※この作品はR-18です。

恵ちゃん至上主義?   作:名無しのナナ氏

17 / 30
17.審議

 

 ――審議はDクラスの劣勢で推移していた。

 

 開幕から須藤とCクラスの生徒たちの間で水掛け論が始まり、一向に進展がない。Cクラス側はあくまで被害者という姿勢を崩さず、敬語で話を進めているのに対し、須藤は被害者という主張こそ同じものの、こちらは敬語ではないため些か心証が悪い。尤も、心証など元からないようなものだったが。加えて、Cクラスの3人には暴力で出来たと思しき青痣が見受けられる。それが事件がきっかけで負傷したという証拠にはならないが、少なくともそう思わせてしまう雰囲気が出来上がりつつある。

 

 堀北兄が議長を務めているせいか、萎縮してしまっている堀北妹の脇腹を掴んで無理矢理意識を覚醒させる。静観しているつもりだったが、流石に拾える勝ちをふいにしたくはない。

 どうにか彼女を再起動させたところで、やっと議論が動き出す。

 

 冷静さを取り戻した堀北により、数々の質問がCクラスに投げかけられる。

 どれも主張の脆弱な部分を的確に突いた容赦ない質問だ。しかしCクラスもある程度は予測していたらしく、シミュレート通りといった回答が返ってくる。やはり一筋縄ではいかない。

 

 そこで、こちらも対抗手段として目撃者を投入する。

 

「1年Dクラスの佐倉愛里さんです」

 

 目撃者と聞いて身構えていたCクラスの3人だったが、正体がDクラスの生徒と知って担任共々失笑を浮かべた。張り詰めた緊張感からか、佐倉は証言を前にして沈黙してしまう。それが10秒、20秒と続き、もはや証言能力はないと判断された佐倉が退室を促されそうになったとき、彼女は吠えるようにして声を上げた。最初に仕掛けたのはCクラスだと。

 

 しかし勇気を振り絞った彼女を嘲笑うかのように、Cクラスの担任が口を挟んでくる。脅されて喋っているのではないか、罪悪感に苛まれて嘘の証言をしているのではないか、と。本来、不干渉であるはずの教師が執拗に佐倉を問い詰める。堀北も流れを止めるべく佐倉を擁護するが、坂上は理論を並べ立ててのらりくらりと立ち回り続けた。

 

「――証拠ならあります!」

 

 だが、それでも佐倉は折れなかった。

 机に数枚の写真を叩きつけ、証拠として提出したのだ。須藤と石崎が喧嘩をしている最中を捉えた動かぬ証拠。日付もバッチリと刻まれている。――そして、誰も気づいていないもう一つの証拠も。

 

 状況が逆転したことを悟った坂上が、茶柱に落としどころを持ちかけた。喧嘩両成敗と言えば聞こえは良いが、Dクラスとしてはそうもいかない。特に須藤は我慢ならずに激昂している。茶柱も、その妥協案を呑もうとしていた。

 

「――この事件の目撃者はもう一人居ます」

 

 敗色ムードが漂いつつあった場に、堀北の凛とした声が響く。

 

「なに……?」

 

 坂上の表情から余裕が消える。佐倉を黙らせれば終わりとでも思っていたのだろう。

 だが、それは爪が甘い。

 

「では、次の目撃者の入室を許可します――どうぞ」

 

 橘に促され、生徒会室の扉が開く。悠然と入ってきた彼女を目にするや否や、坂上含めたCクラスの生徒たちの表情が驚愕の一色に染まる。

 

「1年Aクラス、土岐翔子さんです」

 

 恭しく一礼をして席に着く彼女に、坂上はもはや口を挟む余裕もない。まさかAクラスが出張ってくるとは思いもよらなかった、と言った感じに冷や汗を垂らしている。

 

「では証言をお願いします」

「はい。――私は事件のあった日、所用で特別棟を訪れていました」

 

 粛々と彼女の証言が始まる。全員が一様に土岐の言葉に耳を傾けていた。いや、そうせざるを得ないだけの独特の空気感を持っていた。堀北兄の持つそれとは全く異なる、異質な存在感。

 

「廊下を歩いていたところ、前方に剣呑な雰囲気の男子生徒が集まっていたので、咄嗟に近くの物陰に隠れました。巻き込まれるのも嫌でしたから。じっとしてやり取りを聞いていると、内容はレギュラーを降りろだとか、バスケ部を辞めろだとか、そのような悪意のあるものばかりでした」

