無人島での過酷な特別試験を圧倒的な大勝利で終えた私達を乗せて、豪華客船は再び静かに漆黒の海を切り裂いて進んでいた
エアコンの効いた快適な船内、ふかふかのベッド。地獄から天国へと戻ってきた生徒達がバカンスの再開に浮き足立つ中、私達一年生には、息をつく間もなく次なる『船上特別試験』の開幕が告げられた。
今回の試験は、クラスの枠を解体し、干支にちなんだ十二の混合グループに分かれて行われるというもの。
提示された複雑なルールを頭の中で転がしながら、割り当てられた客室へと向かう。私のグループは猿だ。
(他クラスのやつらと机を囲んで心理戦だなんて、面倒くさいことこの上ないな……)
いつもの冷めた傍観者としての仮面を張り付けながら部屋のドアを開ける。
だが、そこにいた同クラスのメンバーの姿を見た瞬間、私の思考は完全に停止した。
「ふむ、美しい。やはりこの船の鏡は、私の輝きを完璧に反射してくれるねえ」
鏡の前で自分の前髪をいじりながら、尋常ではないナルシストオーラを放っている男──高円寺六助。
よりによって、Dクラスの中でも最も会話が通じない規格外のワガママ男と同じグループになってしまった。幸先が悪すぎて、思わずその場で回れ右をして帰りたくなる。
部屋に集まったAクラスからCクラスの生徒達が、お互いに牽制し合うようなピリついた視線を交わし、さあこれから高度な頭脳戦が始まる、という重苦しい空気が室内に満ちていく。
誰もが口を開こうとしない緊迫した静寂。その生温い均衡をぶち破ったのは、やはりあの男だった。
「では諸君、私は退屈な話し合いなど御免被るのでね。失礼するよ」
高円寺はそう言い放つと、スマホの画面を数回タップし、全員が呆気にとられる中でさっさと部屋を出て行ってしまった。
「……は?」
他クラスのリーダー格らしい男が呆けた声を漏らす。
その直後、グループ全員のスマホがいっせいに震えた。画面に表示されたのは、学校側からの【猿グループ 試験終了】という非情な事務連絡。
高円寺はグループ内の話し合いを1ミリもすることなく、自らの直感だけで『優待者』を予想し、勝手に学校へ解答メールを送りつけて試験を強制終了させてしまったのだ。
いかにも彼らしい自分勝手な振る舞いだが、実力だけは本物だ。筆記試験では常に上位の成績をキープしているし、無人島試験の初日だって、まるでターザンのように木々の上を飛び回っていたらしい。
癪ではあるけれど、今は彼を信じるしかなかった。
それが本当に正解なのか、あるいは不正解でペナルティを喰らうのかは、試験最終日の結果発表まで誰にも分からない。
まぁ、結果はどうあれ、難解な試験の話し合いに付き合う必要はなくなったし、初日にして完全な自由時間を獲得できたんだから、結果オーライだ。私は絶望に打ちひしがれる他クラスの面々を尻目に、足取り軽く部屋を後にした。
あれから、試験から解放されてやることが無くなった私は、船上でのバカンスをそれなりに満喫していた。
昼間は櫛田達に「一緒に屋外プールで遊ばない?」と声をかけられたりもしたが、私は適当な理由をつけて断った。池や山内をはじめ、清隆以外の男子がいる場所で肌を晒すのだけは、できる限り避けたかったからだ。
その代わり、周囲が静まり返った頃、私は清隆を連れ出して誰もいないプールへと足を運んだ。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返ったプール。爪先からそっと水に入ると、ひんやりとした感覚が肌に心地よかった。
「冷たくて気持ちいいよ、清隆!」
私はそう言って、彼の足元にパシャパシャと軽く水をかけて悪戯っぽく笑った。清隆は避ける風でもなく、いつも通りのポーカーフェイスのまま、水面に映る月明かりと私を静かに見つめている。
この時のために用意した、黒のホルタービキニ。月光に照らされて少し大人びて見える水着姿のまま、私は彼の隣へとぴったりと寄り添った。
「ねえ、清隆。私の水着どうかな……? ちゃんと、似合ってる?」
少しだけ気恥ずかしさを覚えながら顔を覗き込むと、清隆は相変わらずの無表情のまま、けれどじっと私を見つめ返した。
「ああ、よく似合っていると思う。昼間の誘いを断ったのは、そのためか?」
