※この作品はR-18です。

よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES   作:山上真

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清隆、ペナルティを区分分けする。

「まあ、こんなところか……」

 

 一枚の用紙を手に、オレはそう呟いた。

 用紙には、大雑把なペナルティの内容がズラズラと並んでいる。今朝がたのジョギングを終えたあと、改めて実際にペナルティを受ける女性陣と池の意見を訊き、その上でオレ自身の意見も加えた上で書き連ねた内容となっている。

 ペナルティは主に『社会的苦痛』、『個人的苦痛』、『肉体的苦痛』、『精神的苦痛』の四区に分けられている。

 今朝のジョギングを例に取れば、『肉体的苦痛』以外の全てに該当することだろう。

 一般的な風紀において、『露出』はそぐわないのだ。許容される場面には限りがある。衆人環視の状況下でそれが肯定される場面は、それこそ着替え部屋や温泉などの露(・)出(・)を(・)前(・)提(・)に(・)し(・)た(・)場(・)所(・)だけだろう。

 当然、朝の屋外などそれに該当する筈がない。故に『社会的苦痛』となる。誰かに見られた瞬間、『露出狂』の誹りを受ける可能性は否めない。それは『個人的苦痛』へと繋がり、『精神的苦痛』へと転化されるだろう。

 もっとも、あくまでもそ(・)の(・)状(・)況(・)を(・)見(・)ら(・)れ(・)れ(・)ば(・)の話だ。見られない限りは問題にはなり得ず、安心できる要素は十分にある。……そう、より肥大化した苦痛を危惧する余り、『ブラを着けていない』という『社会的苦痛』を問題視しなくなるのだ。

 もちろん、ふとした瞬間に思い出し、それに応じて『社会的苦痛』を受けはするだろうが……。と言うより、そうでなくてはペナルティにならない。

 重要なのは、『軽め』のペナルティの中にも『軽重』を定め、本人に軽い方を問題視させなくし、やがてはそれを常態化させることだ。そうでなくては、ペナルティの重さを上げることが叶わない。

 無理矢理に重さを引き上げてしまえば、本人が耐えられずに壊れてしまうだろう。それはオレの望むところではない。

 だが、『苦痛』と題してこそいるものの、これらは全て『快感』と紙一重なのも事実だ。苦痛に対する防衛反応が、慣れ、適応するために、自分自身の認識を書き換えるのだ。

 例えば、『見られる』ことに対する羞恥心。これは自分自身に――正確には己(・)の(・)美(・)醜(・)に自信があれば、見られたところで苦痛には思わないだろう。己の美(・)に自信がないから、見られることを忌避する。そこで重要なのは自己評価だけだ。対外評価など関係がない。

 視線を集める、見られるという『一つの事実』に対しても、『個人的価値観』によるものと『社会的価値観』によるものの、異なる働きがあるのだ。

 重要なのはそれに対する『バランス感覚』で、それ次第では『問題行動』も問(・)題(・)視(・)さ(・)れ(・)な(・)く(・)な(・)る(・)。いわゆる『情状酌量の余地』だ。それ次第で、罰の重さはガクンと引き下げられる。

 今朝のジョギングだってそう。慣れない早起きをしてのジョギングだ。自分一人であればゆっくり準備も出来ようが、一緒に行動する相手がいるとなれば慌てて準備してしまってもおかしくはない。ただでさえ、寝起きという感覚が十全に機能していない状況下での行動だ。慌てる余り、ブラを着け忘れてしまう可能性は捨てきれない。

 汗を掻いて火照った体を冷ますために、ジャージの上着を脱ぐのだってそうだ。恥(・)ず(・)か(・)し(・)い(・)か(・)ら(・)と無理に着っぱなしでいれば、熱中症になる可能性も否めない。それを危惧すれば、濡れ透け状態を晒すのにも一抹の理は通るのだ。

 これらのメカニズムを上手く活用することで、苦痛を苦痛として機能させつつ、快感を覚えるようにさせていく。それにより、ペナルティの密度とレベルを引き上げていく。重要なのはその塩梅で、オレはよくよくそれを見極めねばならない。

 そしてそれらは、須らく成長に繋がるものでなくてはならない。

 この用紙に書かれているのは、そういった前提に則った上での内容である。『露出』、『痛打』、『緊縛』、『言葉』等々、改めて書き連ねられた内容を見やりながら、オレは次に与えるペナルティについて吟味する。

