【本編完結】アズールレーン寝取られ二次創作世界の終末の後に 作:リンパック
開け放たれた窓の先の、夕闇に染まる海を見ながら指揮官は言った。
「いくら上層部の男達が策謀を巡らせて実行したとはいえだ…不倫して快楽に負けて自ら積極的にあいつ等の股に乗っかったのは彼女達だよ」
「それはそうだな」
指揮官の言葉を受けて、アーク・ロイヤルとベルファストも、美しき思い出が終わり地獄が始まった直後の日々を思い返していた。
「懲戒免職も何度したことか…」
しかし上層部は特権を乱用して懲戒免職の命令を取り消し、彼女達に元通りの地位を回復させていた。司令官とは別の命令系統を平然と構築し、指揮官の地位や権威を露骨に貶め、それが更に寝取られと堕落を加速させていた。その時の様子をアーク・ロイヤルは思い出し、汚物を見たかのような表情を浮かべた。
「閣下が注意警告しても殴りかかって来たのは今考えても全く理解できん。私達KANSENにとって不可欠な指揮官を蔑ろにして何ができると言うんだ…!」
彼女の言う通り、指揮官が不貞な行為や破廉恥行為を見つけた時、初めのうちは止めるよう命じたり、警告を出したり、基地の司令官として通常の手続きに従って処分を下していた。この時はまだ、違和感を覚えつつも一時的な規律の乱れだと思っていたからだ。しかし指揮官の言葉に従う者は減っていき、上層部の男たちの介入が深まるにつれて、母港の腐敗もまた酷く、そして慢性的になっていった。そしてある日、KANSEN達に注意した時に、彼女達は彼に従うのではなく、見下し暴言を吐いて暴力を振るった。振るわれた指揮官は彼女達への見方を変え、抱いてた感情を捨てた。打撃音を聞いて急行してきたワシントンやライオンが、疼くまる指揮官に代わって反撃したことで、指揮官は追撃を追わずに済んだ。
「あの時から閣下は関係再構築を言い出さなくなってたな。念のため聞くが…諦めていたのか?」
「そうだね…。もうここに俺が愛した彼女達はいないんだなって思ったよ。その時点で、自分の中で切り捨てたと思ってる。あんなことされてまで好きでいられる訳がない」
「命令の効果は無く…それどころか反逆して殴りかかり、それを上層部は止めようとしない。そして上層部の命令が俺より優先される。挙句の果てには自分達の乱痴気騒ぎを強制的に見せつけて、興奮しないのを見るや罵倒さえした。戦闘教練?何それ美味しいの?とでも言わんばかりだったなあ…」
三人の脳裏にその時の映像が、あまり思い出したくもない記憶を思い返し、彼等は再び深くため息を付いた。アーク・ロイヤルもベルファストも、そのような乱交会に強制的に連れられ、無理やり奉仕させられたことがあった。しかし彼女達はこれで堕ちることなく、終始嫌悪し続けた。
「寝取られものでそういうシーンは何度も見たけど、自分がいざ体験したら困惑と侮蔑しか感じなかった」
池田は寝取られたKANSEN達に連れていかれ、強制的に乱交の様子を鑑賞させられたことが何度もある。KANSEN達は間男達との本気のセックスを見せつけ、堕ちた彼女達に手淫されて悲しみに暮れながらも陰茎を勃起させていたり、泣いて戻るように懇願する無様な姿を見たかった。もしこれがアズールレーンの寝取られの漫画であれば、彼女達の期待通りになっただろう。しかし池田はそうならなかった。
「軍務を放棄してまでやることがこれかと…一体彼女達は何をニヤニヤ笑ってんだと呆然となったね。これをリシュリューやヨーク、ヴィットリオ、ビスマルクやソユーズみたいな指導的な立場の主力艦がやってるんだから開いた口が塞がらなかったよ」
