筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
シヴァレー商会からの帰り道、新たに購入した首輪を試したいと言い出した嫁たちの圧力に負け、金、銀、銅、鉄、各種の鎖を手にして街中をざわつかせながら練り歩いている。
「どこの貴族だよ。趣味わりー」
「おい! 口に気を付けろ! アレ、北部のデリー地方の盗賊団を殲滅したデック・ノボーだぞ!」
「あー、マジか。あの大規模叛乱を起こして暴れまわってたハゲタカの盗賊団を壊滅させたとかいう流浪の武人かよっ! うへぇ、じゃああの女たちは戦利品か?」
「そうかもな。あの中にジャレル家の令嬢もいるらしいぞ」
「嘘だろ……。ジャレル家って領地から逃げ出したけど、リイド帝国の古参大貴族だろ?」
「領地はジャレル家の令嬢が相続する形らしいが、実質はあの男のモノらしいな」
「スゲー成り上がりじゃん! オレもなりてぇ!」
「それにみんな若くて美人揃いだな。あの娘たちを侍られせたら、夜もウハウハだろ」
「ちげえねえ」
何度も言うが、けっして俺の趣味ではない。
嫁たちがお願いしてくるので、仕方なく。
本当に仕方なく、やっているだけだ。
ミリアムさんも、イリアさんも、アイリスさんも、ざわついている人たちに向けて、そんなニッコニコの笑顔を浮かべないでください!
勘違いされまくってますからっ!
ゼノさんみたいに恥ずかしがって顔を見られないよう手で隠すのが正しい姿だと思います!
ご主人様プレイを強要されている中、人垣から見覚えのある大柄の男が飛び出してきた。
ゼノが当たり屋として使っていた鬼人族の男だ。
「あ、姉御! そ、そんなぁ……。姉御が……奴隷みたいな首輪を付けてる……。嘘だろ……」
「ち、違うぞ。私はゼノではない……。別人だ……。違う」
ゼノは顔を見られないよう、両手で覆うが、声でバレている。
「ゼノの姉御だ。その声、間違えるかって! 姉御! やっぱり、そいつに……」
「ち、ち、ち、違う。違う。ゼノという名ではない。早くこの地を去れ、ヴィエン!」
奴はヴィエンという名か……。
鎧とかを着込んでいないので、戦士階級ではなさそうだが、ゼノの従者でもしてたんだろうか?
「ヴィエンと言ったか? お前はゼノの従者?」
俺の声にヴィエンはビクンと怯えた様子を示した。
圧倒的強さでゼノを制圧したのを見て、腰を抜かして逃げ出した男なので、たぶん強くはないのだろう。
「そ、そうだ! ローベイ族最強の戦士ゼノ様の従者ヴィエンとは、オレのことだ!」
ヴィエンの名乗りに、ゼノの顔が真っ赤に染まる。
最強とは自負できたてたのは、俺と出会う前までと自覚したのだろう。
今は圧倒的強者に負け、隷属を強いられているただの女だと今朝も自嘲していたのを思い出した。
ゼノもガストンと同じくらい強いとは思うので、けっこうな腕前の持ち主だと思うんだが……。
まぁ、俺より強いかと聞かれたら、そうは思わないと答えるしかないが。
「ヴィエン、や、やめろ。お前、死ぬぞ……」
「やっぱりゼノの姉御じゃないっすか! なんで、そんな恥ずかしい格好を……。ローベイ族最強の戦士がしてるんすかっ!」
「やめろ……やめてくれ……。私は最強などではないのだ……」
「ゼノの姉御より強いやつなんていないっすよっ! この前は油断しただけっす! 再挑戦すれば絶対姉御が勝つっす!」
「負けたのだ……。全てにおいて……。自尊心をへし折られ、隷属することでようやく現実として受け入れられたのだ……。すまないな、ヴィエン」
「嘘……だろ。姉御……」
ショックを受けたヴィエンが、地面に膝を突く。
彼の中でゼノの存在は、かなりデカかったらしい。
「すまんが、ゼノの身柄は俺が預かることになった。ゆくゆくは側室として迎えるため、ローベイ族に挨拶に行くつもりだから、ヴィエンから先に一族の方へ伝えておいてくれるか?」
俺の返答にヴィエンとゼノが同時に首を傾げた。
「は? デック、何を言って――」
「姉御の嫁入り!? 嫁入りーーーーーーっ!?」
「そうそう、別に俺はゼノを奴隷にしたいとか思ってない。正室のアイリスや側室のミリアム、イリアが認めているので、ゼノを側室として迎えるつもりはある。だが、今は旅の途中のため、一時的に身柄を預からせてもらう」
さすがにやり捨てする気はないし、奴隷にする気もない。
側室とはいえ、きちんとした待遇で迎える気はある。
首輪プレイは嫁三人の趣味でやってるだけだし。
盛大に誤解されているわけだが……。
「嫁入り! 姉御が!? た、大変だ! 一族の連中がひっくり返っちまう! 早く知らせないと! 姉御! このヴィエン、一族にきちんと姉御が嫁入り相手を見つけたと伝えてきます!」
「ま、待て! ヴィエン! よ、嫁入りなど、私も聞いておらぬ! デックの元で掟に従い奴隷生活をすることになっているのだ……。何かの間違いであろう!」
ゼノが動揺しているが、ちゃんとえっちの時にそう言っておいた気がしたが……。
もしかして、冗談だと思って、ちゃんと伝わってなかったのか?
まぁ、これでゼノの誤解も解けるだろうし、腹パンして誘拐して手籠めにしたとか言われないで済むはずだ。
「そういうことだから、伝言よろしくな」
「へ、へい! 承知しました! 姉御の嫁入りの件、一族に早急に知らせてきます!」
ヴィエンはそれだけ言うと、俺たちの前から駆け去って行った。
「ヴィエン! 待て! よ、嫁入りなど一族に伝えたら――」
「マズいのか?」
ゼノの顔がさらに真っ赤に染まった。
「私としては、マズくはないが……。一族があの話を聞いたら――」
「ゼノが問題ないならいい。旅の帰り道で挨拶に行くとしよう」
俺とゼノの会話を他の嫁たちがニヤニヤして聞いていた。
「首輪の誓いは果たされましたねー」
「そのようです」
「ゼノさんもちゃんと理解したようでよかったです」
はい、そこ! 首輪の誓いとか言わない!
俺が婚約の印に首輪を贈るとかいう変な噂が立ったらどうするんだねっ!
そんなことを思いながらも、嫁たちの笑顔の魅力の前に文句は口から出てこなかった。
こうして、グロモック領での用事を終えた俺たちは、旅の目的地である帝都へ向けて船旅を再開することになった。