筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
「案外、こじんまりした館だな」
盗賊たちが拠点にしていたイスカールの元領主の館に入った俺は、ホールの中をきょろきょろと見まわしながら、ルームツアーを楽しんでいた。
デカい城みたいなのを想像していたが、石造りの二階建ての館で、ホール以外にいくつかの部屋と台所、そして食糧庫や倉庫が併設されたものだった。
まぁ、でも屋内に水浴び場を兼ねた湯を張れるバスルームがあるのは気に入っている。
風呂は入りたい。
その一点だけでも◎なので、住むにはとてもいい館だった。
たぶん、盗賊たちも俺と同じ気持ちだったに違いない。
風呂はいい。風呂は。うん。風呂はいいぞ。
ルームツアーをしながらぼんやりしていたら、ミリアムに袖を引かれて我に返った。
「気に入りませんか? ここの元の持ち主は領主とはいえ、デリー地方を治めていた大領主に属する平騎士ですからね。これでも頑張って建てた館ですし、盗賊たちも綺麗に使っておりましただいぶマシ化と思いますが」
ミリアムが心配そうな顔で、お伺いを立ててくる。
どうやら俺がワガママを言うかもしれないと危惧している様子だった。
イヤイヤ、ミリアムさん、俺、いままで野宿でも文句言いませんでしたよ。
それ知ってますよね? だから、俺が大満足してるって分かってますよね?
困り顔のミリアムの顔をまっすぐに見つめ返す。
そして、ミリアムの細い肩を優しく掴むと、答えを口にした。
「いや、大いに気に入った。すばらしいと思う」
俺の回答を聞いたミリアムはホッと安堵の息を吐き、いつもの綺麗で美しい笑みを浮かべてくれた。
「よかった。側妾の部屋が足りないと言われるかと思いましたので、説明中ずっと心配しておりました。当面はわたくしとイリアがお相手いたしますね!」
そ、そっちのしんぱいですかぁー! 予想外すぎて草w
俺をあのハーレム大好き種馬の同類かなにかと間違えてませんかね?
その時、屋外の厩の方からコクザンと他の馬がいななく声が耳に聞こえてきた。
あの声……。
コクザンのやつ盗賊たちから奪った新しい牝馬にさかって、また種付けしてるのか。
俺は違うからな。うん、違う。同類ではない。
「俺はコクザンじゃないぞ……」
「え? 何か言いましたか?」
「な、なんでもない。とりあえず、ここで問題はない」
「よかったですねー。ミリアム姉様」
声の主はイリアだった。
振り返ると、ビクビクと怯える見たことない農民2人を引き連れている。
「イリア、そいつらは誰だ?」
「こちらの2人は、盗賊たちに協力していた農村の村長です。食糧や人を送って略奪を免れていたそうです。どうしても、デック様に目通りしたいというので連れてきましたー」
イリアの言葉が終わらないうちに、村長2人はすぐさま膝を突き、床に額を付けて土下座をした。
「へー。そうなのか。どうした? 困りごとか? 困ってるなら聞くが?」
俺の声をかけるたび、村長たちは怯えたようにビクンビクンと身体を震わす。
どうしてそんなに怯えてるんだ? この辺りにたむろってた盗賊たちはきっちりと殲滅してやったはずだが?
他に何か不安があるのか?
怯えて何も言わない村長たちの前に膝を突いて、顔を上げさせようとすると、ミリアムが耳元で囁いてきた。
『その2人の村長は、デック様からの許しを求めております。盗賊を支援していたことでデック様に敵対したと思われてないか不安なのですよ』
…………そうだったのか! 俺はてっきり盗賊にビビッてたんだと思ったが、盗賊を倒した俺にビビっているのか!
そんなにビビられることをしたのかな?
ただ、蔓延ってた盗賊たちを倒しただけだが……。
まぁ、でも怯え続けられても困るから、とっとと許しとやらを与えるか。
「許す。許す。盗賊に脅されてたんだろうから、しょーがないことだ。うん。許すぞ」
土下座したまま俺の言葉を聞いた、2人の村長は明らかに安堵の態度を示していた。
今後は領主としてやっていくから、彼らみたいな村長たちの協力はとりわけ大事だからな。
優しくしておかないと。
これで一件落着と思いきや―――
なんで、ミリアムさんもイリアさんも村長さんたちの頭を踏んで、クビに剣を突き付けてるんですか!?
村長さんたちビビッて、お漏らししてるって!
「デック様が許してくれたことに感謝せよ。本来ならわたくしたちが盗賊退治に乗り出す前に声をかけても無視したため、お前たちはクビを刎ねて、村に晒すところであった」
「ミリアム姉様の言う通りですー。デック様の深い慈愛に感謝を示されますように」
「デック様を裏切るようなそぶりを見せれば、お前たちの村の者たちは無残に殺された盗賊と同じ運命をたどることになると心せよ。よいな」
美女2人に頭を踏まれ、失禁している村長たちが、かすかに了承を示す動きを見せた。
ミリアムとイリアが剣をしまうと、村長たちは顔をあげず土下座したまま、扉の方に下がり、そのまま外へ出ていった。
あんなにビビらせていいものなのだろうか?
逆に恨みとかに感じないか?
「わたくしたちの行為に疑問に思っておりますか?」
「ああ、味方になってくれるなら優しくしてやった方がいいのでは? ホーゲンたちには優しくしてたしさ」
「待遇には差を付けねばなりません。ホーゲン殿たちはわたくしたちが盗賊に対し立ち上がる時から助力してくれた者たちです。ですが、今の2人は盗賊が討たれた後に助力を申し出た者です。同じ協力者ではありますが、古参を大事にせねば不満につながりかねません」
「それに、状況を見て態度を変える人は、デック様の下に付いても、また状況が悪くなれば裏切りかねないですー」
「だから、アレだけ脅して怖がらせ、待遇にも差を付けたという話か」
「ええ、そうです」
ふー、やっぱ俺にはいろんな駆け引きとかは難しいな。
コクザンに乗って、棒を振るってる方が楽だ。
「お疲れのところ、申し訳ないですが、他にもデック様とミリアム姉様の判断を頂きたいものあって、時間あります?」
「わたくしは大丈夫。デック様は?」
「んあ? ああ、大丈夫だ。館の見学も終わったしな」
「よかった。ちょっと困ってる件です。こちらへー」
俺とミリアムはイリアの先導で、館の外へ向かうことにした。