「当たり前でしょ。私のこういう姿は、清隆だけに見てほしいもん」
嬉しさに胸を弾ませながらそう返すと、清隆の大きな手が私の腰をそっと引き寄せた。そのまま、吸い寄せられるように自然と唇が重なる。
静寂に包まれた夜のプールで交わす、静かで、だけどどこか熱を帯びた優しいキス。
贅沢にライトアップされた水面に2人の影が揺れる中、誰の目も気にせず清隆と過ごす時間は、驚くほど心地よくて楽しかった。
そんな甘くて心地よい夜を過ごしてから、数日後。
船上特別試験もいよいよ最後の局面を迎え、船内の空気はピリピリとした緊張感を帯びていた。
高円寺のおかげで初日に試験から解放された私は、相変わらず暇を持て余していたけれど、清隆のいる『龍』グループは未だに激しい心理戦の真っ最中。昼間はすれ違いの時間が増え、私は少しだけ退屈で、寂しい思いを抱えながら船内をあてもなく歩いていた。
(清隆、今頃どうしてるかな……。少しは私のこと、考えてくれてたり……なんて)
彼のことだ。きっとこの試験も何の問題もなく、無事に終えられるだろう。
そう自分に言い聞かせながら、私は退屈しのぎに自動販売機で冷たい飲み物を買い、人通りの少ない中央階段のほうへと足を向けていた。
すれ違う他クラスの生徒達の視線が少しばかり目障りだったけれど、そんな奴らのことなんて、今の私の意識には1ミリも入ってこない。
それは、中央階段へと続く人通りの少ない少し薄暗い通路の影に入った時だった。
偶然そこを通りかかった私の目に、見覚えのある背中が飛び込んできた。──清隆だ。
何気なく声をかけようとした私の足が、彼の様子を見てピタリと止まる。
清隆はいつも通り、何でもない風を装って平然と歩を進めていた。
だけど、他クラスの生徒が通り過ぎる一瞬の死角、そして壁に設置された監視カメラに映らない絶妙な角度──彼は表面上は堂々と歩いているように見せて、その実、徹底的に計算し尽くされた動きで、他人に気づかれないような監視の目を掻い潜っていた。
その清隆が歩き去る間際、極自然に、けれど確実に接触を図っていた相手。それが──軽井沢恵だった。
2人はすれ違いざま、目線すら交わさないほどの刹那の間に、密かに言葉を交わしていた。
普通の生徒が見たら、ただの偶然すれ違っただけにしか見えない光景。だけど、私には分かってしまった。それが綿密に計算された、2人だけの『秘密の接触』なのだと。
(……なるほど。新しい『駒』ってわけね)
壁の陰に身を潜めながら、私は今見た状況を瞬時に把握する。
彼女がクラスのカースト上位に君臨して自分を守るために、大して好きでもない平田を盾にして付き合っていることも、いつも無理して強がっているだけのギャルだということも、私は最初の頃から気づいていた。
だって、演技が下手だったから。
『エンジェルちゃん』として日常的にキャラになりきる演技を身につけている私から見れば、彼女の強がりも『恋人ごっこ』も、すべてボロが丸見えの拙いお芝居でしかない。あの程度なら簡単に見破れる。
きっと、清隆の前でボロを出したのだろう。そうして弱みを握られたわけだ。
それにしても、随分と強い駒を手に入れたものだ。
軽井沢は平田に次ぐクラスのナンバー2で、彼女の言葉には女子のほとんどが従う。その彼女をこちら側へ引き入れ、実質的に女子をコントロールできるようになったのだから、これからのメリットは計り知れない。
清隆も茶柱の個人的なわがままにいつまで付き合うつもりなのかは分からないけれど、これで盤面の駒が格段に動かしやすくなったのは間違いなかった。
──それは、それとして。
目的のためとはいえ、私の知らないところで他の女と2人だけの秘密を作ってるのを見てしまうと……正直、面白くない。
別に嫉妬なんかじゃない。……そう、嫉妬ではないけれど、ここ数日、彼は試験のせいで全然私に構ってくれなかったのだ。船上試験の初日の夜、プールで少しだけ甘い時間を過ごしたくらいじゃ、私の「清隆不足」のストレスはちっとも解消されない。おかげで不機嫌メーターは、とっくに限界を迎えていた。
思えば、あの過酷な無人島試験からこの豪華客船に至るまで、場所が場所なだけに、お互いの身体を深く求め合えるような機会なんて一度もなかったのだ。
