筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
※三人称視点
『紅眼の魔女、収監地からの逃走!』
一人の使者が発した言葉に、重臣たちが並ぶアルべイド王国の王宮内に激震が走っていた。
騒然とする宮廷に国王バルトラーク二世の声が響き渡る。
「静まれ! 騒ぐでない!」
「陛下……。ですが、あの北部の叛徒鎮定において、秀でた軍略を発揮し、目覚ましき戦果を挙げた『紅眼の魔女』が逃走ですぞ!」
「そうです! 数万を数えた叛徒を敵に回して、王太子軍の参謀として冷酷非無比な策謀をまじえ連戦連勝、瞬く間に鎮定した知恵者ですぞ! そのような者が幽閉先だった神殿から逃走したとなれば……一大事!」
「あの魔女の鋭き知恵から生み出される策謀がこちらに向けられたらと思うと、怖くて眠れませぬっ!」
「民たちも、『紅眼の魔女』が逃走したと知れば、恐れ逃げ出す者も増えましょう!」
王の制止を無視した廷臣たちは、悲鳴のような叫びを上げ続けた。
それほどまでに『紅眼の魔女ミリアム・クロムハート』の名前は、アルべイド王国内で恐れられていたのだ。
そんな騒然する宮廷内で、王の前に進み出る者がいた。
彼の名はギリアム・ヴァデット。
国王バルトラーク二世の嫡男で王太子である男だ。
ミリアムの上官だった男でもある。
王太子として、王の施政を助け、軍勢を率いては軍功を挙げ、廷臣たちからの信頼も篤い人物だ。
「父上、ミリアムの逃走の件は幽閉を決めたわたしの責任でもあります。処置はお任せください」
「どうするつもりだ?」
「かの者が使っておった諜者たちが、わたしの手元におります。そやつらを使い、ミリアムの所在を追跡をさせ、捕らえさせます」
ギリアムの落ち着いた声音の言葉に、騒がしかった廷臣たちの声が止んだ。
「捕らえた後は?」
「連れ帰り、無断で幽閉先から逃走した罪にて、王都の広場で処刑とすれば、人心も安定するでしょう。あれを世に解き放ったままだと必ず災いを招きます」
「よかろう。この件、ギリアムに任せるが異存はないか?」
バルトラーク二世が廷臣たちを見た渡すが、異存があると申し出る者はなかった。
廷臣たちからしたら、知恵第一と呼ばれる『紅眼の魔女』に下手に関わって、自らの失態を晒す危険を取りたくないのである。
元上司であり、参謀として彼女を使っていたギリアム王太子が手を挙げた事で、ホッとした者たちも多いはずだ。
「異論はないな。では、ギリアムにこの件は預ける」
「ははっ! すぐに対処いたします!」
ギリアムはバルトラーク二世に拝礼すると、謁見の間から足早に立ち去っていった。
同日、ギリアム王太子からミリアム・クロムハートの逃走の件はかん口令が敷かれ、秘密裏に捕縛処刑に向けて動き始めることになった。