達也くんアフター(※充希がいないバージョン) 作:minnie_remon
―達也―
俺は今、里帆の部屋にいる。
部屋はシンプルな内装で整理整頓が行き届いており、いかにも女性の部屋といった感じだ。
ただ一点だけ、大きな本棚にズラリとマンガ本が並んでいる点だけが、普通の部屋とはちょっと違う雰囲気を醸し出している。
そう、里帆はマンガが大好き。もう少し詳しく言えば、マンガ・アニメ・ゲームの類が大好き。いわゆるオタクと言って差し支えない人間なのだ。
ただ世間一般は、里帆のそういった一面をほとんど知らない。それは別に隠している訳ではなく、前面に押し出していないからあまり知られていないというのが正しい。実際、里帆のオフィシャルホームページにも趣味・特技の欄には『書道・漫画・ゲーム』としっかり書かれている(ちなみに里帆は書道八段の腕前だ)。
ただ、マンガ・アニメ・ゲームの類が好きなのを前面に押し出していないのは事務所の方針もあるという。女優業は人気稼業でイメージも戦略も非常に重要だ。事務所としては里帆を「真面目で実直な清楚系」として売ろうとしており、オタク的なイメージをあまり持たせたくないのだという。だからトーク番組などに出演した際も、そういった話は極力しないように言われているらしい。
俺の率直な意見としては、今の時代別にアニメオタクだろうが白い目で見られることもほとんど無いからあえて隠すような方針を取らなくてもいいんじゃないかと思うんだけど、実際に今の方針の下で2年連続CM女王に上り詰めるまでに売れているという現実がある以上、事務所が里帆からアニオタ感を排除しているのは結果的には正しいと言うしかないのだろう。
まあそれはともかくとして、里帆はアニメやゲームが大好きだ。
まさに今も、俺は里帆がが上機嫌にシューティングゲームをプレイするのを見守っている所だった。
「達也くんが見てると思うと緊張するな~」
なんて言っているけど、緊張しているようには全く見えない。俺なら1分と持たずやられてしまうだろうとという程に画面上を埋め尽くす敵弾を軽やかにかわし、自身の攻撃を的確にヒットさせている。
指先の細かい操作から紡ぎ出されるミリ単位の絶妙な動き。遊びとは思えないほどの真剣な表情。
「よし、これでコンプっ」
そして言葉のところどころから滲み出る、どこかで聞いたことのあるような用語。
そんな里帆の姿を見ていると、思わずにはいられない
里帆のゲーマーレベルは、趣味の域を遥かに超えていると…
「達也くんもやってみる?」
ハードモードを難なくクリアした里帆がコントローラを渡してくる。
「こういうゲームはほとんどやったこと無くて苦手だからなぁ…」
「ノリの悪いこと言わないでよね。それに大丈夫、私が教えてあげるから」
確かにノリが悪かったなことをと反省しつつ、コントーラを受け取る。
シューティングゲーム攻略のために教わることなどあるのかどうか分からなかいが、とりあえず無難にノーマルモードを選択。そして適当なキャラでスタート…しようとするが。
「あ、ちょっと待って」
いきなり里帆先生からのストップがかかった。
「達也くんはシューティング初心者なんだよね?」
「自慢じゃないが全くやったことない」
「このマリアは攻撃重視型だから、初心者の達也くんには扱うの難しくて向いてないと思う」
「何だと、里帆に使いこなせて俺には使いこなせないだと?」
「初心者は初心者らしく、マリアはやめてレイカにしよ。ね?」
そう言って里帆は俺が握るコントローラを横から操作してキャラ選択画面に戻り、勝手に別のキャラを選択した。
「レイカは追尾攻撃が主体で、言わば達也くんみたいな初心者向けだから」
初心者初心者って何回言うねん!と言いたくなったのをぐっと堪える。
男は口ではなく結果で語るもの。俺の才能を見せてやるぜ…!