普段から頻繁に身体を重ねている私達にとって、ここしばらくのご無沙汰はあまりにも致命的。身体も心も、彼を求めて溜まっていくばかりで、とっくにパンク寸前だった。
「……そうだ。場所がないなら、自分が用意すればいい」
私はスマホで「試験が終わったらシアタールームに来て」とだけメッセージを送り、貸切の手続きに向かった。
そしてその日の夜、最後の『話し合い』が幕を閉じ、すべての試験日程が終了した。
貸し切られたシアタールームの重い扉を開けると、中はスクリーンからの淡い光だけが落とされた、薄暗く静かな空間が広がっていた。巨大なプレミアムソファーの真ん中にぽつんと座り、私は膝を抱えて清隆が来るのを待っていた。
スクリーンから放たれる淡い光だけが部屋を照らす中、カチャリとドアノブが回り、清隆が足音もなく入ってきた。
「清隆……!試験お疲れ様〜♡」
パッと抱えていた膝を解き、ソファーから立ち上がった私は、そのまま彼の胸へと飛び込んだ。
驚く風でもなく、いつも通りの硬い身体で私をしっかりと受け止めてくれる清隆。その首筋にきゅっと腕を回し、彼の独特な落ち着く匂いを胸いっぱいに吸い込む。
ずっと誰かの目やカメラを気にしなきゃいけなかった過酷な環境から解放されて、ようやく触れられた彼の体温。その心地よさに、無人島からずっと抑え込んでいた「清隆不足」の寂しさが一気に決壊していく。
「ああ、お疲れ様。……ずいぶんと寂しがらせてしまったようだな」
「当たり前でしょ。試験も初日に終わって、やることなんてなかったし、ずーっと退屈だったんだから」
彼の胸に顔を埋めたまま、甘えるように少しだけ声を尖らせる。
私の所属する猿グループの試験は初日であっさりと片付いてしまったのだ。清隆が自分のグループの話し合いに追われている間、私はずっと一人で放置され、ただでさえ限界が近かった「清隆不足」のストレスを溜め込む一方だった。
その大きな手の温もりに少しだけ満たされながら、私は彼の胸からゆっくりと顔を離し、至近距離からその無機質な瞳を見つめる。
「そういえば、清隆。軽井沢さんと仲良くなったんだね」
私の唐突な問いかけに、清隆は動揺する風でもなく、ただ合点がいったようにわずかに目を細めた。
「……なるほど。あの時の気配は、お前だったか」
「嘘、気づいてたんだ……」
私は小さく目を見張った。ちゃんと隠れていたつもりだったのに。この男の底知れない察知能力には、相変わらず驚かされる。
「相変わらず規格外だね。……まぁ、あの子を味方につけた手腕は見事だと思うよ。でもね、それとこれとは話が別」
私は彼をプレミアムソファーへと促すようにして、2人並んで腰掛けた。そのまま彼の制服の袖をぎゅっと掴み、恋人繋ぎにするように自分の指を一本ずつ絡ませていく。
「目的のためとはいえ、影で他の女と2人だけで秘密を作ってるのを見てしまうと……正直、面白くない」
じっと上目遣いで彼を睨む。
絡め合わせた手のひらから伝わってくる清隆の体温が、ずっと我慢していた肌の渇きを容赦なく刺激してくる。ただ手を繋いでいるだけじゃ、もう全然足りない。
私は繋いでいない方の手で、ソファーの脇に置いてあったシアタールームのリモコンを手に取った。
迷わずボタンを押し、スクリーンから流れる映画の音量をぐっと引き上げる。室内に響く重低音が一段と大きくなり、私達の密やかな吐息すら完全に掻き消していく。
リモコンを放り出し、私は彼の膝の上に乗り上げるようにして、その首筋に顔を近づけた。
「ねぇ……清隆、欲しいな」
ここには外を覗けるような小窓もないし、完全な防音壁に守られているから、外から中の様子を見るのは不可能。
だけど、この学校は『不純異性交遊』を厳しく禁止している。万が一、誰かにこの現場を見られでもすれば──停学、最悪の場合は退学処分もあり得るほどの重いペナルティが下ることは明白だった。
(まぁ、私達はとっくにそんな一線を越えて、何度も致しているわけだけど)
万が一にバレたりしたら……というスリルが、余計に互いの肌を熱くさせる。
私は制服のスカートを少しだけ手繰り寄せ、彼が触れやすいように、来たままの姿で身体を開いた。