こんなことをしてセイレーンやエックスに勝てる訳が無いだろと彼の脳内で突っ込みが止まらなかった。実際に言ったこともあったが、理解していないようであった。上層部が性的奉仕を命じてるから、性行為の方が気持ちよいから、指図される謂れは無い、などまともに取り合う気も無かった。
「…あんなことされてまで恋愛感情を持つなんて無理だね」
ロイヤルをはじめ、鉄血、新生アイリス、サディア、チュリッパ、東煌、北方連合、重桜、ユニオンの大半のKANSENが堕落し、1日の大半を性行為やそれに関わる活動のみに費やすようになった。軍人としての心構えも教えも教練もない中で、彼女達は弱体化の一途を辿った。重桜とユニオンは指揮官が多少逃がしてホーランド大将を始め良心的な将官が匿ったこともあって他と比べれば被害はマシであったが、それでも多くのKANSENが堕落してしまった。
「ここまでされてもなお慈愛を持てる奴は、それこそ救世主だろうな」
「いやあどうだろう…あの救世主も不倫はNGのスタンスだからなあ、きっと神の怒りがあのソドムに落ちただと思うよ。せめてさ、しっかりと書類上の手続きを済ませて離婚とか退役するならまだ分かるよ。そうするなら俺だって穏便に済ませたさ。それすらしないで不貞と命令不服従をかましてるんだ。彼女等も大したもんだよ」
指揮官はグラスをくるくると手で回しながら、己を見下してきた嘗ての仲間たちに思いを馳せる。
「セントルイス、イラストリアス、ヒンデンブルク、インプラカブル…煽ってきた子は何人もいたけど、彼女らなぜか俺がまだ未練を持ってるなんて勘違いして煽ってたな。あの根拠なき自信はどっから来たんだか」
「そのくせ閣下が冷たい目で見れば気味悪そうに去って行ったな。そして彼女達が閣下に暴力をふるおうとすれば私たちが阻止して、ときどき…最後はほぼ毎回私たちに打ちのめされていたな」
「それでもなおしつこく煽ってくるなんて自分達が上だと思っていたのか?」
「寝取られものじゃ大抵そうだと思うよ。人格、戦力ともに地の底に落ちてるのに、自分が最高に気持ちの良いセックスを行えていると言うただ一点のみで、上下が反転する」
「今までの自分を形成していた性格や価値観が全部破壊されて、最後に残るのは原始的な快不快のみってことか?閣下」
「その手の専門家じゃないんで分からないけど、そうだと思う」
「なるほど、寝取られものがポルノグラフィの一種で、官能的であればあるほど価値があると仮定した場合、情欲を煽るに当たって邪魔するものは除外されるのでしょうね」
「…たとえそれが公式設定に反したとしてもね。だから寝取られものって、ヒロインが堕ちきった所で大抵終わる。その後を描いたら、この世界みたいに大抵が不幸なことになる。そして、それは読者が望まない蛇足だ。まあでも…」
一息ついて一度は少し落ち着いた思いが再度ぶり返し、しばらく口を一文字に閉じた。
「閣下…?」
アーク・ロイヤルが怪しげに見た所で、指揮官は二人に命じた。
「アーク、ベル、悪いけど窓閉めて、カーテンをしてくれないか?」
「あ、ああ分かった」
「承知いたしました。ご主人様」
二人がいそいそと命令を遂行していくなか、指揮官は蓋をしていた感情を抑えきれなくなるのを自覚していた。彼はたまらずグラスにウオッカをなみなみを一杯に入れた。窓を閉めてある程度以上の防音効果が見込めるようになったところで、彼は半分ほど一気に飲み干した。
「「閣下!?(ご主人様!?)」」
彼が抱いているストレスと怒りが爆発し、がちんっ!とグラスが叩きつけられる音がした。
「ベル!アーク!寝取られってそんなもんさ!!」
「寝取られってのはそういうもんなんだよ!!公式のキャラ設定ぶち壊してそのキャラクターがどう堕ちてエロくなるか!!それがもっとも優先される!!君たちの性格や設定なんてあってなきが如しだ!!」
