筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
「デック様のおそばにいたかったなぁ。でも、助けてくれてありがとね」
「娼館も給金は弾むって言ってくれたから玉の輿狙うね」
「デック様のこと忘れられるかなぁ……。満足できなさそう」
「デック様のおちんぽがほしーーんふー」
「ミリアム様とイリア様だけじゃ満足できなくなったら、ここに寄ってね。デック様ならタダでさせてもらいますよぉ」
「お前たちも元気でな。立ち寄った時は顔を見に来るとは思う」
盗賊が根城にしていた砦跡を出発、数日間街道をさらに北に進んだ俺たちは、ほどほどに発展した宿場町にいた。
東西南北の街道が交わるこの宿場町はハルドーという名らしい。
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街道が交われば行き交う人は多く、旅の途中で一夜の相手を求める人も多い。
なので娼館街もデカかった。
ミリアムはその娼館街の中で一番デカい娼館に盗賊に攫われた娘たちを売った。
5人で4000リギンド銀貨。
売却額としてかなり安いらしいが、その代わりに奉公期間が短く設定されるらしい。
奉公期間が終われば、客取りの稼ぎは彼女たちが半分ほどもらえるそうだ。
それに上手くやれば商家の嫁や貴族の側室なんて可能性もあるらしい。
数日を共にすごした娘たちなので、できれば幸の多い人生を歩んでほしいと思う。
「では、他の用事も済ませましょう。デック様、イリア、参りますよ」
「はい、ミリアム姉様」
「ああ」
それにしても、ミリアムがすごい素性の人だったと聞いてびっくりしている。
イリアから教えられたのだが、元はアルべイド王国の王太子様の下で参謀を務めていた高級軍人だったそうだ。
しかもお飾りの参謀じゃなく、ちゃんと作戦とかを立てて実行してたらしい。
今まではただの処女悦楽堕ちドスケベ神殿騎士様かと思ってたけど、イリアの話を聞いたら、ミリアムの見方がけっこう変わった。
彼女が戦いの時に非常に冷たい顔をして表情を消すのは、きっといろんな策を考えているからだと思うようにしている。
でも、なんで俺と一緒に行動しているのかは謎のままだ。
本人に聞いても、言葉を濁して教えてくれない。
イリアにもこっそりと聞いたが、ミリアムの考えは分からないらしい。
まぁ、でもこの世界に不慣れなうえ、頭の足りない俺としてはミリアムに頼るしかないわけで。
捨てられないよう一生懸命に棒を振るうしかない。
そんなことを考えつつ、彼女の後ろに付き従い、次の目的地である買い取り屋に来た。
「いらっしゃい」
「いらない武具を処分したくて持ち込みました。お高く買ってもらえます?」
「品次第ですな。武具はこのところ需要が多いので高く買い取らせてもらってます。なにせ、盗賊の横行が酷いんで隊商護衛たちがこぞって買い求めてくるんですよ」
へー、盗賊はあそこだけじゃないのか。
リイド帝国は治安が悪いんだろうか? それともこれくらいが普通なのか?
