筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
「この首輪……屈辱……的……すぎる……」
アイリスが愛用していた首輪が、ゼノの首に付けられていた。
自分が俺の隷属物だと分からせるのが必要だと言って、彼女がゼノに付けさせた。
「デック! お前の嫁たちは、どういう教育を受けて――ひぐぅ」
にこやかな笑みを浮かべたままのアイリスが、ゼノの首輪に繋がった鎖を引く。
「ゼノさん、言葉を謹んでください。デック様です。貴方の旦那様でもありますよ」
「くぅ……。掟のことなど……。知らぬ……。だから、私はデックの嫁では――」
「あー、いいんですかねー。デック様に種付けしてくださいって懇願してたの聞いたんだけどなぁー」
ゼノの顔が真っ赤に染まる。
混沌としていた初夜のえっちの内容をちゃんと覚えているらしい。
「ゼノ、わたくしたちはラムダ神に選ばれた使徒であるデック様にお仕えすることが運命として決まっております!」
ミリアムさん、ガンギマリ顔でそれ言われるとヤバい宗教みたいで怖いっす。
「こ、困るのだ。武者修行中に男に負けて、従属せねばならなくなったとか一族の者に知られたら、恥ずかしすぎる。しかも、人族に負けたと知られたら……」
「仕方ないです。負けたのですから、旦那様のためにその身体は差し出すのが掟ですよ。それとも、ローベイ族は鬼人族の掟を破る一族なのですか?」
アイリスがゼノの首輪に繋がる鎖をグイと引っ張り、強気な物言いで詰めていく。
「そ、そうではないのだが……。こちらにも都合が……」
「問題ありません。デック様は近々リイド帝国の貴族に列せられる御方です。すでに御領地も持ちますし、御屋敷もありますので、ゼノさんの居場所はすぐに確保しておきますね」
「うぅ……。困る……」
筋力では絶対にゼノの方が上手なはずが、首輪の効果なのか、逆らう様子を見せずにいた。
「まぁ、無理強いはしないぞ。身柄が解放してほしかったら解放するが……」
俺の言葉に嫁三人が「ダメです!」と首を振って拒絶する。
ドスケベ嫁三人ともが、無垢なゼノのことがお気に入りらしい。
「だそうだ。すまんな」
「あぅ……。仕方ない。デックのもとで厄介になるとしよう」
ゼノが諦めたように項垂れた。
「はい、というわけで今日は昨日行けなかった店にまいりますよ。はい、はい、準備してください」
ミリアムがパンパンと手を鳴らすと、皆がベッドから降りて、着替えを始める。
着替えているところを視界に納めてまったりしていた俺が、最後にみんなの手で着替えさせられた。
着替えを終えると、昨日行けなかったグロモック領で最大の商会であるシヴァレー商会が経営している店に足を運んだ。
ミリアムとアイリスが、この商会とは今後も懇意にしたいという話だったので、顔見せついでに買い物に来たらしい。
店舗はクソほどデカく、雑貨から衣服、武具や食品までありとあらゆるものを扱っており、リイド帝国内での最大の商会という看板に偽りはなさそうだった。
「いらっしゃいませー。何をお探しですか?」
「いえ、商会長のギブン殿をお呼び頂けますか? アイリス・ジャレルが来たとお伝えください」
メイド服姿のアイリスに若い店員が面食らっていたが、近くにいた古参の店員がアイリスの顔を見て、リイド帝国の貴族令嬢だと気付いたらしく、店の奥へ駆けこんでいった。
しばらくして、店の奥の個室へ通される。
待っていると、扉が開き、50代の頭髪が薄くなり始めた男性が姿を現した。
「これは、これは……お久しぶりにお越し頂き……」
「随分と待たされましたが……。ギブンは、わたしが父を失い、資産も失い、凋落したと思っていたのでしょう?」
アイリスの言葉にギブンと呼ばれた男性はバツの悪そうな顔を浮かべた。
「そのようなことは……。ジャレル家は我がシヴァレー商会の大得意様です。先代様には特に贔屓にして頂いておりましたので……」