そして残りの半分ほどを同じぐらいの速さで飲み干して、再度彼はグラスを乱暴に置いた。
「ご…ご主人様…」
「ごめんベル!止めないでくれ!でないと頭が本当におかしくなる!!ベルみたいにビジュアルが優れたキャラが率先して狙われるんだ!特にアズールレーンは時々以上にエロに振り切っててエッチな衣装を山のように追加しまくっていた!運営からしてアズールレーンはエロいとハナから認めていた!!毎度毎度エッチでスケベなKANSENやスキンが実装されては売り上げを叩き出していった!俺も楽しんでた一人だったから文句は言えねえけどよ!!!」
「な、なるほど?私達を題材にした作品でも、いわばフェチズムが優先されるのですね。もともとのゲームからして、運営の方々がそう認識しているのであれば、二次創作もまたそう言った傾向が出ると」
「そういう事だ!!!運営の人間がここに居ないから分からんけども!!!まあ俺も前世じゃそう言うのを楽しんでいたから人のこと言えないけどさ!!」
指揮官はそう言って空のグラスを再びテーブルに叩きつける。
「ちくしょう!!!リアルでやられると最ッッ高ッッッに腹立つな!!!堕ちた連中を法廷で裁いてざまぁしてやりたかったよ!!セイレーンの攻撃か暴動で大半がくたばっちまったけどさ!!」
彼はそのまま机に突っ伏し、嗚咽を上げだす。
「くそ!!くそが!!!!くそがよ!!!」
いたたまれなくなったアーク・ロイヤルが、思うところが有り余るのか、何度目かのビールを一気に胃にかきこんだ。
「私もぶちまけようか!」
「おうやれやれアーク!准将権限で俺が許す!」
アーク・ロイヤルは息を大きく吸って思いのたけをぶちまけ始めた。
「何がBNWOだ馬鹿め!!ただの乱交にスタイリッシュなラベルを張りつけるな!!!無関係な黒人達をも巻き込みやがって!」
「いいぞいいぞ!アーク!もっと言ってくれ!」
「
アークロイヤルの怒りは留まるところを知らず、火山のように吹き出し続けている。
「指揮官を裏切り!祖国を裏切り!人々を裏切り!教えをも裏切り!自分で体と存在意義をぶち壊し!何もできない奴隷以下の何かに成り下がった!!」
「一体何なんだあいつ等は!?バカみたいな衣装に!出来の悪いゴスロリメイクだ!あれが国を守るKANSENの姿か!?あれが!?私達がセイレーンと戦ってる横でちん〇加えてだらけてやがって!どの口で正義をほざくんだ!どの口で教えを説くんだ!説得力ゼロどころかマイナスに振り切ってるではないか!」
「しかもセイレーンと戦って勝てないと見るや間男と二人そろって逃げ出したしな!どこまで無責任なんだ!!」
堕落したKANSENの大半はセイレーンに勝てないと見るや逃亡した。しかし逃げてもセイレーンは追いかけ、周囲を巻き込みながら戦死させた。戦乙女の如く美しいかつての姿は一片もなかった。
「閣下!こんなバカバカしいことでビスマルク追撃戦の再演なんかしたくなかったぞ私は!!ちくしょう!こんなもので魚雷何本使いたくなかった!!いっそ核魚雷の一撃で仕留めたかったぞ!」
「気持ちは分かるがやめてくれ~~魚雷が勿体ない」
口調はふわっとしてるが本気の声色で指揮官は嘆願した。
「あーあ、これが寝取られものの末路か。まあ、セックスしかやってなくて自分で自分を弱くしてんだから当たり前か。ほんと寝取られものの末路は惨いねえ。そのアフターフォローを俺達でやる羽目になったのが最悪だが…」
「ん?するとあれか閣下!この世界は後日談か!!」
「あぁそうさ!きっと寝取られもの後日談だ!!」
