よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES 作:山上真
「ふわあぁぁ……。眠い……」
五月七日、早朝。
今日は連休明けの登校日だというのに、私は朝も早くからアラームによって叩き起こされていた。具体的には午前五時。まあ、この時間にセットしたのは他ならぬ私自身だから、誰にも文句なんか言えないんだけど……。
昨日の早朝ジョギングは、集合時間が午前五時半だった。そしてそんな早朝起床に慣れていない私は、案の定寝坊して遅刻してしまい、ペナルティを余儀なくされた。
また、遅刻したのは佐藤さんと池くんも同様で、遅刻しなかったのは指導官である綾小路くんを除けば松下さんだけ。普段は手を抜いていたとの自己申告だったけど、この辺りがそこら辺を裏付けているように思う。
ジョギング自体は不定期で、次回の実行日も未定なら、集合時間も未定だ。しかし、指導官である綾小路くんが私たちの実力を疑問視すれば疑問視するほど、集合時間が早まることはあれ、遅くなることはないと思う。
中学時代、イジメによって碌に勉強が捗らなかったこともあって学力は低いけど、頭の回転自体はそこまで悪くないのだ。だから、私でもその程度の予想を立てることは出来るのだ。……と、せめてもの自己弁護をしておく。
実際のところがどうかなんて分からない――って言うより、正直に言って自信はないが、少しでも自分で自分を慰めないことにはこれから先が耐えられそうにないのだ。
こうしている瞬間にも、綾小路くんの目を思い出す。思い出してしまう。どこまでも冷たく、だからこそ私を惹き付けて止まないあの瞳を。
同じクラスにいたときは気付かなかった。まあ、それだけ私が彼を眼中に入れていなかったことの証明に他ならないんだけど――だからこそ、一度目にしてしまえば、自分の迂闊さを呪わずにはいられない。
彼の瞳に
私をイジメていた奴らには、私をイジメることに対する悦があった。他人を傷つけ苦しめることに愉しみを見出す欲があった。
中学時代の私は、それが怖かった。理解できないからこそ怖かった。
逃げ出すことも考えた。けど、親の世話になっている子供には難しい。相談して受け入れられればいい。けれど、もしも否定されたら? そう考えると、相談するための一歩を踏み出すことが出来なかった。
現在の不景気振りは私でも知っている。ブラック企業が横行する中で、両親は苦労しながら夫婦共働きで働いているのだ。それもこれも、一度失業してしまえば、正社員雇用が叶うか分からないからだ。以前、夕飯の席で酔っ払ったお父さんがそんなことを言っていた。
だから、私は我慢した。いずれ飽きるだろうと、根拠のない期待に縋った。――その果てが、左脇腹に刻まれた消えない傷だ。
流石に、こんな傷痕が付けられてしまえば問題の表面化は避けられない。私は病院に担ぎ込まれ、お医者さんから学校と両親、はたまた教育委員会や警察にも連絡がいき、私をイジメていた連中や、イジメに気付いていながら黙認していた教師にも処分が下った。
だけど、そんなことは何の救いにもならなかった。アイツ等に処分が下ったところで、私の傷が消えるわけではないからだ。心が癒えるわけではないからだ。
そして、ひとたび事が大事化してしまえば、事態は私の意思を蔑ろにして否応なく私やその周囲を巻き込んでいく。事情聴取やマスゴミが分かりやすいところだろう。
日を追うごとに私は精神的に消耗していき、見兼ねた先生がこの学校を薦めてくれた。そこには、『全くの新環境での療養』も含まれていたんだと思う。実際、『寮生活の義務化』に『三年間の許可なき外部連絡の禁止』という項目は、私を前向きにさせるには十分な要素を持っていた。
そうして私は、見事この学校に受かったわけだが、イジメによって植え付けられたトラウマは根深い。私はイジメを受けないことを最優先にし、平田くんに寄生した。
果たして、それは成功だったのか失敗だったのか……。
綾小路くんは、その実力も精神性も高校生離れしている。もっと率直に『人間離れ』と言ってもいいかもしれない。先入観に囚われず、もっとよく見ていれば、私はもっと早くに綾小路くんの実力に気付くことが出来ていたのだろうか……? 彼は私を受け入れてくれただろうか……? 庇護者になってくれただろうか……? ――考えても分からない。
現在の綾小路くんのスタンスは、あくまでも星之宮クラスの方針に沿ったものだ。Dクラスに在籍したままでは叶わなかった可能性も十分にある。
初めて真っ向から綾小路くんと向き合い、その目を見た瞬間に思った。彼であれば、淡々と、それこそ作業でもするかのように、私をイジメた奴ら以上の傷を私に付けることが可能だろう。そしてそのことに、感情を揺らがせることもあるまい。
明確な意識を以て傷付けられることと、無造作に傷付けられること。果たして、傷付けられる側はどちらが怖いか? 他の人の答えは知らない。だけど、私にとっては確実に後者だ。だって、私自身が何も刻まれないからだ。相手の記憶に残らないからだ。それでは、私は何のために傷付けられるのかも分からない。それはとても怖い。
そして、だからこそ不幸中の幸いだった。
「フフ……」
私は笑みを零し、両手を撫でる。両足を撫でる。お尻を撫でる。手首を見る。
それらは、昨日、綾小路くんにイジメられた場所だ。蝋を垂らされた場所だ。ハリセンで叩かれた場所だ。ロープで拘束された場所だ。下着は残したままだったけど人生初のストリップもやって、ビデオカメラに撮られもした。
