※この作品はR-18です。

達也くんアフター(※充希がいないバージョン)   作:minnie_remon

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10.車内トーク

 2週間後。

 

 この日も達也は、ジムでのトレーニングを終えると駅とは逆方向へ歩を進める。

「達也さん、お疲れ様ですっ」

 運転席に座る美桜が達也の方へと顔を向け、元気良く挨拶する。

 が、すぐに顔を手元のスマホへと戻してしまった。マネージャーになりたての頃なら有り得ない、ちょっと失礼な態度だ。というかまだマネージャー歴2週間なので、普通に「なりたて」の域を出ていないのだが。

 しかし達也は、そんな美桜の態度を気にする素振りは全く無い。むしろ達也の方から「かしこまり過ぎないで欲しい。上司と部下みたいな関係じゃなく、友達みたいに接してくれた方がむしろ俺としてもやりやすいから」と常々言っているのだ。

「…何してんの?」

 達也が美桜のスマホの画面を覗き込む。どうやらパズルゲームをしているようだ。

「おお、すげー」

 美桜の指捌きは見事なもので、画面上のブロックが次々と消えていく。普段をゲームをほとんどやらない達也からすれば、そのプレイはもはや神業と言うべきレベルだった。

 しばらくして、画面にTIME UPの文字。続いて本日のハイスコア更新!の文字が躍る。

 しかし美桜は特に喜ぶような素振りも見せず、当たり前のように『NEXT GAME』の文字をポチっと押して。

「って、2ゲーム目はアカンやろ!」

 ちょっと強めにツッコむ達也。

「今のはゲーム終わるのにちょうどキリのいいタイミングじゃなかったか?」

 という至極真っ当な意見に対して、美桜は。

「というか達也さん、他人のスマホを勝手に覗き込むなんて失礼ですよっ」

 まさかの反撃。

 ゲーム続けてる方が失礼だろ、と言いかけた達也だが、「上司と部下」ではなく友達のように接して欲しいと常々言ってる手前、それを口にすることは出来なかった。友達同士なら確かにスマホを覗き込む方が失礼だろう。

「私がここでどれだけ達也さんを待ったと思ってるんですか?達也さんも少しは私を待たない不公平です」

「それは美桜が早過ぎるからだろ」

 そう、美桜の行動は何から何まで早いのだ。今日も午後4時ぐらいにトレーニングを終えると伝えてあったのだが、美桜はその1時間も前からここに車を停めて達也を待っていたのだ。

 達也を待たせるようなことは絶対にしないという姿勢はマネージャーの鏡と言える。ただ達也としては、それが逆に嬉しくない部分も多少あった。美桜が勝手にやっているだけとはいえ、やっぱり長時間待たせるのは気が引ける。だから今日も予定のトレーニングを早めに切り上げた程だ。

 

「というかそろそろ出発しようぜ」

「でも約束の時間まではまだかなりありますよ」

「こんな閑散とした住宅街にゴツい車停めてるだけで通報されそうだ」

 ちなみにこの車は達也や美桜の私物ではなく、政府から与えられた専用車である。今や『政府要人』の身分となった達也を乗せるための車とあってその強度は抜群で、もし他の車と衝突事故など起こそうものなら、達也の乗る車はほぼ無傷で済むが衝突された方は大破してしまうかもしれない。戦車並みの強度…と言うのは大げさだが、普通の市販車と比べれば戦車に等しいと言って差支えないかもしれない

「じゃあ、ゆっくり遠回りでもしながら行きますか」

 美桜がしぶしぶエンジンを入れ、車をスタートさせる。

「達也さんって、音楽とか聴かないんですか?」

「あまり聴かないなあ」

「好きな歌手とかはいないんですか?」

「そうだなあ…特に最近の歌手とか全然分かんないな」

 

 達也は子どもの頃からあまりテレビを見なかったし、音楽を聴くような機器も持っていなかった。スマホを持ったのだって高校を卒業してからである。そんな子供時代を過ごしたから、世間の流行には今も全くと言っていいほど興味が無い。