「ふふっ、アズールレーンとレッドアクシズ、そして重桜とユニオンを除く各国上層部がなに馬鹿なことを!と思っておりましたが、なるほど…ここがそもそも寝取られものの二次創作の世界ならそのようにプログラミングされていたと…。納得はできかねますが、理解はできます」
「ベル!納得しなくて良い!!!俺だって腹立ってんだ!!!世界を守る軍事組織の癖に!!こんなバカみたいなことが連続して起こった挙句エウロラ大陸を滅ぼすなんて!!!ふざけているにも程がある!!曲がりなりにも寝取られ二次創作だってベースはアズールレーンの世界さ!ならその公式の世界観や世界設定が!歪んだ世界に復讐する!二次創作はどうあがいても原作者には勝てねえのさ!」
「なるほどな!閣下!ならこれはきっと報いだ!!セイレーンはエックスに対抗するためにKANSENの覚醒を期待していたんだ!この世界では起きたが、それと同時に退化堕落しやがった馬鹿も出たから、セイレーンはそいつ等をぶっ壊すべく行動した!さしずめそう言う事だろう!」
「アークの言う通り!俺もそう思う!二次創作は原作者の認可黙認の元でのみ存在が許される!これは創作における基本だ!上層部の連中はやりすぎた!だから原作からの罰が下った!それがこの様だ!!巻き添えにされちゃ溜まったものじゃねえけどな!!ちくしょう!!二度目の世界も大戦争かよ!!」
何度もテーブルが激しく揺れた。大規模な戦闘が終結した余韻の中、蓋をしていた想いが爆発した。
「…こうして伺っていますと、運営の方々が設定された性格や言動から著しく逸脱しておりますね」
「寝取られ二次創作なんざそんなものさ。いかに作者や読者、視聴者の性的興奮を高め、いかに性的欲求を満たすかが本題だからな!満たすためならベルをクソビッチにして中指突き立てさせるんだよ!」
「ご主人様。私は今、この状況を招いた方々に対して天高く思い切り中指を突き立てたく存じます…!」
三人はこれまでに、堕ちたKANSENや間男達から受けた仕打ちを思い返し、指揮官は思わず手にしていたテキーラを、アーク・ロイヤルはウィスキーを、ベルファストはギネスビールを一気に飲み干した。
「おう!突き立てろ!俺が許す!!」
許可を得たベルファストは天高く中指を突き立て、指揮官とアークロイヤルはそれを見て爆笑した。
「いいぞいいぞベル!ありがと!!」
指揮官の中で怒りと笑いのボルテージがみるみる上がり、一層理性の抑えが緩んでいく。そしてアークロイヤルともども乗っかって同じく中指を突き立てた。三人分の怨恨が中指を通して天高く昇って行くように指揮官は思えた。
「いやー、まさにキャラ崩壊って感じだ!でもありがと!ベル!相当腹に来ていたんだな!!」
「ことここに至った以上、中指の一つや二つ立てても罰は当たらないと愚考します!」
「全くだ!むしろこれで当たるなら罰が悪い!」
指揮官は弱い力でごんっごんっとテーブルに拳を打ち付ける。
「ったく一から百までふざけた話だ!何でこんなバカバカしい乱痴気騒ぎのために…!ヨーロッパとアフリカの人々が消えなきゃいけなかったんだ!!一体何億が死んだ!!」
ほぼ規則正しい音がテーブルを揺らしている。
「くそお!!なんで…!」
「何で俺は救えなかったんだ…」
指揮官は手をだらっとぶら下げ、顔を直にテーブルに打ち付けた。痛みが一瞬走ったが、猛攻で命を落とした人々を思うと、痛みに顔をゆがめることさえ傲慢とさえ思えた。
「閣下…」
「ご主人様…」
ベルファストとアーク・ロイヤルは席を立ってそばに寄り、彼の背中をさすった。おいおいと泣く彼の泣き声はしばらく続き、二人が彼の背中をさすってそばに居る間に先ほどまでの熱狂はだんだんと静まっていった。
