よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES 作:山上真
「さて。各々にペナルティを選んでもらったところで実行に移るわけだが、その前にボーダーを説明しておこう。
正直に言えば、敢えて明らかにせずにそちらの恐怖心を煽るのも一興ではあるんだが、それだと千秋以外が不安なんでな……。実際、お前たちに解いてもらった問題集を確認した限り、尚更不安が高まった。いやまあ、小テストの点数の時点で分かりきっていたことではあるが……」
そう言って、オレはこれ見よがしに溜息を吐いた。言葉通り事前に想定していたことではあるが、実際に出来栄えを目にすると、呆れればいいのか感心すればいいのか分からなくなる。
「お前たちが目指すボーダーは、『主要五科目』と『総合』、それぞれ一項目につき75点だ。75%と言い換えてもいいがな」
「一項目に
オレの言葉に、四人は疑問を隠しきれないらしい。だがそんな中において、やはりいち早くオレの言いたいことに気付いたのは千秋だった。
「千秋は気付いたようだが、今回お前たちに取り組んでもらったのは市販の問題集だ。しかし、一言に『中学総まとめ』と題打っていても、問題集ごとに掲載方法の傾向が異なるようでな。
ある問題集では、主要五科目をそれぞれ単独で載せたあと、そのまとめとして総合問題が乗っている。だがそれとて、範囲を小分けにして五科目→総合、五科目→総合と繰り返すものもあれば、それぞれの科目で三年間の範囲を一纏めにし、最後に総合問題が一纏めに載っているものもある。
或いは、総合問題
流石に、この底辺連中とて受験の際には問題集の世話になったらしい。納得したように頷いている。
「今回は初回ということもあり『小分けタイプ』の一範囲をやってもらったわけだが、このタイプの問題集は難易度が簡単で順に取り込みやすくなっている反面、ペナルティを受ける機会も多くなる。最悪、『国語』、『数学』、『英語』、『理科』、『社会』、『総合』で一度に六回受けることになるわけだからな。
一方、後者になるにつれ問題が厳選されてボーダーのクリアが難しくなる分、ペナルティを受ける機会もそれだけ減る」
これにも納得したように頷き、次の瞬間、千秋を除く面子は顔を青褪めさせた。
「正直な。それぞれに得意不得意な教科や問題傾向もあるだろうし、基礎的な問題から始まっていることを加えると、さしものお前たちでも
再度溜め息。本当に先が思いやられる。
「そんなわけで、これから先は覚悟しろ。この結果を見ると、当初の想定以上に厳しくやっていかざるを得ん。――でないと、『独力での退学回避』なんて夢のまた夢だ」
故に言い放った。脅しではなく、紛うことなき本音である。
「そして結果発表だ。池寛治、ペナルティ回数六回! ……おめでとう、全滅したのはお前だけだ」
オレは池の肩にポンと手を置いた。優しい表情を浮かべていれば絵になったかもしれないが、生憎とオレの表情筋は頑固だからな。真顔ではどれだけの絵になったことか……。
「おお……のぉ……」
池はOrzとなって呻く。
「軽井沢恵、佐藤麻耶、共にペナルティ回数四回! 池よりはマシな結果だが、まだまだ底辺であることに違いはないため、これからも危機感を以て取り組むように」
オレは二人の肩にもポンと手を置いた。
「はは……。四回、か……」
「まあ、まだ序盤だもんね。コレから……。うん、そう。コレからの筈――だったらいいなぁ……」
恵と麻耶は池よりはマシな状態だが、それでも、揃って遠い眼差しでどこかを見やった。
「そして松下千秋。……おめでとう、ペナルティは無しだ。全ての項目でボーダーをクリアしたのはお前だけだ」
他の三人が酷すぎたためだろう。内容的には当然の結果であるのだが、不思議とオレの喜びも一入だ。
それ故か、気付いた瞬間、オレは千秋の頭を撫でていた。
「ひゅあっ!?」
不思議な雄叫びが聞こえたような気もするが、今のオレは一切そんなことを気にしない。今のオレに必要なのは、ささくれ立った心を癒すことなのだ。
暫し千秋のサラッサラの髪を撫でることで心の平穏を取り戻したオレは、部屋に初期設置されているPCの電源を入れる。
「残りの回数分のペナルティを決めておけ」
