※この作品はR-18です。

筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜   作:シンギョウ ガク

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第38話 戦闘バカもたいがいにしとけって!

 

「おーい! 止まれー! 止まった方が身のためだぞー!」

「そうですよー。逃走を諦めた方が怪我せずに済みますよー」

「父ちゃんに殺される前に投降した方がいいぜー!」

 

 俺たちの前方を土煙を上げて走る荷馬車が疾走している。

 

 戦場をミリアムに任せ、イグナシオたちの逃走経路を押さえていたイリアとヴォイドたちと合流を果たした俺は、絶賛追跡中だ。

 

 荷馬車はハゲタカの盗賊団を示すようなものは捨て去っており、御者台に座る人物は普通の商人っぽい格好をしている。

 

 だが、逃げているのはイグナシオたちに間違いなかった。

 

「止まれー! これが最終警告だぞ!」

 

 荷台から顔を出した壮年の男が「うるせー! 止まるか! バカっ!」と返事を返してきた。

 

 荷馬車の速度をあげようと、木箱を捨て始めていた。

 

 地面に落ちた木箱からは、金色に輝く金貨が地面にばら撒かれていく。

 

「うおぉ! もったいな! やめろ! やめろ!」

 

 俺の制止を無視して、荷馬車は速度を上げるため、木箱を捨て続けていた。

 

「イリア、ヴォイド。あいつらを強制的に止めるから逃げられないように囲め」

「承知しましたー」

「分かったー! イリア様、おいらこっち」

「では、私はこっち」

 

 協力者たちを連れたイリアとヴォイドが左右に分かれると、馬車を囲むように広がっていく。

 

 囲まれまいと2台の荷馬車の御者たちは必死に馬に鞭を入れていた。

 

「逃がすかっ!」

 

 コクザンの手綱を緩め、腹を締めてやると速度がグングン上がる。

 

 荷馬車の姿がドンドンと大きくなってきた。

 

「げぇ! 追いつかれたぞっ!」

「往生際が悪いやつらだな。観念しろっ!」

 

 御者の真横に付けると、棒で車輪の1つを粉砕してやった。

 

 車輪を1つ失って大量の土煙を上げた荷馬車は、速度がガクンと落ちる。

 

 その衝撃で御者席や荷室に居た者たちが、車外に投げ出されていた。

 

「ヴォイド、イリアそっちは任せるぞ。捕縛は絶対にイリアに手伝ってもらえよ!」

「あーい!」

「任せてくださいー」

 

 脱落した荷馬車をヴォイドと数名の協力者たちに任せ、逃げ続けるもう1台に向けてさらに速度を上げていく。

 

 棒が届く距離まで詰めた。

 

 その途端、荷室の幌が開いたかと思うと、クロスボウを構えた壮年の男が矢を放ってきた。

 

「死ねっ! お前のせいで全部狂ったぞ!」

「当たるか!」

 

 棒で飛んできた矢を弾く。

 

「クッソ! なんつうバケモノだっ! お前さえ! お前さえ! 私のところに現れなければ――っ!」

 

 次弾を装填される前に勝負をつけるため、車輪に向けて棒を思いっきり投げつけた。

 

 唸り音をあげて飛んでいった棒は、車輪を見事粉砕して、速度を落とさせるのに成功していた。

 

 荷馬車はそのままコントロールを失って横転して停車した。

 

 男が2人這い出して来る。

 

 どっちがかハゲタカの盗賊団のイグナシオだと思われた。

 

 俺は這い出してきた男たちの前にかがみ込んだ。

 

「おい、どっちがハゲタカの盗賊団の頭領イグナシオだ?」

 

 男たちは俺の問いに答えようとしない。

 

「黙っているとどっちも死ぬぞ。ミリアムからは首だけ持ち帰れれば、殺してもいいって言われてるんだ」

 

 俺が静かにそう告げると、男たちの顔色がサッと変わった。

 

 そしてお互いに向けて「こいつがイグナシオだ」と指を差し始めた。

 

 本当に醜い。

 

 最後の最後まで人の命を犠牲にしてでも生き残ろうとするのを見せられると反吐が出てくる。

 

 そんな身勝手なやつのせいで、デリー地方ではいろんな人の命が消えたのを分かってもいないらしい。

 

 俺は往生際の悪い男たちを見て、「はぁー」とクソでかため息を吐いていた。

 

「もう、いいわ。どっちもバストール城に連れてって縛り首にすればいいだけだしな」

「嫌だぁ!」

「死んでたまるかっ!」

 

 起き上がって逃げ出した男たちは、雑木林から現れた黒い影によって昏倒させられていた。

 

「よーし! デック・ノボー! こいつらの身柄が欲しいなら、オレ様と勝負しろ! あと、ここはドレッド領に入るから、お前の領内からは出たからなっ!」

 

 雑木林から飛び出してきた黒い影の正体は、戦闘バカのガストンだった。

 

「待て、俺が領外に出るの待ってたのか?」

「当たり前だろうがっ! 領外追放を受けた身だぞ! オレ様はっ! お前と戦うには、盗賊団のボスを張っていればいいと思ってが、本当に来たな」

 

 槍を構えたガストンは、ニヤリと凶悪そうな笑みをを浮かべていた。

 

 相変わらずバカが付くほど律義な男であり、強いやつと戦うことだけが生きがいの戦闘バカである。

 

 だが、そういうやつは嫌いではない。

 

「ガストン。とりあえず、そいつら引き渡せ」

「嫌なこった。こいつらの身柄が欲しいならオレ様を倒せ! デック・ノボーっ!」

「お前じゃ、俺に勝てないって分からんか? 2回とも完敗だっただろうが?」

「負けてねーよっ! 勝負は預けてただろうがっ!」

 

 は? そんな話初耳だが?

