筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
※盗賊視点
ハゲタカの盗賊団の首領イグナシオ。
もとは隊商の護衛を生業としていたが、帝国の重税が足かせとなり借金を返せなくなったところで盗賊家業に手を出した。
慎重な性格、勘の良さ、口の上手さを兼ね備え、重税に喘いで同業者や農村を捨てた流民たちを吸収し、巨大な組織にまとめ上げた。
そして、ジャレル家の騎士たちを駆逐し、デリー地方の大半を手中に収め、人生の最高点に到達していた。
そんなイグナシオのもとに、イスカール、デガシの制圧を任せていたダダンの隊の壊滅との報告がもたらされ、拠点としている元ジャレル家の居城バストール城内の謁見の間は喧噪に包まれていた。
「頭領! 相手のデック・ノボーとかいう男はたった1人で300人斬ったとか噂になってますぜ!」
「制圧し終えていたはずのリンドン、ホルガの2領の農村も密かにデック・ノボーへ鞍替えを始めたとか! マズいっすよ! 頭領!」
「だからやっぱり人質を取った方がよかったんだ! 今からでも遅くないっすよ! 支配下の農村から人質出させましょう!」
「やつは農民たちの救世主とか名乗って、兵や資金を集めてます!」
「ダダン副長もソブンのやつもそのデック・ノボーに殺されたとか……。あの2人がです!」
「ジャレル家を追い出した時とは、流れが変わってます……。本当にマズいっすよ!」
部下たちが口々に自分が感じている不安を叫びあっていた。
そんな様子をイグナシオは、表情を消した顔で部下の議論を眺めている。
何かを考えこんでいるようにも見えるし、自らの栄華の頂点から引きずり降ろされる恐怖で固まっているようにも見えた。
「頭領! どうします! どうしたら!」
「頭領!」
「自分らはあんたのおつむに従ってここまできた! だから、今回もいい案を考えてくれ! 頼む!」
ハゲタカの盗賊団はイグナシオの勘の良さと人を魅了する弁舌でここまで大きくなったと言っても過言ではない。
イグナシオ自身、いくさは上手くないという自認があり、護衛業の時からの部下で腹心である副長ダダンに半分近くの兵を預けたのも用兵への自信のなさからだった。
そのダダンが討たれたということが、イグナシオに大きな動揺を与えていた。
部下たちの視線がイグナシオに集まり、決断を促す空気が張り詰めていたところへ、新たに走り込んできた部下が報告を始める。
「報告しますっ! デック・ノボーが、コーウェン・ジャレルの娘、アイリス・ジャレルを正室に迎え、我らを駆逐しジャレル家の旧領回復を目指すといたるところに立て看板が立てられております!」
報告を聞いたイグナシオが、それまでの暗い表情を取っ払い、明るい表情に変化した。
部下の報告から、自分たちの体勢挽回への起死回生の策を思いついた様子だった。
「決まったぞ! 決まった! まずは、農民の救世主と言われているデック・ノボーは旧統治者ジャレル家の者で悪夢のジャレル家統治が再来するぞと吹聴しまくれ! やつが統治者になれば、我々よりも酷い状況になるとな! それくらいジャレル家は嫌われている! やつになびいた農村もこの一言でこっちに戻ってくるはずだ!」
「おおぉ! さすが頭領だ!」
「やつから兵と資金を奪い取れば、恐れることはない! そのうえで大軍でイスカールの館を囲めばさすがにやつの勝ち目はなくなるだろうさ!」
「おぉ! そうだ! そうだな!」
「頭領、すぐに通達を出した方がいいか?」
「ああ、出せ! やつは旧体制側の人間だとな!」
「承知!」
不安を叫びあっていた会議が、新たな情報とイグナシオの策により一転して楽観的な空気が支配していた。
もちろん、イグナシオ自身も自らの策の成功を確信しているため、表情は明るい。
しばらくして部下たちが策の実現のため、それぞれの持ち場に戻り、静寂が支配した謁見の間に一人残ったイグナシオが口を開く。
「デック・ノボー。お前は自分の欲望に抗えず勝ち筋を捨てた馬鹿者だ。残念だが消えてもらおう。この地の所有者は私だ」
それだけ言い残すと、イグナシオは謁見の間から出ていった。