筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
「お前は誰のものだ?」
「わたしは旦那様のものですよ。すべて、全部」
「ジャレル家の持ってたものか?」
「はい、すべて旦那様に差し上げます。代わりに傍に置いてずっとわたしを飼ってくださるのですよね?」
「ああ、そうだ。アイリスが悪さをしない限り、俺が飼ってやる」
握っていた鎖をジャラジャラと鳴らしてやる。
その様子を見ていた村長たちからどよめきが広がっていく。
いや、俺の趣味じゃないからねっ!
ミリアムにやれって言われてるだけだからっ!
ドン引きやめてねっ!
どよめきでざわつく中、ミリアムのよく通る声が響く。
「デック様が、アイリス・ジャレルを正室に迎えたのは、デリー地方を領有していたジャレル家の統治を今後一切認めさせないためですっ!」
「だ、だが、御子ができたら……」
「アイリスはデック様の正室ではあるが、全てを差し出した奴隷でもある。御子が生まれてもジャレルの姓は名乗らせない。農民の救世主デック・ノボーの子です!」
「つまり、それって……どういうことだぁ?」
「未来永劫、この地をジャレル家の者が統治することはないという話です。デック様がこの地を領有するのをリイド帝国に認めさせるための方便でもあります! 婚姻関係を結び、アイリスの持つ権利をデック様が引き継ぐことで、この地は永遠にデック様の統治下に置かれます」
そういうことらしい。
貴族の領地継承法がなんたらとか言ってたが、俺の頭では詳しいことはよく分からん。
ただ、ハゲタカの盗賊団以上に、ジャレル家の統治を毛嫌いしている農民たちが多いというのは理解した。
まぁ、盗賊団を放置しまくったうえ、ヤバくなったら我先に逃げるような家だしな。
嫌われて当然とは思う。
その家の象徴ともいうべき令嬢のアイリスを隷属化させ、統治権を奪い取るというのを農民たちに見せるサプライズだそうだ。
「ご安心くださいませ。わたしは正室という身分こそ与えられましたが、デック様の御世話係の一人ににすぎませんので」
首輪奴隷プレイにドはまり中のアイリスが、困惑をする村長たちに自分の立場を明言した。
えっちの時も首輪付けて欲しいとかいうの、変にムラムラするので止めて欲しい。
違う世界が開いてしまいそうだし。
アイリスからは、鎖は自分への信頼の証だと言われるので、いつもしちゃうわけだが。
初対面ではかなりの虚勢を張ってたようで、いろいろと裏切られ傷つきまくって擦り切れた心の中で、全てを任せられる頼れる人を探していたと初えっちの後に言われた。
でー、俺が頼れる人だと判断したらしく、それからはめちゃくちゃ尽くす妻をしてくれている。
子供たちに礼儀作法を教えてくれるだけでなく、俺が水浴びする時やトイレの時まで付いてきていろいろとかいがいしく世話してくれるくらいに。
大貴族の令嬢だったとは思えないほどの献身ぶりだった。
「我が父が領民の皆様に多大なご迷惑をおかけしたことは、娘であるわたしの責任でもあります。なので、農民の救世主であるデック様に誠心誠意お仕えすることで償いができればと思っております」
アイリスの言葉に、村長たちのざわめきが一段とデカくなった。
「デック様のおかげで、悪夢のジャレル家の統治の再来の芽は詰まれました。あとはハゲタカの盗賊団をデリー地方から追い出せばいいだけですー。そうすれば、デック様がこの地の領主としてしっかりと目配りしてくれますよー」
イリアの放った言葉が、困惑気味だった村長たちの気持ちをひきつけ始めた。
「そうか! デック様が正式な領主かっ! 悪くないっ! いや、ハゲタカの盗賊団もいなくなり、ジャレル家の馬鹿領主が戻ってこないなんて! 最高の結果だぞ!」
「そうだなっ! 素晴らしい! デック様なら盗賊を見つけ次第、叩き殺してくれるしなっ!」
「人質すら取らない人格者だ!」
「わしはデック様を担ぎ上げて領主になってもらうことを固く決めたぞ! わしらの農民のための領主になってもらんだっ!」
「おぉ、そうだ! そうだ! デック様を我らの領主にっ!」
参加した村長たちの意見は、ミリアムの目論見通り、俺への支持で固まりそうな様子だ。
ハゲタカの盗賊団の諜報者は、周囲の様子を見て、ネガティブキャンペーンの失敗を悟ったらしく、黙って見守っていた。
「さぁ、アイリス。客人たちに酌をして回ってやれ。俺たちの婚姻を皆に祝ってもらおう」
「はい。承知しました。お酒をお持ちします」
その後、誰もが息を止めるような美貌を持つアイリスの酌を受けた村長たちの鼻の下が伸びていた。
アイリスは俺の嫁だかんねっ! 今日は無礼講だからお酌させてるけどっ!
ジッとアイリスが村長たちの間をお酌して回る様子を見ていたら、眉間に指が押し当てられた。
「そう、焼きもちを妬かずに。わたくしのお酌では満足できませんか?」
酒瓶を持ったミリアムが俺の隣に座る。
「でないと、わたくしも焼きもちを妬いてしまいますよ。もちろん、イリアも」
「ですー。お酌くらいいつでもしますよー」
反対側に同じく酒瓶を持ったイリアが座った。
「奥さんを貸出し中で、寂しさを募らせている旦那様を慰めるのも側室の務めですからね」
「です。寂しい時はいつでもお呼びくださいー」
ミリアムが差し出してくれた大きな酒器に、イリアが酒を並々と注いでくれる。
「さ、さびしそうになんてしてないだろ? 俺?」
「そうですかねー」
「アイリスは俺のモノって顔してましたね」
差し出された酒を一気に飲み干すと、両脇の2人を抱き寄せる。
「アイリスもだが、2人も俺のもんだ! 絶対に手放さないぞっ!」
酒の勢いも借りて、普段はあまり口にしないことを口にした。
「あら、珍しい。もちろん、わたくしもデック様のモノですよ」
「私もですー」
俺の言葉を聞いた2人が、照れたように顔を赤く染めていた。
マジのマジだからっ! 3人とも大事な俺の嫁!
みんながいないと俺1人じゃどうにもならんから、今後ともよろしくお願いしたいっ!
酒の力が口の滑りをよくしていく。
「ミリアム、イリア、俺のことよろしく頼む。俺のできることならなんでもやるから、自由に使ってくれぇ。俺はそのためにぃ……」
少し寝不足のこともあり、酒が思った以上に早く回り始め、ろれつが回らなくなってきた。
「承知しておりますよ。デック様……」
「デック様は偉大な統治者になると思いますー」
彼女たちのつぶやきを最後まで聞き取ることができず、睡魔に負けた俺は彼女たちの膝に頭を乗せて眠り込んでしまった。