筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
※フレン第二皇子視点
「ルシウス……。そちを皇太子の座から廃嫡いたす。これは帝国貴族の総意であり、余の意中とも合致しておる」
玉座に座り、兄に廃嫡を言い渡した父の表情は厳しいものだった。
宮殿に集まった一部の貴族たちからざわめきが拡がる。
ざわめきの発生の原因はルシウスの母の実家であるサビアス家に連なる貴族たちだ。
リイド帝国公爵家であり、何名も皇帝の正室を出してきた名門中の名門貴族家。
先々代皇帝の傍系だった父が皇帝になれたのも、サビアス家の正室を迎えていたことがいい方に作用したと聞いている。
その名門貴族だったサビアス家も、今は数名の貴族が支援するだけで、孤立無援に近い。
「承知いたしました。父上の仰せのままに……」
兄であるルシアスは、表情を崩すことなく泰然と、事に成り行きを受け入れていた。
本当にいけ好かない兄だ。
廃嫡が決まり、泣き叫ぶくらいはすると思ったが、涙の一つも見せずに粛々と自分の境遇を受け入れているのが気に入らない。
「そちに関しては、皇帝家から臣籍に下り、新たに伯爵位を与えることとし、ハルドーを領地とせよ」
「はっ、」
「ふむ、かの地はジャレル家を潰した盗賊団が跋扈する場所と隣接しておる。お前には盗賊団の討伐を申し付けることとする。盗賊団の討伐に成功するまで帝都の地は踏めぬと思え」
「心得ました」
サビアス家の連中から悲鳴のような声があがった。
皇帝の血筋としての地位を奪われただけでなく、家臣になれと言われたのだから、ルシウスが皇帝に就くことを願っていた連中も叫びたくもなるだろう。
それにハルドー領は、緊張関係が高まっているアルべイド王国との国境に近いところ。
治安も悪く、支援する貴族が減ったサビアス家の戦力での盗賊団の討伐は死ねと言われたに等しい処遇だった。
もちろん、そうなるように仕向けたのはわたしだが、ここまで上手く事が運ぶとは思っていなかった。
自分が物心つくころには、父と兄との間に隙間風が吹いており、その間隙を上手く突いて、今回の状況を作りだせたのは僥倖だと思える。
正室の子ではないという、その一点だけでどれだけの遠回りをさせられたことか。
でも、その苦労も長い皇位継承の争いも、今日で終わりだ。
今、この瞬間から、わたしがリイド帝国皇太子になる。
「フラン、進み出よ」
父に名を呼ばれ、喜び勇んで玉座の下に進み出る。
「これより、そちをリイド帝国皇太子の座に据える。よいな?」
「はっ! 成人したばかりの若輩者ではありますが、リイド帝国皇太子として、父の片腕となるよう、職務に精励いたします!」
「うむ、さっそくだがそちには余の巡幸の供回りを命じる」
巡幸の場は、わたしの後継者として地位を不動するために、父が準備してくれたものであろう。
兄ではなく、次男の自分が父の後継者となったことを帝国貴族や民に知らしめるための旅行だ。
「今回は南部に向かうので、入念に準備をいたせ」
「はっ! すぐに準備を!」
「うむ」
父はそれだけ言うと、玉座から立ち上がり、兄に一瞥もくれることなく、私室へと下がった。
残された兄は、わたしに頭を下げると、何を言うでもなく、謁見の間から立ち去って行った。
呆気ないほど簡単に廃嫡はなされ、わたしは願い続けた地位に昇ることになった。
「父の代理として命じる。こたびの南部巡幸は盛大に執り行うため、各自、準備を怠らぬように!」
「「「「「はっ! 承知しました! 皇太子殿下!」」」」」
皇太子殿下の言葉の響きが良すぎて、陶酔しそうになるが、まだ至高の地位に昇ったわけでもないので、表情を緩ませないよう引き締める。
父の跡を継ぎ、帝国皇帝に就くまで、一つの瑕疵も許されないのだから。