筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
ヴォイドとイリアが旅立って一週間ほどが経った。
イリアたちの様子を書いた密書を持った協力者がイスカールの館を訪れている。
その密書を今はミリアムに代読してもらっているところだ。
報告によると、どうやら、ヴォイドはしっかりとイリアの言うことを聞いて、役に立っているらしい。
2人は異母姉弟として行動しているようで、怪しまれずにハゲタカの盗賊団の末端構成員たちに、イグナシオが美味しい話を蹴ったという噂を流し続けているそうだ。
おかげでハゲタカの盗賊団内の空気は最悪らしい。
下の者たちからしたら、自分たちが賊軍と呼ばれずに済む機会を頭領が蹴ったということだけでもかなりの噴飯モノの裏切り行為だと思うだろう。
もともとは生業を持ってた者が多数を占めており、生来のはみ出し者は盗賊団の構成員でもごく一部でしかない。
まともな生活に戻れるなら戻りたいと思っているやつは案外多いそうだ。
しかも、皇帝に一番近い男の直臣となれば、貴族入り確約みたいなもんだ。
一発逆転の夢が消えた恨みは相当根深いらしい。
「部下の離反に備え、イグナシオはごく一部の古参の部下しか城内に入れなくなったそうです。その決定に不信を抱いた者たちが離反を画策しているそうです」
「離反? 誰にさ?」
「デック様にです」
「俺に?」
「ええ、デック様はアイリスを嫁に迎えており、領地の相続権を持ってる人物だから、取り入って上手くやれば堅気になれるという思考でしょう。自分たちが行った所業を忘れている愚かしい者たちです」
「どうするんだ? 受け入れるのか?」
「受け入れたフリはします。ただ、死んではもらいますが。デック様は農民の味方ですので、盗賊を臣下に引き入れるなどということはいたしません」
ですよねー。そう言うと思った。
農民たちも俺が盗賊を受け入れるなんて言い出したら反発するだろうし、投降してきても処刑しか選択肢はないよな。
まぁ、でも騙し討ちとかは可哀想だと思う。
「盗賊とはいえ、せめて死に際くらい、かっこよく飾らせてやるとかくらいは配慮してやりたいが……妙案はあるか?」
「ありますよ。デック様と戦い、傷を与えた者は死罪を一等減じて領外へ追放とすることでどうでしょうか?」
「俺と戦うのか?」
「ええ、公開の場で戦ってもらいましょう。デック様によって倒されたら、農民たちの盗賊への恨みも少しは晴れるでしょうし。デック様自身の強さもさらに認知してもらえます。愚か者たちの命は、最後までしっかりと利用させてもらいます」
うぉ……えげつない案が出てきた。
ミリアムさんの知恵は、やはりえげつないほど切れ味鋭いものだな。
盗賊たちも生きられる道が与えられたら、必死で来るだろうし、俺も気を抜いてはいられない真剣勝負ってわけか。
俺の考えを汲んだだけでなく、そのことで起きる効果までを見越してるのはさすがだと言わざる得ない。
「ミリアムの案を了承だ」
「承知しました」
ミリアムが近くにあった机の上の紙にさらさらと羽ペンを走らせると、蜜蝋で封をして密書を持ってきた協力者に手渡した。
協力者は一礼すると館から駆け出していった。
「さて、続いての件ですが。ウィダ、アクアル、報告を」
呼び入れられた2人が、手に帳面を持って神妙そうな顔をしていた。
ウィダとアクアルは読み書きを速攻で覚え、四則演算もすぐに覚えてしまった子たちだ。
署名にすら苦戦する俺とは頭の出来が違いすぎた。
最近ではミリアムの仕事の手伝いとかもしてたはず、あと自由時間に倉庫の方でゴソゴソしてたのを何度か見ていたが。
アクアルが前に進み出ると、最初に報告を始めた。
「はい、ではボクの方から、父ちゃんに現時点のノボー家の財産の状況を報告させてもらいます」
「財産? ああ、頼む。どのくらいあった?」
正直金の管理はとても苦手なので、ミリアムたちに丸投げしてあって、自分の資産がどれくらいあるのかは把握してない。
村長たちがいろいろと持ってきてたから、増えたとは思うけども。
「最新の数字だと貨幣が、8万ディナ金貨、40万リギンド銀貨、13万ダーナ銅貨となっています。イスカールを占拠したあと貢納された額も入れてある数字です。そして、貴金属の方はミリアム様におおよその金額を見立ててもらい、3万ディナ金貨相当のものがあると分かっています」
えーっとディナ金貨が1万円、リギンド銀貨が1000円、ダーナ銅貨が10円くらいだったはずだから、今現金が12億と100万ちょっとって感じか?
