※この作品はR-18です。

恵ちゃん至上主義?   作:名無しのナナ氏

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運営からの怒られが発生しました(一敗)
これからは心を入れ替えてスケベ文章を書きます……

というわけで、R18版の拙作もどうぞよろしくお願いします!


28.卯が二匹

 

 間もなく、試験最初のディスカッションが始まろうとしていた。

 

 卯グループのメンバーとして集められたオレたちは、自然とクラス毎に分かれるようにして円形に並べられた椅子に座っている。指定されたわけではなく、あくまで生徒が自主的にそうしていた。なにせ今までは敵同士だったわけで、唐突に同じグループで試験をさせられても、それまでの関係性は容易には崩せない。同級生と呼ぶには、あまりに余所余所しい雰囲気だ。

 

 会話はほぼない。仲間内で声を潜めて二言三言話すことはあっても、それがクラスを跨いで行われる気配もない。ただ静かに、居心地の悪い空気感が漂っていた。

 

 そんな中で、オレは未だに埋まらない二つの空席を見ていた。

 

 14の席のうち、既に12が埋まっている。試験開始時刻が迫っているのに、彼女らは一向に姿を現さない。どちらも学年じゃ有名人だ。

 

 土岐翔子と軽井沢恵。

 

 この二人の名を知らない1年生は、凡そ居ないとされている。クラスが離れていてもなお尽きることのない熱愛は、常軌を逸していると言っても過言じゃない。常に行動を共にし、所構わず過激なスキンシップを取る。更には、無人島試験においてもクラスの利益を無視してまで、お互いの時間を確保した。そして他者が軽井沢に突っかかれば、土岐が暴力装置として機能する。おかげで篠原があわや負傷寸前まで追い込まれ、今はすっかり大人しくなったらしい。

 

 彼女たちのそれはもはや純愛などではなく、狂愛のそれだ。互いのために、平気で他者を侵害する。前回の試験では、主にAクラスが被害を被った。噂によると、土岐がAクラスの生徒を何人か締め上げたとかなんとか……物騒な話だ。次の矛先がDクラスでなければいいんだが。

 

 視線を外す。隣に座る幸村が苛立ったように足を揺すっていた。時折、忌々しげに扉の方を睨んでいる。Aクラスの土岐はともかく、軽井沢がサボらないかを危惧しているのだろう。それはAクラスの連中にとっても同じことのようで、彼らもまた落ち着かない様子で頻りに扉を気にしている。クラスの進退を賭けた試験において、参加をボイコットする可能性が常に存在するのがあの二人の厄介なところだ。

 だがオレは、今回に限ってはその線は薄いと踏んでいる。何故なら、土岐と軽井沢が同じグループに振り分けられているからだ。無人島試験とは状況が違う。四六時中連れ添っている彼女らであれば、悪い条件じゃないはず。問題は――。

 

 徐ろに扉が開く。試験開始まで後二分ほどの猶予を残して、件の女子生徒二名が入ってくる。普段通り、仲睦まじく腕を組んでのご登場だ。それぞれの首筋には赤い痣――いわゆる、キスマークが見せつけるかのように刻まされている。大方、昨晩もさぞ盛り上がったのだろう。

 

 幸村が安堵の息を吐く。ひとまず、欠席はしなかった。これで無用なペナルティは避けられる。

 

 入室した二人が、各々の席につく……かと思いきや、土岐はDクラス側の空席、つまるところオレの真隣に腰を下ろし、やや股を開いてその隙間に軽井沢を座らせた。わざわざ空席があるのに、彼女たちはそれが当たり前とばかりに平然としている。

 

「……おい、普通に座ったらどうなんだ」

 

 見かねたAクラスの男子が少し躊躇いがちに指摘した。その目には若干の怯えの色が見える。それまで微笑んでいた土岐の視線が彼を見据え、その男子は動揺したように不自然に目を逸らす。

 

「普通に、とは? ちゃんと座ってるじゃないですか」

「いや、だから……席、空いてるだろ。二人で別れて座ればいいじゃないか」

「…………すみません、言ってる意味が良く分からないのですが。一緒に座っていたら何か不都合があるんですか?」

 

 本当に理解できていないのか、土岐は眉を寄せて困惑していた。間に座っている軽井沢も怪訝そうな顔で見つめている。

 

「……悪かったよ。なんでもない」

 