「…閣下、もう過ぎたことだ。気に病む必要はない。あなたはベストを尽くした」
「分かってるよアーク、ベル…。でもやっぱな」
指揮官の胸に無力感が去来する。ユニオンと重桜以外の国々が壊滅的な打撃を受け、何億もの人間が死ぬか被害を受けた。それを誘発したであろう不祥事に自分が当事者としていながら、正常な軌道に戻すことができずこうなってしまった。寝取られたケッコン艦や、堕ちてしまった仲間と、そうなる前にもっと積極的に仲を良くすればよかったのか、そうすればアーク・ロイヤル達のように、今に至るまで彼のそばに居続けてくれたのかと色々な思いが過る。
彼が思っている通り、もし指揮官がより積極的にアプローチをして仲を深めて強化や指導をより行っていれば未来は違っていたのかもしれない。実際のところアーク・ロイヤル達が間男に堕ちることなく、セイレーン相手に大立ち回りをして圧倒した理由は単純であった。それはKANSENが力を発揮する条件の「指揮官と共にいる」ことを今に至るまで実践し続け、その過程で指揮官と愛のあるセックスを何度も行ったからだった。指揮官と彼女達は共に長い時間を共に歩み、関係を築き、親愛を育んでいた。それが最大レベルに達し他後、彼女達は指揮官との愛のある性行為を複数回行っていた。
その過程で彼女達の体は人間へと近づいていき、彼との子を妊娠する者もいた。KANSENとホモサピエンスでは種族が違うため、人間同士の性交と比べると妊娠しずらく、また出産までに多くの時間を要する。それでも確かに彼女達の体はホモサピエンスたる指揮官を受け入れるように代わり、ある者は新しい命を宿していた。これが彼女達を本格的に覚醒させていた。
アークロイヤルや一航戦、ノースカロライナ姉妹達のように、最初期から指揮官を支え続けたり、ライオンのように特殊技能により戦線を切り開き有能さを以て秘書艦を勤め前線でも戦功をあげ続けたKANSENは、自然と指揮官との仲を育みやすくなっていた。仮に指揮官がゲーム本編と同様のステータスを見れていたら、彼の最愛の秘書艦達のレベルは200、親愛度は300と表示されていただろう。
メンタルキューブ適性のある指揮官とセックスすることが肝要であった。そのため、メンタルキューブ適性の無い上層部の間男達がいくらセックスをしたところで、それは性的な快楽を生み出すだけであり、何らプラスの変化をあたえるものでもなかったのだった。
META化がKANSENの兵器としての側面が大きく出る現象であるなら、覚醒はヒトとしての側面が大きく出る現象である。妊娠した、あるいは妊娠に向けて体がホモサピエンスへと近づいたことで、KANSENのヒトの側面、特に生物としてのヒトの側面が強く出たのだ。これが彼女達KANSENを覚醒させていた。大いに覚醒したことで素体の力を引き出しながらリュウコツの侵食現象を突き返し、逆に素体を自らの支配下に置く術を手に入れた。これにより不可逆と思われていたMETA化の進行を逆行させる、META化の影響を排除することすらも成功した。
のちに、覚醒に至るには複数の方法があり、妊娠はその一つであることが判明するのだが、それは別の話である。そしてこの覚醒が、間男達の誘惑と精神的な汚染に対するまさに鋼鉄の防護を彼女達に与えた。これが最後まで、間男達に犯されながらもアーク・ロイヤル達が落ちなかった原因であった。そのことを指揮官達を始め、この世界が知ったのは後日のことである。
「はーあ、前世も今世も大戦争か…来世も大戦争は勘弁してくれよな~」
「閣下…あえて聞くが、前世の閣下の死因はさっき言ってたウクライナ侵攻が関わってそうだな?」