「相変わらず世辞は上手いですね。本日は、わたくしの旦那様とその愛妾の方々をギブンに引き合わせようと思い、来訪しました。こちらが、わたしの旦那様となったデック・ノボー様です。すでにギブンの耳には入っているでしょうがハゲタカの盗賊団を殲滅した英雄であり、ラムダ神が戦乱の平定に遣わしたとされる使徒でもあらせられます」
何か自分とは思えないような巨大な修飾をされた紹介に、居心地の悪さを感じる。
ただ、棒を振るしか能がない男なのだが……。
「ほぅ、こちらが噂の……。たしかにご立派な体格」
ギブンから値踏みするような視線が注がれた。
「そして、こちらがミリアム・クロムハート様。デック様の腹心兼愛妾です」
ミリアムの名を聞いた時、ギブンの顔色が変化した。
「は? 今なんと? おっしゃられた?」
「ですから、こちらはミリアム・クロムハート様です。アルべイド王国では紅眼の魔女と呼ばれていたそうです。ギブンなら知ってるでしょ?」
「紅眼……の魔女……だと……!?」
ギブンはジロジロと舐めるようにミリアムの様子を観察していた。
俺の時とは大違いだ。
「お初にお目にかかります。ミリアム・クロムハートです。我が主デック・ノボーとともに、ギブン殿には今後とも末永いお付き合いができるよう願っております」
ミリアムは、リイド帝国商人にも名を知られているらしい。
さすが高級軍人。
「本当にあの紅眼の魔女殿ですか?」
「ええ、わたくしがミリアム・クロムハートです」
「アルべイド王国の叛徒数万を謀略、策略で分裂させ、お互いに争わせ、瞬く間に鎮定したという……」
「……まぁ、王太子殿下のお手伝いはしておりました」
「その御方がデリー地方平定で武功を上げたデック・ノボー殿の腹心になっておられると……」
「ええ、そうです」
「つまり、それだけの価値がデック様にあると?」
「リイド帝国の貴族程度に収まる器ではないと思っております」
俺を見るギブンの目の色が変わった。
なに? 俺ってミリアムの添え物でしょ? ただ、棒を振るうだけの仕事しかしてないし。
貴族でも十分なんだけどなぁ……。
ほら、子供たちもいるし、嫁も4人に増えたわけで充実した毎日をすごしているわけでぇ……。
「ご入用なモノとかがあれば、このギブンがすぐにご用意いたしますぞ。デック殿、ミリアム殿」
え? なに? その大奮発? どういうこと?
混乱する俺にイリアが耳打ちしてきた。
『デック様とミリアムお姉様なら、デリー地方の領有だけでなく、もっとデカいことやりそうだと思ってるんですよー。ギブンさんも商人ですが野心家なので、リイド帝国が揉めてる今は商機拡大の機会だと思ってるんですー』
そういうことなのか? ただ、俺は何が起こるか一切知らないんだがな……。
こういう場合ってどうすればいいんだろうか?
俺の心の内を察したのか、イリアが続けて囁く。
『ギブンさんの両肩を軽く叩いてニコリと笑えば完璧です』
そうか! そうだったのか! なんだ、簡単じゃないか!
俺はイリアに言われた通り、ギブンの肩を軽く叩き、ニコリと笑みを浮かべた。
「デック様は、普段はお優しいですし、人を信じる方なのですが……。裏切りをとても嫌われます。裏切れば……ハゲタカの盗賊団と同じ道をたどると思って頂ければ」
ミリアムがぼそりと呟いた言葉に、ギブンの顔色が青く染まる。
イリアはニッコリ笑えって言ってたし、この場合もまだ笑ってた方がいいんだよな……。
俺は笑みを崩さず、無言でギブンの肩を軽く叩いてやった。
「裏切るなど……。滅相もない……」
「よかった。もしギブン殿が協力を申し出なければ、デック様の御力によって、このグロモック領を灰燼に帰すしかありませんでしたしね。よかった。よかった」
え? 嘘? マジ? さすがの俺でも街を灰燼に帰すとか無理だって!