恵、麻耶、池の三人へと言い放ったオレは、PCを使って『スタンプカード』の作成に取り掛かる。ネットに転がっているフリー素材を活用すれば、そこまで難しいことではない。もっとも、接続速度に難があるのは否めないが……。
「何やってるの?」
手持無沙汰なのだろう。千秋がオレの後ろからPCの画面を覗き込んだ。
「まだ必要ないかとは思っていたんだがな。流石に、こうも一度にペナルティを受けるようだと、今から作っておいた方がいいと思ってな……」
画面の中には、『ご褒美カード』、『ペナルティカード』と題打たれたスタンプカードの姿がある。特にペナルティカードの方は、コピー&ペーストを用いて幅広く用意している最中だ。『緊縛』や『痛打』といったジャンル別で必要になるのだから仕方がない。
項目としては、名前欄、ジャンル欄、レベル欄などを用意していく。
デザインに凝る必要はないので、割と簡単に作成が終わった。
「しまったな、プリンターがない」
印刷しようとして、そのことに気付いた。さっきの自転車のことといい、どうにも抜けているな。
オレは仕方なしに打ち込んだジャンル名を消していく。プリンターがない以上は知人のプリンターで印刷するか、スーパーやコンビニ、学校なんかの印刷機を活用するしかないわけだが、流石に『緊縛』だの『露出』だのと書かれたそれを大々的に印刷するわけにはいかない。
「ちょっとコンビニで印刷してくる」
PCから端末へと作成したデータをコピーしたオレは、そう言ってコンビニへと向かう。
「私も一緒に行く」
なんでか千秋もついてくることになった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
ポイントカードの印刷を済ませたオレは、千秋にも手伝ってもらって、切り取り、カードとしての体裁を整えていく。
切り取り終わったら、PCでは消し去ったジャンル名を改めて書き込んでいく。
率直に言って面倒だ。ポイントに余裕が出たら、今度はプリンターを買うことにしよう。
そんな決意を持ちながらカードの作成が終わる頃には、池たちもペナルティを決めたらしい。
「さて、今後はコレを活用していく」
そう言って、オレは出来たばかりのスタンプカードを一同に見せる。
「ご褒美カードとペナルティカード……?」
「恵と麻耶はまだマシだが、池の結果が想像以上に酷かったものでな。元から用意するつもりではあったが、急遽用意したわけだ。
見ての通り、ペナルティカードの方にはジャンル欄とレベル欄が存在する。文字通り、カードはジャンル別、かつレベル別で存在することになる。
今回、最初に池はペナルティにハリセンを選択したわけだが、これは『尻叩き』――『痛打』に該当する。この時点で、池の『痛打』のペナルティカードのスタンプ欄が一つ埋まることになる」
言いながら、オレはレ点を入れる。スタンプを買っていないため仕方がない。どうせ人前で見せるわけでなし。分かればいいんだ、こんなもの。
「こうして徐々にスタンプが埋まっていき、すべて埋まると同ジャンルのペナルティレベルが一つ上昇する。
早い話、簡単な課題でペナルティが嵩むようだと、課題内容に反するほどに重いペナルティを受けることになりかねないわけだ。……お前たちの危機感を煽るには十分だろう?
ああ、そうそう。今朝のジョギング分も加算されるからな。恵と麻耶は『露出』に2ポイントの加算。千秋は1ポイントの加算だ。池には別のペナルティが科せられているため、スタンプの加算は無しだ」
ゴクリ。ペナルティを受ける面々が揃って息やら唾を吞んだ。
「一方、今回ペナルティを見事に回避した千秋には、ご褒美カードにスタンプが捺される。これが全て埋まった場合、オレに対してご褒美を要求できるわけだ。
ただ、ご褒美にもレベルを設けているが、内容についてはまだ詰めていない。環境やら心境の問題もあり、世間一般的な難易度と釣り合いが取れるとは限らないからだ。そのため、ご褒美に関しては都度都度オレに確認を取ってもらう。オレが『受けても構わない』と判断すれば、ご褒美が実行される運びとなる」
言って、オレは千秋のご褒美カードにレ点を付けた。
「ご褒美を手に入れるため、或いはペナルティを回避するため、お前たちは否応なく真剣に課題に取り組む必要が出てくる。
努力が足りなければ課題内容に反した重いペナルティを受けることになるだろうし、それが続けば精神的に腐り果てて退学の可能性がそれだけ高まる。
