Cクラスと須藤の間で起きた暴行事件の審議は、Cクラスが訴えを取り消したお陰で両者のクラスポイントが減ることはなく、Dクラスは6月に獲得予定だった87ポイントを無事に死守することができた。
そして、その裏で進められていた私と清隆の共同制作曲『INTERNET OVERDOSE』は、外の世界である『夢チューブ』に投稿されるや否や、文字通り世界を震撼させる大爆発を起こしていた。
動画投稿からわずか2週間で再生回数は大台の『50万回』を突破し、チャンネル登録者数も今や秒単位で増え続けている。私の書いたあの偏執的な歌詞と、清隆の構築した重低音が、外の世界の有象無象の脳を完全にバグらせた結果だった。
ちなみに、夢チューブで稼いだ収益はプライベートポイントに換金せず、個人で用意した通帳へと直接貯金している。在学中は一切手をつけられないルールだが、卒業、あるいはこの学校を出る瞬間に、すべて自分達の手元に入る手筈だ。
(この取り分があれば……卒業した瞬間に、あの女とは完全に縁を切って、一人でどこまでも自由に行ける)
確実な未来の自由の重みを噛み締めながら、私はクスクスと笑ってベッドに身体を沈めた。学校では、ただの隣の席の冴えない男子だが、部屋に戻れば私に莫大な富をもたらす天才プロデューサーであり、身体を重ねる最愛の恋人。
この歪で完璧な二重生活に、私はこれ以上ない充実感を覚えていた。
そんな中で迎えた、一学期の終業式。
明日からの夏休み、そして豪華客船でのバカンスを前に浮き足立つ教室内で、清隆だけがいつもと変わらない無表情のまま席を立った。
担任の茶柱から、放課後に直接進路指導室へ来るよう呼び出しを受けたらしい。
あの女が清隆に余計な揺さぶりをかけるのではないか――。5月の上旬に彼の個人情報を勝手に堀北に教えたという話を聞いてから、私は茶柱を全く信用していなかった。
胸の奥に不快な煤が溜まっていくのを感じながら、私は一足先に寮の部屋へと戻り、彼からの連絡を待つことにした。
数時間後、ガチャリと音を立てて部屋の鍵が開いた。インターホンも鳴らさずに入ってきたのは、事前のメッセージ通り、清隆だ。
私はリビングから玄関へと向かい、彼の姿を捉えて声をかける。
「おかえり、清隆。遅かったね、茶柱と何──」
言いかける私の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
清隆は返事をする代わりに、私の手首を強引に掴み取ると、そのまま背後の玄関の扉へと激しく押し付けたのだ。ガチャン、と硬い金属音が響き、逃げ場のないゼロ距離で彼に見下ろされる。
「っ……ちょ、清隆!? いきなり何──んむっ!?」
驚きに目を見開いた瞬間、深く、激しく唇を塞がれた。いつもよりも余裕がなくて、こちらの呼吸をすべて強引に奪い去っていくような、狂気的な口づけ。
口内を縦横無尽に蹂躙する熱い舌、隙間なく合わせられた唇から伝わる彼の剥き出しの衝動に、私の頭は一瞬でぼうっと熱く融解していく。
完全に彼の放つ熱にのぼせ上がり、抵抗する術も忘れて熱い吐息を漏らしていた──その時だった。
乱れたスカートの奥へと、清隆の大きな手が迷いなく滑り込んできた。肌を滑るひんやりとした体温にビクッと身体が跳ねる。
「んん……っ!?」
抵抗する間もなく、ショーツの境界線を容易く割り込んだ彼の指先によって、私が身につけていた下着が容赦なく下へと引き下げられ、そのままスルリと強引に抜き取られてしまった。
突然の肌寒さと、大好きな彼に下着をその場で剥ぎ取られたという衝撃的な事実に、私はハッと目を見開く。
しかし、私の動揺を置き去りにしたまま、清隆の長い指先が、今度は剥き出しになった熱源へと直接触れてきた。
「あ、はぁ……っ、ん……」
遮るもののない愛撫に、思わず甘い悲鳴が漏れる。すでに彼の色に染められてしまっていた私の身体は、激しい口づけを交わしただけで、十分に濡れそぼっていたのだった。
清隆は自身の衣服を乱暴に押し下げると、硬く熱い釘のようなそれを、私の最奥へと容赦なく一突きで突き立てた。
「あ、はぁんっ……! そ、んな……いきなり、奥、壊れちゃう……っ」
