筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
「こっちだ! こっち! お前らの仲間をやったのは俺だぞ!」
「クソが! なめやがって!」
「仲間やられて、無事でおれると思うなよっ!」
「てめえ! 待ちやがれ!」
子供たちと農作業に励む日々を過ごしていたわけだが。
ある日、ミリアムが農民たちを軍事調練したいから、デガシ領に派遣されてきているハゲタカの盗賊団たちの野営場所にちょっかいかけてこいと言われた。
なので、野営場所に火をかけ2~3人叩き殺してきたけどこれでよかったんだろうか?
俺は今コクザンの背に乗り、怒り狂う盗賊たちを引き連れて、指定された場所へ向かっている。
背後に付いてきたのは40~50人ほどだ。
前方に丘の上に見える雑木林の茂みから。鏡の反射光が送られてきた。
あの合図、停まって反転しろだったな。よし!
手綱を引き、コクザンを反転させると追ってきた盗賊たちに突進していく。
「うぉ! なんだ! 急に戻って来たぞ! ぐえ!」
先頭にいたガタイのいい盗賊がコクザンの突進を受け止めきれず跳ね飛ばされる。
驚いた盗賊たちが左右に散って道を開いてくれた。
そんな隊列になると、棒でぶん殴ってくれと言ってるようなもんじゃないか……。
ある程度、数も減らしてくれと言われたし、少しだけ倒すか。
左右に割れた盗賊たちの頭部を俺の棒が通過するたび、破裂音と真っ赤な鮮血が噴き上がる。
頭部を失った男たちがドサリと地面に伏せていた。
「つえぇ! なんだこいつ!」
「黒い鎧に黒い馬の大男って! この前、逃げてきたやつが言ってたヤベーやつかも!」
「えーっと、誰だっけ。デ、デ、デなんだっけ」
「デック・ノボ―だ! 覚えておけ」
「ひぃ! たすけ……て」
棒の一突きを受けた盗賊の頭が弾け飛ぶ。
「ひぃ! 例の黒いバケモノだ!! も、もう駄目だっ!」
噴き出した血が辺りを赤く染め、他の盗賊たちを怯えさせた。
「俺の名はデック・ノボ―だ。お前ら盗賊を地獄へ送り込むため来た!」
コクザンを再び敵兵の集団に向け駆けさせると、すれ違いざまに棒で薙ぎ払う。
盗賊たちは上半身と下半身が分断され、どさりと地面に倒れ込む。
「誰か、俺を討てるやつはおらんのかっ!」
「調子に乗りやがって! デックなにがしがしらんが、わしの槍を受けられると思うなっ!」
怯える盗賊たちをかき分けて、ぶよぶよの脂肪を蓄えた巨漢の男が、大きな槍を突き出してくる。
「早くもないし、迫力もない。見せかけだけだな。お前」
軽く槍をいなすと、バランスを崩した巨漢の男の脳天に棒を叩きこんだ。
肉の裂ける音と頭蓋骨が砕ける音が響くと、血の噴水が新たに噴き上がる。
「デガシ派遣隊の隊長の大槍遣いのソブン様がっ! たった一撃で! か、かなうわけねぇ! 逃げろ! 逃げろ! 殺されちまう!」
馬に乗って逃げ出そうとした盗賊の首に、矢が突き立ち落馬する。
「今だ! 矢を放て! 敵を一人も逃がすな! 放て! 放てぇ!」
ミリアムの凛とした声が響くと、斜面の草むらに隠れていた農民たちが放った矢が混乱する盗賊たちに次々に突き立っていく。
何本か俺の鎧にかすってたが、まぁ当たっても刺さらないので問題はないか。
それにしても農民たちの殺意が高い。
散々、盗賊たちに乱暴狼藉されて、鬱憤がたまっていたんだろうなぁ。
伏兵からの奇襲を受けた盗賊たちは、逃げ出すこともできずに慌てふためき、次々に射殺されていく。
50名を数えた盗賊たちも、今動いているのは2~3人しかいなかった。
「仕上げだ! いくぞ、コクザン!」
「ブルルッ!」
土を跳ね上げ、コクザンの巨体を駆けさせる。
背を見せて逃げていた盗賊たちは、次々に跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられるとうめき声をあげた。
すかさずイリアがそいつらにトドメを刺していく。
最後の1人を捕捉すると、その頭に棒を振り下ろし、人生の終わりを与えてやった。
「ふー。これでよしと! 戦いは俺たちの勝ちだ!」
俺の勝利宣言に、農民たちは雄たけびを挙げて応えてくれた。
「勝利ってことでいいよな」
後処理を農民たちに任せて、俺の元に来たミリアムにそう話しかける。
「ええ、問題ありません。軍事調練は大成功です。これで農民たちも自信を付けたと思いますし、ハゲタカの盗賊団たちの遺骸は積み上げて晒しておけば、デック様の強さに震えて眠るようになるでしょう」
「そういうものか?」
「ええ、そういうものです。明日からは次の段階に入ります。農民たちの救世主デック・ノボーの名を広めましょう」
「救世主? 俺が?」
「ええ、農民たちの希望の星でもよろしいですよ。どちらか好きな方を選んでください」
どっちもクソ恥ずかしいんだが……。
俺はただミリアムに従って棒を振るってだけの男だし、救世主とか希望の星とか言われると、あがり症の影響が出てきちまう。
ただのデック・ノボーでいいんだがなぁ。
「本当にどっちか選ばないとダメか?」
「ええ、選んでください」
満面の笑みを浮かべたミリアムに即答されてしまった。
羞恥プレイだろ……コレ。
どっち選んでも似合わねぇー。
イリアまで隣に来てニマニマし始め、俺の返答を求めてきた。
「どっちにするんです? デック様?」
うー、無理だ。どっちも恥ずかしすぎて決められない!
「2人に任せた」
「なら、農民の救世主ですねー。ミリアム姉様」
「ええ、そちらがいいでしょう」
ミリアムはイリアに手渡された木札に、さらさらと文字を書いていく。
どうやら俺の名前を書いているようだ。
名前くらいは読んで書けるようにと、子供たちと混じってミリアムに教えてもらった成果が出た。
名前の前に書かれた文字は読めないけども……。
読めない方が、恥ずかしさを感じずにいれるとおもう。
「これでよしと」
農民たちによって装備を剥され、全裸で積み上げられた盗賊の遺体の前に、ミリアムが木札を立てた。
ソブンと名乗ったデブの巨漢の頭部なしの遺体も置かれ、自慢していた大槍で倒れないよう縫い止められている。
それを見るだけでも、農民たちの怒りは深いと感じられた。
「盗賊たちもこれを見つけたら、こちらの存在を認知すると思います。これからが本番です」
「おぅ。俺に出来ることは何でもやろう」
「ミリアム姉様、私はこのまま先行偵察に出まーす」
「ええ、お願い」
イリアが、盗賊たちが乗っていた馬に乗ると、駆け去って行く。
俺はその姿を見送りながら、次なる戦いに備えることにした。