人間だしさぁ。限界があるって。
ミリアムの言葉に戸惑いを覚えながらも、笑顔を崩さないように我慢し続けた。
「まさか……本気ではないですよね?」
いや、いや、いや! 人をバケモノ扱いしすぎでしょ! いちおうこれでも人間です!
俺が答える前に間髪入れずミリアムが答えていた。
「本気かどうか、試してみますか?」
いや、ムリですって! 小さい砦くらいならなんとかやれなくもないけど、さすがにこれだけデカい城塞都市は無理!
「ひぃ! お、おやめください! きちんと協力致します! なんなりと申し付けてください! 手広くやっておりますので、きっとお役に立ってみせますからっ!」
ギブンさん、ミリアムの冗談を真に受けないで! 俺はニンゲン! 人間です!
「では、損はさせないのでアヴァル地方の穀物・飼料・食物をなるべく買い集めて、このグロモック領の商会の倉に入れておいてください」
「穀物・飼料・食物ですか?」
「ええ、冬には買った値の5倍にはなりますので。わたくしたちを支援するというなら買い集めの件、よろしくお願いします」
冬となるとそこそこ期間があると思うが……。
ミリアムは何か企んでいるんだろうなぁ……。
頭脳戦は俺の担当ではないし、笑顔、笑顔っと。
俺は最大級の笑みを浮かべて、ギブンの肩を叩いてやった。
「ひぅ!? しょ、承知しました! なるべく買い集めておきますぞ!」
「買い集めた量で、ギブン殿の我らへの忠誠心を計らせてもらうことも忘れないでくださいね」
「は、はい!」
ギブンはすぐさま席を立って個室から駆け出していった。
「大商人であるギブンも、ミリアムお姉様の手にかかれば、奉公人みたいに動きますね……」
「まぁ、デック様の無言の笑顔の効果でもあります。そして、わたくしの名も加われば、あの反応になってもしょうがありませんね」
「デックはこの都市を壊滅できるのか……。まさか、そんな強者に戦いを挑んだとは……。私はとんだ愚か者だ……」
ミリアムの出まかせを真に受けて追加ダメージを受けている人がいた!?
「ゼノ、さすがに俺も一人で灰燼に帰すほどの力をはないぞ……」
「兵を率いれば余裕ですねー。城門破壊からのー、吶喊で殲滅ですー。ローベイ族も一緒に呼びましょう! 合法的に街中で暴れられますよー」
「な、なに! いくさか! そ、そうであれば、一族に連絡を――!」
イリアのせいで話が危ない方向へ向かっている!?
ゼノもそわそわしない!
ノーウォーです! 今回は新婚旅行兼帝都見学の旅!
「しないぞ! ほら、商談は終わったし、グロモック領でやることはやっただろ」
「あっ! いえ! まだ! あります!」
アイリスが何かを思い出したように叫ぶ。
他にすることあったっけ? コクザンが宿の馬房に繋がれてた若い牝馬と致したことで買い取ることになった件は朝に処理してくれてたはずだが……。
「何かあったか?」
アイリスが首の周りを輪で繋ぐことを示すようなジェスチャーをした。
「却下! さて、宿に帰るぞー!」
「旦那様ー。買ってくれませんかー。ゼノさんにあげちゃったので新しいの頂きたいです」
「デック様、わたくしも買って頂きたく」
「私もですー」
嫁3人寄ると、圧力が強い。
その後、ギブンの店で扱っていた金と銀と銅の鎖付きの首輪を購入させられるという羞恥プレイを強要された。
でも、嫁に頼まれたら断れないのが、俺の悪いところだ。
けれど、その様子を見ていた人から、ヒソヒソ声で「隷属趣味のデック・ノボー」と囁かれたのだが……。
風評被害過ぎる……。