てな訳で、ゲームスタート。
「なるほど…これは確かに強いな」
画面上ではレイカが撃ち出す弾が敵を自動追尾でどんどん蹴散らしていく。
ザコ敵は出てくるや否や撃ち落とされていくからほとんど自機を動かさずに進むことができ、何と最初のボスをノーミスで片付けてしまった。
「なんだ、意外と簡単じゃん。この調子だと余裕で一発クリアかな」
「まだ1面だよ」
という里帆の言葉通り、2面あたりから徐々に雲行きが怪しくなりはじめた。
画面には敵弾が多くなっていき、初心者の俺を確実に圧迫してくる。
そして…
「やばっ…!」
と思った瞬間、敵弾がレイカにクリーンヒット。その体が粉々に砕け散り、画面上から消滅する。
つまりは一機失った。
「あー…まだボム使ってなかったのに残念」
「ボム?」
「Bボタンを押すと、どんな危険でも緊急回避できるの」
「おい!それを先に教えてくれよっ!」
「常識中の常識ですからてっきり知ってるものかと」
「いやそんな常識は聞いたことがない」
「シューティングゲームにボムがあることぐらい、常識中の常識中の常識中の常識っ!」
4回も常識と連呼されると流石に言い返せなかった。それに、本当に誰でも知ってるような常識かもしれないし…
まあいい、まだ一機失っただけ。勝負はこれからだ。ボムの存在さえ知っていれば今のようにおめおめとやられはしないだろう。
気を取り直して再スタート。2人目のレイカが意気揚々と登場する。
「さあさあ、まだ始まったばかりだよっ」
里帆が俺を鼓舞する。もちろん俺も、今度こそはと気合いを入れ直す。
…が、当然ながら気合いだけで何とかなるものでもない。やはり2面は難しく、里帆の応援も虚しくすぐにさっきの様なピンチを迎えてしまう。1面に比べて敵の弾が多いこと多いこと。
「危なっ!」
危機を感じて、ボムを使用すべく瞬時にBボタンを連打するが……
「うん、一瞬遅かったね」
咄嗟の危機回避行動も虚しく、2人目のレイカはあっさりとその役目を終えた。
「なんで?絶対B押したって!」
「確かに押してはいたけど、タイミングがほんのちょっと遅かったね」
「そんな筈はない!絶対に俺が押したのが早かったっ!」
「シューティングあるあるだから気にしない気にしない。さ、切り替えが大事っ」
よくあることだからと、至って冷静に返される。
それから何度かプレイして実感したことだが、ボムを使ったつもりで使えなかったという現象は本当によくあることだった。
………………………………………
結局、俺の記念すべき初プレイは3面の途中でゲームオーバーだった。
ただ、里帆いわく初めてのプレイであることを考えるとこれは決して悪くないレベルではなく、むしろセンスを感じさせる結果なのだという。さすが格闘家、動体視力がいいんだねと褒められてしまった。
そしてそれからは、俺の強化という名目で手取り足取り教わりながらのプレイが続いていた。
「ここでは自機を一番右下に持っていって動かないように!」
「おおっ、弾に当たらない!?」
「これがいわゆるアンチ」
「アンチ?」
「安全地帯の略。ステージの随所にあるアンチを覚えるのは攻略の基本だから、しっかり暗記するように」
なるほど…アンチをアンキか…
しかし、こんな裏技まがいのプレイではゲーム本来の面白さが失われるのではと思わなくもないけど…
「あ、この敵は倒したらダメっ」
「え、なんで?」
「倒しちゃうとさらに強い敵が出てくるの」
なるほど、敢えてザコを残しておくわけか…
「こういうテクニックを遅回しと言うの。逆に得点を稼ぎたい時は早回し、つまり出てきた敵をすぐに倒して新たな敵を出すって訳だね」
「なるほど…」
さっきのアンチに比べると、これはなかなか奥深いテクニックかもしれない…
「このボスはしっかりボムを使うんだよ。達也くんはまだこのボスの攻撃を避けられないんだから」
「…了解しました」
「ボムを残したまま死ぬことを抱え落ちって言うの。シューティングゲームではとにかく抱え落ちを無くすのが最も大事だからねっ」
まさについさっき、里帆先生の指示を無視する形で「抱え落ち」してしまい、こっぴどく怒られてしまった。
それにしても…色々と用語が出てくるものだ。
「先生、今使ってもうボムが無くなったんですけど?」
「だね。だから次の攻撃でとりあえず一機死んじゃう予定」
「マジですか…」
「ボムに頼らず避けるのを気合避けと言います。さあ達也くんの気合避けを見せてっ」
…と言われても俺の気合避けなど通じる訳もなく、予定通りボムが無くなるや否やあっさりとやられてしまう。
「まあ、ボムの切れ目が命の切れ目ってやつだね」
「…それもシューティング用語?」
「ううん、これは私が今考えた」
「そ、そっか…」
協力プレイでも対戦プレイでもなく、完全な特訓モード。
格闘技のトレーニングより疲れた…と言っても過言ではなかった…かもしれない。