筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
館に戻った俺の目の前に、若く容貌に優れているが、気の強そうな女性がそっぽを向くようにして椅子に座っていた。
銀髪碧眼をしていて、服装はいかにもお嬢様然としているし、発育もよろしいようだが、なんで不貞腐れてるんだろうか?
ホールに入って来てから、ずっと謎の緊張感が場を支配していた。
イリアに先導され壇上に座るよう促された。
え? あの? まずくない? いちおう、向こうの方が格上でしょ?
日本に居た時、知らずに上位者の座る上座に座ったら、先輩からめちゃくちゃ怒られたんだが?
チラリとミリアムに視線を送るが、イリアと同じように壇上に座るよう視線でうながしてきた。
こっちは、そういうこと気にしない世界なのか? イリアとミリアムがそうしろと言うなら従うが……。
「ふん! そいつがデックなにがし? 身体がでかいだけの年寄りじゃないのっ!」
「アイリス・ジャレル。誰が発言を許した?」
「くっ! な、なによっ! わたしが何を喋ろうがいいでしょ!」
ミリアムが腰の剣に手をかけ、相手を威圧する視線を送る。
あ、あの。いちおう、ここの統治者だった人の娘だし、リイド帝国の貴族令嬢様なんだから、礼儀は守った方が――
「ひ、ひぃ! やはり、こんな礼儀もわきまえないがさつな者たちに頼むことはやめた方がよさそう! やはり陛下にお願いして、討伐軍を送ってもらうほうがマシよ。マシ。時間を無駄にしたわ!」
ミリアムのぶしつけな態度に、アイリスは眉根をキリリと釣り上げ、ヒステリックなキンキン声をあげて叫んだ。
すぐさま近くに控えていたイリアが、彼女の首元に剣を突き付ける。
「黙って頂けますかねー。デック様もミリアム姉様もあなたに発言は許してませんよー」
「ひぃ!」
首筋に突き付けられた剣の冷たさを知ったアイリスが、目を見開いて口を噤んだ。
えーっと、どうなっているんだ?
イリアもミリアムも、相手が大貴族の娘でもまったく丁重に扱おうとしないぞ!?
ミリアムがカツカツと靴音を立て、アイリスの前に歩み寄る。
「『元』デリー地方の大領主コーウェン・ジャレルの娘アイリス。よくもまぁ、ぬけぬけとデック様の前に顔を出せたものですね。ハゲタカの盗賊団の跋扈を放置し、強大化すると領民も家臣も捨て、我先にと帝都に逃げた臆病者の娘が」
腰の剣を抜いたミリアムが、イリアの剣と交錯するようアイリスの首に自らの剣を突き付ける。
「わ、わたしが逃げようって言ったわけじゃないわっ! 父上がいったん安全な場所で情勢を見守ろうと言われたので従っただけよ!」
「そして、避難先で父親が急病でなくなり、一緒に逃げた親族の一人に資産を持ち逃げされ、住む場所を追い出され、借金してまで戻って来たとは……呆れて物が言えませんね」
え? え? そうなの!? 知らないことだらけなんだが!?
地味に不幸の連続じゃね? 綺麗な転落人生すぎん?
よく見ると、彼女の髪は綺麗に手入れされているけど、着てる豪奢な服はところどころ繕ってあるな。
それに貴金属の類は一切身に付けてないし、化粧も血色をよく見せるための最小限なものだ。
彼女に金がないというのは本当なのだろう。
それにアイリスは年齢からして統治に関わってなかったんだろうし。
ちょっと厳しすぎませんかね? その対応って?
「ミリアム、イリア。客人として来たのだから、剣で迎えるのは失礼だろう」
俺の言葉にミリアムとイリアがスッと反応し、剣を納めて跪く。
その様子を見て、アイリスがさらに目を丸くしていた。
「すまんな。俺はあんたの事情をよく知らんが、頑張ってたどりついたことは分かる。なんもないがゆっくりしてってくれればいい。部屋もちょうど1つ空いてるしな」
俺の言葉を聞いたアイリスが、表情を凍り付かせて身構えた。
「ふ、不潔なっ! 何を言うのっ! どこの馬の骨とも分からぬ下郎のくせに調子に乗ってっ! わたしはジャレル家の相続者ですから! そんな安い女ではありませんわっ!」
は? なんで急にブチ切れてるの? 意味わからねぇんだけども!?
ふつーに疲れてる感じだから、宿を貸してやるよって言っただけなんだが!?
「デック様が、お前の牝穴を所望しているそうです。家産も領地も失い、皇帝への謁見も叶わなず、借金取りに追われている貴方が生き残るには、最後の資産を高く売るしかありませんよ。それを理解してるからこの地を訪れたのでしょ? 違うのかしら?」
「ち、違う! 正統な領地の継承者として、返還を求めに来ただけですわっ! 身を売るつもりなど――っ!」
え? え? 身を売る? は? どういうこと?
ちょっと説明が欲しいんだけど!?
「デック様はあなたを正室に迎えていいとおっしゃっていますよー。ほら、早く売らないと興味を失ってしまい、場末の娼館で自分が作った借金返済のため酷使される生活が確定です。きついらしいですよ。一晩に何人も客を取らないといけないとか。最後は性病で衰弱死かもねー」
ちょっとイリアさん? アイリスが俺の正室ってどういう話?
置いてけぼりすぎて意味が不明なのですが!?
