よう実 ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ IF SRORIES 作:山上真
今日も今日とて頑張って早起きをした私は、寮のロビーで松下さんと軽井沢さんの二人と合流した。
なお、昨日もそうだが特に約束しているわけではない。ただ、初日の印象が強かったこともあってか、誰もが五時半を目途にしているみたいだ。
互いに挨拶をし、寮から出たところで準備運動に取り掛かる。これもまた初日のなぞりだ。
ただ、初日と違うところがあるとすれば、私たち全員の顔が心なし赤いことだろうか。
「凄かったね……」
ポツリ。気付いたら呟いていた。
『うん』
二人は頷いた。
「おっきかったね……」
今度は軽井沢さん。
『うん』
私と松下さんが頷いた。
「舐めちゃったね……」
『うん』
そして松下さんが言い、私と軽井沢さんが頷いた。
正直、昨日の印象は綾小路くんのTレックスに全てを持っていかれた感がある。昨日は雰囲気に流されちゃってたけど、一晩眠って落ち着いちゃったら、逆に強く意識するようになってしまった。――と言うより、意識せずにはいられないって!
それを思えば、むしろ今日はよく起きれたものである。
「引き金を引いちゃったのは私なんだけど、昨日ほど
苦笑しながら松下さんが言った。
それについては心底同感だ。まさか、彼氏も出来ていなければキスもまだだというのに、それよりも先に男の子のオチンチンを舐めることになるとは……。我ながらビックリである。
だからこそ、尚更あの
「アレが入るのよね? 本当に入るのかしら……? てか、耐えられるのかしら……?」
軽井沢さんが言った。
想像してみる。……無理無理無理無理! 私の方が壊れそうだ。――でも、興味があるのも事実である。
「耐えられるように、今は体力つけよっか」
いやまあ、実際にそんな日が来るかはともかくとして、想像するのは大切である。女の子だって性欲は持ち合わせているのだ。
「うん」
「そうだね」
私の言葉に応えるように軽井沢さんと松下さんが続いた。
心なし、今日は全員が昨日以上に力を入れて走った気がする。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「はぁ……」
放課後、私は溜息を吐いていた。問題集は一ページとて進んでいない。
昨日、問題集の回収を、『夜、綾小路くんの部屋に集合してから』としてくれるように交渉していなかったら本当にヤバかった。
綾小路くんも、私たちが休み時間だけでやるのは無理があると判断したのだろう。
たかが12ページ。――されど12ページである。
綾小路くんや松下さんにとっては問題にならないレベルであっても、私や軽井沢さん、池くんにとっては難問――とまでは言わないにしても梃子摺る問題なことに違いはないのだ。
彼自身、放課後には予定が入っており、必然として私たちの面倒を見ることなど出来ないためか、その申し出を素直に認めてくれた。
だが、その余裕も刻一刻となくなっていく。時間を無駄にしている危機感はあるのだが、どうしても身が入らないのだ。
「ほらほら、いつまでも色ボケしてないの!」
手を打ち鳴らし、松下さんが私と軽井沢さんに注意を促した。
言うことは御尤もなので問題集に向き直るのだが、気はそぞろである。
「はぁ……」
頭の中に思い浮かぶのは、綾小路くんのTレックスから派生し、昨日以上の行為に耽っている光景が、或いは普通にデートを楽しんでいる光景ばかりだ。それらが悶々と繰り広げられる。
これじゃあいけない。真剣に問題集に向き直らなければ! ――そうは思っても、妄想は止まらない。紛うことなき色ボケである。
問題は目に入っているのに、意識するのが難しい。それでいて、手はサラサラと淀みなく動いているのだから不思議なものだ。そして、そうと気付いた時には既に総合問題も終えていた。
「これって……」
どうしてか松下さんが絶句している。何かあったんだろうか?
