よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES 作:山上真
表の綾小路視点と、裏の麻耶視点です。
ヤバい! マズい! ――今現在、私の心中を支配しているのはそんな思いだった。
高度育成高等学校。魅力的な謳い文句を様々に掲げるこの学校に入学が叶い、当初に抱いていた緊張は、最初の一ヶ月間で見事に吹き飛んでしまった。
看板とは裏腹の
そうして五月に入った途端、私たちは
毎月支給されるポイントは『クラス評価制』によって算出され、私の配属されたDクラスは、本来なら10万支給されるだけの
ネタ晴らしをされれば、その理由は御尤も。私自身も不真面目な態度を取っていたため文句も言えない。
そして更に厄介なのは、定期テストで一科目でも赤点を取れば
私自身は素の能力が覚束ない状態で、最初の一ヶ月を浮かれ切って過ごしてしまった。学校は極度の放任主義。ポイントが無いため参考書の類を買うことも出来ず、友人間で教え合うにも『類は友を呼ぶ』と言うべきか、誰も彼もが私と『同じ穴の狢』である。ハッキリ言って、非常に心許ない。
そんな、絶望にも等しい日々を過ごしていた時、一筋の『救いの糸』が垂らされた。
それは、最初の一ヶ月で学校側の初回評価を覆し、見事にクラス逆転を果たした星之宮クラスに所属する、櫛田桔梗さんからの電話だった。――星之宮クラスが凄いのはそれだけでなく、如何なる方法を使ったのか、他クラスから合わせて三人も移籍させるだけのポイントを最初の一ヶ月で稼いだのだ。個人的な移籍費用は一人当たり二千万とのことだったので、その時点で六千万を稼いだこととになる。……うん、マジで想像が付かない。
櫛田さんは屈指のコミュ力を持つ人物で、それもあってクラスの違う私も連絡先を交換していた。
彼女から齎されたのは、先日に星之宮クラスからのスカウトを受けてクラス移籍を果たした男子、『綾小路くんから勉強を教えてもらえる』という情報だった。
曰く、『綾小路くんは三年の先輩方に勉強を教えられるほど頭がよく、それを知っていたからスカウトした』とのこと。俄かには信じられないのも事実ではあるが、一概に否定も出来ない。何せ、
私は櫛田さん経由で綾小路くんに私の連絡先を伝えてもらい、その後は本人とやり取りした。
実際にやり取りをして思ったのは、
そして、約束を取り付けて実際に会えば、想像以上に雰囲気が変わっていた。表情は教室にいた時と変わらず無表情ではあるのだが、服装がビシッと決まっていることもあって、それがどこか
冷たいのは雰囲気だけじゃなかった。言葉も冷たかった。伝え方には配慮を示している部分もないではないが、率直に伝えるべきところは非常に冷たかったのだ。仮にも元クラスメイトの女子を相手に、『オレ個人としてはお前たちが赤点を取ろうと退学を取ろうとどうでもいい』とか言う!?
まあ、直後に『こういったオレの考えは星之宮クラスにそぐうものではないし、オレ自身も嫌悪している。だから、お前たちに手を差し伸べている』と言われたことで、抱いた嫌悪感は即座に霧散してしまったのだけど。
その後も諸々あって、結局は綾小路くんの奢りでカラオケルームを借りて勉強することになったんだけど、正直に言ってすっごく分かりやすかった。馬鹿な私でもここまで理解が捗るなんて、普通に驚きである。
だから、私は
自分でも信じられないほどに言葉を尽くし、或いは態度でも示し、全力で綾小路くんと交渉した。――いや、交渉と言えるほど上等なものじゃない。彼の慈悲に縋ったのだ。
結果、勉強だけではなく、あらゆる面で彼の指導を受けられることになった。
まあ、高いリスクも負うことになっちゃったけど、何の手も打たずに退学するよりはよっぽどマシである。この学校を退学してしまえば、周りだけでなく家族からも冷たい目で見られるだろうことは間違いないからだ。謳い文句を考えると退学そのものには理解を示してくれるとは思うが、
そして、たとえ退学後に別の高校に通うことが出来たとしても、そんな状況で私が耐えられるとは思えない。それ故の強攻策でもあったのだ。
同時、私自身、
自分のビジュアルには多少の自信はあるが、周りには私以上に可愛い子も多い。そんな状況では正攻法で渡り合えるとも思わない。思えない。
オマケに、私は『出来損ない』のDクラスに所属しており、手持ちだってないのだ。これでは尚更に『夢のまた夢』である。
だからこそ、せっかくの機会を逃すわけにはいかない! そういう思いがあったのも事実だ。
私は綾小路くんの出す課題に可能な限り全力で取り組み、彼の指定するボーダーをクリアできなかった場合、ペナルティを受ける。そういう寸法だ。
なお、敢えてペナルティはエッチなものもオーケーとした。正直、一抹の恐怖がないでもなかったが、そうでもしないと自分を追い詰めることなんて出来ないし、綾小路くんと距離を知事めることだって出来ないのだ。
