筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
※盗賊視点
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デガシ領に隣接するイスカール領にある領主の館へ、ボロボロの格好になった盗賊が馬に乗って駆け込んできた。
夜が更け、中庭で酒を飲んで騒いでいた者たちが、駆け込んできた者を見て騒ぎ出す。
「おい! どうした? その格好は?」
「お前はソブンのところに居たやつだよな?」
「た、大変だ! 大変なことになった! ダダン様はどこだ!?」
慌てる男を落ち着かせようと、酒を差し出した者がいたが、男はそれを拒否してダダンを探していた。
周りの者たちも男の尋常ではない様子に、何かを感じ館の中にいる頭領であるダダンを呼びに行く。
しばらくして、ガウン姿のまま女を連れたダダンが屋敷の中から姿を現した。
「おめぇ、オレの楽しみを邪魔したからには、覚悟はできてるんだろうな?」
「ダダン様っ! 大変です! デガシのソブン様の隊が全滅しましたっ!」
男の報告にダダンが血相を変えて詰め寄り、首元を掴む。
こちらの指示に従わないデガシ領の農村を略奪するため、派遣したはずのソブンたちが全滅したことが信じられなかった様子だ。
「70人いたんだぞ! 70人! 全滅だと……!?」
「オ、オレ以外、全員が身ぐるみ剥されて、全裸で積み上げられてました! 全員っすっ!」
男の報告を聞き、ダダンの目が細くなる。
「誰がやった?」
「黒い悪魔っす! 黒い悪魔! デガシ派遣されてたやつらの中で、そう呼ばれてた悪魔がソブン様たち本隊もやっちまったんです!」
「黒い悪魔? 名だ。名前を言え」
「さーせん! たしかーー」
釣り上げられた男が、懐から木札の一部を取り出して、ダダンに渡す。
木札には『農民の救世主デック・ノボー』とデカデカと書かれていた。
「デック・ノボー。こいつがやったのか?」
「はい、こいつが黒い悪魔っす。やばいくらい強いやつって噂が広がってました」
男の発言を聞いた者たちから、うめき声のような声が上がる。
70人を数えたソブンの隊を全滅させられる勢力を率いる者が出てきたことを知り、これまでのみたいな農民相手の楽な戦いができないのではと不安になる者も少なからずいた。
そんな周囲の空気に苛立ったダダンは、男を放り捨てると、怒りに顔をゆがませて木札を握りつぶした。
ハゲタカ盗賊団の副長として、300名以上の部下を預かっている彼からしたら、今回の件は面子を潰されたに等しい行為。
反抗する者が勢いづけば、今は盗賊団の力に怯え大人しく従っている農民たちが蜂起しかねないことにダダンは気づいて焦りが生まれた。
「やったやつの名は分かった。ハゲタカの盗賊団に喧嘩を売ったやつらの末路がどうなるのかはちゃんと思い出させてやらないとな! そうだろ? お前ら?」
ダダンは動揺を見せている部下たちに発破をかけるような言葉をかけた。
発破をかけられた部下たちは、気勢をあげて応える。
その様子に満足気な顔をした表情を引き締めるとダダンは、尻もちを突いている男の前に歩み寄った。
「報告は助かったぞ。だが、ソブンのところに居たはずのお前はなんで生きてるんだ?」
ダダンは、尻もちを突いた男を足で踏みつけ、その顔を睨みつけた。
「まさか、戦わなかったとか言わねえよな?」
男はダダンの気迫に飲まれ、声も出せずただ首を振るだけだった。
その様子を部下たちが固唾を飲んで見守る。
「もう一度、聞く。お前だけなんで生きてる?」
近くの部下が、ダダンの気配を察し、剣を差し出した。
受け取った剣を男の首筋に突き付けた。
「ひぃいい! ふ、副長に、報告しなきゃと思ったからっす! け、けっしてデック・ノボーが恐ろしかったわけじゃっ!」
「なら、お前が今度のいくさの最前列に立て! ソブンの敵討ちのためにな!」
「ひぃ! そんなっ! やだぁああ!」
「なら、今ここで死ね」
ダダンは男の首に突き付けていた剣をスッと引くと、血しぶきが顔を赤く染めていた。
「オレの部下に臆病者はいらん! 分かってるな! お前ら!」
「「「「「「うっす!」」」」」」
「よし! いくさの支度だ! 舐めた態度をしてくれたデックとやらを打ち取りに行くぞ! 準備しろ!」
「「「「「「おー!」」」」」」
「それと、デック・ノボーの首を挙げたやつにはディナ金貨500枚やるぞ! 気張れ!」
「「「「「うぉー!」」」」」」
イスカールの館は、急に騒がしさを増し、いくさの支度で行き交う人が一気に増えた。
そして、夜明け前には総勢300人が支度を整え、デガシ領へ向け出発を始めた。
ほとんどの者が出払ったイスカールの館に、目立たない服装をした者たちが数名忍び込んでいくのが見られたが、誰も気に留める者がいなかった。