筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
ミリアムと工房に向かう途中、街の広場に人だかりができていた。
見ると、黒くバカでかい馬が乗ってる人を振り払って暴れている。
気になったので、隣を歩くミリアムに聞いてみた。
「あれなんだ?」
「50ディナ金貨を払って、あの暴れ馬を乗りこなしたら、タダでもらえるらしいですね。立て看板にそう書いてありますよ」
「へー。乗りこなしたらタダでくれるのか」
「やってみます? たぶん、デック様なら抑え込めると思いますけど」
「いや、馬には乗ったことないって言っただろう。船を降りてから、ここに来るまでは荷馬車に乗ってたわけだし」
「簡単、簡単ですよ。デック様が足で締め上げてやれば、あの暴れ馬は言うことを聞きます」
「そういうもんか?」
「そういうものです。やってみましょう」
ミリアムに手を引かれ、人だかりの中をかき分けると、黒い暴れ馬の前に出た。
「ブルルッ! フー!」
挑戦者をこちらに向けて振り落とし、鼻息が荒いままの黒い馬が、俺に視線を向けてくる。
近くで見るとよりデカく見えるな。
他の馬が仔馬に見える。
でも、これって、絶対に俺へガンつけられているよな。
ビビッて俺が視線を逸らしたら、飛びかかられるってやつか?
だったら、視線を逸らすわけにはいかない。
無言のにらみ合いが続く中、先に動いたのは黒い馬の方だった。
目の前にデカい蹄が飛んできた。
自動車がぶつかって来た時と同じくらいの衝撃が身体に伝わる。
たぶん、普通の人なら吹き飛ばされたと思うが、俺の身体にはまったくダメージはない。
服の肩の部分に蹄の跡がついた。
「デック様!?」
「これくらいなら問題ない。おい、黒馬。先に手を出したのはお前だから、骨が折れても文句言うなよ」
「ブルル?」
ガンを付けたままの黒馬が首を傾げる仕草を見せる。
俺はその黒馬の背に飛び乗った。
黒馬は、俺を振り落とそうとその場で跳ねまわり始めた。
うぉ! 落とされてたまるかっ! 足を引き絞るだったよなぁ!
内股に力を入れ、振り下ろされないようにたてがみを掴む。
「ブルひひぃいーーーんっ!」
嫌がった黒馬が、俺を振り落とそうと棹立ちになって暴れまわる。
「そんな程度で俺を振り落とせると思うなよ」
内股の力を増して、黒馬をギリギリと締め上げてやる。
そのうち、口の端から泡を出し、跳ねる力が弱っていった。
「ブフゥ! ブフゥ! ぶるひぃひーん!」
「大人しく従え!」
首根っこを押さえると、最後のいななきをあげ、諦めたようにおとなしくなった。
「「「おぉ! 乗りこなしたぞっ!」」」
「あの暴れ馬を乗りこなすやつがいるとはなっ!」
「デカい馬にデカい男が乗ると威圧感がすげえっ! ちびっちまいそうだっ!」
観客たちは黒馬を乗りこなした俺にやんやの喝さいを送ってくれていた。
そう言えば、みんなから注目されたはずなのに、向こうに居た時みたいにあがり症にならなかったな。
あれか? ミリアムで童貞卒業したから、男として自信が付いたってやつか?