 

 土岐の証言によって、Cクラスの3人はすっかり顔が青ざめてしまっている。視線をあちこち彷徨わせて、頻りに足を揺するほどに動揺を隠せていない。

 

「次第に須藤くんを煽り挑発するような発言に変わり、明らかに自分たちから喧嘩を起こそうとしているのが分かりました。そして彼らの目論見通り喧嘩に発展し――Cクラスの生徒から先に拳を振るったのを目視しました」

 

 語気を強めた土岐が断言する。オレはてっきり一部だけを見ていたのかと思っていたが、どうやらほぼ最初の段階から現場に居合わせていたようだ。Aクラスの彼女であれば、自然と発言にも信憑性が伴う。これは、優秀な生徒が集められたAクラスの生徒にしか発揮できない強みだ。

 

「3人とも、彼女の証言に間違いはありませんか?」

「そ、それは……」

 

 小宮たちが口ごもる。反論できていない時点で認めているようなもの。一転して、今度はCクラスが追い詰められる番だった。

 

「答えられないということは、彼女の証言を認め、審議において嘘の主張をしたということになりますが」

 

 Cクラスの3人は俯いたまま沈黙する。証言を認めれば自分たちが嘘を吐いていると証明してしまう。逆に主張を貫こうとしても、目撃者が2人も居る状況ではあまりに分が悪い。しかもそのうちの1人はAクラスの生徒であり、発言には高い信憑性がある。不用意に誤魔化せば新たな証言を突きつけられ、逃げ場を失う可能性すらあった。気弱な佐倉と違い、土岐がCクラスに対して侮蔑のこもった視線を送っているのも、彼らが萎縮している要因だろう。

 

「は、発言よろしいか、生徒会長」

 

 3人が機能不全に陥ったことを悟り、すかさず坂上が挙手する。もはや彼に先程までの余裕綽々といった様子は一切見受けられない。冷や汗をかき、レンズの向こうには明らかな動揺が見て取れる。

 

 そんな坂上を、堀北兄は凍て刺さんばかりの眼差しで見据え、厳かに口を開いた。

 

「坂上先生。この場は本来、当事者同士が話し合いで解決すべく設けられた場です。担任である貴方が横槍を入れては意味がない。よって、これ以上の発言は許可しかねます」

「し、しかし証拠も無しに――」

「ありますよ、証拠なら」

 

 食い下がる坂上の発言に被せて、土岐が薄ら笑う。

 

「先ほど佐倉さんが提出した写真。実は私が写ってるんですよ。嘘だと思うのであれば、是非、確認してみてください」

 

 提出された佐倉の写真を、橘が改めて一枚ずつ目を通していく。暫く写真とにらめっこしていた橘だったが、やがて何かに気づき声を上げた。

 

「あっ……!」

「ふふっ、まるで心霊写真みたいですよね」

 

 堀北兄にも写真が行き届き、数秒ほどそれを見つめる。そして何かを視た彼が、先ほどと同様にオレたちにも見えるよう机の上に写真を置き直す。

 

 それは放課後の特別棟で、須藤と石崎たちが取っ組み合っている場面。一見すると土岐の姿はどこにも見当たらない。須藤たちが懐疑的な視線を向ける中、堀北兄はトントンと写真のある部分を指で叩く。

 

 そこには――窓ガラスに反射した土岐翔子の姿がくっきりと写し出されていた。

 

「――全員、確認できたな。土岐翔子の証言を認める」

 

 愕然とCクラスの3人が肩を落としてうなだれる。坂上も苦虫を噛み潰したように表情を歪ませ、固く拳を握っていた。

 

「さて、Cクラスは嘘の主張をした。これに間違いはないな?」

「……はい」

 

 堀北兄の問いかけに、小宮たちは消え入りそうな声で嘘を認めた。これ以上は無駄に処分を重くするだけと判断したんだろう。学校側に嘘の主張をした彼らの心証はもはや地に落ちている。彼らの青痣も、喧嘩での負傷かどうかすら疑わしいと思えるだけの空気感が漂っていた。

 

「Dクラスに問う。これまでの主張に嘘偽りはないと言い切れるか?」

「ああもちろんだ。俺は一つも嘘なんかついてねえ。小宮たちと違ってな」

 