「くっ! やはり、野蛮なけだものだわっ! 来るのではなかったっ!」
ミリアムが、悪態を吐いたアイリスの頬を掴み、威圧するような冷たい視線を送るのが見えた。
「では、交渉は決裂ですね。こちらとしては最大限譲歩した条件提示でしたが、できぬのなら仕方ありません。とっとと出ていってください。貴方の代わりはいくらでもいます。イリア、お帰り頂いて」
「承知ですー。残念ながら、せっかく大領主の正室の座を手に入れられる機会を棒に振りましたね。残念、残念。さぁ、お立ちください」
「え? え? 嘘ですよね? え? え?」
困惑してきょろきょろしているアイリスをイリアが椅子から立たせて、ホールから連れ出していこうとする。
べ、別に俺の嫁になれなんて一言も言ったつもりはなかったんだがな……。
知らない間にそういう話になってたんだが!?
まぁ。でも聞いてた話からすると、マジでここから放り出されたら転落人生の終着点まで行きつきそうで可哀想すぎる気がするんだが。
まだ若いわけで、再起する機会くらいは与えてやりたい。
「まぁ、まぁ、待て、待て。正室うんぬんの話は、この際、脇に置いといて急いで追い出す必要はないんじゃないか?」
「そ、そうですわ! わたしはジャレル家の領地相続権者ですし、無理やり正室にするような野蛮なことをせず、厚遇しておけば領地を取り戻したあかつきには必ず恩には報いますわよっ!」
困惑を脱したアイリスが、口から唾を飛ばす勢いで必死に喋り始めていた。
「その領地、誰が取り返すのですか? アイリスは兵も金も領地も持っていらっしゃらないでしょうに」
「うっ! で、でしたらデック殿を正式に貴族入りするよう上奏いたしましょう」
「皇帝に会ってもらえませんよねー? だったら、上奏も届きませんよねー?」
「うっ! うっ!」
ミリアムとイリアが、アイリスの提案にきついダメ出しの言葉を投げつけた。
2人責められるアイリスが可哀想すぎて見てられない……。
流れでそういう境遇になってしまっただけで、悪さしてたわけじゃない彼女を責めるのは筋違いだ。
「もういい。ミリアム、イリア。それにアイリス殿も。借金返済用の金はやる。それで好きに生き直せ」
アイリスの顔色がサッと蒼く染まるのが見えた。
途端にガクガクと震え出し、さっきよりもさらに取り乱し始めた。
「いやっ! いやっ! いやぁああああああああっ! いやぁああああっ!」
どどど、どうしたん!? なんで、そんなに血相変えてるのさ!?
「むりむりむりぃいいっ! わたしのような無能者がお金もらっても、絶対にどこかで判断を失敗して、場末の娼館でむさい男の客をとることになるからぁあああっ! いやぁああああっ!」
俺なんかわるいことした!? してないよね!? 金あげるって言ったのがダメだったんか!? いやいや、ふつーにそれで丸く収まるでしょ!
「す、すみません! すみません! デック様に対し、とても生意気なことを言ってしまいましたっ! ほ、本心ではありませんっ! お許しください! ここから追い出されたら、もう終わりですっ! 頼る人もいません! 親族も信じられません! 帝国も家臣も誰も信じられませんわ!」
なになに? どしたん!? 急に!?
「み、見捨てないでくださいませっ! わたし如きの若輩者の力ではこの地はハゲタカの盗賊団から取り返せませんっ! なにとぞ、デック様の力添えを頼みます! そのためなら、この身体も売ります! 誠心誠意お仕えいたしますので、わたしをどうか高く買ってくださいっ! 明日、食事がとれるかも分からぬ貧乏は生活はもうこりごりなのですぅ!」
取り乱したアイリスは、壇上にいた俺の前にくると、それまで見せていた貴族令嬢としてのプライドを捨て去り、土下座をしていた。
「まだ、お願いの仕方が足りませんね。デック様はあなたの旦那様になる方ですよ。あと買ってくださいじゃなくて、ご奉仕させてもらいますでしょうね」
「それと【わたしの傲慢貴族令嬢の処女穴に、デック様の種付け汁たっぷり下さい】くらいは言わないと置いてもらえませんよー」
屈辱でアイリスの身体が震えてる気がするんだけども。
2人とも厳しくないっすか!?
土下座したままのアイリスの左右に跪いた2人からの言葉責めに、アイリスの身体の震えが大きくなる。
「だ、旦那様、わたしの傲慢貴族令嬢の処女穴に種付け汁をタップリと下さい。そのために誠心誠意ご奉仕させてもらいます。なにとぞ、寛大な御慈悲をっ!!」
震える声がより一層、彼女の哀れさを引き立たせる。
「顔を上げてくれ。アイリス殿、やっぱりあんたは疲れてるようだ。一晩ゆっくり休むといいぞ。それから考えても遅くない。ミリアム、イリア、空いてる部屋へ彼女を連れてってやってくれ」
話を切り上げるため、壇上から降り、子供たちのところへ向かおうとすると足を掴まれた。
掴んだのはアイリスだ。
「な、なにとぞ! なにとぞ! 旦那様の御慈悲を! 頼みますっ!」
俺はやさしくその手を外してやると、ミリアムとイリアに視線を送った。
今の彼女に必要なのは、休息と安心できる場所だ。
それらが得られたら、自分の身の振り方を落ち着いて考えられるはずだしな。
「旦那様ぁ! おねがいですぅ! 見捨てないでぇ! おねがいぃいいっ! いやぁあああああああっ!」
ミリアムとイリアに抱え上げられ、アイリスは館の客室へと運び込まれていった。
とりあえず、これでよかったんだと思う。
ホールを後にした俺は鍛錬を続けている子供たちのところにもどることにした。