言ってしまえば、負債が溜まっている奴ほど、能力が足りない奴ほど、より努力しなければならないわけだな」
結論としてはそうなる。
イジメを受けていたらしい恵には情状酌量の余地があるが、単に不真面目に過ごしていたが故の麻耶と池に情状酌量の余地はない。
だが、恵も恵で、『両親にイジメを受けていることを訴え、転校を希望する』など、やりよう次第では『イジメからの脱却』を果たせていた可能性もあるのだ。その点を考慮すれば、『気付き、実行できなかった』という点で、やはり情状酌量の余地はない。
厳しいようではあるが、それが現実だ。
「とはいえ、まだ始めたばかりだからな。暫定的なシステムだと思っておけ。改良・改善の余地は十分にある。
特に『露出』の項目なんて、身内向けと対外向けで分けることも可能だからな。
身内向けであれば、閉鎖環境で実行してオレたちが事情を知る口を噤めば、対外的な問題にはなり得ない。反面、マンネリを生み出し、危機感の欠如に繋がりやすい状況を生み出すことにもなりかねない。
かといって対外的な露出に力を入れすぎれば、問題が表面化する可能性もそれだけ大きくなる。少なくとも、一般常識に反した行いであるのは事実だからな」
分かりやすく『露出』を例に挙げたが、他にもそういう部分はある。その上で、対外的には問題視されないようにしながらコイツ等を追い詰めなければならないのだ。我ながら、何とも難しい舵取りを求められたものだ。
「ひと通りの恐怖と安心感を与えたところで、いよいよペナルティ実行だ。そんなわけで池、尻を向けろ。前以て言っておくと、痛打は十叩きでワンセットだ」
オレはハリセンを手に持って池へと告げた。流石に女子が相手ならともかく、野郎の尻を素手で叩くつもりはない。たとえそれが着衣越しであったとしてもだ。
「しゃあねえ、俺も男だ! っしこい、綾小路!」
池は四つん這いになって、尻を高々とオレの方へと掲げた。
スパンッ! スパンッ! ……百均で買ったハリセンで叩いているとは思えないほどにいい音が鳴り響く。
「イテッ! イダッ! アダッ! ……」
応じ、池の悲鳴も鳴り響く。しかし、何ともまあ汚い悲鳴である。全く気分が盛り上がらない。
ワンセットを終えると、池は既に息も絶え絶えだった。全く以て情けない。これでは、一休みさせないと次のペナルティには取り掛かれないだろう。無理に実行すれば池が耐えられまい。池だから構わない気もするが、それで女性陣の育成に良からぬ影響が出るのは避けたい。
「次は……順番的には恵と麻耶か。どちらが先にやる?」
オレの言葉を受けた二人は池をチラリと見やり、次いで顔を見合わせた。
「勝った方が後で」
「それでいいよ」
そして、そんなことを宣ったかと思えばジャンケンをやり始めた。まあ、無難な決め方だろう。
二人が熾烈なジャンケン勝負を行っている間に、オレは恵のペナルティに必要な『ろうそく立て』、『チャッカマン』、『灰皿』、『濡れタオル』、『水入りバケツ』といった道具を用意していく。
そんなことをしている間に勝敗はついていたようだ。勝者は麻耶、敗者は恵である。
「じゃあ、恵。腕を出せ。言うまでもないだろうが、この一本丸々を受けるのがペナルティだ」
オレはろうそくを見せつけながら恵に命じた。もっとも、一応は安全面を考慮して一番小型のろうそくだ。小さいだけに燃え尽きるのも早いだろう。
「大丈夫。大丈夫。これは試練。イジメじゃない。頑張れ私。私は過去を乗り越えるのよ」
恵は目を瞑りながら、ブツブツと呟いている。内容を鑑みるに自己暗示の類だろう。
そして目を開けた恵は上着を脱いで、ズボンの裾も捲った。
「片手だけだったりすると逆に耐えられないかもしれないから、両手両足満遍なくやっちゃって」
次いで、そんなことを言ってきた。
その言い分には一理ある。オレは頷きを以てその覚悟に応えることを示した。
ポタリ。ポタリ。
着火したことにより蝋が溶け、恵の身体を目掛けて落ちていく。
「あつっ!? つぅ! くぅっ!」
その都度に、恵は顔を顰めながら小さな悲鳴を洩らす。正直、池の尻を叩いた時に比べると何倍も気持ちが昂る。コレが『嗜虐心』というやつなのだろうか……?
しかし、だとするなら池相手でも昂りを覚えて然りの筈。だが、現実にそんなことはない。だとすると、可能性が高いのは相手が女子だからか……?