映画の激しい爆発音と重低音がシアタールームの壁を震わせ、私達の間に流れる空気をさらに濃密に狂わせていく。
私の意図を完璧に察した清隆の手が、迷いなく制服のスカートの奥へと滑り込んできた。
「……んっ、ぁ……」
下着越しに伝わる彼の大きな手の熱に、背筋がビクッと跳ね上がる。
ほんの少し指先が肌に触れただけなのに、ずっと乾ききっていた身体が過敏に反応して、一瞬で熱い蜜を滲ませていくのが自分でも分かった。
清隆は私の腰を片手でがっちりと固定すると、もう片方の手で、邪魔な布地を容赦なくずらしていく。
「ずいぶんと、余裕がないようだな、ルヰ」
耳元で、彼の低く落ち着いた声が囁く。
いつも通りの、完全に平熱の声。だけど、私を捕らえるその手の力強さと、至近距離で見つめてくる瞳の奥に灯った濁った熱が、彼もまた私を強く求めていることを証明していた。
「……余裕なんて、あるわけないでしょ……っ。ずっと、待たされたんだから……っ」
首筋に触れる彼の唇の熱さに、思わず声を漏らしそうになる。
けれど、室内に響き渡る映画の大音量が、私の小さく淫らな吐息を容赦なく掻き消してくれた。外には絶対に聞こえない。停学や退学のリスクすら燃料にするような圧倒的な背徳感が、脳の芯をビリビリと痺れさせていく。
制服のブラウスのボタンが2つ、3つと手際よく外され、露わになった鎖骨に清隆が深い口づけを刻み込む。
「……そうだな。俺の予測以上に、お前の限界が近かったらしい。不手際の埋め合わせは、これでいいか?」
「っ……ふふ、相変わらず可愛げがないなぁ……っ。でも、たっぷり満足させてくれたら、許してあげる……っ」
どこか事務的で、冷徹な彼らしい言葉に小さく笑って返した瞬間──手繰り寄せられたスカートの隙間から、彼の熱が容赦なく、私の中へと深く滑り込んできた。
「──っ! ん、うぅ……っ!」
一気に身体の奥まで突き抜けるような、圧倒的な質量と熱。
ここしばらくの間、ずっと求めてやまなかった清隆のすべてが私を内側から満たしていく。あまりの快感の強さに視界がチカチカと明滅し、私は彼のブレザーの肩口を強く、引きちぎらんばかりに指先で掴んだ。
「力を抜け、ルヰ。……お前が望んだことだろう」
耳元に吹きかけられる彼の吐息は、やっぱりどこか平熱のままだ。
だけど、ブレザーの上からでも分かるほど逞しい彼の両腕が私の身体をがっちりと囲い込み、逃げることすら許さないほどの力強さで、最奥へと容赦なく突き込まれる。
「っ、あ……ぅん! のぞ、んだけど……っ、ここ、まで激しくしろなんて……言って、ない……っ」
映画のウーファーが響かせる重低音と、清隆が私を揺さぶる激しい衝撃がシンクロして、ソファーごと脳まで揺れるような錯覚に陥る。
衣服を纏ったままの行為は、肌が直接触れ合う面積が少ない分、繋がっている部分の感覚が狂いそうなほど鋭敏になっていた。
清隆が腰を動かすたびに、私達の制服の生地が擦れ合う音が、映画の爆音の隙間に小さく、けれど淫らに混ざり合う。
「清、隆……きよた、か……っ」
「声が漏れているぞ。いくら防音壁でも、限度がある」
「大、丈夫……っ、音量、あげたんだもん……っ」
「そうだな。お前が用意してくれたこの環境は、なかなか合理的だ」
淡々とした言葉とは裏腹に、私を内側から壊すような強引さで、彼は容赦なく私の限界を抉り続けていく。
身体の芯がドロドロに溶けていくような快感。
無人島から今日まで、私の知らないところで他の女と秘密を共有していた彼への、ほんの少しの当てつけ。そしてそれ以上に膨れ上がっていた彼への愛おしさが、熱い涙となって目尻から零れ落ちた。
大音量のスクリーンの光が、激しく重なり合う私達の影を、薄暗い壁に歪に映し出し続けている。
「ねぇ、清隆……軽井沢さんじゃ、こんな風に……乱れてくれないでしょ……っ?」
どうしても溢れてしまった小さな独占欲を口にすると、清隆の動きがほんの一瞬、ピタリと止まった。
感情の読めないその瞳が、スクリーンの明滅に照らされて、いつもより黒く、深く、私の奥を射抜く。
次の瞬間、私の顎が彼の強い指先でグイッとと固定され、強引に唇を塞がれた。
「ん……っ!? んぅ……っ」
