告げてきた。それが理事長として正しい判断なのかどうかは分からないが、オレとしては助かることに違いはない。

 

「それからある程度の日数が経ったタイミングで、向こうの女子が言ってきたんだ。オレに対して『ハーレムを築け』とな。

 理由を聞けば頷けるものではあった。当時は入学して一ヶ月ちょっとが経ったばかりであり、『クラス闘争』も本格化はしていない。元クラスメイトということもあるし、中間テストも迫っている。勉強を教えるための名目は立つ。――しかし、時間が経てばそうは言っていられない。

 かといって、向こうとしてはそう簡単に『オレとの繋がり』を絶たれるのは堪ったもんじゃないそうだ。考えた末、向こうは『合法的な理由を用意すればいい』と思い付いた」

「それが『ハーレム』ですか? いや、確かに清隆くんの年頃の男子にとっては『男の夢』と言えるのかもしれませんが……」

 

 成守が怪訝そうに呟く。

 

「話はそこで終わりじゃない。そいつはオレに対し、卒業後の方針として『政界への進出』を吹き込んできたんだ。オレにはそれだけの能力があると思ったんだろうな。

 確かに、今の法や常識では、ハーレムは認められない。ならば、法そのものを認(・)め(・)る(・)方(・)向(・)に変えてしまえばいい。――それがそいつの言い分だった。

 幸か不幸か、この国は長らく少子化問題に悩まされており、解決の目途も立っていない。また、現在の『一夫一妻』制度が、友(・)情(・)崩(・)壊(・)を始めとする問題を引き起こしている面があるのは否めない。である以上、条件付きで『複数婚』を樹立することは出来る筈だと。

 それを提唱する人物が実際にハーレムを築いていれば、説得力が生まれることは間違いない。

 また、この学校の謳い文句からして、この『意欲ある行動』を妨げることは出来ない筈だ。現行の法に背く行動であるのに間違いはないが、それで解決していないのが実情である以上、『法改正を目指す』のは決しておかしなことではない。……そう言われれば、オレも否定はできなかった。

 そして、オレにも引き受けるメリットがあった。政界への進出は、確かにリスクはあるが、その一方であの男への対抗手段にもなる。

 同時、『沢山の子や孫に見守られながら安らかに逝く』光景への思いも強かった。

 だから、オレはその申し出を受け入れた。そして、現在はそのための行動中というわけだ。主に『ハーレム形成』と『人脈づくり』になるが、生徒会に入会したのもそのためだ」

「………………」

 

 呆気に取られたのか、成守は沈黙を保っている。

 

「ハハハハハハ……!」

 

 そして、大声で笑った。

 

「いやはや、笑わせてもらいました。凄いことを考える生徒がいたものです。しかし、言っていることは決して間違っているわけではない。そして、それを引き受ける君も大概だ!

 確かに、そのような『非常な行動』を取れる人物を日本政府は求めており、我が校に『そのための人材を育成する』ことが求められているのも事実です。

 ただ純粋な『性欲』や何かでハーレムを求めるのであればこちらとしても窘めないわけにはいきませんが、そこに『少子化問題解決の糸口』として紐付けられればそれも難しくなります。

 ですが、それは茨の道ですよ? 実際に法改正が成るまで、君たちは結婚できないということになるのですから……」

「覚悟の上だ。付け加えると、今では『複数婚』の他に『同性婚の樹立』も求められてる。

 いや、オレのクラスメイトに生粋のレズビアンがいてな。そいつに、『ハーレムメンバー同士であれば、同性でも結婚できるようにしてください! それが叶うなら、私もあなたと結婚して子供を産みますから!』と詰め寄られたんだよ」

「ハハハハハハ……!」

 

 成守は再び呵々大笑した。

 

「確かに、同性愛者に関する問題も世を騒がせていますからね。双方を絡ませることで、責務と救済を負わせるわけですか……。

 同性愛者の場合、何が厄介かというと、必ずしも双方向に矢印が向かないことですからね。むしろ一方通行であることが大半です。『友情はいいけど愛情は……』なんて断り文句は珍しくもないでしょう。

