本日二度目となる話し合いも、やはり難航していた。
Aクラスの町田たちは今回も沈黙を続け、隅の方で固まっている。土岐だけは最低限の応答はするものの、彼女の関心は依然として軽井沢に向けられている。天地がひっくり返ったとしてもこれが覆ることはないだろう。彼女を腕に抱いたまま、曖昧な返答ばかりを返すのみ。軽井沢以外どうでもいい、そういう意思が如実に滲み出ていた。
当然、そんな状態で有意義な話し合いになるわけもなく、時間だけが刻一刻と過ぎ去っていく。遅々として進まない現状に、次第に場の空気も重くなり始める。お世辞にも信頼関係が出来上がっているとは言い難く、腹の探り合いのような状況が続く。
誰もが裏切り者を警戒し、優待者を見抜こうと目を光らせている。……土岐と軽井沢を除いて。
ぎこちない話し合いの最中、オレは前回とはやや離れた位置に座っているそのペアを見た。相変わらず同じ椅子に座った状態で、互いを慈しむようにじゃれ合っている。ふしだらな手付きで指を絡め合うなどの手遊びや、アイコンタクトによる二人だけの会話、そして時折、人目も気にせず唇を重ねる。話を振られれば応じるが、態度も何処か素っ気ない。それは特に軽井沢が顕著だった。
ふと退屈そうにぼーっと宙を眺めている時があり、それに比例して土岐へのスキンシップが行われる。傍目に見ても、かなり暇そうだ。
元より彼女は試験に対して意欲的ではない。土岐が居るから参加しているだけであって、結果はどうでもいいというスタンスを維持している。逆もまた然り、土岐も同様にそういう姿勢であることは前回の時点で明らかになっていた。まだ1日目でこの様子だと、最終日まで保つかどうか……。
オレの懸念を他所に、纏まらない会議を見かねて今度も一之瀬が動く。
「とりあえずさ、せっかくこうして集まってるんだしもっと親睦を深めない? そうすることで見えてくるものもあると思うんだよね」
太陽みたいに朗らかに笑う彼女の意見は至極尤もだ。場の重い空気感にも流されず、持ち味である友好的な姿勢を貫けるのは一之瀬の美点であり強力な武器と言える。
試験に意欲的である幸村が、早速彼女の提案に賛同してみせたことで、真鍋たちもそれに便乗していく。
「お前たちが何をしようと勝手だが、こんな状態で優待者が見つけられるとは到底思えないな」
会話を聞いていた町田が失笑し、また直ぐに腕を組んで口を固く閉ざす。見つけられるものなら見つけてみろ、とでも言うような挑発的な口調だった。反論する前に沈黙され、一之瀬もこれには困り顔を浮かべるしかなさそうだ。
この場に居る誰もがそう思った矢先、意外な人物が声を上げる。
「ねえ一之瀬さん、もし確実に優待者を発見する方法があるとしたら……どうします?」
「えっ……?」
たおやかな口調で提案したのは、土岐であった。今の今まで、軽井沢とじゃれ合っていたはずの彼女が唐突に話し合いの舞台に上がってくる。薄氷のような微笑みを浮かべる土岐に、全員の注目が一斉に集まる。
「本当にそんな方法があるの?」
「ありますよ、恐らくこの場において私にしか出来ない方法が」
困惑した様子で尋ねた一之瀬に、土岐は平然と言い切った。傍目には嘘を吐いているようには見えないが……少なくともその表情からは何も読み取ることが出来ない。何を考えているのかさえ不明瞭なままだ。
「馬鹿馬鹿しい。そんな都合の良い手段があるわけ無いだろう。大体、仮にあったとして誰かがとっくに思いついてるはずだ」
「出来ないから発想が浮かばないのでは? 言ったでしょう、私にしか出来ませんと」
吐き捨てる町田に一瞥すらせず、淡々と土岐が言う。股の間に座らせた軽井沢を抱いたままの姿勢で、土岐は一之瀬を見据えた。
「知りたいですか? 一之瀬さん。貴女さえ良ければ、あくまで方法の一つとして提供できますが」
「うーん、確かに知りたくないって言ったら嘘になっちゃうけど……でも、それって土岐さんにしか出来ないんだよね?」
「そうですねえ、少なくとも私に匹敵する精度の持ち主は、世界広しと言えどそう簡単には見つからないかと」
「精度……?」
一之瀬が首を傾げる。何のことやら、と疑問符を浮かべるその所作はとても画になっていた。
「でも、知識としては知っておきたいかな。実際に可能かどうかはともかくとして、それに近いことは出来るかも知れないしね。ってことで、是非とも聞かせてほしいな」
「分かりました」