 容易く男子のほうが先に折れた。というより、面倒事を嫌ったようにも見える。露骨に顔を背けて、対話を拒否する姿勢に入った。……仲間内でさえああなのか。

 

 無人島試験での妨害工作は、Aクラスに対する明確な裏切りだった。試験が終われば、追及は避けられない。否が応でも、クラス内での土岐の立ち位置は悪化する。皆、彼女を戦犯として目の敵にするだろう。その片鱗は見え隠れしていた。Dクラスのキャンプに訪れたAクラスの生徒たちや、甲板ですれ違った生徒たち。一様にして並々ならぬ感情が顔に出ていた。

 

 だと言うのに、今の土岐に対する彼の反応は妙だ。とっくに禊が済んでいるのか、或いは葛城から何か指示が出ているのかは分からない。しかしあの怯えようは、どうにも気がかりだ。

 

 さり気なく横目で二人の様子を窺っていると、試験開始時刻を迎えた。部屋に設置されたスピーカーから、短いアナウンスが流れる。意味深な言葉が流れるわけでもなく、端的に開始を告げて音声が切れた。以降は生徒の自主性に任せるようだ。

 

 気まずい沈黙が立ち込める。集められたは良いものの、さして接点のない生徒ばかり。付け加えて他クラス、敵同士だ。仲良く自己紹介をする雰囲気とは程遠い。唯一、例外として隣の少女2名はそんなの関係ないとばかりに触れ合っているが。

 

 くすくすと小さく笑い合いながら、土岐は軽井沢のポニーテールを手で梳き、軽井沢は土岐の長髪を梳く。愛おしげに、髪先に口づけまでしている。池あたりが見たら喜びそうな光景だ。

 

 鼻の下を伸ばして興奮する級友の姿を想像し、オレは思考を即座にシャットアウトした。考えるのは止そう。脳細胞に悪い気がする。

 

「えっと、とりあえず自己紹介でもどうかな? 皆の名前は分かってるけど、学校からの指示もあったしやったほうが良いと思うんだよね。お互い初対面って人も居るかもだし」

 

 土岐たちのやり取りを見て、微笑ましそうに笑った一之瀬が口火を切る。こういうとき、率先して場を引っ張る能力は彼女の持ち味のひとつなのだろう。そんな一之瀬だからこそ、何故堀北たちのグループに選ばれなかったのかが腑に落ちない。竜グループが錚々たるメンバーを揃えている以上、何か作為的なものを感じざるを得ない。厳正なる調整、という真嶋先生の言葉にも、恐らく意味があると考えるべきだ。この学校の教員は茶柱先生然り、含んだ発言が多いからな。

 

 Aクラスの町田と呼ばれた男子とやり取りする一之瀬の姿を見て、オレは思考を巡らせた。結局、自己紹介をしなかった場合の過失を問われ、町田も渋々納得したようだった。

 

 そのまま各々の自己紹介が一周し、つつがなく終わる。オレの気合を入れた自己紹介も、手応えなく終了。一之瀬だけが唯一反応を示してくれたのがちょっと嬉しい。

 

 次に、進行役を一之瀬が買って出た。あまり自主性のある生徒が居ないのか、対抗馬もなくすんなりと意見が通る。ふと、横目で土岐たちの様子を確認する。軽井沢を抱きしめた土岐が、彼女の後頭部で深く深呼吸をしていた。軽井沢もまた、気持ちよさそうに頬を緩めてされるがままになっている。二人とも、本当に幸せそうな表情を浮かべていた。あまりにオレたちと空気感が違いすぎて、誰も指摘できない。甘い、甘すぎる。香る金木犀の匂いが、余計にそう思わせる。

 

「一つ皆に確認させてもらうね。これは皆が優待者ではないっていうのを前提に聞かせてほしいことなんだけど、それぞれの認識として結果1を求めるのが最善だと思ってるかを聞きたいんだ」

 

 一之瀬の問いかけに、何を当たり前のことをと幸村やCクラスの真鍋という女子が同調する。共通認識として協力するのは当然、そう思っている生徒がやはり多い。確かに、全員が50万ポイントを貰えるというのは、高校生にとって垂涎ものの恩恵だ。月10万とはわけが違う。しかも、優待者に関しては100万ポイントだ。欲しがらない生徒は居まい。当然、Bクラスの浜口という男子も同じように肯定した。

 

