筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
寄り道を終え、コクザンと他の2頭の馬を引きながら歩くと目的地の工房が見えてきた。
工房に近づくにつれ、金属を叩く音が響き、熱気と金属のこげた匂いが鼻を突く。
中からひょっこり出てきた工房主のじいさんが、俺の顔を見るなり声をかけてきた。
「おぉ、デックか。発注してもらったやつは急いで仕上げてさっきできあがったところだ。あんなバケモンみたいな重さの金属鎧とクソ長い鉄製の棒なんか初めて作ったぞ。お代は先にもらっているが本当に大丈夫なのか?」
「たぶん、大丈夫。俺には分からないが、ミリアムが大丈夫だと言った」
「おいおい、自分のだぞ」
「大丈夫です。我が主人のデック様ならば、余裕でございますと申していたはずです。お忘れですか?」
「まぁ、ミリアムがそう言うなら、大丈夫なんだろうが。お前の剣の方も作ったぞ。間に合わせだから、無理な使い方するなよ」
「はい、心得ております。グエン様」
グエンと呼ばれた工房主のじいさんと、ミリアムは顔見知りだそうだ。
アルべイド王国でラムザ神の神殿騎士になる前は、このエニデラの街で剣の修行をしていたらしい。
とりあえず、アルべイド王国から逃げてきたとはいえ、彼女からしたら里帰りみたいなもんだった。
ちなみにミリアムの歳は、今年24歳と聞いており、10代前半までこのエニデラに住んでたそうだ。
そんな24歳処女のミリアムが性欲を持て余し、40過ぎの童貞おっさんとのセックスにハマってしまい、国から委託された神殿の仕事をしくじったうえ、金を盗んで逃亡中。
大転落人生すぎると思うのだが、当のミリアムはあまり気にした様子は見せなかった。
「デック様、まいりますよ。ほら」
「あ、ああ」
我に返るとミリアムに手を引かれ、工房の中に足を踏み入れた。
「すごい! 威圧感が出てる! これをデック様が着込んだら戦場で目立ちますねっ!」
工房の中庭に、ミリアムが注文してくれた俺専用の全身鎧が置かれている。
色は艶消しの黒。
明かりのない夜だと、同化して見えないのではと思う色だ。
あと肩の部分のトゲトゲとか、拳の部分のトゲトゲとか、腰の部分のトゲトゲとか、靴先にトゲトゲとか、兜のトゲトゲとか、トゲトゲしすぎる鎧っ!
アレ着て人とぶつかったら、相手を怪我させまくる自信しかないっ!
しかも、どう見ても世紀末にヒャッハーしている人たちの王様が来てるやつだよっ!
「その鎧、力自慢5人がかりでようやく置けた代物だ。さすがにやりすぎじゃろ。デックがいくら大柄で力持ちとはいえ、こんなの着て動けるやつなど……」
「グエン様の無視です。無視。デック様、どうぞ着てみてください」
「どれから着ればいい? 着かたが分からない」
「足からどうぞ」
分厚い鉄板で作られたグエンの鎧を足元から付けていく。
少しくらい重量は感じるが、言うほど重くはないよなぁ。
これくらいなら、全然俺の動きを妨げる重さでもないし。
最後に兜を被り完全武装を終えても、余裕の軽さだった。
「もっと重いかと思ったが、軽すぎるくらいなんだが」
軽く飛んでみると、着地の衝撃で地面が軽く揺れていた。
「それを着て、コクザンに乗れます?」
「ああ、コクザンが重さを嫌がらなかったらだが。どうなんだ? コクザン?」
「ブルルッ!」
工房の入口に繋ぎ止めていたコクザンが余裕といった感じの態度でいなないた。
「後で重いとか言い出しても、聞いてやらないからな」
「ぶひひーーんっ!」
鎧を着込んだまま、コクザンの鐙に足をかけひょいと鞍に跨る。
コクザンは重さによろけた様子は見せなかった。
手綱を緩めてやると、早足で進み始める。
さすがに余裕と言っただけのことはあるか。
重さできつそうにしてる感じはないな。
「人も馬もバケモノかっ! 5人がかりで置いたあのクソ重い鎧を着込んで動けるだとっ!?」
「みたいだ」
「さ、さすがに武器の重さまで入れたら、無理じゃろ。特別製の鉄棒じゃ。おーい、例のアレ持ってこいっ!」
グエンの声に工房内から筋肉隆々の男たちが姿を現す。
5人の男たちは汗をかきながら、黒く太く長い棒を運び出してきた。
「5
「そうなのか?」
プルプルと震えている男たちから、黒く太い長い棒を受け取る。
武器に棒を選んだのは、祖父に倣った棒術を活かせると思ったからだ。
んー、ちょうどいいくらいなんだけどなぁ。
あんまり軽いと、解体道具みたいにすっぽ抜ける可能性がある。
何度かすっぽ抜けた解体ハンマーで壁ごと壊して怒られたから、やっぱこれくらい重量がある方がいい。
棒の中央が少し細く加工されてて、握りやすいしな。
少し離れると、受け取った棒の具合をたしかめるため、ビュンビュンと振り回してみた。
うんうん、しっくりくる。30年ぶりに振ったとは思えないな。
「コクザン、重くないか?」
「ぶるひひーんっ!」
問題ないらしい。
さすがガタイがデカいだけあって、足腰はしっかりしてるようだ。
「バ、バケモノか……」
「グエン様、我が主人のデック様に対して、その言葉は失礼ですよ」
「す、すまん。つい、口から本音が漏れた」
グエンや工房の職人たちの視線が、棒を振り回している俺に集まってくる。
日本だとヤバいって自覚はあったけど、こっちの世界でもヤバい部類なのか? 俺?
考えごとをしていたら、振り回していた棒の先が工房の庭に植えられた大木の幹に触れてしまった。
「あ、やっべ」
棒先がかすった大木が木っ端みじんにはじけ飛ぶと、木くずが降り注いでくる。
ミリアム以外、全員が口をあんぐりを開けて固まったままだった。
「すまない。木が……」
「あ……うん。問題はないぞ……。ちょうど伐採しようと思っておったやつだ。ああ、そうだ。それの出来はどうだ?」
「いい出来だ! 重量配分もよくて使いやすい!」
「そ、そうか。それはよかった。大事に使ってくれ」
「ああ、大事にさせてもらう」
グエンはコクコクと頷くだけだった。
その後、ミリアムも自分の剣を調達し、俺たちはエニデラの街を出ると、街道を北に向かうことになった。