あくまでも『ペナルティ』という名目であり、それだけ私のデキの悪さの証明とも言える。そう考えれば情けなくて涙が出そうだ。
その一方で、綾小路くんにイジメられた分だけ、中学で私をイジメていた奴らに対する恐怖がスウッと消えていくのだ。もっとも、アイツ等の存在が決して記憶から消えたわけではない。憎悪は消えずに残っている。
おそらく、『毒を以て毒を制す』というやつなのだろう。綾小路くんという、より強い恐怖を味わうことで、相対的にアイツ等への恐怖が薄れていくのだ。
それでいて、綾小路くんは私に対する情動をそこまで持っていないため、恐怖が一定以上には上がらないのだ。あくまでも『行為』に対する恐怖に襲われるだけで、それを上昇補正する要素がない。
これまでは、否応なくイジメられていた時のことを思い出していたため、その分だけ襲い掛かる恐怖も膨れ上がっていたのだが、肝心のトラウマ部分の恐怖が一部とはいえ塗り潰されたわけである。
たぶん、
「あ~、ヤバい。溺れそう……」
このまま綾小路くんからペナルティを受け続ければ、やがてはトラウマも完全に払拭されるだろう。
そうなってしまえば、次に私が耐えられなくなるのは『綾小路くんに意識されない』ことだ。推測が正しければ必然的にそうなってしまう。だって私は、中学時代のイジメより綾小路くんの無機質さに恐怖を抱いているのだから。
逆説。彼が私を意識してくれるのなら、私という存在を彼に刻み込んでくれるのなら、それはこれ以上ないほどの救いだろう。
しかし、そうなるためには私自身の成長が、実力向上が必要不可欠だ。有象無象を綾小路くんが必要以上に意識する必要はないのだし、そもそもにしてそんな存在は遠からず退学を余儀なくされるだろうから。
「あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず……か」
実力の向上は退学の可能性が低下する反面、ペナルティを受ける機会の減少にも繋がる。そしてペナルティを受けなければ、私がトラウマから解放されることもない。……何ともまあ厄介なことだ。
「なるほど。だからこそのご褒美カードか」
つまり、ペナルティとして受けるのではなく、同じ内容の行為を
しかし、それであれば、より綾小路くんに印象付けられる可能性が上がるのも事実である。ペナルティとしてのみ縛られることを許容する人物と、自分から縛られることを求める人物。どちらが強く印象に残るかなど考えるまでもない。
「まあ、まだまだ先の話よね……」
現状において私の実力が底辺なのは否定できない事実。これではご褒美カードを埋めるなど『夢のまた夢』だ。だからこそ、いまは一歩一歩着実に力を付けていくことが重要なのだ。
気合を入れた私は、ジャージに着替えて早朝ジョギングに繰り出すのだった。
その先で、佐藤さんと松下さんに遭遇したのは言うまでもない。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「しっかし、二人とも起きてきたんだね?」
「そりゃねえ~。初日であんだけペナが積み重なっちゃたら、流石に危機感を覚えずにはいられないって。
いやまあ、私の方から言い出したわけだけど、まさかあそこまで容赦がないとは……。――いや、実際には十分に容赦してるんだろうけどね?」
松下さんの言葉に、佐藤さんが答えた。
佐藤さんの言葉には同意せざるを得ない。本人の同意があるとはいえ、よもや何の躊躇もなくストリップを強制させ、それをビデオに収めるとは……。普通の感性をしていれば、まず間違いなく躊躇する。しかし、綾小路くんには一切の躊躇がなかった。
「そこに本人の欲が見えないのを、幸いに思えばいいのか、それとも残念に思えばいいのか……。いやまあ、女の子としてはね。どうしてもそんなことを考えずにはいられないって言うか……」
主語がない会話が繰り広げられる。と言うより、内容が内容だけに主語を出せるわけがない。
それでも、事情を知る者には伝わる。何を指しているのかもニュアンスでだいたい分かる。
「正直に言うとさ~、昨日、二人のことが羨ましくなっちゃって。ペナを受けずに済んだことに安堵はしてるんだけど、その一方で『蚊帳の外』に置かれた気持ちになっちゃったんだよね」
途中、松下さんがそんなことを言った。
「ああ~、分かる分かる。あるよね、そういうこと」
「赤信号の場合、青に変わるのを待つのが正しいと頭では分かってるのに、車が来ないからって誰か一人が渡り始めちゃうと、自分も渡らなきゃいけない気持ちになったりね」
佐藤さんが同意を示し、私もそれに続いた。ニュアンス的にはそれほど間違っているわけではないだろう。
「そうそう! そういう感じ!」
実際、松下さんはパチン! と指を鳴らして肯定した。
駄目だと言われたからこそやりたくなる。イケナイからこそやってみたくなる。『反骨心』の一言では済まされない、人間として当然の衝動と言ってもいい。
その一方で、それは
「だからもうしんどくてさ~。私、基本が安定志向だからこういう風にコツコツと努力することは嫌いじゃないんだけど、だからこそなのか、たまにはっちゃけたくなるって言うか、スリルを求めるところがあるのよね~」
『ああ、昨日のチョイスってそういう……』
図らずも、私と佐藤さんの言葉が重なった。
つまり、捲し立てていた言い訳は、文字通りに『言い訳』でしかなかったわけだ。一定の筋が通っているから納得してしまったが、松下さんが縄を選んだ本当の理由は、『緊縛という