容赦なく最深部を貫かれた衝撃に、私の身体が大きく跳ね上がる。剥き出しの金属のドア越しに、背中へと冷たさが伝わる。けれど、内側からは彼の凶悪な質量と熱が容赦なく私を支配していく。あまりの刺激の強さに視界がちかちかと白く明滅し、私は涙目を浮かべながら震える声で彼に訴えかけた。
「ひゃあ、ぁ……っ、待って、清隆……いくら防音でも玄関は駄目……っ。誰かに聞かれちゃう、ここじゃやだ……っ!」
その時だった。私の焦りを肯定するかのように、薄いドアのすぐ向こう側の廊下から、コツン、コツンと、誰かがこちらへ歩いてくる微かな足音が響いてきた。
「ひっ!? ──むぐっ、」
パニックになりかけた私の口を、清隆の手が瞬時に塞ぐ。恐怖で身体がガチガチに強張る私を見つめ、彼の瞳の奥の暗い熱がさらに一段と深くなった。
「声を抑えろ」
耳元で冷酷に囁かれた直後、清隆は私の腰を強引に両手で掴み上げると、自らの身体へと抱きつかせた。
「ん、んんーーーっ!?」
信じられないことに、最奥を繋げたまま、彼は私の身体を軽々と宙に浮かせたのだ。結合部からミチミチと生々しい音が響き、廊下の足音から逃れるようにして歩を進める衝撃のたびに、彼のモノが私のナカの最深部をガクガクと容赦なく抉っていく。
「ん"、ん"ぅうぅーーーっ……! ──っ、」
漏れ出そうになる声を、必死に唇を噛み締めて我慢する。だが、ついに限界を迎えた高い悲鳴は行き場を失い、鼻に抜けるようなくぐもった甘い声となって喉の奥で押し潰された。ナカの最も敏感な部分を容赦なく抉られるたび、頭の芯がジリジリと焼け付くように熱くなる。
入れたままの移動。声を聞かれてしまうかもしれないというスリルと、言葉にできないほどの淫靡な刺激と衝撃に、私は彼の首にしがみつき、唇を噛み締めたまま涙を流して震えることしかできなかった。
リビングからベッドへと辿り着いた頃には、私はすっかり消耗しきっていた。完全に自由を失った身体は、ただ清隆の強固な肉体に支えられることで、辛うじてその形を保っているような有様だった。
(やっと……ベッドに、下ろしてもらえる……)
そう思って、かすむ視界のなかで安堵したのも束の間。
身体がシーツに触れることはなかった。
清隆は私をベッドに下ろさず、抱き上げたままの、立った状態で再び凶悪なピストンを突き始め、激しく腰を打ち付けてきたのだ。
「えっ、やだ、やだやだ! 清隆、お願いだから下ろしてぇ……っ!」
あまりの恐怖と激しさにジタバタと脚を動かして抵抗するが、彼の強靭な腕力に完全にロックされ、ビクともしない。どうしても彼から降りることができない。
「あ、あぁ……っ!!」
逃げ場のない空中での蹂躙。身体が激しく上下に揺さぶられるたび、重力と彼の突き上げが相乗効果となり、信じられないほどの深さまで彼が貫いてくる。
「……あ、だ、め……これ……っ! そこは、入っちゃだめなところ……っ、ああぁ!奥まで、きちゃってるぅ……っ!」
身体の構造を無視して、子宮の最奥の、触れてはいけない禁断の領域までダイレクトに抉られているような感覚。
未体験の恐怖が脳裏をよぎるが、それ以上に強烈極まりない快感の津波が私の理性を一瞬で消し飛ばしていく。
「あ"っ、ぁあ"あぁぁ……っイクぅ──!!」
快楽の許容量を完全にぶち抜かれ、口の端からだらしなく涎が垂れ落ちる。
「きもち、これ、きもちぃいよぉ!! 清隆ぁぁっ!!」
頭の芯が真っ白に弾け、身体が弓なりに大きくのけ反った。限界を迎えた内側がキュウキュウと切なく彼を締め付け、抗う術もなく、ガクガクと激しく震えながら大量の潮を激しく吹き出す。
あまりの強烈すぎる快感の衝撃に耐えきれず、私はそのまま、白目を剥くようにしてぷつりと意識を失った。
だが、清隆はお構いなしに、気絶した私の身体をなおも激しく突き上げ、無慈悲に蹂躙し続けた。
激しい衝撃が内側を直接揺らし、じわじわと意識が引き戻される。
ハアハアと激しく肩を上下させ、涙でぐしゃぐしゃになった顔を歪めながら、私は回らない腕を必死に動かした。
「ばかぁっ……!!」
ポカポカ、べしべしと、まるで小さな子供が駄々をこねるように、弱りきったみっともない力で彼の胸を叩き、激しく泣き喚いた。