こっちの世界情勢はさっぱりだからなぁ。
「このハルドーより北は、盗賊たちの力が強いと聞いてますが。帝国は討伐軍を送らないのですか?」
「まぁ、今は無理でしょうな。帝位争いの真っ最中ですし、辺境の盗賊討伐などやってる暇はないんでしょうなぁ」
「それでも領主様がいるでしょうに」
「ハゲタカの盗賊団たちが勢力を張ったデリー地方の領主たちは、逃げ出すか、討ち取られてますぜ。だから、誰も近づけない無法地帯になってるって噂だ」
盗賊を討伐せず、統治をほったらかしにして権力争いとか、大丈夫なのかこの国。
だいぶ終わってる感があるが……。
「それに叛徒を平定して落ち着いたアルべイド王国が盗賊たちの占拠した領域を狙っているという噂もあるぞ。しばらくおとなしかった国境もきな臭い」
「なるほど、よい話を聞けました」
買い取り屋は、俺たちが売却する武具を見ながら算盤を弾き、世間話も続けていた。
「よし! 算定できた。これでどうだい?」
「2000リギンド銀貨と300ダーナ銅貨ですか……。あとこれだけ追加してもらえたら」
「くぅ、あと200リギンド銀貨か……。しゃーない。数も揃っているし買った!」
成立したらしいな。
交渉事は俺の仕事ではないが、ミリアムの表情を見る限り、高く売れたらしい。
神殿から持ち出したのが、たしか1000ディナ金貨。
諸々使って残ってたのが500ディナ金貨だったはず。
盗賊の戦利品とか合わせると……んがぁ。
いかん、寝そうになった。
全財産は3500ディナ金貨、11200リギンド銀貨、3300ダーナ銅貨のはず。
たぶん、きっと、自信はないが。
そこそこ小金持ちな気もするし、どこか治安のいい場所に家を買ってまったり暮らすのも悪くない気はする。
俺が夢のマイホームに想いを馳せていると、清算を終えたミリアムに声をかけられた。
「デック様、行き先が決まりました。盗賊たちが占拠しているデリー地方に向かいます。とりあえず、ハゲタカの盗賊団の部隊を1つずつ潰して回り、無領主地帯となったあの辺りを領有いたします」
「は?」
「ですから、無断占拠している盗賊を討伐して、勝手に領主になりますので、よろしくお願いします」
「誰が?」
「デック様が」
「は?」
「全てを統べる王になるには、まずは基盤となる領地が必要。デリー地方は乱れに乱れ、帝国の統治も行き届いておりません。なので、デック様が平定し領有を宣言すればよろしいのです。その後の帝国との交渉はわたくしにお任せくださいませ」
えっと、今さらっと全てを統べる王とか言ったよな?
俺はアルべイド王国から逃走したミリアムのことだから、てっきりまったり隠れて暮らす場所を探していたんだとばかりに思っていたが。
違うのかっ! ちょ、ちょっと待って! 領主とか聞いてないっ!
「お、俺がそんなのできるわけないだろっ!」
「いえ、できます。類まれなる武勇、強大な敵にも臆さない勇気、下の者への優しさ、そして見る者を畏怖させるその威厳に満ちたお姿。全て人の上に立つべき資質を兼ねておられます」
イリアに助けを求める視線を送るが、彼女もミリアムと同じ意見の様子を見せていた。
万事休す。俺に断る選択肢は与えられていない。
いや、断れるんだろうけど、断ったら彼女たちに見捨てられる気がする。
頭の足りない俺では、1人でこの異世界を生き抜けるとは、とうてい思えない。
「デック様、迷っておられるでしょうが、これだけは重ねて言わせてください。この世界、1人殺せば犯罪者。100人殺せば極悪人。でも万人を殺せば大英雄と呼ばれるのです。デック様は上に立つ資質かね備えた武勇に秀でておりますので、大英雄となるべき御方なのです」
くぅ、そんなこと確信に満ちた顔で言われたら腹を決めるしかねぇ!
俺は感覚がもともと鈍いのかもしれないが、こっちに来て人を殺すことへの抵抗感が驚くくらいなくなっている。
現代日本はやはり俺の生まれるべき時じゃなかったんだと、改めて思い知らされていた。
「分かった! やってやる! 盗賊を退治すればいいんだろ。退治すれば!」
「さすがデック様! それでこそ、ラムダ神の遣わした方ですー!」
「イリア、先にデリー地方に向かい、盗賊たちの情報を集めておきなさい。農村の把握も。金貨は預けるわ」
「はいっ! では、直ちに向かいますー!」
イリアが牝馬に跨ると、あっという間に姿を消した。
どうやら俺は異世界で王を目指すことになったらしい。
なれるかどうかは分からないが、俺に出来ることは頑張るつもりだ。