 でもそういった環境で子ども時代を過ごしたこと…特にスマホを与えられなかったのはとても良かったと今では思っている。何せ最近の子どもは重度のスマホ漬け、平均すると1日に5時間前後もスマホを見ているといい、それは達也が子供の頃の同級生も同じだった。周囲が余暇時間のほぼ全てをスマホに費やしている中で達也は毎日毎日勉強とスポーツに明け暮れていたというのだから、大差がつくのは当然である。

 

「達也さんって、予定無い時とか普段何してるんですか?」

「特に何も…部屋の掃除とか」

「特別な趣味とかって無いんですか?」

「何もしないのは体を休めるって意味もあるから」

「そっか、アスリートは体を休めるのも仕事の内ですもんね」

 じゃあ私が達也さんの家事全般もやりましょうか?と言いたかった美桜だったが、そこはグッと言葉を飲み込んだ。何せ達也には吉野里帆という超ビッグな彼女がいることを告げられている。

 ただ、彼女の存在を知っても美桜は特段落ち込んだりしなかったどころか、むしろ納得する気持ちだった。そりゃ達也さんなんだから、吉野里帆クラスの彼女がいて当然だと。むしろ顔だけが売りの頭悪そうな女子アナが彼女だったら腹がったかもしれないけど、と。

 何にしても、美桜は達也の傍で仕事が出来るだけでこれ以上なく幸せなのだ。この地位を絶対に失いたくない、だから達也に鬱陶しく思われるような提案などしてはいけないと強く意識しているのだ。

 

 その時、ピロリロリーンと美桜のスマホが鳴った。

 美桜は赤信号で止まった所でスマホに手を伸ばして。

「おおっ…!」

 メールの文言を確認した瞬間、嬉しそうな表情で言った。

「やりましたよ達也さん、おめでとうございますっ!」

「どうした?」

「彩子さんが、無事ご懐妊されたということです」

「…彩子さん?」

 その名前に心当たりを見出せず、一瞬戸惑う達也。

 そんな達也に美桜はジト…と怪訝深そうな視線を送って。

「…まさか、精子提供した女性を覚えてないんですか?」

「え…あ、ああ、彩子さんか。も、もちろん覚えてるとも。あれだろ、俺がドナーになってそれこそ最初に提供した女性だよな。そうか、うまくいったのか。いや良かった良かった」

 

 彩子というのは達也が認定精子ドナーとして活動を開始したまさに初日、つまり4月1日に精子提供した女性である。提供の成否、すなわち妊娠に到ったかどうかは提供から2~3週間後に判明する。彩子は今日の検査で妊娠が判明、その一報がまさに今、美桜に知らされたのだった。

 

「さすが達也さん、早速の大仕事ですね。おめでとうございますっ!」

「いや、大したことではないと思うけど…」

「そんなこと無いですよ。今や日本人男性の2人に1人は一生子どもを残さないと言われてるんですよ。2人に1人が一生かけても出来ないような偉業を達也さんはたった1日でやってしまったんですから」

 まあ、考えようによっちゃそういうことになるのかな…と達也は思う。それより何より、2人に1人は父親にならない世の中だって言うんだからそりゃ少子化にもなるよな…としみじみ思う。

「でも達也さんからしたら何てことは無いですよね。だって精子ドナーに任命される以前も、200人近い女性を妊娠させた実績がありますもんね」

「だから、それには触れない方向で」

 そう、達也が精子ドナーに就任する以前から200人近い女性に種付けしていたことを美桜は知っているのである。達也としては「それは誰にもバラさない約束だったじゃないか!」と抗議したくなる所だが、マネージャーの美桜にだけは隠しきれないこともまた確かだった。というのも美桜は精子提供相手となる女性の選別・決定にも関与しているのだが、精子提供を求める女性の中には以前に達也に種付けを受け出産に到った経験を持ち、今回「2人目」を求めて応募してくる女性も少なくないからである。

 何を隠そう今日これから達也が精子提供する亜美という女性も、以前に達也の種付けを受けて男の子を出産し、今回2人目の子どもを求めて精子提供を受ける女性である。というか、それこそ達也が人生で初めて種付けした女性がこの亜美だったりする(原作2章参照)。

「でも、何で隠すんですか。200人も子どもがいるなんて、男してカッコいいじゃないですか」

「世間がそんな風に思う訳ないだろ!」

 とにかく、その話をバラすのは絶対に禁止だからな、何度もそう念を押す達也だった。

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