筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
俺がジャレル家の令嬢アイリスを隷属させ、正室であるが継承権などを統べて差し出した奴隷として迎え入れたことが、瞬く間にデリー地方の各農村に広まった。
積極的に広めたのはイリアとか、ホーゲンとか、他の村長たちだ。
おかげでハゲタカの盗賊団が行っていたネガティブキャンペーンは、逆の効果を発揮した。
デリー地方に属する6領のうち、デガシ、イスカールは完全掌握、リンドン、ホルガは7割がこちらに付いた。
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そして、ハゲタカの盗賊団が支配しているバストール、ドレッドでは中立化を宣言する農村が増えているそうだ。
このような状況なので、ハゲタカの盗賊団の頭領イグナシオは積極的な動きを見せなくなったらしい。
こちらとしても、戦うには戦力が心もとないそうなので、相手の出方を窺っているところだそうだ。
今は睨みあいという感じの自然休戦状態だった。
戦いの時以外、特に俺のやれることはない。
なので、暇だ。
暇をしていたら、身体を動かすのが得意で体格もいいヴェノとアスラに乗馬の練習したいと頼まれ、付き添いとしてイスカール領の外れまで遠駆けをしていたわけだが――。
どうやら、運悪く遭遇戦になってしまったようだ。
「あの大男とデカい黒い馬! ありゃあたぶんデック・ノボーだっ! ぶっ殺せたら頭領から領主にしてもらえるぞっ! 従っているのはガキ2人だ! この機会を逃すな!」
「「「「おぉ!」」」」
20人ほどの盗賊たちの斥候部隊と思われる小部隊が、俺の姿を見つけて駆け寄ってくるのが見えた。
まさか、こんな場所のこんな状況で敵の斥候部隊と遭遇するとはな。
行軍訓練も兼ねた遠駆けだったから、子供たちがフル装備だったのが幸いだが……。
まずは子供たちが敵に捕捉されないよう、安全に逃がさないと……。
「ヴェノ、槍貸せ」
「どうするのさ? 父ちゃん」
「いいから」
ヴェノから槍をもらうと、こちらへ向かってくる敵に向かって力任せにぶん投げた。
軌道は地を這うように低く飛び、迫っていた盗賊たち3人を貫通していった。
「すげぇ! 父ちゃんつえええ!」
「やっぱ、かっけえな! 父ちゃん!」
「ヴェノ、アスラ、仕事だ。ミリアムに伝令に走れ! 敵の小部隊と遭遇したってな。急いで知らせろ!」
「え? 父ちゃんはどうするの?」
「いいから、早く行け!」
あれくらいの人数なら2人を守れるとは思うが、万が一乱戦になったら守れない可能性も出てくる。
安全圏に2人を逃がすのが最優先だ。
「ヴェノ、ミリアム様に知らせよう! 父ちゃんの命令は絶対だろっ!」
「あ、うん。そうだけどさ……父ちゃんが」
「俺がアレくらいに不覚を取ると?」
「「わけないがないね」」
俺の戦闘力に対しては、子供たちから絶大な信頼感を得ているな。
盗賊の小部隊くらいに後れをとるとは思ってないようだ。
「それでいい。俺は大丈夫だ! 行け!」
納得した2人は、イスカールの館に向かって全力で馬を走らせ、離脱していった。
「さぁ、こっちだ! こっち! 俺の首を獲って領主になりたいやつはかかってこい!」
コクザンに跨ったまま、相手を挑発するように手招きしてやった。
「舐めやがって! ぶっ殺せっ!」
棒を構えると、敵の集団に向かい駆けさせる。
いつもとは違い、鎧を着込んでいないため、動きの阻害は最小限だ。
おかげで手加減がしにくい。
振り抜いた棒が、盗賊たちの頭を潰れたトマトのようにしていく。
「ひぃ!」
「おい、俺に触れられるやつもいないのか? こいよ! ほら、領主になりたいだろっ!」
「ざけやがって! 食らえ!」
おっとやべえ、クロスボウかっ! 油断したな!
目の前に迫った矢を寸でのところで摘まむことに成功した。
鎧を着込んでいたら無視してもよかったが、今日は着てないのでさすがにマズい。
「お返しするぞ」
摘まんだクロスボウの矢を撃った相手に投げ返してやる。
矢は敵の心臓をぶち抜いて貫通していた。
「聞いていた以上のバケモノじゃねえかっ! クソ! こんな奴殺せる気しねえ! に、逃げるぞ!」
仲間の無残な死に怯えた盗賊たちが、反転して逃げ出し始める。
その中でただ1人だけ、背を見せずに立ち向かってくる茶髪の上半身裸の若い男がいた。
裸の上半身にはよく分からない文様のような刺青が施されており、他の盗賊たちとは様子が違っていた。
「お前の首は、オレ様が獲るっ!」
素早い動きで一気に間合いを詰めてきた若い男が、鋭さを伴った突きを放ち、槍先が俺の頬を掠めていった。
「多少は使えるようだな。お前」
「多少じゃねえよ。オレ様はお前より強いっ!」
ギラギラした瞳で俺を見てくる男からは、俺と同じような匂いがしている。
戦うことでしか生きられないやつの匂いだ。
「ほぅ、面白いこというやつだな」
生意気な口をきいた若い男へ、棒を振り下ろした。
「ぐぅ! なんつう怪力だよっ! この槍は鉄芯入りの特別製だぞっ! クッソ! ひん曲がった!」
おぉ、俺の渾身の一撃に耐えれたやつ初めてみたな。
向こうの世界はもちろんのこと、こっちに来てからも誰一人いなかったんだが。
鍔迫り合いの中、相手の若い男に興味が湧いて名前を聞いていた。
「お前、名はなんていう?」
「ああん? オレ様は世界最強の男ガストンだ! 覚えておけっ!」
「覚えておこう。ただ、お前の強さはどう頑張っても世界で二番目だ」
ジリジリと鍔迫り合いの力比べを優位にして、ガストンを押しつぶしていく。
「クソ! オレ様が二番目だとっ! んなわけがねえだろうがっ!」
力比べはジリ貧と見たガストンは、上手く鍔迫り合いを脱し、距離を取って曲がった槍を構え直す。
「しょうがない。事実だ」
「うるせぇ!」
激高したガストンは、曲がった槍を構え、再び突っ込んできた。
息つく暇もない連続突きが俺を襲ってくる。
曲がった槍のせいで軌道が不規則な動きを見せていた。
だが、見切れない速さではない。
危ない突きは棒で払ってやった。
「はぁ、はぁ、はぁ、クソっ! クソっ! オレ様が遊ばれてるだと! なんだコイツの強さは……」
「残念だが、ここまでだ」
息が切れて、肩で呼吸していたガストンの脳天へ渾身の力を込めた棒を振り下ろした。
金属がぶつかり合う音が響く。
ガストンの槍が二つに折れ、俺の鉄棒が脳天に微かに触れていた。
「勝負はついたぞ」
脳震盪を起こしてそうな様子だが、まだ戦意は喪失してないらしい。
見上げた根性だ。
「ま、まだ……負けてねぇっ!」
コクザンがガストンの殺気に反応して前脚でド突き飛ばしていた。
「おい! ガストン、今回はコクザンに免じて逃がしてやるが、お前の槍は弱い者いじめに使うなよ! 世界最強を狙うなら俺の首だけ狙ってこい! 分かったな!」
コクザンにド突かれて地面に転がっていったガストンは、ふらふらと立ち上がると「うるせー!」と絶叫をあげていた。
俺はそれを見届けると、コクザンの手綱を引き、イスカールの館に戻ることにした。