※この作品はR-18です。

達也くんアフター(※充希がいないバージョン)   作:minnie_remon

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1.王様・小野達也

 東京、高田馬場にあるFAILYのジム。ここは言わば、小野達也の城である。

 

 元々FAILYは大阪の片隅にある寂れた弱小ジムに過ぎなかった。それがこうして東京に2号ジムをオープンできるまでに大きくなったのは、達也が稼いでくるファイトマネー及び達也の活躍によってもたらされる宣伝効果が全てである。達也の存在無くしてこの高田馬場ジムのオープンは有り得なかった。

 当然、ジムの中でも達也の立場は別格である。例えば達也がシャドーボクシングをしようとリングに上がると他の選手は譲るようにリングを下りたし、シャワーブースは達也がいつでも好きなように使用できるようにと常に一室が空けられている状態だった。とはいえ誤解の無いように言っておくが、決して達也が他の選手に「今から俺がリングを使うからお前らは下りろ」というような横柄な態度を取っている訳ではない。あくまで他の選手たちが自発的にリングやシャワーブースを達也に譲るのである。それは最近入門した若い選手はもちろん、達也より年上の先輩選手であっても同じだった。年齢や格闘技歴に関係なく、FAILYの選手は誰もがみな達也に憧れ、達也を尊敬しているのである。

 

 この日も達也がリングに上がってシャドーボクシングを始めようとすると、他の選手たちは示し合わせたようにリングを下りた。いつもと全く変わらない光景だ

 そして、適度に体を動かした所で。

「よし、じゃあ今日は…君、上がろうか」

 達也が一人の若手選手を指名して、リングに上がるように促す。スパーリングで胸を貸してやろうというのだ。

「はい、よろしくお願いします…!」

 指名された選手は緊張した面持ちで、しかし意を決したようにリングへと上がる。

 そして、数分後…

 

 ダンッ、ダンッ、という打撃音がリングに響く。

 達也が若手選手をコーナー際へと追い込み、鋭いパンチを何発も浴びせていた。

 ややもすれば、達也が若手選手をイジメているようにも見える光景だ。だがそれは全くの誤解である。事実、3分×2ラウンド=計6分間のスパーリングのうち、達也は最初の5分はほとんど手を出さず、若手選手に好きなようにやらせていた。達也が攻撃に転じたのは残り1分を切ってからだ。だが達也がほんの少しギアを入れ替えた瞬間に形勢は逆転。若手選手はあっという間にコーナー際へと追い込まれ、そこからは一方的にパンチを浴びるだけになってしまった。

 何とかクリンチに逃れようと試みる若手選手を容赦なくコーナーポストへと押し返し、またパンチを浴びせる。結局、その光景はスパーリング終了の合図が告げられるまで変わらなかった。

 

「よし、お疲れさん」

「はあっ…はあっ…あ、ありがとうございました…」

 苦しそうな表情を浮かべながら、お礼の言葉を何とか口にする若手選手。今にもその場に崩れ落ちてしまいそうな勢いだ。

「なかなかいいパンチ持ってるじゃないか。でもな、ガードは常に高くってのをもう少し意識しようか」

 簡単なアドバイスを授けてから達也は若手選手をリングから下ろし、続けざまに次の若手を指名した。そしてまたスパーリングを開始する。

 若手選手とのスパーリングは、達也にとっては「クールダウン」のようなものである。高負荷のトレーニングの後の軽いスパーリングで実戦感覚を保つ、言ってみれば日々の調整の一環に過ぎない。しかし達也にとってはほんの軽い調整であっても、若手選手たちにとってこれ以上無くハードなトレーニングだ。何せ指名された者は例外なく、達也に痛めつけられることになるのだから。無論、王者の胸を借りられる貴重な機会であることは間違いないのだが…

 また若手選手たちにとって達也とのスパーリングは肉体的にはもちろん、精神的にも言葉に表せないような屈辱を植え付けられる場となっていた。何せ達也はあまりに強く、若手選手たちが束になっても全く敵わないのはもちろん、それどころか達也に汗一滴かかせる事すらできないのだ。FAILYに入門してくる若い選手たちは、大抵は学生時代に何らかの格闘技経験があったり、あるいは体力自慢で腕っぷしに自信があるような者ばかりだ。皆少なからずは、「自分が一番強い」というような気持ちを持ってやって来る。しかしそんな根拠の無い自信は、達也とのスパーリングであっけなく打ち砕かれることになる。それはFAILYの新人が避けては通れない通過儀礼のようなものだった。

 しかも達也とのスパーリングは大勢の女性ファンの前で行われることも少なくない。達也はファンサービスの一環として定期的に練習を一般公開している。公開日には達也見たさで若い女の子が見学に押しかけるのだが、そこで達也にボコボコにされるとあっては屈辱も倍増である。FAILYの若手選手たちは、皆少なくとも2~3回は、大勢の女の子たちの前で達也に一方的にKOされるという「公開処刑」を喰らっている。

 なのでFAILYのオーナーである晴香は、若手選手たちのメンタルを心配してこの公開スパーリングには否定的なのだが…

 

「強くなるためには、まずは身の程知ることが重要なんですよ。人は悔しさが無けりゃ努力しないですからね」

 

 と、達也は全く意に介する様子無し。もはや晴香でさえも絶対的王者・達也の方針には口を出せないような状況となっているのだった。

 

 そんな達也の厳しい指導方針もあり、この高田馬場ジムは入門生こそ多いものの、デビューすら待たずに辞めていく者も少なくなかった。とはいえ達也の厳しい指導に耐えてデビューにこぎつけた若手の大半はデビュー後好成績を収めているのもまた事実だった。プロの世界は弱肉強食、みんなで仲良く強くなるなどというのは夢物語だ。そういう意味では、達也の「闘志無き者は去れ」という指導方針はあながち間違ったものとは言えないのかもしれない。

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