 

「少し買い物に出かけてくる。その間、お前たちはその問題集を解いておけ。もちろん、進捗状況と誤答次第でペナルティを受けてもらうからな。

 ああ、端末は預からせてもらう。ネット検索で解き方を調べられては意味がない。重要なのは、今現在のお前たちの理解度を知ることにあるからな」

『ひいいぃぃ……っ!?』

「行ってらっしゃい」

 

 恵、麻耶、池が震える横で、千秋だけは気楽そうに手を振って寄越した。それぞれの実力の違いがよく分かる場面だった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 モール内に併設された百円ショップで、オレは次から次へと商品をカゴに叩き込んでいく。安さ優先で質はイマイチな代物が多いようだが、使えるのならどうでもいい。おかげで、実に雑多な品物がカゴの中には存在している。

 百均での買い物を終えたオレは、その足で書店へと訪れていた。『整理・整頓』と題打たれたコーナーに向かい、梱包用の――正確には『縛り方』について詳しく載っている本を購入する。

 また、家電量販店に寄ってビデオカメラも購入した。

 ついでとばかりに、食材も買っていく。

 流石にこれらを持ったまま歩いて帰るのは面倒だったので、サイクルショップに寄って自転車も購入した。

 

「……しまったな。コレが『衝動買い』というやつか……」

 

 手持ちのポイントを確認したオレは、思わず呟いていた。必要だから買ったまでだが、ポイントの大半が消え去っていたのだ。まだ数万程度の余裕はあるが、今後の要り様に対応できるか甚だ不安だ。

 

「て言うか、よくよく考えたら、オレって自転車に乗ったことがないじゃないか……」

 

 ホワイトルームでは自転車に乗ることなどなかったのだ。つまりは、それを忘れて買ってしまったということである。それが更に衝撃を上乗せさせる。

 歓迎会の際に櫛田から話を聞いており、便利そうだと思いこの機に購入したはいいが、これでは運搬用にしか使えない。練習すれば遠からず乗れるようになるとは思うが、今日、乗って帰ることは不可能だろう。

 その一方、こんなミスをしでかしたことに対し、不思議と喜びがあったのも否定はできない。オレ自身が意(・)図(・)せ(・)ぬ(・)ミ(・)ス(・)だからこそ、ホ(・)ワ(・)イ(・)ト(・)ル(・)ー(・)ム(・)か(・)ら(・)の(・)脱(・)却(・)を(・)果(・)た(・)し(・)て(・)い(・)る(・)と見ることも出来るのだ。

 

「こういうのを『気もそぞろ』と言うんだったか……」

 

 事前常識で知識を得てはいたが、オレ自身には縁遠いと思っていたのが事実だ。それを実際に体験してしまったのだから、何とも不思議でならない。

 それだけ、オレがオレの意思でアイツ等の変(・)化(・)に関わることを重視している証左なのだろうか……?

 そんなことを考えた瞬間、端末が音を立ててメールの着信を告げた。

 

「千秋か。何々、『TRPGのルールブックと十面ダイスを複数買ってきて』……? TRPGは、たしか『テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム』の略称だった筈だよな……? 事前に調べた『常識』で目にした覚えがある」

 

 再度、ピロリン。

 

「『追伸、システムはクトゥルフで。これなら綾小路くんも取っ付きやすいと思うし』……か。クトゥルフと言うとクトゥルフ神話か……? それを題材にしたTRPGがあるということか……? と言うより、この内容だとオレがプレイするのを前提にしているのか……?」

 

 メールの内容に頭を働かせていると、再びピロン。

 

「『TRPGは、綾小路くんの感情発達を促すための教材であり、私たちの演技力向上を目指すための教材でもあります。遊び道具ではありますが、単純な遊び道具ではありません』ときたか……」

 

 それを読んで記憶を探る。……ヒット。

 確かに、TRPGは作(・)成(・)し(・)た(・)キ(・)ャ(・)ラ(・)に(・)な(・)り(・)き(・)っ(・)て(・)遊(・)ぶ(・)、いわゆる『ごっこ遊び』の一種と認識されている。その趣旨を鑑みれば、『演技力』の養成にも繋がるだろうし、キャラになりきることで『感情移入』を促すことも出来るだろう。

 なるほど。確かに『綾小路清隆』であれば、表情を変化させたり感情を表に出すのは難しい。しかし、ルールによってそれを強制される状況下であれば、幾分かハードルが下がる可能性は否めない。