 一之瀬が放った何気ない質問に聞こえるそれは、優待者にとっては嘘を強いる罠だ。当たり前のように聞こえたとしても、そう聞こえるのは優待者以外の人間。逆に、ポイントを独り占めしたいと考える優待者からすれば、あまり面白くない問いかけでもある。相当なお人好しでもない限り、他者にポイントを分け与えたいと考える人間は少数派だろう。それこそ、表の櫛田のような人間は。

 

「オレもその意見には賛成だ。プライベートポイントには日頃から悩まされてるからな、貰えるに越したことはない」

 

 素直に賛同の姿勢を取る。腹を撫でていた博士もオレに続く。残るは、様子見をしているAクラスの生徒たちと……問題児の土岐と軽井沢だけだ。

 

 Aクラスを代表してか、町田が反対意見を述べた。優待者を炙り出そうとする流れを危惧し、やや眉間にシワを作って反発する。対して、今度は浜口が冷静に切り返す。試験としては妥当な判断であり、決して脅迫にも当たらないと。どちらも正論であり、一方を咎めることはできない。

 

「だったら――俺たちAクラスは黙秘させてもらう」

 

 と、町田は語気を強くして押し黙った。なるほど、とオレは関心を寄せた。彼の言う通り、極論会話しなければ優待者であることがバレるリスクは極端に低くなる。まさに鉄壁の守り。恐らく、葛城の指示だろう。

 

 Aクラスの鉄の門扉をこじ開けようと浜口が食い下がるが、町田は腕を組んだまま沈黙を続ける。とことん防御に徹するらしい。だが、それは確かに効果的だ。苦笑を浮かべて、浜口も引く。するとやはり、代打として一之瀬にバトンが渡る。

 

 あくまで真正面から、一之瀬は対話によって言葉巧みに町田たちに生じた僅かな隙間を突く。最終的に、当てずっぽうをしてもいいんだぞ、と言外に脅しをかける。それを理解してか、町田も思わず苦い顔をする。だが町田も簡単には引かない。試験を攻略する確実な方法として、徹頭徹尾話し合いの場を設けないと提言した。単純明快なその案が、葛城によるものだとも。

 

 彼はその案が如何に有効かを力説する。裏切り者さえ出さなければ、それ以外の結果でデメリットが存在しないと。そして、学校側が不公平な振り分けはしないという前提の下、各グループには均等に優待者が割り振られている可能性を提唱した。葛城が選んだのは、ローリスクローリターン。最も容易く、全員が恩恵を受けられる。その魅力は決して無視できない。現に、一之瀬の意見に賛成を示していた真鍋たちも揺らいでいるようだった。

 

「なるほどね。君たちの意見も間違ってないよ。ただ、実際にそれを実行するには思っているよりもずっと大変なんじゃないかな? 話し合いをせず、相手を疑わない。簡単なことのように思えるけど、それを1年生全員が守らなきゃいけないなんて、ちょっと無茶っていうか。優待者も秘匿されてるから、相手がクラスメイトだとしても人によっては隠しちゃうかもよ」

「それはお前たちの問題だ。俺たちAクラスは強固な信頼関係で結ばれているから、そんな心配をする必要はない」

「強固な信頼関係、ね……」

 

 一之瀬の視線が移り、蚊帳の外であったもう一人のAクラスの生徒を捉える。

 

「それじゃあ、土岐さんはどうなのかな?」

 

 彼女がそう口にした途端、町田たちの表情が苦々しく歪む。痛いところを突かれた、そんな焦りが滲んでいる。

 話の矛先がAクラスの異端児、土岐へと向けられる。必然、場の注目が集まり――オレ含めた全員が唖然とした。

 

「――はむ。ちゅ……ん……」

「んん……ちゅっ……」

 

 公然と、土岐と軽井沢が濃密なキスに興じていた。……理解が追いつかない。

 

「ななな……にゃにしてるのかなぁ!?」

 

 瞬間湯沸かし器みたいに、あっという間に赤面した一之瀬が叫ぶ。一瞬、猫みたいな一之瀬略して猫之瀬が出るほどに混乱してしまっている。どうやら少々、刺激が強かったらしい。

 

「ん……ああ一之瀬さん。どうかされましたか?」

 

 軽井沢に覆い被さるように接吻していた土岐が頭をもたげる。ちろ、と蠱惑的に舌舐めずりをするその姿はどこか蛇を連想させた。先程の雰囲気とは違い、妖艶な雰囲気を纏う。口づけを交わしていた軽井沢もまた、うっとりと表情を蕩けさせている。恐らくこの二人、まるで話を聞いていないぞ。