そんな私の疑問は、夜になって氷解した。
「恵に麻耶、お前たちに何があった?」
それぞれの問題集を確認し終えた綾小路くんが、そんなことを言ってきたのだ。
だが、そんなことを言われても私には心当たりなどない。そしてそれは、どうやら軽井沢さんも同じようだった。自然、私たちは顔を見合わせた。
「自覚がないのか? お前たち、揃いも揃って完答しているんだぞ。オマケに一問たりともミスがない。――オレが疑問に思うのも当然だと思うが?」
その言葉には、逆に私たちの方が驚いた。
「マジで!?」
「ホントに!?」
綾小路くんの部屋に、私たち二人の声が響いた。
「マジで本当だ。……その様子だと、本当に自覚がなかったようだな。――いや、本当にお前たちに何があった?」
「何があったって――」
「言われても――」
『――ねえ?』
私と軽井沢さんが順に口を開き、最後には顔を見合わせて首を傾げた。
「今日はほぼほぼ悶々としててさ。真っ先に思い浮かぶのは綾小路くんのTレックスで、昨日以上の行為を行っているシーンを妄想したり、或いは普通にデートを楽しんでいるシーンを想像したりで、正直、問題集をやってる間も気が気じゃなかったって言うか……。頭で考えてることとは別に、手が勝手に動いてたって言うか……」
正直、そうとしか答えようがない。答えるのは恥ずかしいけど、言わないわけにはいかないだろう。
「私もそんな感じ」
どうやら、軽井沢さんも似たような感じだったらしい。
「無意識下の行動ということか……? 問題集を解くことを必要と認識し、それでいて余所事に気を取られていたから、身体の方が勝手に動いたと……? 可能性だけならあり得なくはないが……」
ブツブツと呟きながら、綾小路くんは顎に手を置いて考え込んでいる。
「千秋と池から見て二人はどんな感じだった?」
「あ~、終始『上の空』って感じだったな。それでいてペンはドンドンと進んでいくんだからこっちの方が驚いた」
「私も似たような感想かな」
綾小路くんは池くんと松下さんにも私と軽井沢さんの様子を訊いていたが、やはり結論は出ないようだ。――と言うより、事例が少なすぎて出せないのだろう。私だってこんなのは初めてだ。
過程に思うところはあれ、結果は結果。私たち女性陣は全員がペナルティを回避し、ご褒美スタンプをゲット。ペナルティを受けるのは池くんだけと相成った。
視線の先で、池くんがロープで拘束されていく。綾小路くんの動きに戸惑うところはなく、瞬く間に池くんは動きを封じられた。
縛られた池くんが目に入る。――正直に言おう。誰得だ!
何やかや、池くんが選択するペナルティ傾向は大方決まっている。ストリップ――ただし、女性陣と違い撮影はない――、緊縛、くすぐり、尻叩きだ。
本音を言うと、池くんが進んで『縛り』の練習台になってくれて助かっている部分もある。縛りは縛りでも、綾小路くんの中で『緊縛』と『拘束』には明確な違いがあるらしい。
緊縛とは、すなわち対象を
そして綾小路くんは、どういうわけか拘束術には覚えがあるらしい。おかげで『縛る』という行為自体は非常にスムーズなのだが、そこに
「イデ! イデデデデ!」
結果、しょっちゅうこんなことが起こる。きつく縛りすぎて痛みが生じるのだ。私も受けたことがあるが、やはり痛かった。それでも、女性陣に対しては若干の手心を加えているらしいのだが……。
モデルが池くんだからかあまり美しいとは感じないが、彼が進んで練習台になってくれるおかげで、綾小路くんが手加減の塩梅を学び取っていることは間違いないと思う。
ペナルティを受けるのが池くん一人となれば、ダメージ回復の休憩を挿んでも余裕で時間は余る。
その余裕を使って、私と軽井沢さんはいくつかのテストを受けることとなった。
同じ現象が起きるかどうか、自発的に起こせるかどうか、要はそういうテストだ。まあ、綾小路くんも探り探りなのでどこまで効果が出るかは怪しいが、再現性を探ることには確かな意味があるらしい。
手始めに、今日やった範囲の問題集と似た問題を即興で綾小路くんが作り、私と軽井沢さんはそれを受けさせられた。各教科二問ずつの計十問だったが、だとしても即興で作れる辺り、やはり綾小路くんの実力は飛びぬけている。
で、結果はそこまで芳しいものではなかった。普通に正解もあれば間違いもある。問題集で示したような完答は出来なかった。
次に、また別の問題を十問。――ただし、今度は綾小路くんが邪魔をしてくる。
具体的に言えば、松下さんがチョイスしたセリフを耳元で囁いたり、首筋に息を吹きかけたりだ。ハッキリ言って、これでは問題に集中できるわけがない――のだが……。
「全問正解だな」
どういうわけか、私も軽井沢さんも、気がそぞろになった方が点数が高かったのだ。
『うぇっ!?』
二人同時に奇妙な声を上げてしまった。
「仮説だが、お前たちの場合、『問題を解こう』という意識が、逆に邪魔をしている可能性があるな……」
こめかみを掻きながらの、それが綾小路くんの出した結論だった。
「この結果から推測するに、学んだ内容自体はキチンと頭の中に知識として収められているんだ。ただ、それを取り出そうとする際に、余計な意識が邪魔をする。そこに、『これでいいんだっけ?』、『これで合ってるっけ?』などといった