映画の激しい爆音の中、お互いの唾液が弾ける生々しい音が鼓膜に響く。
こちらの呼吸をすべて奪い去るような、容赦のない深い口づけ。溢れそうになっていた軽井沢への嫉妬も、余計な思考も、すべて彼の熱の中に強引に融かされ、 呑み込まれていく。
ようやく唇が離されたとき、熱を帯びた彼の吐息と共に、有無を言わせない絶対的な響きが耳元に届いた。
「くだらない嫉妬だな。だが、俺の計算を狂わせてそんな気にさせるのは、後にも先にもお前だけだ」
低く、けれど冷徹なほどに確信に満ちた声。
それが軽井沢への完全な否定であり、自分だけの特別な独占権を認める言葉だと理解した瞬間、彼は先ほどまでとは比較にならないほどの容赦のない速度で、私を最奥から激しく突き上げた。
「あ──っ! ん、あぁ……っ!?」
脳を直接かき回されるような、圧倒的な快感の波が何度も押し寄せる。
ずっと欲しかった彼の言葉と、身体の奥を容赦なく蹂躙していく凄まじい熱量に、もう理性を保っていられなくなった。
彼にしがみつく腕にぎゅっと力を込め、涙で潤んだ瞳でその無機質な顔を見つめ返す。消え入りそうな、だけど心の底からの本音を、絶頂の寸前に絞り出した。
「きよた、か……っ、すき……っ、好き……っ!」
私の言葉に応えるように、清隆の瞳の奥の暗い熱が一層深くきらめき、彼は私の身体をさらに強く、壊すように抱きすくめて最後の一撃を突き込んできた。
「──っ!!」
視界が完全に白く染まる。
規則違反の背徳感、停学や退学のリスク、そして何より清隆の圧倒的な支配と、お互いに刻み込んだ『好き』の余韻。そのすべてに呑み込まれながら、私はこの上ない絶頂へと一気に突き落とされていった。
激しい衝撃の余韻が引いていく中、シアタールームには再び映画の重低音と、私達の荒い呼吸の音だけが残された。
「はぁ、ぁ……っ、ん……」
完全に力が抜けてしまった身体を、清隆の逞しい胸に預ける。
ぴったりと重なり合った肌と肌の間で、お互いの心臓が信じられないほどの速さで脈打っているのが、衣服越しでもリアルに伝わってきた。
無人島からずっと張り詰めていた緊張感も、ここ数日間の「清隆不足」によるストレスも、いまの爆発的な快感によってすべて綺麗に洗い流されていく。身体の奥に残る彼の熱が、たまらなく愛おしくて心地よかった。
清隆は私の背中にそっと手を回したまま、細くなった私の呼吸が落ち着くのを静かに待っている。
いつもならすぐに冷徹な傍観者に戻るはずの彼が、今はこうして、余韻に浸る私を甘やかすように抱きすくめてくれている。
それが何よりも嬉しかった。
「……少しは満たされたか、ルヰ」
しばらくして、耳元に届いたのはいつも通りの落ち着いた声音。だけど、その声には先ほど私を突き動かした情熱の残滓が、ほんの少しだけ混ざっているような気がした。
私は彼の胸に小さく額を押し付け、ふふ、と満足げに笑う。
「……うん。寮に着くくらいまでは、ね?
……でも、まだちょっとだけ、こうしてて?」
少し上目遣いで、おねだりするようにそう囁く。
いまの強烈な絶頂で、私の「清隆不足」は確かに満たされた。けれど、それもこの船が本土に戻り、学生寮に帰り着くまでの話だ。
寮に帰ったら、またすぐに欲しくなってしまう。そんな淫らな未来の約束を、いまはまだ温かい彼の胸の中で、心地いい余韻とともに噛み締めていた。
彼のブレザーの襟元を軽く引っ張って、少しだけ悪戯っぽく、だけど独占欲を隠さずに微笑みかける。
「……ねぇ。こんなに私を夢中にさせたんだから、清隆を振り回す特権は、これからも私だけのものにしてよね?」
軽井沢の件を少しだけ引きずった、可愛げのない私の釘刺し。
清隆はフッと、本当に微かではあるけれど、呆れたような気配を漏らした。
私の髪をゆっくりと梳かす、彼の大きな手。
どこか私を甘やかすような微かな温もりがありながらも、それは私のすべてを自分の掌の中から決して逃がさないという、確実な力強さを含んでいた。
「ああ、約束しよう。俺をここまで振り回せるのは、後にも先にもお前だけだ」
その言葉に、今度こそ胸の奥がじんわりと、温かい幸福感で満たされていく。
映画のエンドロールが静かに流れ始める中、私は彼にもう一度、今度は優しくて甘いキスを重ねた。