筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
「私のような者を支援してくれるなんて、デック殿は変わっておられますね」
ソファに座るルシウスは、自嘲的な笑みを浮かべていた。
まぁ、廃嫡とかって普通はされないからショックなんだろう。
「我が主は、無類の篤志家であり、情に篤い方。困っている者を見捨てられないので、ルシウス様と御母堂リリーゼ様の境遇を聞き、いたく憤激し、帝国の行く末を嘆かれております」
え? そうなの? たしかにルシウスを見たらそう思ったけど。
まともそうな跡継ぎで、しかも長男を差し置いて次男を皇太子に命じるなんてのは、どう考えても国の乱れが生まれるとは思う。
「ミリアム殿、帝国の批判は……。いや、陛下への批判はおやめください」
「いえ、我が主に代わり、わたくしが言わせてもらいます。現皇帝陛下の施策は間違っておられます! 国に乱れを生むと考えておられます!」
そうだ! そうだ! リイド帝国の貴族になる身としては国は安定しててほしいぞ!
「で、ですが……。陛下はもう決断を下されました」
ルシウスの話を後ろで聞いてるリリーゼも、ミリアムの言動にハラハラしたような表情を浮かべていた。
「リリーゼ様のご実家である大貴族サビアス家は、イヴァン陛下に輿入れしてから20年で大いに凋落された。関係のあった親族の貴族家の多くは改易、断絶。この間の廃嫡決定により、サビアス家もルシウス様の廃嫡により、公爵家から子爵家への降爵も決まり、実質的な断絶措置。正室の座も近々追われるとのことだそうで」
「ど、どこからそのような話を!?」
ルシウスは驚いた顔をして、こちらを見てきた。
いや、いや、俺も初耳だって! そんな話!
それにしても、皇帝ってそんなにサビアス家を毛嫌いしてるのか……。
なんでだ? リリーゼは若く見えて綺麗だし、息子もいい子なのに?
俺の中でどんどんと疑問が湧いていく。
「しかも、リリーゼ様がイヴァン陛下と寝所を共にしたのは新婚初夜の一度きり。その一度でルシウス様を授かりましたが、親子ともに離宮へ遠ざけ、皇太子とは名ばかりの冷遇が続いておりました」
閨の話をされ、リリーゼの顔が真っ赤に染まる。
はぁ!? もったいねぇ! こんな美魔女な嫁を初夜だけして放置とかしてるのかよっ!
おっといけない子持ちの人妻だった。
うん、不倫。ダメ、絶対!
ルシウスは隠されていたはずの話をミリアムが次々に暴露していくのを見て、顔面蒼白になっていた。
「イヴァン陛下は、サビアス家にされたことの意趣返しをしているのでしょう。もともと、別の婚約者のいた陛下に、婚約破棄を迫り、その後リリーゼ様を正室として送り込んだわけですし……。その怒りがサビアス家の血を引く唯一の生き残りであるルシウス様とリリーゼ様に向けられているということです。御二人を守ってくれていた貴族たちが粛清され、ついに廃嫡となり、僻地へ追放という処置を受けられたということですよね?」
「そ、そのようなことは……」
ミリアムの言葉を否定するルシウスの歯切れは悪い。
当人も父親からの冷遇に何か感じるものがあったんだろう。
「晴れて元婚約者で現側室であるメアリー様が、息子のフレン第二皇子の皇太子就任により正室に取り立てられることも決まっております。リリーゼ様は廃嫡の責任を取り、離縁。息子の領地となるハルドーでの謹慎を命じられたとか」
うわー……。イヴァンのやつ、えげつないことするー!