計算には自信がないが、大金があるということは分かった。
とはいえ、金の管理は俺の管轄外なので、知ってどうなることでもない。
ただ、ちゃんとみんなが飯を食えるくらいは、稼がないといけないとは思っている。
「それと、武具ですが槍が200本、剣が100本、弓が300張、鎧は50着が倉庫に積まれております。あと、軍馬は20頭ほど」
武具とかも農村が自衛用以外の武具を自主的に貢納してくれた物だったはず。
うちの倉庫に入れておいて、召集されたら使わせて欲しいとか言ってたような気がするが。
いちおう、アレもうちの資産なんだな。知らんかった。
まぁ、馬はコクザンが牝馬しか厩に近寄らせないから、中々増やせてない。
それなのに、あの種付けエロ牡馬が一生懸命にパコるから、何頭かお腹が大きくなってた気がする。
入れ替わるように、ウィダが自分の帳面を手に報告を始めた。
「オレの方は、ミリアム様に言われて食糧の倉庫の方と飼料を確認しといた。館にある分を今の人数で消費するなら、ほぼ3年くらいは食べ続けられる量が蓄えられてた。ただ、住む人数が増えると年数は短くなるよ。あと飼料の方が残り少なくなってきてるので、近隣の商人から買った方がいいかも」
飯は村長たちがいろいろと持ってきてくれたから、困ってないとは思ってたけど、本当に困ってなさそうだ。
育ち盛りの子供たちが、めちゃくちゃ食うから少し心配していたが、3年持つなら慌てる必要もなさそうだ。
飼料の方はコクザンがむちゃくちゃ食うからな。
あいつ、厩に居る時は飯食ってるかえっちしてるかのどっちかだし。
とはいえ、コクザンの子供とか増えたら飼料はもっといるだろうし、進言に従って買っておいた方がよいかもな。
それに買い付けの経験もさせてやれる。
数字や頭の巡りのいい2人が、商売人として身を立てられるかもしれないしな。
「ウィダ、アクアルと一緒に飼料の買い付けは任せていいか?」
「「やるっ!」」
チラリとミリアムに視線を向けると「任せてよいです」とお墨付きの頷きを返してもらえた。
「では、不足しそうな飼料の買い付けを2人に任せる。買い付けの予算交渉はミリアムとやってくれ」
「「はいっ!」」
うん、いい返事だ。
うちの子たちはグングンとそれぞれに成長しているな。
俺も頑張らないと置いて行かれてしまいそうだ。
「ミリアム、俺も少し身体を動かしておきたいが、聞いておくことはこれで全部か?」
「はい、本日は以上です。あとの時間は自由にお使いください」
「よし、そうさせてもらう」
ミリアムに後を任せ、置かれていた棒を手に取るとホールの壇上から降り、館を出る。
厩で馬たちを洗っている2人の子供に声をかけた。
「ヴェノ、アスラー、コクザンに鞍を付けて連れて来てくれー。外を駆けさせる。お前らもいくか?」
「行く!」
「行くよー! すぐ支度する」
しばらくして、鞍を付けたコクザンが子供たちに引かれやって来た。
少しだけ不満そうな顔をしている。
どうせ、真昼間からお気にいりの牝馬とよろしくやってたのだろう。
「お前は暇だと牝馬ばかりのしかかるから、今日は俺の御供だ」
「ブルひひーんっ!」
いななくコクザンに跨ると、ヴェノとアスラを従えて、遠駆けをすることにした。