以前は人の目がスゲー気になったけど、全然気にならなかったぞ。
「デック様、観衆たちにご自身の名前をお名乗り下さい。覚えてもらっておけば、今後のことにも損はないです」
ミリアムがそう言うなら、名前くらいは名乗ってもいいか。
たぶん、現代に帰る手段はないとか言ってたような気がするし、この世界で生きることになるんだろうからな。
「俺の名はデック・ノボーだ。よく覚えておいてくれ!」
観衆の喝さいに応えるように自分の名を告げた。
その瞬間、さらに観衆たちの声が大きく響き渡る。
なんか、褒められてて気持ちいいな。
向こうじゃ、怒られてばかりだったし、褒められるのがこれだけ嬉しいなんて気づかなかったぞ。
もしかして、俺ってやっぱり生まれる時代を間違えてたのかも。
こっちの世界の方が、俺が俺らしく生きられそうな気がする。
「デック様、お見事です! これで顔と名も売れたはず。名馬も安く手に入りましたし、大戦果ですね。さっそく鞍と鐙と手綱を付けるので、一度降りて頂いてよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
俺が観衆からの喝さいを浴びて気持ち良くなってる間に、ミリアムが馬の持ち主との譲渡交渉を終えていたらしい。
俺は黒馬から降りると、ミリアムの作業を眺めることにした。
「ブルルゥ! ブフッ!」
作業を眺めていると黒馬がまたガンを飛ばしてくる。
まだ自分の完全な負けを認めてないらしい。
負ける気はしないので、いつでも受けて立つがな。
そうだ! こいつに名前を付けてやろう! 名を付けてやれば、多少なりとも懐いてくれるだろうし。
名前、名前、どういうのがいいか……。
黒いし、山のようにデカい体躯をしている。
黒山、
うん、いいな。たぶん、合う。
「ミリアム、こいつの名前をコクザンにしようと思うんだがどうだろうか?」
手綱を付けていたミリアムが急に笑い出した。
「ん? おかしいか?」
「え、えーっと。判断に困る名前ですね。コクザンだと……。古の言葉で『
ミリアムは必死に笑いを堪えて、説明してくれたが、こっちの世界の古い言葉ではそういう意味らしい。
まぁ、たしかにイチモツはデカいものがぶらさがっているが……。
もっとかっこいい意味だったんだけどなぁ……。
辞めておくか。
「ブルひひーんっ! ぶふっ!」
どうやら黒馬がコクザンの名前を気に入ってしまったようだ。
明らかに自分の名だと認識した反応をしめている。
「おまえ、コクザンでいいのか?」
「ひひーん!」
クビを上下に振り、『それでいい』と言いたげな仕草をした。
「まぁ、お前が納得してるなら、コクザンでいいか。イチモツはたしかにデカいわけだし」
「はい、これで準備完了。では、この子はコクザン号と命名いたしましょう。ふふっ。ピッタリです」
「ぶふっ! ブフっ!」
「おい! 俺の服の袖を噛むなって! どうしたコクザン!」
コクザンが俺の服の袖を噛むと、引っ張ってくる。
引っ張られていった先には馬が二頭繋ぎ止められていた。
「ん? なんだ? なんだ?」
「ブルひひーーんっ!」
コクザンはつなげられている葦毛の馬の上にのしかかり急に致し始める。
おいおいっ! 急に交尾するんじゃねえっ! さかりすぎだろっ!
「おいっ! コクザン! やめろ! 人の馬だぞ!」
手綱を引くが、交尾に夢中のコクザンは辞める気配を見せずにいる。
のしかかられた方の馬は叫び声のようないななきをあげていた。
「あらー、お盛んな子ですね。ちょうど、わたくしの乗馬も欲しいとおもっていたところですし、コクザン号のお相手としてあの2頭の牝馬も買いましょうか?」
「金足りるのか?」
「ええ、まぁ、足りますよ。替え馬にも荷物運びにもなりますし、買っておいても問題はありません」
「なんか、すまんな……。買い取り交渉してきてくれ」
「承知しました。少しお待ちください」
ミリアムがコクザンを売ってくれた馬主のもとへ再び向かうのを見送ると、牝馬と致しているコクザンに話しかけた。
「お前なぁ、発情するのはいいが、人目のないところでやれよ」
「ブルルッ!」
声音から『嫌なこった』と言ってるような気がする。
自由すぎるだろ、このイチモツデカい号。
その後、ミリアムが買い取り交渉をまとめて来て、3頭で200ディナ金貨での購入になったらしい。
金の価値はミリアムから聞かされていたが、聞いた瞬間、睡魔に襲われたので覚えていない。
けど、予算内らしいので、問題はないと思いたい。