ただ、自分だけだと流石に怖かったので、他の皆もいる場面で提案し、半ば強制的に何人かを巻き込んだことには罪悪感がないでもない。
私の提案に乗ったのは、軽井沢さんと松下さん、そして池くんだ。残念ながら、篠原さんと前園さん、王さんは辞退した。状況次第では、もしかしたら後から乗ってくるかもしれないが……。
池くんは私たちを追い込むための要員であると同時、私たちの安全性を担保するための要員でもある。何せ、根底の部分で綾小路くんは私たちに興味がないのだ。その上で、エッチなペナルティも許容した。言い換えれば、『常識に囚われなくてもいい』と宣言したに等しい。
双方のスペックの違いも考慮すれば、綾小路くんがやりすぎてしまう可能性もないではなかった。課題の内容はともかく、いきなり重いペナルティを科せられれば、私たちが耐えられるかも分からない。それを危惧するのは当然のことで、それを防ぐためにも池くんは都合が良かったのだ。彼であれば、ペナルティを現実的な範疇に抑えてくれるだろうという打算である。
そして昨夜、さっそく綾小路くんから課題が出された。内容は、今日の早朝にジョギングをするというもの。いずれ来たるだろう体育祭のことを考えると、今のうちから身体能力を鍛えるのは普通に納得が出来る。
なお、集合時間は午前五時半。遅刻したらペナルティあり。服装は上下ともにジャージで、ウエストポーチを持参すること。
そんなわけでアラームを小刻みにセットしたわけだが、普通に寝坊をしてしまったのだ。普段とは起きる時間が比べ物にならないほど早いから無理もないが、そんな道理は綾小路くんには通じないだろう。
前以て用意しておいた恰好に着替え、最低限に身だしなみを整えて、私は自室を飛び出した。
ほぼ同タイミングで部屋を飛び出す人物がおり、見やれば軽井沢さんだった。
『おはよう!』
挨拶は同時で最低限。エレベーターのボタンを押したところで、ようやく一息吐いた。程なくドアが開いたので、すぐに乗り込んで一階のボタンを無意味に連打した。
「ヤッバい。思いっ切り寝坊しちゃった」
「私も。小刻みにアラームはかけてたんだけどね」
「やっぱ、普段に比べて起きる時間が思いっ切り早いとね……」
「どんなペナルティなんだろうね……」
他愛ない言葉を交わしながらも、気になるのはやはりそこだった。
途中で池くんも乗り込んできて、三人揃って一階へ向かう。
エレベーターのドアが開くと、そこには綾小路くんと松下さんの姿。どうやら、淡い希望はなかったらしい。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
エレベーターから降りた私と軽井沢さんは、松下さんによって女子トイレへと連れていかれた。
はて? と首を傾げる私たちに降り注ぐ、松下さんの無情な言葉。
「遅刻のペナルティだけど、『ブラを外してポーチにしまうこと』だって」
「うえっ!?」
「マジで!?」
「マジもマジ。本当に外したかどうか、ポーチの中身を確認するらしいから誤魔化すのも無理だよ」
「それってつまり……」
「綾小路くんに私たちのブラを見られると?」
「そういうことになるね。……困惑するのも分かるけど、急いだ方がいいよ。ただでさえ時間が過ぎてるんだから、余計に時間を費やすと追加のペナルティが科せられる可能性だってあるからね」
『ッ!?』
私と軽井沢さんは松下さんの言葉に息を呑み、大慌てでブラを外した。恥ずかしいは恥ずかしいが、エッチなペナルティを提案したのはこちらが先である。
それに、ジャージを着てれば誰かにバレることもないのだから、最低限の安全性は確保されている。その時点で、十分に許容範囲と言える。
だが、更なるペナルティが科せられればどうなるかは分からないし、もたつくことで科せられる可能性が否めないのも事実なのだ。
「はい、確かに」
松下さんは私たちからブラを受け取ると、自分のポーチへとしまった。……そりゃそうか。本人が持っているようだと、いつ着けられるか分かったものではないのも事実。それを防ごうとすれば、本人以外が持つのが道理だ。
トイレから出ると、松下さんが言っていた通り、綾小路くんがポーチの中を覗き込んだ。つまりは私と軽井沢さんのブラを確認しているということであり、うう、恥ずかしい……。
綾小路くんの口から二、三注意事項が語られる。どうやら、ブラの複数持ち込みはダメなようだ。まあ、当然か。そんな分かりやすい逃げ道を綾小路くんが見逃す道理がない。
寮の外に出たら、準備運動をして、それからジョギングに出発らしい。自分だけだとおざなりにしがちだけど、やっぱり準備運動は大切だよね。
同時、次のペナルティが告げられた。綾小路くんが指定した時間内にゴールに到着できないと、帰り道はジャージの上着を脱がなければならないらしい。
『ッ!?』
再び、私と軽井沢さんは同時に息を呑んだ。
現在、私と軽井沢さんがブラを外しているのだ。没収されているのだ。
走って汗を掻けば濡れ透け状態になるのは自明の理。その状況でジャージを脱ぐ? ブラをしていないのに?