 態度こそ悪いが、須藤も真剣な表情で答える。堀北兄と、堀北妹の視線が交わった。彼女は毅然とした面持ちで決して目を逸らさない。

 

「結論は出たな」

 

 堀北兄が静かに目を伏せる。

 

「判決を言い渡す。今回発生した騒動において、Cクラス側の発言に悪質な嘘偽りがあったこと。そして他クラスの生徒を利用し、故意に喧嘩を引き起こしたことを踏まえ――Dクラスを無罪とする」

 

 勝訴の判決が下り、思わず須藤が嬉しそうにガッツポーズを作った。勝利の雄叫びを上げなかったのは、堀北の手前もあって自重したのだろう。対するCクラスの面々は完全に意気消沈していた。

 

「Cクラスには後日、クラスポイント及び、該当生徒のプライベートポイントの没収が行われるだろう。加えて、小宮、近藤、石崎の3名は2週間の停学処分とする。――以上を以て、本件の審議を終了する」

 

 暴力事件は、Dクラスの逆転勝利を以て閉幕した。

 

 

 

◆

 

 

 

 退室したオレたちは、生徒会室前で勝利の余韻に浸っていた。

 

「翔子おつかれ~」

 

 土岐が出てくるなり、外で待機していた軽井沢が彼女の腕に抱きつく。

 

「おまたせ恵ちゃん。それからDクラスの方々も、お疲れ様でした」

「こちらこそ、貴方のお陰で助かったわ。お礼を言わせてちょうだい」

 

 なんと、あの堀北が深々と頭を下げた。オレも須藤も驚きのあまり目を丸くしてしまう。

 

「今回の事件、貴方の証言が無ければ、私たちはもっと厳しい状況に追い込まれていたでしょうね。それこそ、須藤くんに退学処分が下る可能性すらあった。けれど今回私たちは勝利することが出来た。それは紛れもなく貴方の功績よ」

「堀北……お前なんか変なものでも食っ――」

 

 脇腹に鋭いチョップが刺さる。オレは恨めしい視線を送りながらすごすごと引き下がった。

 

「私は恵ちゃんにお願いされて立ち会っただけですよ。お礼ならこの子に言ってあげてください」

「ええ。軽井沢さんにも感謝しているわ。貴方が協力してくれたおかげで、土岐さんを目撃者として引き入れることが出来たのだし」

「あたし、ほんとになんにもしてないんだけどなぁ」

「だとしてもよ」

 

 くすぐったそうに軽井沢は照れ笑う。

 

「それから佐倉さんも。あの写真があってこそ、土岐さんの証言にも高い信憑性を持たせられたわ。偶然とは言え、彼女の姿も写っていたし。間違いなく勝利に大きく寄与していたわ」

「いえ、私も……私のためにしたことだから……」

 

 気恥ずかしそうに、それでいて喜びを顔に滲ませながら佐倉が微笑を浮かべる。しかしそれはそうと、と堀北は須藤に鋭い視線を向けた。

 

「須藤くんは反省するように。今回の一件はそもそも、貴方の素行不良を突かれた結果起きたものよ。今後は改めてちょうだい」

「わ、わーってるよ。……迷惑かけちまって悪かったな。マジ助かった」

 

 バツが悪そうにしながらも、須藤が謝る。堀北は小さく溜め息を吐いていたが、肩の荷が下りたようにどこか表情に柔らかさがあった。

 

「軽井沢たちもサンキューな」

「別にお礼言われるようなことじゃないって。ってか、せっかく助けたんだからこれからは気をつけてよね」

「おうよ!」

 

 気持ちの良い笑みを浮かべて須藤が去っていく。おそらく、バスケの練習にでも向かったのだろう。彼からすれば、これでようやっと憂いなくバスケットに打ち込めるのだから。

 

「私たちも帰りましょうか。――ああ、そうそう堀北さん」

 

 軽井沢を連れて立ち去ろうとした土岐が、やおら振り返る。

 

「なにかしら?」

「チケットのお礼、まだだったなと思いまして。とりあえず50万ほどあれば足りますか?」

「……何のつもり?」

「ただのお礼ですよ。私は今日証言しただけですからね。まあまあ、とにかく受け取ってください。恵ちゃんからチケットを貰ったとき、私凄く嬉しかったんですよ? 恵ちゃんとの時間を提供してくれた貴方には、相応のお礼をしなければなりません」