 そして、たとえ限定条件下ではあっても実際に効力があったなら、巡り巡ってオレに反映される可能性も捨てきれない。

 無表情で淡々と語るのは、場合によっては強(・)者(・)感(・)を出すのには役立つだろうが、それは実力が知られている前提だ。実力が知られていなければ、その分だけ効果は落ちる。必然、他人を動かすのもそれだけ難しくなる。

 確かに人は道理で動くが、道理だけでは動かないのも人なのだ。だからこそ、表情を動かし、相手の感情に訴えることで説得力を増すのだ。

 しかし、オレの場合は後者がほとんど機能しない。現状においては、理(・)に重きを置く人物くらいしかまともに動かすことは出来ない。

 オレ自身の能力が高いから、それでもどうとでもなる状況は多いが、ど(・)う(・)に(・)も(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)状(・)況(・)を想定して備えるのは自明の理だ。

 だからこそ麻耶の提案に乗った面があるのも事実だが、そうである以上、TRPGも確かに試すだけの価値はある。

 納得したオレは、踵を返して再度書店へと向かうのだった。

 

「いや、高えよ!」

 

 納得して買ったはいいが、その値段に思わず叫んでしまうオレがいた。

 それを『高い』と判断できるほどには、『一般常識』を習得できていることが判明した瞬間だった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「……と言うわけでペナルティの時間だ。各々、この中から自分がどれを受けたいか選べ」

 

 自室に帰り着いたオレは、そう言って買ってきた代物をテーブルの上に並べた。なお、並べただけで、それを使ってどんなペナルティを科すかについては一切言及していない。――ただし、説明責任を兼ねてペナルティ内容を書いた用紙は見せている。

 その上で、縄、ロープ、洗濯ばさみ、ろうそく、筆、ハリセン、ビデオカメラ、etc……といった代物が、所狭しとテーブルの上に、何なら床にまで進出して置かれているのだ。

 双方を見比べれば、自然とペナルティの内容にもそこはかとなく察しが付くことだろう。

 

「いや、選べって言われても……」

「制限時間は五分だ。五分以内に選べなかった場合、オレの独断と偏見により選ばせてもらう。もっとも、一つとは限らんがな」

 

 口答えする千秋を無視し、オレは一方的に言い放った。散財したことによる八つ当たりも含めている。

 

『ひいいぃぃ……っ!?』

 

 行き同様、恵、麻耶、池の三人が恐怖の悲鳴を上げながら身体を震わせる。

 この三人はただでさえ学力が低いのだ。つまり、受けるペナルティもそれだけ多い――可能性がある――ことを意味している。その状況でオレに判断を任せたら、たとえ『軽め』のペナルティといえど、オールコンプリートしてしまう可能性も捨てきれない。それを思えば、身体を震わせるのも道理だろう。

 

「質問だけど、私たちでペナルティを選んで、その上で複数のペナルティを受けることになった場合はどうなるの? 現状、私たちは自分がどれだけのペナルティを受けることになるかも分からないんだけどさ」

「いい質問だ。その際は都度都度選んでもらうことになる。同一ペナルティでレベルを上げるのもありだし、別のペナルティに切り替えるのもありだ」

 

 さっきは千秋の声を無視したオレだが、今度はきちんと答えてやった。耳を傾けるべき部分については、キチンと傾けなければならない。――逆説。質問されなければ答えない、ということでもある。

 

「質問。ペナルティの内容って言うか重(・)さ(・)は、全部同じくらいって考えていいの? 正直、とてもそうは思えないんだけど……」

「答えよう。ジャンルの中で『軽め』なのは間違いない。少なくとも、オレはそう判断している。――しかしその一方で、ジ(・)ャ(・)ン(・)ル(・)自(・)体(・)の(・)難(・)易(・)度(・)は(・)異(・)な(・)る(・)とも思っている」

「うん? つまりどういうこと? よく分からないんだけど?」

「分からないのならそれまでだ。それを自分たちで考えること、或いは自分たちの身を以て体験することもまた、お前たちの勉強だ」

 

 次に質問してきたのは恵。実に御尤もな質問であり、その予想は合っている。

 しかしながら、オレにはそれを馬鹿正直に肯定してやる気はなかった。理由は説明した通りだ。時には懇切丁寧に教えるのが必要なこともあるが、それは甘(・)え(・)を生み出すことにも繋がってしまう。だからこそ、時には自分で解を導き出すことも必要なのだ。