いくら元婚約者との仲を裂かれたとはいえ、長年連れ添って子を作った正室と離縁するか……。
意外と酷くね? 俺の上司? なんかリイド帝国の貴族になりたくなくなってきたな。
サビアス家もイヴァンとメアリーの仲を無理やり裂いたのは悪いけど、リリーゼは家の方針に従っただけだから悪くないだろ。
なんかケツの穴の小さそうな男だな。
目の前の2人からは憎めない雰囲気が漂っており、俺の中で彼らを冷遇するイヴァンへの悪感情が溜まっていく。
「それに、まだ秘密を隠していらっしゃいますよね? ルシウス様にまつわる重大な秘密を]
ミリアムの表情は一切変化を見せないが、対照的にルシウスは明らかに挨拶の時に見せた中性的なイケメンの笑みから、精彩を失い、蒼ざめて、怯えた小動物のような姿を見せていた。
ルシウスの秘密ってなんだ? そんなに大事なこと?
席を立ったミリアムが、ルシウスの胸に指を突き付ける。
「あっ!?」
ミリアムに胸に指を突き付けられたルシウスが、咄嗟に指を払いのけ胸を隠す仕草をする。
その仕草は、女性そのものだった。
「ルシウス様ももう18歳。ご母堂様より受け継いだ胸の発育は隠せない状況になりつつあります」
胸の発育? は? どういうこと?
リリーゼの胸に視線を送ると、衣装に収まり切らない胸がこぼれだしそうなほどの爆乳だった。
おっといけない。子持ち人妻の胸元をガン見してしまった。
これは、セクハラで訴えられても文句は言えない。
「ち、違う。私は男だ。ミリアム殿は勘違いしておられる! 訂正されよ!」
蒼白から真っ赤に染まったルシウスは、必死にミリアムの言葉を訂正するよう求めていた。
「失礼します」
ミリアムの手が剣にかかり、居合抜きみたいな抜刀を披露していた。
ルシウスの衣装の胸元がハラリと裂け、胸を押さえてたコルセットも裂けると、ボロンと大きな胸がこぼれだした。
「きゃっ!?」
む、胸!? 巨乳!? あれ? 男なのに巨乳!?
目の前のあるビジュアルとイメージが合致せず俺の脳みそが混乱していた。
落ち着け! 俺! イケメンに巨胸はない!
逆にショートカットの中性的な美少女になら――胸は――
ある! ある!? 女ってこと?
こぼれだしそうな巨乳を隠し、こちらを見てくるルシウスの顔を見ていたら、混乱が収まりショートカットのボーイッシュな巨乳美少女に見えてきた。
「ルシウス様、貴方は女性であることを隠してますね。これもサビアス家が皇帝の外戚となるために、リリーゼ様と貴方に無理強いしたこと」
「ち、ちが」
「ルシウス、いいのです。わたくしがジャレル家を受け継ぐこととなったアイリス様から陛下への面会の取次を頼まれた時、ご相談をしたことです。支援してくれた貴族もなくなり、相談相手もなく、これから厳しい辺境暮らしをするとなれば、心細くて……つい、手紙に少しだけ書いてしまいました。それからは黙っておくのができず、秘密を次々に……」
あらー、母親がバラしてたのか……。
それをミリアムが知って、支援の話をチラつかせながら、いろいろと皇帝とサビアス家との確執や皇太子の秘密を引き出してたという話か。
「は、母上!?」
「わたくしたちは、陛下に捨てられました。それは貴方も自覚しているでしょう。これからは自活せねばなりません……。ですが、わたくしにはその才覚はない。貴方も領地経営は初めてではあるし、実力は未知数です。誰かを頼らねば……生きられません」
いいところの貴族令嬢であるリリーゼなので、帝都でお飾りとはいえ正室として遇されて生活にはある程度満足していたのだろう。
でも、その生活も子の廃嫡でなくなってしまう。
そして、誰も相談できる相手はいない。
進退極まり、こちらの魔の手に落ちてたということみたいだ。
「えーっと、つまり、俺は元皇太子殿下であるホルドー領主ルシウス・サビアスと、その母であるリリーゼ・サビアスを保護してやればいいのか?」
「はい、そういうことです。デック様」
ミリアムが妖しい笑みを浮かべて、頷いていた。
あの笑みはきっと保護だけじゃない気がする。
「リリーゼ様、ルシウス様、デック様は女性にはとてもお優しいので、その身を預ければ安泰な生活が保障されますよ。わたしもジャレル家での生活よりも、今の方が充実しております」
ドスケベエロメイドではあるが……。
本人が楽しそうにやっているので、たしかに貴族令嬢っぽくしろとは言ってないな。
「私もデックの側室として召し抱えられたが、その……。夜はすごいんだ……。デックみたいな強い牡から牝として扱われ、世界が変わってしまった。もう、帰れない」
ゼノさんも、どさくさにまぎれて牝犬宣言やめてください!