日常生活の中、ろうそくで火傷することはあるだろう。仲のいい友人と遊んでいれば、ふざけ合って互いの身体を叩いたり、くすぐったりすることもある筈だ。体育の授業の際などに、着替えシーンを撮られることだってあるかもしれない。
そういう
そしてそれを、私はどうこういうことが出来ない。非難することが出来ない。何せ私自身、綾小路くんにイジメられることを今か今かと待ちわびているのだから。
果たして、私と松下さんのどちらが
「あ~、でも私も偉そうに松下さんを非難できないしな~。何せ、こんな手を取った理由の一つには、『正攻法だと綾小路くんみたいなイケメンとお近付きになれない』って考えがあったわけだし」
「そういえば、そんなことを言ってたね」
つまりアレだ。この場の三人全員に、大なり小なり『綾小路くんとお近付きになりたい理由』が存在するわけだ。
基本的には道義を遵守し、それでいて必要とあればどこまでも道義を無視できる、無視してしまえる。そんな人材、そうそう存在するわけがないのである。
そして、だからこそ私たちは綾小路くんに惹かれているわけだ。
「取り敢えず、抜け駆けなんかは考えず、まずは全員で協力して、綾小路くんに私たちを意識させるところから始めましょ?」
「御尤もな意見だけど、それがまた難題だよねえ~」
「強者は弱者を気にかけない。然るに強者である。……と、こういう論法もあるわけだからね。
その一方で、綾小路くんは
綾小路くんの行動を鑑みた場合、松下さんの意見は確かに筋が通っているように思えた。
仮に綾小路くん自身が弱者になりたがっているというのであれば、私たちを意識させられる可能性は十分にある。形なんてどうでもいい。あんな飛びぬけた存在が相手である以上、形に拘ってなんかいられないのだ。
『うん!』
私たちは顔を見合わせて頷き、手を重ね合わせた。
私たちによる同盟関係――『綾小路くんを堕とす会』が結成された瞬間だった。
一言に『トラウマ』って言っても、細分化していけば比重は分かれると思うんですよね。
誰にやられたか、何をやられたか、その時相手はどのような表情をしていたか……等です。
まあ、そんなんを冷静に考えられないからこそのトラウマだとは思うんですけど、綾小路であればそこら辺を塗り潰してしまってもおかしくはないと思います。
そんな風に考えた結果、本作では恵にもそうなってもらいました。
『ペナルティ』と題打っていても、イジメと大差ない内容もありますしね。
結果、常に精神の一部を圧迫していた恐怖の記憶が綾小路の行いによって上書きされたため、幾分か精神状態がマシになりました。
そして、恵自身もそのことを自覚しています。
タイミング的に、理由として考えられるものなどそう多くはありませんからね。であれば、その理由をペナルティや綾小路と結び付けることも難しいことではありません。
少なくとも、本当に合っているかはともかく、恵はそのように考えています。
実際、『分からなさ加減』においては、自分をイジメていた連中よりは綾小路の方が上でしょうし。
分からないからこそ、恐怖し、その一方で強く惹かれる――つまりは印象に残るわけです。何もおかしなことではありません。
そして、ペナルティの内容こそイジメと大差ないものであっても、その理由は理不尽なものではありません。
赤点だと退学→バカのままだと退学を避けられない→バカさ加減故に罰を受ける→簡単な罰だと罰にならず、罰を避けるための努力にも身が入らない→退学。
恵自身の中でもこんな方程式が出来てますので、感情的には納得がいかなくても、理屈の上では理解が出来ているのです。
問題集が『中学総まとめ』なことも大きいです。理屈としては『高校生は既に学んだ範囲であり、理解できていて当然』となってしまうからです。
それもまた、恵の精神の安定化に繋がっています。人間、自分で納得できる部分が大きければ大きいほど、理不尽な状況でも受け入れてしまうものですからね。
そんな何やかやが働いた結果、本作の恵は綾小路に染められたくなると同時、綾小路を染めたくなってしまいました。
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綾小路清隆の童貞卒業相手は誰がいいですか?
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一之瀬帆波(まだノーマルな方)
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佐藤摩耶(まだノーマルな方)
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軽井沢恵(アブノーマル:和姦)
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椎名ひより(アブノーマル:和姦)
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松下千秋(アブノーマル:和姦)
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神室真澄(アブノーマル:最終的に和姦)
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坂柳有栖(アブノーマル:最終的に和姦)
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