 

「要は四則演算と同じだよ。『足し算』、『引き算』、『掛け算』、『割り算』。計算の基礎にして初歩だけど、学ぶ順番があるでしょ? 普通、足し算や引き算を飛ばして掛け算や割り算を学ぶことはないけど、それは学んだところで理解できないからでもある。

 けど、これはペナルティだからね。綾小路くんにしてみれば私たちがペナルティを理解する必要なんてなく、重要なのはその内容――ペナルティで与えられる苦痛に私たちが耐えられるかどうかだけ。だからこそ、足し算レベルのペナルティと掛け算レベルのペナルティが混ざっていても不思議はない。

 確証はないけど、たぶんそういうことなんだと思う」

 

 冷静に、けれどどこか顔を引きつらせながらそう言ったのは千秋だった。

 

「正解だ、千秋」

 

 答えを導き出されたのなら、しらばっくれる理由もない。だから、オレは千秋の言葉を肯定してやった。

 

「っちゃ~、コレばっかりは外れていてほしかったなあ~」

 

 何て言いながら、千秋の目は極一部の代物に吸い付いている。『目は口程に物を言う』。隠そうとはしているようだが、興味津々なのは隠しきれていなかった。

 特に千秋の目が向かっているのは、縄、ろうそく、洗濯ばさみだった。並べた代物はいずれもペナルティの内容を想像しやすくしているつもりだが、その中でもこれらは上(・)級(・)者(・)向けだろう。いわゆる『SMプレイ』を想起させる代物だ。

 敢えてそれらに目を向ける辺り、千秋には被虐願望でもあるのだろうか?

 ああいや、課題の内容を鑑みれば、千秋にとっては簡単な部類である可能性は否めない。おそらく、千秋自身もミ(・)ス(・)は(・)少(・)な(・)い(・)と判断している筈だ。つまり、他の三人に比べ、千秋には重圧が足りないのだ。だからこそ、自主的にそれを補填しようとしている可能性もある。要はス(・)リ(・)ル(・)を求めているのだ。

 そう考えれば、件の代物に目を向けることにも納得がいく。

 

「じゃあ、私はコレで」

 

 そう言って、千秋が選んだのは縄だった。

 

「並べておいてアレだが、縄はまた今度だ。残念ながら、オレ自身が扱いに習熟していないんでな。そんなわけで、今回は同系統のロープで我慢してくれ」

 

 事実である。同じ緊縛を想定させる代物ではあるが、肝心のオレ自身が縄にも縛りにも習熟していない。その状況でいきなり縄から取り掛かれば、余計な怪我を負わせてしまう可能性は捨てきれない。最低限、オレ自身がロープを介してある程度緊縛に習熟しないことには、縄を用いることはないだろう。

 

「じゃあ並べないでよね。まあ、そういう理由なら仕方ないか……。うん、いいよ。ロープで」

「え……? 松下さんって、まさかM?」

 

 後ろずさりながら、それでもどこか興味を隠せず、麻耶が問う。

 

「違うってば! こういうとそっちに失礼かもしれないけど、重(・)圧(・)っていう点で私はそっちよりだいぶマシなのよ。だから、せめてペナルティのランクを上げることで釣り合いを図ろうとしたわけ」

 

 千秋は慌てることなく、笑みを浮かべながら片手を振って否定する。その言い分には確かに筋が通っており、だからこそ他の面子もすんなりと納得した。

 そうして、恵はろうそく、麻耶は筆、池はハリセンを選んだ。

 重複禁止とは言ってないんだが、見事にばらけたものである。或いは、言わなかったから自然とそう判断してしまったのか。

 とにもかくにも、これにて『中学総まとめ』に対するペナルティが決まったのだった。




偏に『苦痛』って言っても、作中で語ったように区分分けされると思うんですよね。
その中には単独で完結しているものもあるし、複数のタイプに重複するものもある。
で、防衛本能によって、認識を『苦痛』から、やがては『快感』へと転化する。
端的に言えば『ブルーロック』の『エゴイスト分類式』です。
実際がどうかは分かりませんが、本作では作中で語ったメカニズムに沿って各々の思考を転化させていきます。

敢えて自分からペナルティを選ばせることもあれば、清隆の方で勝手に決めることもあります。 
まあ、お話そのものも、育成そのものも始まったばかりですので、双方の都合から暫くは手探り状態が続きます。

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