 

 堀北としては敵に塩を送られたと思ったかもしれないが、流石に50万は大金だ。一之瀬への借金もあるし、これからオレたちは極貧生活を送らねばならない。事件は解決したので、ポイントは支給されるだろうが、それも微々たるもの。にこにこと学生証を取り出す土岐を前に、堀北も渋々ながら学生証を出した。

 

「では、私たちはこれで失礼しますね」

「ばいばーい」

 

 ポイントのやり取りを終えて、土岐たちが肩を寄せ合って去っていく。その後姿を、オレたちはなんとなく眺めていた。

 

「須藤は無罪。Cクラスには退学ではないにしろ重い処罰が下って、ポイントも借金を返済してお釣りが来るほど手に入った。オレたちの完全勝利じゃないか?」

「そうね。でも気になる点はある」

「なんだよ」

「この事件、本当にCクラスの3人が計画したのかしら? 率直に言って、彼らがそこまで頭が回るようには見えなかったわ」

「裏で糸を引いてるやつが居る、ってことか?」

「ええ。その人物が今回の事件の首謀者だと睨んでる」

 

 廊下の奥を見つめながら、堀北が考えを巡らす。が、あくまで推察だ。真実までは分からない。Cクラスの連中に聞こうにも、彼らは青ざめた顔でとっくに帰ってしまっている。

 

「ま、何はともあれ、オレたちはCクラスの目論見を打ち破ったんだ。今は素直に喜んで良いんじゃないか?」

「……そうね」

 

 今くらいは、勝利の余韻に浸っても良いだろう。

 

 

 

◆

 

 

 

 審議には勝った。だが、最後の最後でアクシデントに見舞われた。

 

 佐倉の身に危険が迫っている。それに気づいたのは、Dクラス勝利の報告を聞きつけた一之瀬たちと雑談していたときのことだ。

 

 端末の位置情報を確認しながらモールを駆け抜ける。背後には一之瀬がぴったりと付いてきていた。突然駆け出したオレを、わけもわからないまま追従したらしい。

 やがてオレたちは以前訪れた家電量販店、その搬入口付近までやってきた。物音を立てないように忍び足で近づく。

 

「もうやめてください……!」

 

 佐倉の声が響く。物怖じした普段からは想像もできないはっきりとした拒絶の声。ただ事ではないなと思い、オレと一之瀬は物陰に身を隠す。見やれば、佐倉と接触しているのはあの時の店員だった。薄気味悪い笑みを浮かべ、どこか焦点のあっていない両眼で佐倉を見つめている。

 

「ど、どうしてそんなことを言うんだい? 僕はただ、君のことを大切に思っているだけなんだ。ずっと前から……そう、雑誌で初めて君の姿を見たあの瞬間から、僕は君への愛を自覚したんだ。雫は運命を信じるかい? 僕は信じるよ。だって、神様は僕たちを引き合わせてくれたんだからね。きっと神様も僕たちの愛を祝福してくれるよ!」

 

 興奮気味に捲し立てる男に、佐倉は嫌悪感に表情を引きつらせながらも、鞄から取り出した紙束を地面に叩きつけた。それは全てピンク色の便箋に入った手紙だった。

 

「どうして私の部屋を……なんでこんなもの送ってくるんですか!」

「ああ怒らないでくれ。違う、違うんだよ雫。それは僕からの愛を綴ったラブレターなんだ。君を怖がらせるつもりなんてないんだよ」

 

 焦ったように男が弁明する。だが、恐怖に慄く佐倉には届かない。薄っすらと目に涙を溜めた彼女が、鞄から残りの手紙も同様に地面にぶちまけ、おぞましいものを見るような目つきで後ずさった。

 

「そんな、どうして、どうしてそんなことをするんだ……! それは僕が、君のために書いた、君だけのラブレターなんだぞ……!」

 

 鼻息荒く憤った男が佐倉に詰め寄り、彼女の腕を掴むと力任せに佐倉の体ごとシャッターに押し付けた。苦悶と恐怖で佐倉の顔が歪む。

 