だが、お前たちの意識がそぞろになっていると、途端に話は異なる。問題を認識し、
言ってしまえば、『解けさえすれば、合っているか間違っているかなんてどうでもいい』という心境に陥っている。そして、それが功を奏しているんだろうな。自覚という意識が邪魔をしないからこそ、結果として知識がスムーズに取り出されている。身体がダイレクトに動いている。
だから、無意識下の行動の方が高得点を取れてしまう。
お前たちに起こっている現象を説明しようとすると、こういう結論になってしまうな。……自分で言っててなんだが訳が分からん」
綾小路くんは首を横に振って溜息を吐いた。
うん、話を聞いてて私も同意見である。我ながら訳が分かんない。
「まあ、あくまでも現状において最も可能性の高い過程だ。これからも穴埋めはしていく。
法則を見付けて再現性を高めれば、お前たちにとって貴重な力となるだろう。再現性がないならどうにもならんが、ある程度の再現性があるのはハッキリとしているからな」
それもまた御尤もだ。そもそも、再現性がないならさっきのテストで完答なんか出来やしない。
再現性があるから完答できたのであり、完答できた時点で再現性があることになる。だって、その直前にキチンと向き合ったテストの方は完答が出来なかったのだから。
問題は違えど、難度そのものに大差はない。綾小路くん曰く、『片方が解けたのなら、もう片方も解けるのが道理』とのこと。である以上、私と軽井沢さんの結果は矛盾している。
だからこそ、その矛盾を埋める理由がいる。その理由は、『無意識下の方が高得点を取れる』という推測の信憑性を高めることになるし、同時に再現性があることを証明してもいる。
「一種の『ゾーン』とでも考えればいいのかしらね……?」
自信なさげに呟いたのは松下さんだった。
「ゾーンって言うと、アレか? 『極限の集中状態』とか言う……。『火事場の馬鹿力』的な……」
「そんなとこ。気もそぞろなのに『極限の集中状態』も何もあったもんじゃないとは思うんだけどね。でも、時として感情やら何やらが
「いや、着眼点としてはそれで合っているかもしれない。何せ、一度は授業で学んでいる内容だ。聞き流していようとなんだろうと、肉体には、頭脳には『知識』として収納されている。
だが、そんな状況で収納したもんだから、自意識が引き出すのを阻害する。引き出し具合が曖昧になる。
逆に言えば、本来なら
人間、無意識に行動することなんて珍しくもない。『ながら作業』、『並列処理』、『並行作業』なんてのは最たるものだ。それらは、取り分け『一つの項目』の中に混在する要素であることが多いが、だからこそ、その項目の大きさ次第では今回のような事例も十分にあり得るだろう。
いや、俄かに信じ難いのは確かだけどな……」
本当の意味で理解できているかは分からないけど、頷ける部分はある。
「ここ最近、私たちは綾小路くんを強く意識するようになった。せざるを得なかった。
綾小路くんが高い能力を持っていることを知り、そんな君からペナルティを受けることで、その様子を目にすることで、その意識は一気に高まりを見せ、昨日のTレックスで一つの頂に達した。
そしてそれは、彼女たちの中で複数ある優先順位の一位を明確にさせることとなった。いやまあ、私もその例に洩れないわけではあるんだけど、言葉にするなら『綾小路くんとの距離を縮めること』。理由は様々だろうけど、その結論に集約されるのは間違いないと思う。
それは物質的な距離だけじゃなくて、心の距離もそう。
そして普通に考えた場合、そのために最も妥当な方法は、自分の優秀さを綾小路くんに示すこと。自分は出来るんだってところを、綾小路くんに認めさせること。
余りに漠然としている。方法も定かじゃない。けど、それを示す機会はある。
結果、肉体はそれを実行するためのプロセスを踏んだ。好成績を叩き出すためには、人格が邪魔となる。その一方で、人格を消し去ってしまえば目的すらも消えてしまう。それでは意味がない。だから、人格に邪魔をされないように余所へと退かした。悶々状態はその表れ。そして、目論見通りに人格が邪魔をしないタイミングを狙って、肉体は悠々と課題を解いた。
無理矢理に理屈付けようとすればこんなところかな?」
こめかみに人差し指を当てながら、松下さんが語る。
やはり、頷ける部分はある。けれど、その推測を信じるのであれば……。
「ねえ? それだと、私たちは色ボケ状態の方が好成績を取れるってことにならない?」
「うん、そう言ってるよ。しかも、対象は綾小路くん限定。
言っちゃえば、ホストに貢ぐ女性の心境に近いんじゃない? ただ、ポイントを貢ぐことなんて出来ないから、代わりに優秀さでアピールすることになってる。けど、その優秀さは無意識下でないと発揮されないという、何とも難儀な条件付き」
軽井沢さんの問いに、松下さんは苦笑しながら答えた。
オーノー。淑女としては否定したい。しかし、事実を見れば否定しきれない。
「綾小路くん! 私たちと付き合って!」
だから、思い切って私は宣言したのだった。
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