 ですが、そこにハーレムを絡めることで、受け手側の抵(・)抗(・)感(・)そのものを引き下げる狙いですね。『ハーレムの主』の意向にもよるでしょうが、複数プレイも珍しくはないでしょうから、最初はともかく繰り返していれば抵抗感も薄れるでしょう。

 また、ハーレムなくして同性婚は叶わないとなれば、それだけ条件を満たそうと奮起する人物が増えてもおかしくはありません。少なくとも、可能性が全く無いよりは余程いいでしょう。比重が違うだけで、同性愛者とて、決して異性への友愛を抱かないわけでもないでしょうからね」

 

 成守は理解を示している。極論や暴論の類であるのは間違いないが、一定の筋が通っているのも事実なのだ。

 

「そんなわけで、他の生徒を教導するにも、ハーレムを築くにも、色々とモノ足りないんだ。資金、道具、スペース、人脈……例を挙げればキリがないが、一番足りないのはスペースだな。

 現状は人数が少ないから、まだ費用の方も抑えられるし、道具は一般的に入手可能な品で代用可能な部分も多い。人脈の方も、これからの時間を考えれば増やすことは可能だろう。しかし、肝心要のスペースが足りないことにはどれもこれも片手落ちだ。

 実のところ、オレは今『緊縛』に凝っていてな。無論、縛るのは同意を得た相手のみだが、アレは良い。普段とは異なる美(・)を醸し出してくれる。引き立たせてくれる。

 相手の女子も割合乗り気でな。互いに試行錯誤しながら実践を繰り返している。日本が誇る文(・)化(・)の一つであるのは間違いないな。

 だからこそ、今の状況はいただけない。もっと大々的に繰り出すべきだ。興味関心のある生徒に限定してでも、学生のうちから学ぶべきだ。――でないと、遠からず廃れてしまうぞ?

 実際、そうやって消えていった文化がいくつある? 消えようとしている文化がいくつある? 非健全だの何だのと、そんなお(・)た(・)め(・)ご(・)か(・)し(・)は肝心の文化が消えた後も言っていられるものなのか?

 そも、『ヌードデッサン』は一般に認知されているのに、『緊縛』が否定されがちなのはどうしてだ? 表し方が違うだけで、同じ美(・)に関わる事柄だろう?

 少々話がズレてしまったが、そんなわけで教導の方だけでも生徒会に相談してみたんだ。『生徒会の活動の一環』と題打つことが認められれば、限度はあれ諸々の支援を受けることも夢ではないからな。

 試みが上手くいけば、退学者が減るかもしれないし、思わぬ実力者が育つかもしれないからな。相反する方針を掲げる二人にとっても、受け入れられる余地はあると踏んでいた。実際、会長も副会長も賛同してくれた」

「そして、私に報告が上げられてきたわけですか……。

 しかし、いやはや、変わりましたね清隆くん。よもや、あの無機質だった子が、こうも緊縛について熱く語るとは思いませんでしたよ。

 その変化を喜べばいいのか、悲しめばいいのか、心中は複雑です。

 ところで、私事ではありますが、一つ訊いても構いませんか?」

 

 何とも言えない顔でオレを見つめた成守は、俯き、顎に手を当てて思案したのち、やがて顔を上げてそんなことを言ってきた。

 

「答えられる内容なら答えるが」

「ありがとう。君のハーレムですが、私の娘――有栖を受け入れる余地はありますか?