ドン引きされますし、相手は貴族様ですよ!
「もし、領地のホルドーの居心地が悪ければ、イスカールにお越しください。ここよりはだいぶ狭いですが、安全なお部屋は用意させておきますー。イヴァン陛下の執念からすると、廃嫡した子を生かしておくとは思えませんのでー」
そこ! イリアさん! さらりと脅さない! ほら、リリーゼさんが本気にして卒倒しかけているでしょ!
「ホルドーへの旅立ちの挨拶をしに陛下へ最後の面会される際、デック様の目通りをお願いしてもらう形にはなりますが、お二人の旅の安全は保障させてもらいますし、その後も生活も保障させてもらいます」
リリーゼは安堵したかのような表情を浮かべ、ルシウスの方はわなわなと震えながら首を振っている。
母娘で意見の相違があるらしい。
「ルシウス殿……。いや、女性だからルシウス様か。いろいろと思うところはあるかもしれないが、まずは自分と母親の命を守れる場所に逃げ込め。それが今は俺のところだってだけだ。だろ、ミリアム?」
「そういうことです。廃嫡の決定により、リイド帝国内でルシウス様の味方はデック様のみと思われます。ルシウス様には賢明なご判断を賜りたく」
「無理だ。無理……。そのような決断をできるわけが……」
事実を突き付けられたルシウスが、なおも首を振って抵抗を示す。
思えば可哀想な子だ。
家の事情で男として育てられ、家の都合で殺されかねない立場に追いやられ、頼る人はなく、母も助けなければならない重圧を抱えてるわけだしな。
とりあえず、俺が悪者になっておけばいいか。
立ち上がった俺は子供の様子を見て、わたわたしている母親のリリーゼを捕まえて肩に担ぎ上げた。
「ひゃ!? デック様!? 何をなさるのですか?」
「じゃあ、母親だけ助けることにする。お前は一人で死ね」
俺の言葉がきつかったのか、ルシウスは自分の肩を抱き、ガタガタと震え始めた。
「いやだ……死にたくない……。なんで私が死ななきゃいけないの……。何も、何もしてないのに……。いやぁああああっ! 死にたくないの! 助けて、助けてください! 死にたくない」
何かがポッキリと折れたルシウスが、俺の足に必死にすがりついてくる。
そこには凛々しいイケメン皇太子ではなく、運命に翻弄されてきた可哀想な女の子がいた。
俺は足にすがりついていたルシウスを母親と反対の肩に担ぎ上げる。
ルシウスは俺の身体にギュッとつかまって泣いていた。
「まぁ、女2人ぐらいの命を守るのはたやすいことだ。俺に任せておけ。あー、ちなみに作戦とかはミリアムの担当なー。俺は護衛専門だ。護衛」
「わたくしとルシウスの身はデック様にお預けいたします。なにとぞ、よしなに」
「デック様……。母と私の身をなにとぞ……」
両肩に担いだ母娘からお願いされたので、俺は勢いよく頷いてやった。
い、いちおう、身柄を預かるだけだからな。
ミリアムさん! イリアさん! アイリスさん! ゼノさん! みんなニヤニヤしない!
保護だからね! 保護! 分かる? 保護だよ!
イリアさん! えっちなハンドサインはしない!
アイリスさんも首輪のハンドサインもやめなさい!
ゼノさんも『えっちの準備するかー』みたいな動きやめない!
ミリアムさんも『いや、うまくいった。いった。これでデック様の覇業の礎ゲットしたわー』的な顔やめてね! 保護だから!
俺の正室や側室たちの思惑はなるべくスルーして、落ち着いた2人を解放すると、離宮で泊っていくように促されてしまい、帰りそびれて泊ることになってしまった。