以前、彼に叩き込まれた「躾」の記憶が呼び起こされ、同時に湧き上がる狂おしいほどの依存心が混ざり合い、私の情緒は完全に崩壊していた。
そんな私の、無様で、従順で、壊れかけた姿を無言で見つめる清隆の瞳。
その奥底に、かつてないほど禍々しい暗い熱が灯るのを私は見た。
──彼は、過去最高に興奮している。
私の好意も、狂気も、そして今、恐怖と快感に震えながら自分に縋り付いているこの無様な姿さえも。すべてが、彼のなかに眠るサディスティックな支配欲を極限まで刺激しているのだ。
もっとめちゃくちゃにしたい。己の色だけで完全に染め上げ、心も身体も、跡形もなく壊してしまいたい──彼の剥き出しの眼差しが、そう雄弁に物語っていた。
「……悪いな。今は、抑えが利きそうにない」
凍りつくような冷徹さと、底知れない支配欲を孕んだ眼差し。それが私を捉えた次の瞬間、言葉通りの無慈悲な支配が再び幕を開けた。
もはや慈悲を乞う私の声など、彼の耳には届かない。私のすべてを己の色だけで染め上げ、跡形もなく壊し尽くそうとする圧倒的な質量が、容赦なく内側を突き穿っていく。
部屋のカーテンの隙間から差し込む薄白い朝の光が、乱れたベッドを静かに照らし始めるその瞬間まで、私の泣き叫ぶ声と、終わりのない肉体の衝突音だけが、薄暗い部屋の中にどこまでも響き渡り続けていた。
◇
「……はぁ、……っ」
心身ともに擦り切れ、涙も声も枯れ果てた頃──気がつけば、あれほど激しかった蹂躙は終わりを迎えていた。
ぷつりと意識が途絶え、そこからどれほどの時間が経ったのだろう。
緩慢に覚醒していく意識の中で、私は奇妙な違和感に気づく。
気絶する直前まで、あれほど執拗に身体を汚し尽くしていたはずの熱い名残や不快なベタつきが、綺麗さっぱり消え去っていたのだ。肌を滑るシーツの感触はどこまでも素気なく、身を包んでいるのは見覚えのある清潔な衣服。
私が意識を失っている間に、清隆がバスルームへ抱えていき、隅々まで洗い流してくれたのだろう。
すでに自身も泊まり用の服へと着替えて戻ってきた清隆は、ベッドの上で鉛のように重い疲労感と、身動きするのも億劫なほどの気だるさに囚われて横たわる私を、いつもの底知れない無表情で見下ろした。
「……少し、やりすぎたな。すまなかった」
いつも通りの抑揚のない、けれど僅かに悔恨のニュアンスを含んだ声。流石に限界を超えて私を壊しかけた自覚があるのか、彼なりに真摯な謝罪だった。
清隆はベッドの縁に腰掛けると、キャップを開けたペットボトルの水をそっと差し出してきた。私はひどい疲労と肉体の節々の痛みで微かに震える手でそれを受け取り、乾ききった喉を潤すように、冷たい液体をゆっくりと流し込んだ。
身体に染み渡る感覚に小さく息を吐き、乱れた前髪を払いながら、掠れた声で本題を切り出す。
「で? 何があったの。流石にこれだけひどいことしたんだから、何があったかちゃんと説明してくれるんだよね」
私のストレートな追及に、清隆はいつもの感情の読めないポーカーフェイスに戻ると、低く平坦な声で話し始めた。
「茶柱に脅された。俺の父親が、俺を退学させるよう学校側に圧力をかけてきているそうだ」
「──え?」
一瞬、耳を疑った。
これまでどれほど深く身体を重ね、どれほど甘い時間を共有しようとも、自身の内側への詮索だけは決して許さなかった男だ。
徹底して自分の素性を隠し続けてきたはずの清隆が、今、少しだけでも『自分の事情』を私に打ち明けてくれている。
その事実に対する衝撃と驚きは、しかし、直後に脳裏をよぎった恐ろしい言葉によって完全に掻き消された。
「……あ、は。嘘、でしょ……? 退学……?」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。血の気が一気に引き、指先が凍りついたように冷たくなっていく。
「私、そんなの絶対いやだからね……っ!?」
身動きするのも億劫だったはずの身体を無理やり動かし、私はベッドの上で清隆の衣服へと必死に手を伸ばした。彼の胸元を、骨が白く浮き出るほどの凄まじい力で掴み、そのまま縋り付くようにしてその胸に顔を押し付ける。
もし彼が退学になったら。この学校から、私の隣から、彼の存在が永遠に消えてしまったら─