「まあ…な。あまり言いたくないがこの時だ、言ってしまおう」
指揮官の前世において、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発して10年と1か月が経過した時、ロシアはバルト三国への侵攻を開始した。それが米中ロ間の核戦争になるまでにそう時間は掛からなかった。万を超える弾道ミサイルが世界各地に放たれ、東京にもニ十発が着弾した。前世の指揮官は一瞬で蒸発した。
「地下鉄の駅に避難する際に核で焼かれたよ」
「…その後、ご主人様はどうなったのですか?」
「俺が死んだ後、大きな駅にいたんだ」
「駅…ですか?」
「うん。東京駅とか新宿駅を彷彿させる大きな駅だった。そこは死んだ人間が行く場所みたいで、一目見て死んだと分かる人間が結構な数いたんだ。神様の代わりに制服を着てる駅員が多くいてさ、死んだ人間を案内したり話を聞いてやってたんだ」
指揮官の周りで駅員が案内していた者は、事故で体が折れてはいけない方へ折れていたり、病気や飢餓で痩せこけているもの、あるいは家族に看取られて老衰した者など様々だった。
「…死後の世界は天国でも地獄でもなく駅なのですね」
「俺も初めて知ったよ。あまりにも普段見慣れた風景だったからさ、迷っただけかと一瞬思ったんだ。でも東京の駅名や地名表示が無くて、ああ死んだんだなって悟ったね。…もう一度転生があるなら、今度こそ平和な日本に生まれたい。世界平和と迎撃ミサイルと給料マシマシでね」
「…もしかして、アズールレーンの世界に来られたのも、初めは不本意で?」
「まあ、ね。最初はセイレーンの妨害だよ。もともと俺は現代日本行きの青い電車に乗ってたんだ。ワープ空間みたいな所を突っ切るように走ってる最中だった。突然、時間跳躍装置のラプラスが突っ込んできて電車に物理的に追突してきたんだ。どこをどう嗅ぎつけてきたのやら」
今でも苦い思い出なのか、指揮官は顔を少し顰めた。
「そして降りて来たセイレーンに拉致される形で転生した。俺はセイレーンに利用されたんだと思う。まあ、セイレーンもKANSEN同様に元はエックスから人類を守る存在だから、プレイヤーの経験があった俺を拉致したのかもな。記憶が正しければ、俺のほかに老若男女問わず何十人も連れ去られていた。でもね…」
そこで指揮官は表情をより真剣なものに変えて二人を視界に収め、かしこまって言いきった。
「君達と過ごした日々は間違いなく掛け替えの無い素晴らしい日々だったと心から思っているよ」
彼の瞳には一片の曇りも嘘もなかった。ベルファストもアーク・ロイヤルも、彼が言葉に出さずとも分かっていた。だが、改めて言ってくれて有り難く思えた。
「ご主人様、そしてアークロイヤル様。このベルファスト、お二人にお仕え出来たことを心から感謝申し上げます。来世がございましたら、またお二人のおそばで…」
「ベル、その時もよろしく頼むよ」
「私も閣下のそばにいるぞ」
「ええ。その時はまたこの三人で、そしてノースカロライナ様達と共にゆっくりとお茶会をいたしましょう」
「是非、そうしたいものだ」
指揮官はそう言ってふうと大きく息を吐いて空を見上げる。いつのまにか、満天の星空が見えるようになった。その綺麗な風景に、指揮官は少し心が表れた気がした。そしてここにいる二人を始め、彼のそばに立ち続けたKANSEN達を改めてこれからも大事にしようと決意したのだった。
最後が駆け足でしたが、これで終わりです。書こうと思って省いたのですが、この後大声を聞きつけてノースカロライナやワシントン、赤城、加賀、ウェールズが嫉妬しながらやってきます。誤字脱字報告や感想をお待ちしております。