筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
イリアに連れて行かれたのは、絶賛種付け中のコクザンがいる厩のとなりにあった長屋だ。
木製の粗末な長屋だが、盗賊たちが館を占拠した後、部屋にあぶれた者たちが寝床として建て増ししたものらしい。
イリアが扉を開けると、室内には拘束されたボロボロの服をまとった10代なりたてくらいの薄汚れた男児5名ほどが拘束されて転がされている。
身体中に大きな青あざや、痛々しく腫れた打撲あとが見受けられた。
中には歯が欠けてない子もちらほらいる。
酷く怯えたような様子を見せ、身を縮こまらせている子もいた。
「イリア、捕らえるためとはいえ、子供に乱暴するのはいけない。縄を解いてやれ」
「私は乱暴などしてませんよー。やったのは盗賊たちの方です。この子らは盗賊たちの雑用をしてた子たちです。放火する時、危ないので攫われてた人たちと一緒にここに押し込めてただけですよー」
「そ、そうか。すまんな。早とちりした。困っているのはこの子たちのことか?」
「ええ、そうです。皆が親の顔を知らぬ孤児なのですがどうしましょうか?」
黙って話を聞いていたミリアムが口を開く。
「農村に引き渡せばよいではありませんか?」
たしかに、それが無難だろう。
働けるくらいの年齢だし、労働力不足の村は助かるんじゃないか。
「それが、農村側は拒否しました。もっと子供なら受け入れたそうですが、さすがに10代ともなると村への帰属意識を持てないとかでー」
村社会ってやつか。
農村は、村人みんなが親戚みたいな感じだしな。
そこに外部の人間が入るのは嫁取りくらいだってホーゲンが言ってたなぁ。
物心つく前の幼児なら養子として育てて、村の構成員にできるが、目の前の子たちの年齢だと部外者扱いせざる得ないってことらしい。
そんな村社会に、俺たちが受け入れてもらえたのは、盗賊と戦うという同じ目的意識を持っていたからだろうし。
でも、目の前の子たちはそれを持っていない。
行き場がないのか……。盗賊たちにも散々暴力を振るわれたっぽいし、住む場所も親の顔も知らない孤児か。
「では、殺しますか……。ここに居ても足手まといでしょうし」
ミリアムが発した『殺す』という言葉に子供たちは生きるのを諦めたような目をした。
そんな悲しい目するなよっ! まだ、若い子なんだからよぉ!
諦めんなって! 生きてたらいいことあるって!
いや、俺があいつらにいい目をみさせてやらなきゃな! 孤児になって困ってる子供くらい助けてやれないやつが、領主なんぞ務まるかってんだ!
剣を手にしたミリアムの腕を軽く掴んで制止する。
「いや、待て! 待て! 待て! 俺がこいつらの面倒みるわ。だから、殺さないでくれ。頼む!」
「正気ですか?」
「ああ、正気だ。俺なら子供程度の力で寝首を掻かれることもない。それに俺もここでは孤児だしな。あと、領主をやるなら、領民の父にならんといかんだろう。だから、あいつらの仮の父ちゃんくらいにはなってやりたい」
俺の言葉にミリアムは剣から手を外す。
そして、イリアは子供たちの縄を解いていた。
「だそうです。デック様のことを仮の父と思い、誠心誠意仕えるのであれば貴方たちの命を助けます」
何もかも諦めているような目をしていた子供たちは、事態の急変に理解が追いついていないようでポカンとした顔をしていた。
ポカンとする子供たちの前に座り込むと、彼らに目を真っすぐに合わせる。
うちの親父は、俺と喋る時には必ずそうしてたからだ。
じいちゃんと同じく、けっこう無口で怖かったけど、亡くなる時まで絶対にいつも俺の味方してくれる信頼できる親父だった。
子供たちを見て、俺もそんなふうになれたらなと思っていた。
「まぁ、つまりはうちの子になれという話だ。俺はデック・ノボー。お前らの名前を教えてくれ」
「…………名前ってなんだ?」
「知らない」
「名前とはおいとかお前のことか?」
「馬鹿とかウスノロかも」
「名前って美味しいの? お腹空いたぁ」
子供たちがぼそぼそと喋り始めたが、その内容に耳を疑った。
名前すら付けてもらってないのか……。
本当に家畜以下の酷い扱いをしてたんだな。盗賊の連中はっ! クソがよっ!
「名がないのか……。だったら、俺が付けてやる」
褐色、赤毛、紅眼の子か。
見た目からして火を連想させる子だな。
「ミリアム、火は古の言葉でなんていうんだ?」
「火ですか? ヴェノですが」
「じゃあ、赤毛のお前は今日からヴェノだ。ちゃんと覚えろ」
「ヴェノ……。オレの名か?」
「ああ、そうだ」
「ヴェノ。おい、オレ、ヴェノだってよ! ヴェノだ! ヴェノ!」
めちゃくちゃ喜んでくれてるな! おいとかお前とか、馬鹿とかウスノロなんて今後は呼ばれないで済む。
ちゃんと名で呼んでもらえるぞ。
「ボクは?」
白い肌で青髪のアイスブルーの瞳をした子も、ヴェノが羨ましいのか俺に名をねだってくる。
「水だな」
「でしたら、アクアルですね」
「だそうだ。アクアル」
「ボク、アクアルだってよ。アクアルだ! ヴェノ、オレはアクアルだぞ!」
名前を与えられたアクアルが、感動しているらしく目から涙を流して泣いていた。
うんうん、喜んでるな。
特徴と名前が一致してるから、俺も忘れないですむ。
金髪で金色の瞳の子は地をつかさどる古語『アスラ』
緑髪で緑の瞳の子は風をつかさどる古語『ウィダ』
銀髪で銀色の瞳の子は空をつかさどる古語『ヴォイド』
と名付けた。
「ヴェノ、アクスル、アスラ、ウィダ、ヴォイド。これからよろしくな」
名前を得て、目の輝きを取り戻した子供たちは、コクリと頷いてくれた。
途端に、誰かの腹が鳴る音がした。
「飯にするか。父ちゃんが作ってやろう。自炊勢だったから簡単な物くらいなら作れるぞ」
「「「「「めしー!」」」」」
「というわけで、俺は子供たちの飯づくりでいいか? 後のことはミリアムとイリアに任せても?」
「ええ、お任せください」
「あとで私たちも食べさせてくださいね。デック様の手料理」
「まぁ、いいが。男飯だから味の期待はするな」
「デック様が手作りしたものであれば、なんでも美味しくいただけます。ええ、なんでも♡」
「そうですね。ミリアム姉様♡」
ミリアムさん、イリアさん、子供たちの前だから急に意味深な言葉を発して発情するのはおやめなさい!
教育に悪いですからっ!
俺が困った顔をしたら、ミリアムたちも察したようで、表情をキリリと引き締め、残っている問題の後処理をするため、小屋から出ていった。
そして、俺は子供たちに炊事場に連れてってもらい、放置された食材を使い、素手で細かくして食べやすくした鍋物を子供たちにふるまってやった。
塩味メインだったけど、大好評だったのは、父ちゃん嬉しいぞ。