筋肉だるま(41)、異世界で神の遣わした大英雄と勘違いされる〜頭脳戦は嫁に丸投げして棒一本で天下無双をキメてみた〜 作:シンギョウ ガク
「素直に馬とそっちの女を置いていけっ! そうしたら、命くらいは助けてやる!」
コクザンに跨り、優雅な馬旅を楽しんでいた俺の前に武装した男たちが十数名行く手を阻んで立っている。
男たちの身なりは様々な武具を身に付けているため、どうやら盗賊らしい。
後方の射手が数名、矢を番えてこちらを狙い、他の者は槍を構えて臨戦態勢をとっている。
「だそうだ? ミリアム、どうする?」
「えーっと、困りましたね。まぁ、でも邪魔をされるのなら、殺してしまいましょう。ちなみに盗賊行為は禁止されておりますし、殺されてもお咎めはありません」
「殺すのか……」
「何度も申しましたが、この世界は、やるかやられるかです。デック様も覚悟を決めてください……ませっ!」
ミリアムは言葉を言い切る前に、懐に忍ばせていた短剣を奥の射手に向かって放った。
額に短剣を受けた盗賊たちが血を噴き出しながら、どさりと地面に倒れ込む。
「やりやがったなっ! 殺せ! 殺して奪えっ!」
待ってくれと言っても、先に手を出したからには待ってくれないよな。
向こうで人を殺したことはないけど、殺しかけたことは何度もある。
でも、殺す意志を持って殺すのと、事故で殺しかけたのの差はデカいんだよなぁ。
ミリアムは殺せって言うけど、こいつらくらいなら、手加減して行動不能にすれば……。
「いぇえいいいいっ!」
突き出された槍がコクザンの馬体を掠める。
怒ったコクザンの蹄が、盗賊の身体に打ち込まれ、吹き飛んでいくのが見えた。
完全に逝ったな……。アレは。
命が軽い世界だ……。
「デック様、とっとと殺しましょう! 殺さねば、わたくしたちがやられますっ!」
ミリアムが死ぬのを見るのは……。
絶対に嫌だっ!
仕方ねえ! 下手に悩むと頭使って眠くなるから、本能に従うしかねぇっ!
「ふーー! 分かった! 俺はミリアムを護るため棒を振るう! それで人を殺してしまうとしても後悔はない!」
「な、なんで急にそんなことを!? は、恥ずかしいです!」
照れるミリアムは超絶に可愛い!
彼女を護るためなら、俺はいくらでも棒を振るって戦える。
じいちゃん、すまん。不殺の誓いは破ることになった。
でも、俺にも護りたい人ができたから許してくれっ!
雑念を振り払った俺は、近づいてくる盗賊たちに向け、棒を振り回す。
棒は槍をへし折りながら、盗賊たちの身体にめり込んだ。
骨が粉砕される感覚が伝わってくる。
「ぐへぇ!」
「ゲハッ!」
「ひぐはぉっ!」
棒を受け止められなかった盗賊の鎧は砕け散り、身体は地面を何回転も転がっていき木にぶつかって鈍い音を出し、くたりと倒れた。
ついにやっちまった……。
ああ、いかん。いかん。
余計な事考えるなっ! ミリアムの命を守る方が大事!
心の中で盗賊に謝りながらも、自分とミリアムを守るため、棒を振る手は止めずにいる。
「ひゃぐぅ!」
「がはっ!」
「ぐえええええっ!」
棒が盗賊の身体を捉えるたび、派手に粉砕した鎧の破片が飛び散っていく。
同時に盗賊たちの吐いた血が、艶消しの黒い棒を赤く染めた。
敵の命を奪うたび、あっちの世界では常にモヤついていた霞んで思考が明瞭に晴れていく感覚を得ていた。
やっぱり、俺は生まれる時代を間違えたらしい……な。
こっちの世界の殺伐とした空気が、俺を覚醒させていく。
「ひぃ! バケモノかっ!」
「失礼な。デック様はちゃんと人間ですよ」
「がふっ!」
武器を取り落とし、腰を抜かして戦意喪失した男がミリアムの剣に喉を貫かれ絶命した。
血を見る修羅場にも関わらず動じた様子は見せてないのは、やっぱりこっちの世界の住民で、しかも騎士だからだろうか……。
えっちの時とは全然様子が違うんだよなぁ……。
どっちも本当のミリアムなんだろうけど。
「まだ抵抗する者はいるかしら? 降伏する者は武器を捨て、跪きなさい!」
生き残った盗賊たちは、手にしていた槍を捨て、すぐさま跪いて許しを請う。
「た、頼む! 殺さないでくれ! 頼む! オレには女房と子供が――っ!」
ミリアムは盗賊の言い訳に聞く耳を持たず、心臓を一撃で貫いていた。
「ミリアム? 相手は降伏して――」
「偽装です。こちらの油断を誘っているだけ。それに、襲ったからには命を取られても文句は言えませんので」
「た、助け……て、くれぇ」
命乞いを無視して、さらに盗賊を絶命させていく。
その表情は、いつもに比べとても冷たい印象を受けた。
俺はその様子をただ見つめることしかできずにいる。
けれど、不思議とミリアムの行動に対して不快感はない。
この世界の殺伐とした空気に触れ、覚醒した俺の本性が、彼女のその行為自体を必要なものとして受け入れたからだろう。
「貴方は助けます。よかったですね。助かって」
「は、はひぃ! あ、ありがとうございますぅうう! で、ではこれで――」
ミリアムは逃げ出そうとした盗賊の服を手近な槍で縫い止めた。
「助けてくれるって!」
「そうですね。そう言いました。でも、逃がすとは言ってません。貴方たちの根城に案内してください。軍資金集めしたいので」
ん? 軍資金集め? ミリアムは何をやるつもりなんだ?
「ミリアム何をするつもりだ?」
「ちょっと、盗賊の根城を襲おうと思います。コクザンと牝馬2頭を購入して懐が寂しくなりましたので」
「えーっと、それってつまり盗賊から強盗するって話か?」
「ええ、そうです。武具とか売ればそこそこお金になりますし、馬とか貴金属、お金もあれば助かりますね」
ミリアムは表情を変えずにしれっと話していく。
話を聞いていた盗賊の顔が青ざめていた。
「待ってくれよ! 根城に案内なんてしたら、オレが頭領に殺されるって!」
「では、ここで死にましょう」
ミリアムがスッと盗賊の首に剣を押し当てた。
そのしぐさに、ためらいの色は見えない。
案内しなきゃ、マジで殺す気だ。
「ひぐぅ! 死にたくねぇ!」
「ミリアムは本気みたいだから、案内した方がいいぞ。もしかしたら命が助かるかもしれん」
涙と鼻水を垂らした盗賊の男は、コクコクと頷くだけだった。
その後、盗賊たちの遺体を街道脇に寄せ、金になりそうなものを物色すると、生き残りの盗賊を先導にして根城に向かうことにした。