 いえね。親バカになってしまいますが、有栖は優秀なんです。先天性の心疾患を抱えるが故に身体能力こそ脆弱ではありますが、頭脳面では『天才』と呼ぶに相応しいのは間違いありません。

 先も言いましたが、私はホワイトルームでガラス越しに君を目にしたことがあります。実は、その際に有栖も同行していたんですよ。

 そして、どうやら君に一目惚れしてしまったらしくて……。しかし、どこをどう拗らせたのか、『君を打倒すること』を至上命題としているようでしてね。

 まあ、その手段にチェスを選択した辺り、親にしてみれば『好きな子の真似』なのは一目瞭然なんですが……。何せ、まさにあの時の君がやっていたのがチェスでしたからね。

 有栖は、『刻まれたDNA以上のことは出来ず、人は生まれた瞬間にそのポテンシャルが決まっている』、『天才は教育で決まるものではなく、生まれた瞬間に決まっている』などと考えているようでしてね。その証明として、『ホワイトルームの打倒』を掲げ、引いてはその『最高傑作』と謳われる君を倒そうとしているわけです。

 もっとも、私にしてみればそんなのは『理論武装』としか思えません。あの子の本音は、君(・)を(・)打(・)倒(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)で(・)、君(・)を(・)ホ(・)ワ(・)イ(・)ト(・)ル(・)ー(・)ム(・)の(・)呪(・)縛(・)か(・)ら(・)解(・)放(・)す(・)る(・)ことにあるのですよ。

 親にしてみれば、娘がそうまで想っている相手が『ハーレムを形成している』という事実に思うところはありますが、それならそれで『娘を受け入れてくれれば』と思うわけですよ」

「あの杖を突いた子か……。構わない。美醜に問題はないし、オレを倒そうという気概もいい。加え、アンタという後ろ盾も得られるならオレにとっても望むところだ」

 

 俺は僅かに考え、成守に返答した。

 実際、有栖がオレを打倒してくれるのなら、それはそれで万々歳である。

 

「そう言ってもらえて嬉しいですよ。そのうちにあの子が何か仕掛けるかもしれませんが、その時は遠慮なく倒しちゃってください」

「……いいのか?」

「構いません。あの子は確かに天才ではありますが、それ故に大きな欠点を抱えている。あの子は『人の可能性』を信じていない。根本から切り捨てている。そのような人物が大成することはありません。

 少なくとも、教育者家系『坂柳』の人間としては失格です。人の可能性を信じられない者が、どうして人を教え育てることが出来ますか。今のままでは、あの子も、その教え子も小利口にまとまることでしょう。

 あの子が『人の可能性』を信じ、受け入れるためには、その頑迷さを取り払う必要があります。そしてそのために必要なのは、彼女の自負の根源たる『天才性の破壊』に他なりません。場合によってはそれで再起不能になる可能性もありますが、私は再起可能だと娘を信じていますので。――ただ、少しでもその可能性を上げるために、敗北を与えるのは君にお願いしたいのです。

 流れ次第では『婚前交渉』に移ってくれて構いませんよ。父親として私が許可します。世の中、『初恋は実らない』と言われていますが、それでも愛する娘のことですからね。出来る限り実ってほしいと思うのが親心というものです。

 交換条件というわけではありませんが、校内と寮の方に部屋を用意するのは約束しましょう。場合によってはそれ以外も。無論、監視カメラも付けません。

 ただし、すぐにとはいきません。特別扱いするには、君には実績が足りませんから。

 いえ、三年生に勉強を教えることが可能な以上、その学力を疑う余地はないんですけどね。如何せん、こちら側に上げられているデータは心許ないんですよ。入試はオール50点。小テストは85点。中間は信憑性を求めることが出来ません。……これではね。

 ですので、七月に行われる期末試験。欲を言えばそれ以後に行われる試験でも、非の打ちどころのない成績を叩き出してください」

 

 ニッコリ笑って成守は言う。言外に『君なら可能でしょう?』と問われているみたいだ。

 

「了解した。アンタの娘の件と合わせ、シッカリと成果を出そう」

「期待していますよ」

 

 その言葉を最後に、オレは理事長室を後にするのだった。




話の流れ上、理事長との面談は妥当かと思います。
松雄に対してなど、この時点での変化も描写しつつ。

清隆は割とぶっちゃけましたが、何せ相手が相手ですからね。リスクはありますが、上手く転べば大きなリターンが得られるのも間違いありません。

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