 

 ガストンの中では、前回の戦いは引き分けって判定なのか?

 

 これはちゃんとどっちが上か分からせてやった方がいいやつだろうか……。

 

「お前の負けだと認める気は?」

「は? 寝ぼけたこと言うなって! オレ様が負けるわけねえだろうがっ!」

 

 激高したガストンが、手にした槍から鋭い突きを次々に繰り出してくる。

 

 前よりも隙は小さくなっており、俺との戦いで少しは自分の攻撃の荒さを自覚したらしい。

 

 多少は強くなったという感じだな。

 

 だが、まだまだ荒いし、見切りやすい。

 

「そんなんで俺に勝てると思ってたのか?」

「んあ?」

 

 今回は分からせターン。

 

 いつもみたいに相手に合わせてやらない。

 

 いつもなら打ち払っていたガストンの槍を棒で絡めとると、速攻で粉砕する。

 

「なっ! 嘘だろっ!」

「今日は本気だ」

 

 隙を与えず距離を詰めると、棒先でガストンの腹を打ち抜く。

 

「かはっ! くっそっ!」

 

 激痛によって呼吸が止まりかけ、動きが鈍くなったガストンの頭を掴み地面に叩きつけた。

 

 普通なら頭蓋骨が割れて即死だが、やっぱり丈夫な男だな。

 

「ごはっ!」

 

 地面に頭を叩きつけられ、両手を地面に突いて唾液を吐き出したガストンの身体をそのまま蹴り上げてやる。

 

「ごふっ!」

「まだまだお前は弱いぞ。調子に乗るな」

 

 宙に浮いた身体を棒で突いて、乱打していく。

 

 ガストンの文様の刺青の入った上半身にはいくつもの打撃痕が刻み込まれることになった。

 

「かはっ! はぁ、はぁ。はぁ。ごふっ、ごふっ、嘘だろ……強すぎる。ぺっ、ぺっ。バケモノかよ……」

 

 地面に仰向けに倒れ込んだガストンは、息も絶え絶えの呼吸をしながら、血の混じった唾を吐いていた。

 

 俺は動けなくなったガストンにゆっくりと近づく。

 

 仰向けに寝そべって動けないガストンの上に跨ってマウントポジションをとった。

 

「どっちが強いかこれで分かっただろ?」

「うるせー! はぁ、はぁ、ごふっ、ごふっ、まだ負けてねぇぞ」

 

 口の減らないガストンに対し、握った拳を振り下ろした。

 

 拳がぶつかっていれば頭が破裂した西瓜のようになっていたが、かすかに頬を掠め地面を抉っているだけだった。

 

 拳の威力をみたガストンが、これまでの強気な態度から、微かに怯えた表情を見せた。

 

「よかったな。掠っただけで。次は外さないぞ」

 

 もう一度拳を固め、ガストンの頭部に向けて振り下ろしてやる。

 

 完全に怯えた様子を見せたガストンは、目を閉じて身を縮めていた。

 

 ただ、悲鳴は上げないよう歯を食いしばっている。

 

 拳はまたも逸れて、反対側の頬をかすっただけだった。

 

「2度も外したか。命拾いしたな」

 

 死を覚悟して身を固くしていたガストンの身体から緊張が解けていくのが感じられた。

 

 同時に妙な匂いが鼻に届いてきた。

 

 匂いの元をたどると、ガストンのズボンの一部が濡れているのが見えた。

 

 どうやら、恐怖で失禁したらしい。

 

「おい、ガストン」

 

 声をかけられたガストンは、ビクリと身体を震わす。

 

 もう完全に意気消沈して負け犬のようになり、イケイケで突っかかってきてた時の勢いはない。

 

「強くなりたいか?」

 

 俺の問いかけにガストンは顔を覆って泣き出し始めた。

 

「なりてえよっ! ちくしょう! オレ様は、弱いっ! クソ弱い! クソ雑魚じゃねえかっ! ちくしょう!」

「だったら、俺の従者にしてやる。最強を目指すなら、まずは最強の男の横に立てる男になれよ」

「ぢぐじょうぅ!」

「従者となって、俺のために槍を振るえば、強くしてやる」

「本当か?」

「ああ、少なくとも今のままよりかは強くしてやれるぞ」

 

 顔を手で覆って泣いていたガストンは、涙を拭いさる。

 

 怯えて負け犬のような表情は消え去り、いつもの強気な表情に戻っていた。

 

「しょうがねえ! 最強を目指すオレ様がお前の従者をしてやるよっ!」

「よし、じゃあ、今から俺のことは『師匠』と呼べ。次『お前』って呼んだら半殺しな」

 

 俺が力関係で上であることを分からせるため、わざと「師匠」呼びさせてしっかりと釘を刺しておいた。

 

「ちっ! 分かったよっ! 師匠!」

 

 まぁ、これまでのことで、異常に律義な男であることは分かっている。

 

 なので、上下だけしっかりと分からせておけば暴走はしないはずだ。

 

 俺は跨っていたガストンの身体の上からどくと、手を差し伸べて立ち上がらせた。

 

「従者が持つ槍は、俺の知り合いの鍛冶工房に頼んで特注の作ってやる」

「本当か! 本当だな!」

「ああ、任せておけ。とりあえず、従者としての初仕事はそいつらを縛って護送する役目だ。やれるよな?」

「ああ、任せろって!」

 

 ガストンは手早くイグナシオと部下を縛り上げ両肩に担ぎ上げた。

 

 やっぱやたらと身体が頑丈だよな……。こいつ。

 

 そこだけは俺に勝っているかもしれんなぁ。

 

 それから、追いついてきたイリアとヴォイドたちとともにばら撒かれた金貨を回収して、バストール城へ向かうことにした。

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