 

「どうかされましただよ! こ、こんにゃ、人前でキ、キスだなんてぇ……」

 

 ぶんぶんと頭を振る一之瀬もとい猫之瀬。

 Bクラスのリーダーからいとも容易く冷静さを奪ってしまうとは、これもAクラスの作戦だと言うのか――冗談はさておき、空気感が完全に乱されてしまった。本人たちにその気は全く無いだろうが、今や彼女らのペースだ。

 

「何をしてるんだ……本当に何をしてるんだお前は……」

 

 町田が頭を抱えている。彼らも彼らで大変そうだ。オレたちも軽井沢を抱えているから、なんとなく気持ちは分かる。幸村も頭痛に苛まれているようだった。

 

「もう、キスくらいで大げさですよ。一之瀬さんも、白波さんとは既に済ませたのでしょう?」

「そ、それは…………うん」

 

 消え入りそうな声だったが、一之瀬は誤魔化さずに肯定した。白波、というといつも彼女と一緒に行動しているのあの女子生徒のことだろうか。距離感が近いなとは思っていたが、まさか土岐軽井沢ペアの他に学年で同性カップルがもうひと組居たとは驚きだ。

 

「どうでしたか? キスの味。柔らかくて、幸せな気分になれたのでは?」

「そう、だね。千尋ちゃんの唇、ふにふにしてて……甘い味が広がって……なんだか、胸の中が満たされていくみたいな感覚だったよ」

「あ、それ分かる。あたしも翔子とキスしてると、幸せの甘い味が胸いっぱいに溜まっていくの。他の全部がどうでも良くなっちゃうくらい甘くて、病みつきになる。一之瀬さんもそのうち分かるようになるわよ、その甘味の正体がかけがえのない幸せの味だってこと」

「幸せの、味……そっか、あの味は千尋ちゃんとの……」

 

 一之瀬がぽっと頬を赤らめ、指先で自分の唇に触れる。その表情が恋に焦がれる乙女の陶酔であることは、他の誰の目にも明らかだった。

 

「あ、あの一之瀬さん? 進行の再開をお願いしたいのですが……」

「にゃっ!?」

 

 おずおずと浜口が申し出たことで、一之瀬が雷に打たれたように我に返る。よかったよかった、もし一之瀬が戻ってこなかったらこのまま恋バナで終わってしまうところだった。

 

「こ、こほん! 話が脱線しちゃったね。それでええと、土岐さんの意見も聞かせてほしいな?」

「意見と言いますと?」

「土岐さんがこの試験で、結果1を求めるのが最善だと思ってるかの確認だよ」

 

 彼女の問いかけに、土岐は草花がそよ風になびくような微笑みを見せた。

 

「興味ありませんけど」

 

 あまりにも簡潔過ぎる一蹴。冷たさすら感じさせる受け答えに、全員が硬直する。オレはなんとなく察していたので衝撃は薄いが、こうして平然と口に出されると少々思う部分はあった。

 

「えっと……つまり、土岐さんは50万ポイントは要らないって認識で合ってる?」

「はい。どうせ端金ですし、ポイントにも困ってませんからね。こんな試験に時間を費やすくらいなら、私は恵ちゃんとの甘い甘いひと時を優先します」

 

 適当にメールを送って終わらせてしまっても良いかも知れませんね、と彼女はけらけらと笑う。そんな土岐の腕の中で、軽井沢も心地良さそうに目を細めている。どうやら今回も、この二人は試験に対する意欲が薄いようだ。

 

 それにしても、端金とはどういう意味だろうか。土岐が幾らAクラスだとしても、50万ポイントは決して無視できない額のはずだ。自分の懐に楽して入ってくる大金を見逃すなんて、見栄を張っているにしては腑に落ちない。彼女は恐らく、軽井沢と資金を共有しているだろう。そうなれば、生活費も当然二人分賄う必要が生じる。毎月の配布額で補っているにしても――須藤の暴力事件の際に設置していたあのカメラは安くはない。少なからず懐が痛んだと思われる。

 

 だが、もし月々の支給とは別にプライベートポイントを確保するルートを確立していたのだとしたら――土岐の発言にも納得がいく。

 

「そういうわけですので、結果にこだわりはありません。些細なポイントよりも、ずっと大事なものがありますから」

 