綾小路くんの言葉自体は実に御尤もだ。第三者が聞いても疑問には思わないだろう。火照った体に風が気持ちいいのは事実なのだから。――ただし、私たちの実情を知らなければの話だ。
時間は早朝。余人に遇う可能性は低い。しかし、私たちみたいにジョギングしてる人だっているだろうし、コンビニなんかのスタッフもいる。まるっきり遇わない保証はない。
私はどうにか撤回を促そうとしたが、すぐに諦めた。綾小路くんの目が冷たい。本気で頼めば撤回もしてくれるだろうが、その瞬間、二度と彼の指導を受けることは出来なくなるだろう。それは退学と同義だ。
もっとも、すぐに引き下がった私と違い、軽井沢さんはそうじゃなかった。『ペナルティ不可避は勘弁』と真っ向から宣ったのだ。
しかし、どうやらそれが思いの外に功を奏したらしい。綾小路くんは動きを止めて暫し考え込み、私たちに目標タイムが適切かを確認をしてきたのだ。
私、軽井沢さん、池くんは揃って首を横に振り、松下さんだけがワンチャンあると答えた。……松下さんは運動能力も私たち以上らしい。
その後はいくつかのやり取りを行った結果、ボーダーが二つ用意されることになり、それによってペナルティも段階化される運びとなった。
いずれにせよ恥ずかしい目に遭う可能性は捨てきれないが、片方をクリアするだけでもだいぶ違う。
一抹の救いを手にするべく、私は全力で走った。せめて、片方だけはボーダーをクリアしたい。ペナルティを回避したい。
それは、きっと軽井沢さんも同じだったことだろう。
だがしかし。
ああしかし。
日頃から運動不足な身体は、ささやかな願いを叶えてくれることはなかった。
帰り道、私と軽井沢さんはジャージを脱ぐことが確定した。してしまった。
その一方、全力を出した結果、私と軽井沢さんは揃って体力を使い果たしてしまったのだ。歩くことすら出来そうもない。
流石にこの事態は想定外だったのか、綾小路くんも困り果ててはいたが、そこで松下さんが綾小路くんへと提案したのだった。
「ボーダーはクリアできなかったけど、全力を尽くして走ったのも事実だし、ここは一つ、綾小路くんが男を見せたらどう?」
「と言うと?」
「片方を背中に負ぶって、片方を抱きかかえて帰るの。ただし、ペナルティは実行させてジャージの上着は脱がせた上で。
綾小路くんとしても役得じゃない? って言うか、それしか方法はなくない? 体力が回復するまで待つと時間が経ち過ぎちゃう。それはそれで旨くないでしょ?
かといって、ペナルティの取り止めも旨くない。それをしちゃうと、危機感が薄れる可能性が高いのも事実なんだから。
池くんも歩ける程度には体力を残してるみたいだけど、ほぼほぼ体力を使い果たしちゃってるし、それは私も同じ。必然、二人を抱えられる筈もない」
松下さんだって片方のボーダーをクリアできなかった結果、ジャージの上着は脱いでいる。汗によって濡れ透けとなった白いシャツの向こうには、ブラジャーがクッキリと映っている。
しかし、それを気にする様子もなく実にサバサバとしている。――いや、違う。サバサバしているのは表面上だけだ。
視線はキョロキョロと動いているし、頬にも赤みが差している。まあ、『走った直後だから』と言われれば否定も出来ないけど、やはり彼女だって恥ずかしいのだ。
一刻も早くこの場を去りたい。安全圏へと避難したい。そんな心情が働いているが故の、積極的な提案なのだろう。
「……仕方ないか」
松下さんの提案に対し、綾小路くんは溜息を吐きつつも同意を示した。
そして、ブラを外した上でジャージの上着を脱ぎ、汗によって濡れ透け状態になった私と軽井沢さんは、片や綾小路くんに背負われ、片やお姫様抱っこされて寮への帰路に就くことになった。
それは私にとって、恥ずかしくも嬉しい出来事だった。こんな目になら、再び遭いたいぐらいである。
綾小路くんの体臭と息遣いを感じながら、私は胸をときめかせた。理由はどうあれ、松下さん、グッジョブである。
同時、私は自分の胸を綾小路くんの背中に押し付けるのだった。『第三者に胸を見られないため』という、
同じ話に対する、『裏』の女性視点を描写することで、『表』とはまた違った演出をしたり、変化と成長への説得力を持たせられればと思っています。
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