そんなことを考えているうち、小型ろうそくは一本丸々燃え尽きてしまった。
恵の肌の至る所には、落ちた蝋が固まって白みを帯びている。
「よく耐えたな」
言って、オレは濡れタオルで恵の身体を拭いていく。千秋と麻耶も手伝った。
「さっきの見てたら、なんか私、興奮しちゃった……」
「うん、私も……。軽井沢さんの表情と声でゾクゾクしちゃった……」
恵の身体を拭きながら、千秋と麻耶がそんなことを呟く。……なるほど。嗜虐心を刺激されたのは、どうやらオレだけではないらしい。
「さあ、次は麻耶だ。……まあ、内容的には一番軽いペナルティだからな。その分だけ、ちょっと重くいくぞ」
言って、オレは恵と千秋、池にも筆を渡した。もちろん、オレ自身もキチンと持っている。
「へ……? あの~、綾小路くん? もしかしなくても、全員で一斉にってオチですか?」
「ま、そういうことだ。時間は……どのくらいが妥当なんだ?」
「取り敢えず、二分くらいでいいんじゃない? ヤバそうなら途中で止めればいいんだしさ」
オレの問いかけに、嗜虐的な表情を浮かべながら千秋が答えた。先程の昂りは、未だ治まっていないらしい。
「じゃあそういうことで。……スタートだ」
オレの言葉に従い、四人一斉に手に持った筆で麻耶の身体を撫で繰り回す。
「あひゃ! わひゃ! うひゃひゃひゃ! ちょ……! ま……! これ……! マジで! ヤバ……! たえられないってば! ひゃひゃひゃひゃ……!
抗議と、笑い声と、涙と、笑顔と……実に様々なモノを麻耶は零した。それはまさに『女の子にあるまじき醜態』と言ってもよく、これまたオレの嗜虐心を刺激することになった。
そしてタイムアップのアラームが鳴り響いた時、先程の池同様に麻耶も息絶え絶えとなっていた。……ゆっくり休め、麻耶。お前には、まだ三つのペナルティが残っている。
三人一巡したことにより、再び池のペナルティがやってきた。
「質問なんだけどよ、お前じゃなくて女の子に叩いてもらうんじゃ駄目なのか? 俺もお前よりは女の子に叩かれる方が嬉しいし、女の子の方も俺を叩くことでストレス発散になる部分もあるんじゃね? それに、結局叩かれることに変わりはない以上、痛えことに違いはないんだし。……どうだ?」
すると、池からこんな質問が出てきた。
そう言われれば、頷ける部分はある。
「そっちがいいなら私は構わないよ。私自身、ちょっとSっ気を刺激されちゃったみたいだしね」
「私もオーケー」
「はぁ、はぁ、私も乗った。くすぐられた分、やり返すんだ……」
そうして、何と池は怒涛の『痛打』三スタンプを宣言した。
その後は、池の汚い悲鳴が鳴り響き、それによってささくれ立ったオレの心を和ませるかのように、恵と麻耶の悲鳴が鳴り響くのであった。
傾向として、恵は肉体的苦痛に繋がるペナルティを選ぶことが多かった。目的の一つに、『イジメられた過去の払拭』があるからだろう。
精神的苦痛も相応に受けているだろうが、肉体的苦痛の方が、より根深く印象付けられているからだと思われる。以前の告白によると、左脇腹付近にイジメで負った傷が消えずに残っているみたいだからな。それを鑑みると、そう的外れな推測ではない筈だ。
一方の麻耶は、物理的、乃至は精神的な痛みが少なそうなものから順番に、といった感じだ。それもまあ、スタンスとしては間違っていないだろう。
唯一ペナルティを受けることのなかった千秋は、最後の方になると悩まし気な表情を浮かべているのが印象的だった。
「明日以降だが、早朝ジョギングは不定期開催とする。
一方、問題集は基本的に毎日解いてもらう。登校したら、朝の時点で問題集をそれぞれに渡す。そして放課後に回収する。必然、お前たちは休み時間を活用して解かなければならない。
下校したら、だいたい19~20時の間にオレの部屋に集まってもらい、そこからは22時までペナルティの実行に充てる。余った時間は自由にしていい。とっとと部屋に帰るでも、オレに勉強を教わるでも構わない。
オレも放課後には予定が入っているからな。ポイント稼ぎに繋がる面もあるし、お前たちに付きっきりではいられない」
「了解。人前で脱ぎたくなければ、自発的に早朝ジョギングに取り組んで、早起きの習慣を付けると同時に身体能力の底上げに努めろってことね?
その一方、早起きしようと思えばそれだけ早く眠る必要があるから、毎回22時まで綾小路くんの部屋に残るのは効率が悪い……と。
まったく。嫌らしい選択を突き付けてくるね?」
「お前たちにはそれが必要だろう?」
四人に
こんな感じで、毎日の勉強を強制させつつ、自発的に身体能力の向上にも取り組ませます。
作中で語ったように、序盤は池>恵≒麻耶>千秋の順でペナルティレベルが上がりやすくなっています。これは四人の学力的に仕方ありません。
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