「いや! 離して!」

「あの子も言ってくれたんだ……! 運命は僕たちを愛に導いてくれるって! 愛こそが、愛だけが全てなんだって! 雫も分かってくれるよね!? 僕たちの愛は絶対なんだっ! こんな僕を応援してくれた彼女たちのためにも、僕は、僕たちは、愛を成就させなくちゃいけないんだァ!」

 

 興奮状態の男が佐倉を地面に引き倒し、馬乗りになって細い体を押さえつける。見ていられないとばかりに一之瀬がオレの袖を引いた。証拠はもう十分だろう。物陰から飛び出したオレたちは、端末でその凶行をカメラに収めながら接近する。

 

 パシャ、と無機質なシャッター音が男の耳にも入る。唖然と振り返った男が、オレと一之瀬の姿を見て慌てて佐倉から飛び退く。今更もう遅いと思うがな。

 

「大の大人が女子高生に乱暴、か。間違いなく明日のテレビで一躍有名人だな」

「あ、あぁ……違う、これは、違うんだ……」

「何が違うって? こんな大量の手紙を送りつけておいて違うはないだろ」

 

 散らばった手紙をつま先で蹴り飛ばし、酷く狼狽する男に詰め寄る。

 

「証拠は押さえたからな。アンタはこのまま警備員に突き出すが、文句はないよな? これだけのことをしでかしたんだ。少なくとも、数年は刑務所で過ごすことになるぞ」

「くそっ、くそぉ……!」

 

 滝のように冷や汗を流しながら、男が殺意の籠った目でオレと一之瀬を睨めつける。そして懐に手を伸ばし、黒い物体を取り出す。――スタンガンだ。

 バチバチと威嚇するように電流を鳴らし、男が破れかぶれでスタンガンを構えて突進してきた。

 

「僕たちの愛を邪魔するなあああぁぁ――ッ!」

「綾小路くんっ!」

 

 一歩前に出て、標的を一之瀬からオレへ向けさせる。突き出された腕を難なく躱し、そのまま腕を掴んで地面に組み伏せた。手から抜け落ちたスタンガンがコンクリの上を滑っていく。尚も男が怨嗟の言葉を吐きながら暴れるが、問題なく押さえ込む。

 

「一之瀬、警備員を呼んでくれ」

「う、うんっ! わかった!」

 

 端末を耳に当て、一之瀬が連絡を取る。直ぐにでも警備員が飛んでくるだろう。若干、ギャラリーが集まりつつあった。この分だと噂くらいにはなるかもな。ぼんやりとそう危惧していたとき、ふとこちらを眺める野次馬たちの中に、見知った二人組を見つける。

 

 土岐と軽井沢だった。

 なにか喋っているようだったが、距離が離れていて会話は聞き取ることが出来ない。だが、口の動きである程度は読み取れる。

 

 ――人が、人の愛を邪魔する権利はどこにもないのに。

 ――なんか、悲しいね。

 

 憐れむような、物悲しい表情で彼女らはこちらを見つめ、やがて人混みの中に消えていった。

 

 

 

◆

 

 

 高度育成高等学校学生データベース 7/1時点

 

 氏名:土岐翔子

 クラス:1年A組

 学籍番号:S01T004744

 部活動:美術部

 誕生日:2月14日

 

 評価

 

 学力:A

 知性:A

 判断力:B-

 身体能力:B+

 協調性:C

 

 面接官からのコメント

『小学校、中学校共に優秀な成績を収めている生徒。品行方正で人当たりも良く、周囲からの評価も良好な模様。面接時の受け答えもはっきりしていて、特に欠点は無いように感じられる。しかし、少々倫理観に欠けている節が散見できる他、中学においては複数人の女子生徒と肉体関係を持つなど、ふしだらな行動が目立つ。また、別途資料に記述がある通り、同中学で発生した女子生徒2名の失踪事件に関与していると思われる。本来であれば入学自体が見送られるはずだが、坂柳理事長の意向によりこれを許可。配属もDクラスではなく、Aクラスとする。※警視庁より学校に圧力が掛かっている。別途資料は確認した後、コピーを含め全て処分するように』

 

 担任メモ

『クラスでは孤立気味ですが、美術部の活動においてコンクールや展覧会で入賞するなど、着実に貢献しています。また、Dクラスの女子生徒とは親密な関係を築いているようです。※資料を確認し、手順に沿って廃棄しました』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。