筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
予想通り、ドン引きですよっ! ドン引き!
全身を真っ赤な鮮血で染めた鎧を着て、腰から盗賊の首を下げた俺の姿を見た村人たちが、血相を変えて家の中へ逃げ込んでいくのが見えた。
絶対にヤベーやつが来たって思われてますけどっ! ミリアムさんっ!
もともとガタイがデカいから威圧感があるのは自覚しているが……。
今の俺の姿は、威圧感五重丸くらいあると思うっ!
「ひっ! すみません! すみません!」
俺と視線が合った村人が、地面に頭を擦り付けてひたすらに謝罪を口にする。
子供たちは泣き出すし、犬は大声で吠え掛かってくる。
「デガシ領の盗賊討伐に立ち上がったデック・ノボー様のご到着である。村長は迎えに出ぬか!」
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凛としてよく通るミリアムの声が農村に響く。
イリアとともに白髪の男性が飛び出してきた。
「お出迎えもせず。失礼いたしました。村長のホーゲンと申します」
俺は兜を取ってコクザンから降りると、村長の前に盗賊の首を投げ捨てた。
村に着く前に、そうしろとミリアムから言われているのだ。
脅すとか、そういうんじゃないから。うん、そうじゃない。
「ひぅ!」
「俺に挑んできた者の末路だ。よく見るといい」
これもミリアムにそう言えって言われた。
何度も言うが脅してるわけじゃない。マジで。
「は、はい。こやつらはたしかに何度かうちの村を襲ったハゲタカの盗賊団の連中です。デック様が討ち取ってくれたのですか……」
え? そうだったの? 知らんかった!?
距離的には近かったから、そういうこともあるか。
でも、知らんかったというよりか、知ってて討伐したって方がいいよな。
「この村が困っているとそこのイリアから連絡を受けてな。先に討伐しておいたのだ。おかげでこの有様だがな」
チラリとミリアムの方を向いたが、『問題ありません。続けて』と言いたげな表情をしていたので、レクチャーを受けていた話を続けることにした。
「そ、そうなのですか!? 見ず知らずの村のために! 御身を危険に曝して盗賊討伐をされたと!?」
ホーゲンは俺の行動が信じられないとでも言いたげな表情をしていた。
まぁ、ここら辺の農村は領主からも見捨てられ、国からも見捨てられてた場所だから、盗賊に敵対するやつなんて存在してなかったんだろう。
可愛そうと言えば可哀想な人たちだ。
畑は荒れているし、家も所々が壊れているし、村人たちも老人と子供が大半を占めているっぽい。
大人の男は盗賊になるか、盗賊に殺されたかだろうし、大人の女は連れさられたか、殺されたかのどっちかだろう。
農村は荒れて寂れ果てているという印象しかない。
「国も領主も盗賊どもを討伐せぬなら、俺がやるしかないと思ってな。立ち上がったのだ。その仲間にホーゲンたちが加わってくれると聞いて、俺も喜ばしい限りだ!」
実際に加わってくれるかは未知数らしい。
ただ、盗賊の横行により、かなり追い詰められている村だとは聞かされている。
このまま座していたら、村を捨てるしかない村だった。
「イリア殿から話を聞いておりましたが、正直なところ、迷うておりました……。デック様が盗賊に立ち向かえる御仁なのかも分かっておりませんでしたし」
ホーゲンの言葉は当たり前の反応だ。
どこの馬とも知れない俺を信じて、大勢力になった盗賊と戦えるわけがない。
頭の足りない俺ですらそんなことは理解できる。
ミリアムは、絶対に受け入れると言ってたけど、この現状では断られてもしょうがないよな。
どうも脈はなさそうだし、今夜の宿を借りるだけにしとくか。
「そ、そうか。やはりそうか。無理強いはできない。代わりと言ってはなんだが――」
「謹んで、デック様のお手伝いをさせてもらいますっ! あのクソいけすかないハゲタカの盗賊団どもをぶっころしましょうぞっ! 皆殺しだっ! 皆殺し! ぶっ殺して豚のエサにしてやる!」
えーーっ!? ホーゲンさん! 目がガンギマってるってっ!
こわいよっ! その顔っ! 殺意たかっ!
ガンギマリのホーゲンに握手を求められた俺は、必死に平静を保ち、その手を握り返した。
「よろしく頼む」
「ええ、任せてください! 近くの村長たちにも発破かけてきますっ! せっかくデック様が立ってくれたんだっ! この機会にあのクソ野郎どもにブチ切れた農民の怖さを分からせてやらねぇとっ! ああ、デック様は我が家をお使いください。何もないところですが、寝る場所くらいにはなると思います。じゃあ、わしは近隣の村を回ってきますっ!」
「お、おぅ。助かる。って――」
家を自由に使っていいと言ったホーゲンは、すぐさま数人の村人を連れて、村から消え去っていた。
残された俺は呆気にとられたままだった。
「ホーゲンさん、奧さんも娘さんも盗賊に殺されてて、近隣のどの村長よりも盗賊に恨みを持ってる人なのです。デック様が盗賊討伐をしようとしているという話に、一番反応してたのもあの人ですー」
残ったイリアが、ホーゲンについての補足をしてくれた。
身内を殺されてたら、たしかにアレくらいガンギマリするよな。
俺も自分の親を殺されていたら、手加減なしで殲滅しててもおかしくないし。
「デック様がこの村を襲っていた盗賊の首を見せたのが、ホーゲンさんの最後の自制心を決壊させたんだと思います。それをミリアム姉様は狙っていたんだと思いますが……」
「そ、そうなのか?」
「ええ、まぁ。あの方の力をお借りせねば、さすがに盗賊たちの討伐は厳しいと思いますので。盗賊にいいようにされ、農民たちの鬱憤は溜まり続けております。デック様がその力を集約するシンボルとなれば、盗賊ごときたやすく討ち取れます」
さすがミリアムだ。
参謀とかっていうかっこいい高級軍人をしてただけのことはある。
軍略とかって考えられるのってかっけーな。やっぱ。
でも、まぁ、盗賊たちを叩き出すって大仕事かと思ったけど、なんかミリアムとイリアがいたらけっこう余裕なのではって気がしてきた。
盗賊を追い出したら、俺が領主か……。
領主って何やるんだろうか……。
あー真面目に考えてみたら眠くなってきた。
ウトウトし始めたら、急に俺の鼻がつままれた。
「んあがっ!」
摘まんだのはミリアムだ。
「また寝そうでしたね。考えるのはわたくしの仕事です。デック様はまず身体を清めましょうか。イリア、洗って差し上げなさい」
「はい。井戸はこちらですのでどうぞー」
「へーい」
イリアに手を引かれ、村長の出てきた家の奥にある井戸に向かった。