筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
イスカールの館の中庭は人でごったがえしていた。
俺の嫁とりが大々的に告知され、村長たちが祝いのために集まって来ているからだ。
中庭に置かれたテーブルの上には、酒やごちそうが並べられ、参加している者たちが自由に飲み食いしている。
「デック様がいまだ独身だったとは……。てっきり、ミリアム殿がご正室だとばかり」
「わしもじゃ。わしも。イリア殿が側室でと思っておったのだ」
「うらやましい限りだのー。いやでも、デック殿ほどの人物であれば、女の方が放っておかぬはず」
「なにせ、農民たちの救世主殿だからな! ガハハッ!」
酒の入った村長たちは言いたい放題だ。
まぁ、無礼講だって言った手前、怒ることはできない。
「ところで、今日の祝いの席の主賓であるご正室様が見当たりませんな?」
「そうだ。そうだ。どうされた?」
「デック殿、祝いの席なのだし、花嫁を隠すのはなしですぞ」
全然、誰も気づいていない……。
すでにこの場に俺の正室となるコーウェン・ジャレルの娘、アイリス・ジャレルが紛れ込んでいることを。
誰一人気付けていない。
俺は他の村長たちと歓談中のミリアムに『そろそろバラしていいかと』視線を送ると、彼女から種明かしを認める頷きが返って来た。
「すでに、俺の花嫁は皆の前にいる。ずーっとな」
「「「え? どこに?」」」
村長たちがきょろきょろ辺りを見回すが、対象の花嫁が見つけられずに首を捻っていた。
「そこにいる。そこだ」
俺の子供たちと一緒に、食事を持って各テーブルを行き来して忙しそうにしている質素な服にエプロン姿をしたアイリスを指差した。
アイリスは化粧っ気もなく、質素な服を着ているため、貴族オーラゼロの状態だ。
でも、立ち振る舞いから発せられる育ちの良さと、輝く美貌はは隠せないでいる。
「「「「は?」」」」
「いや、だから、あそこで忙しそうに給仕しているのが、俺の正室だ」
「「「「えええっ!?」」」」
話を聞いた村長たちが動揺した顔を見せる。
どうやらサプライズ演出は成功のようだ。
主賓の花嫁が一番忙しそうに働いているとは思ってもなかったらしい。
「あ、あの人って! どこかで見たことあるぞ! どこだったかな……どこだ!」
俺の花嫁の素性を知る人は、村長たちが集まっているこの場にそこそこいるはずだ。
ある種、この地方では超有名人の娘だしな。
「あっ! あっ! あっ! あっ~~~~~~~~~! アイリス様だっ! ジャレル家の令嬢のアイリス様だぞ! アレ!」
一人の村長の発した言葉が、周囲に一気に伝播していく。
参加者の視線はアイリスに注がれていた。
「ど、ど、ど、どういうことですか! デック殿!」
混乱を見せる村長たちが、ざわざわと騒ぎ始めている。
そんな中、イリアが例の合図を送ってきた。
例の合図とは、招待者の中に紛れ込んでいるハゲタカの盗賊団の諜報者が動きますよという合図だ。
事前に説明されてなかったら、気付かないほどさりげない合図の出し方である。
「デック殿! 貴殿は、我ら領民に苦渋と辛酸を舐めさせたジャレル家の令嬢を正室に迎えると申すのかっ! それは我らに対する不義理であろうっ!」
ハゲタカの盗賊団の諜報者として潜入している者が、声も高々に俺の気婚を批判してくる。
ミリアムの話だと、劣勢だと感じた連中が、俺とアイリスの結婚をネタにしていろんなところでネガティブキャンペーンをしてるそうだ。
ただ、そうなるように仕向けたのはミリアムとイリアらしい。
どうせミリアムのことだから、相手の手の内を読んで、カウンタ―を食らわせる算段は組み終わっていそうだが……。
敵方の諜報者の言葉で、動揺を見せている村長たちに対し、ミリアムから言われていたとおりの振る舞いを始めることにした。
「アイリス、こっちに来い。客の人らがお前のことを知りたいそうだ」
「はい、旦那様。すぐに参ります」
手にしていた食事をテーブルに置くと、村長たちやその関係者たちの間を通り抜け俺の前にやってきた。
俺はアイリスの首に革の首輪を取り付けると、その首輪に太い鎖を付ける。