 土岐はそう締め括り、軽井沢の頭に色白の手を乗せると、ゆっくりと何度も往復させた。その手付きはまるで幼子をあやすようだった。心底安心しきった表情で、軽井沢が目を伏せる。その様子を見ていた一之瀬の面持ちは、どこか羨ましげだ。

 

「……そっか。じゃあ、軽井沢さんの意見も聞かせてほしいな」

 

 自然な流れで一之瀬が尋ねると、軽井沢は頭を撫でられたまま、ぬいぐるみのように大人しくしながら答える。

 

「あたしも翔子と同じ。ポイントにも困ってないからさ、正直どの結果になっても別にって感じなのよね。プライベートポイントが引かれるわけじゃないし」

「なるほどねー。なら、仮に皆の意見が一致して結果1を目指そうってなったときは、二人とも協力してくれる?」

「私は構いませんよ」

「翔子が良いなら、あたしも」

 

 利己的な理由ではあるものの、二人から賛同を得られた。一之瀬はその流れで残りのメンバーにも問いかけ、意見を募る。結果的に過半数が町田の出した提案に同調している。唯一、Cクラスの伊吹は意見を示さなかったが。

 

 それからも話し合いは続いた。

 

 グループの過半数は町田の意見に賛同し、それで方針が纏まろうと思われたが、それで終わる一之瀬じゃない。隠れたデメリットの存在を明かしたことで、流れが変わる。優待者を逃すことで全員が平等にポイントを得られる結果は、一見すると確かにメリットしかない。だが、それはつまり埋まった差が縮まらないということでもある。一之瀬はそれを指摘した。Aクラスに優待者が潜んでいた場合のリスクも考慮すると、一度は賛同を示した生徒たちも意見を変えざるを得ない。否定的、そして中立に各々の意見が変わっていく。

 

 この流れは予想していたのだろう、町田たちは固まって部屋の隅へ移動した。断固、沈黙の構えを取るようだ。ああなっては、話し合いの席につかせるのは難しい。一之瀬と言えど、困ったように笑った。

 

 しかしやはり、依然としてAクラスには大きな綻びがある。土岐の存在だ。

 

「ねえ土岐さん、町田くんたちはああ言ってるけど……良かったら、話し合いに参加してくれないかな?」

「いいですよ」

 

 軽井沢を抱きしめながら二つ返事で了承してみせた土岐に、一之瀬も思わず面を喰らう。思った通り、土岐はAクラスの籠城作戦に従う気はないらしい。

 

「本当に良いの?」

「ええ。私、何も聞かされてませんから」

 

 彼女の意味深な言葉に、一之瀬が可愛らしく小首を傾げた。

 

「葛城くんが何やら指示を出していたようですけど、恵ちゃんとの時間を邪魔されるのが嫌だったので、集合するよう言われても全部無視してたんですよねえ。チャットのグループも抜けてますし、本当に何も知らないんですよ」

 

 一ミリたりとも悪びれた様子もなく、あっけらかんと土岐が言う。隅で町田たちが重く嘆息しているのが見える。耳を澄ませば辟易とした心根が聞こえてくるようだった。自由奔放とは違うが、制御の出来なさ加減で言えばうちの高円寺と良い勝負だろう。あいつにはDクラスも手を焼かされているからな。

 

 こうして意図せずしてAクラスの人間も交えて話し合いが続けられたが、だとしても何の情報もなしに優待者を見つけ出すのはやはり困難を極める。一之瀬も焦ることなく、ひとまず初日の話し合いはここまでと締め括った。

 

 終了時刻までの間、暫し弛緩した空気が流れる。町田たちは未だ隅で固まったまま、じっと終了のアナウンスを待っている。他のクラスのメンバーも声のボリュームを落としてあれこれ喋り始めた。オレたちDクラスの間に会話はない。元々、接点の希薄なメンツだった。幸村は思案顔で考え込んでいるし、博士は携帯の画面に没頭している。手持ち無沙汰となったオレは、なんとなく隣の席の会話に耳を傾けた。

 

「恵ちゃん、終わったらご飯食べに行こっか」

「おっけー、何食べる?」

「そうだなあ、パスタとかもいいけど……恵ちゃんも食べたいなあ」

「もう、そればっかじゃん。……いいよ、後でいっぱいシよ」

 

 仲睦まじく指を絡め合う彼女らを横目に、オレは脳裏に浮かぶ可能性の一つを危惧していた。

 

 土岐と軽井沢、そのどちらかが優待者であった場合、いつ試験が終了してもおかしくない、と。

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