どんなに強い睡眠薬を煽っても得られなかった安息を、その腕の中で唯一与えてくれる、私だけの『精神安定剤』。私の光であり、全てであるこの男を失うなんて、考えるだけで頭がおかしくなりそうだった。
そんなの、絶対に耐えられない。
「どこにも行かないで、清隆……っ! 離れるなんて絶対に許さないんだから……っ!!」
半ばパニックになりながら泣き喚く私を、清隆は拒むことなく、ただ静かにその大きな腕でしっかりと抱き留めてくれた。
背中をゆっくりと摩る手のひらの温もりが、私の荒い呼吸を少しずつ落ち着かせていく。
「落ち着け、ルヰ。俺も退学になる気はない。
……茶柱はその事実を盾にして、俺をAクラスへ目指すための駒として利用する気だ。もし従わなければ、父親からの退学の申し出を受け入れて俺を処分すると言ってきた」
「……はあ!?あの女、それでも教師かよッ!」
清隆の胸に顔を埋めたまま、私は怒りのあまり身体を激しく震わせた。
じわじわと脳髄を焦がしていくのは、茶柱に対するドス黒い、底知れない殺意だ。
どうしてあの女がそこまでしてAクラスに上がりたいのか、その理由は知らないし興味もない。けれど、自分の個人的な都合のために、生徒を退学という刃で脅迫し、私の清隆を、都合のいい駒にしようとした。その醜悪な事実だけで、到底生かしてはおけない理由になった。
あまりの怒りに頭が沸騰しそうになったその時、私の脳裏にハッとある記憶が閃いた。
「あ、そうだ……! 録音は!? 清隆、ちゃんとしたの!?」
私は彼の胸から顔を上げ、涙の痕が残る目で彼をキッと見つめた。5月の上旬、茶柱が彼の個人情報を堀北にバラしたあの日に、私が彼に送った助言。
「それさえあれば、あの女に『二度と自分に関わるな』って逆に脅し返せるし……なんなら、そのまま学校の上層部に提出して、一発でクビにしてもらえるじゃん!」
確実にあの女を潰せる方法を思いつき、私は一気に捲し立てる。
だが、清隆は動じることなく、私の頬に手をそっと添えて、私を諭すように静かに言葉を紡いだ。
「ああ。お前が教えてくれた通り、スマホの録音で最初から最後まで完全に記録してある。……だが、今すぐそれを提出して茶柱をクビにするのは悪手だ、ルヰ」
清隆はいつもの感情の読めないポーカーフェイスのまま、淡々と端末の画面を提示した。そこには確かに、茶柱の傲慢な声がそのまま閉じ込められた音声データが保存されている。
「どうして……? あんな女、さっさと社会的に抹殺しちゃえばいいのに」
「茶柱が消えれば、父親の息がかかった刺客が、容赦なくこの学校へ直接送り込まれてくる可能性が跳ね上がるからだ」
「え、清隆のお父さんって、そんなにすごい人なの?」
私の素朴な疑問に、清隆は視線を僅かに落とし、感情の起伏を一切排した声で応えた。
「ああ。この学校のシステムを外側から動かせるくらいには、影響力がある男だ。一教師である茶柱が、正面から逆らえるような相手じゃない」
「……そ、っか」
それ以上、清隆は語ろうとはしなかった。
私もまた、それ以上の追及はしなかった。これ以上は、彼が立ち入りを許さない領域なのだと察したからだ。
けれど、これほど底知れない実力を持つ清隆がここまで言うのだ。
彼の『父親』とやらが、一介の高校生には到底抗えないような、国家規模の規格外のバケモノなのだろうということだけは、十分に理解できた。
「なるほどね……。あの女をクビにするのは簡単だけど、今はまだ、防波堤として利用価値があるってわけか」
「そういうことだ。だから、あの音声データは切り札として俺の手元に伏せたまま、しばらくは泳がせておく。……お前が機転を利かせて録音を勧めてくれたお陰で、いつでもあの女を処理できる武器が手に入った。助かった」
「……うん。私達の平穏を邪魔する奴は、私が絶対に許さないから」
「ああ。頼りにしてる」
清隆は相変わらず感情の読めない瞳のまま、私の乱れた髪をそっと撫で、そのまま自分の胸元へと引き寄せた。昨夜の激しさが嘘のような、いつもの静けさ。
私は大人しくその胸に顔を埋めた。どんな強い睡眠薬よりも安心できるその温もりにそっと寄り添いながら、私は今度こそ、深い安眠の中へと落ちていった。