興味を示した一之瀬に、土岐が居住まいを直す。自然と、オレたちも耳に意識を集中させて聞く姿勢に入った。隅で様子を窺っていた町田たちも、黙ってこちらの会話を窺っている。
腕に抱かれていた軽井沢が少し眠たげにあくびを噛み締めたのを見て、その頭頂部を優しく左右に撫でながら土岐は静かに口を開いた。
「一之瀬さんは、コールドリーディングをご存知ですか?」
「うん。コールドリーディングって言うと、外見や仕草とかから相手の心理を把握する話術のことだよね?」
「ええ、流石は一之瀬さんですね。これはバーナム効果なども複合した会話術の一つですが、私はそれを高い精度で活用できるんですよ。私の手にかかれば、どんな相手だろうとほぼ99%、的中させられます」
俄に場がどよめく。99%的中させられるとまで言い切った彼女に、傍観に徹していた町田たちも表情に焦りが浮かぶ。
コールドリーディングとはつまり、何の事前情報や下調べもなしに相手の心理を読み取って見せるテクニックのことを指す。主にマジシャンや占い師が好んで使う技法だ。ただしあくまでも読んだように錯覚させるだけであり、読心術とはまた違うものである。オレにも多少の心得はあるが、果たして彼女の技量はどれほどのものか、少し興味が湧いた。
「たとえば、質問した際に生じる相手の僅かな所作、不自然な視線の揺れ、微かな呼吸の乱れ、些細な脈拍の変化など、あらゆる要素で相手の"嘘"を見抜くことが出来る。それが私の特技です。ふふ、お母様から教わったんですよ?」
「おー、翔子すごいじゃん」
感心したように軽井沢が見上げる。意外にも、彼女は知らなかったらしい。
素直に褒められ、土岐が嬉しそうに微笑む。
「こうして相手に直接触れていれば、格段に精度も上がります。自慢じゃないですけど、これまで一度も外したことがないんです。方法としましては、この話術を使って端から順に全員に幾つか簡単な質問し、触れて、確認していけば自ずと誰が優待者なのかが分かる、と言った具合ですね。いかがでしょう?」
その解説に、一之瀬は感嘆の息を吐く。
「それは、なんていうか凄いね……私なんかじゃ絶対無理だもん」
「練習すれば誰だって出来ますよ。恵ちゃんも練習してみる?」
「んー、あたしは別にいっかなー。だって翔子が居るから、そんな必要ないでしょ?」
「それもそうだね」
全く理由になっていない気がしたが、当の本人たちはそれで納得したようだ。つくづく判定が大雑把である。
「なあ土岐、それを使えば本当に優待者が見分けられるのか?」
不意に町田が胡乱な目つきをしながらも土岐に問いかける。今まで沈黙を守っていたはずだが、流石の彼も彼女の持つ技能の有用性は無視できなかったらしい。その問いかけに、土岐があっけらかんと答える。ただ、視線は軽井沢へ向けられたままだが。
「言ったでしょう町田くん、99%見抜けますとも」
「だったら、今すぐやってくれないか? これで優待者を当てれば、お前だって失った信頼をちょっとは取り戻せるだろ。クラスに貢献するチャンスだぞ」
その物言いは、暗に損害を与えた分働けと諭しているのと同義だった。町田からすれば、黙っていれば平等にポイントが得られる葛城の作戦よりも、クラスの差を広げられる土岐の能力に魅力を感じるのは無理もない。
しかしながら、それを黙ってみている他クラスではなかった。
「待ってください。その方法は見過ごせません。見て触れただけで判別できてしまうなんて、強引と言うか、防ぎようがないじゃないですか。あまりにそちらが有利では?」
「そうよ。話し合いするために集められたのに、そういうのってぶっちゃけどうなの? 学校側の意図にそぐわないんじゃない?」
浜口に続き、真鍋も便乗して否定的な意見を述べる。Aクラスの独断専行を許さない姿勢だ。彼らに乗っかって、うちの幸村もまた声を上げた。
「俺としても看過できないな。もしAクラス以外に優待者が居た場合、土岐はすぐにでも回答できてしまうということだろう? クラスの差を縮めたい俺達にとって、見過ごせるわけがない」
幸村の弁論はAクラス以外の生徒にも響き、過半数以上が土岐の提案に否定的な意見で一致する。
秀でた技能があることを説明した土岐は、向かい風であることを察し、大人しく引き下がる――はずだった。
「――あの、やるなんて一言も言ってませんよ?」
申し訳なさそうに土岐が苦笑した。まんまと踊らされた面々が呆然と彼女を見つめ、1秒、2秒と気まずい沈黙が流れる。状況を理解していない軽井沢がふわあ、とまた一つ欠伸をした。呑気なやつめ。
「勘違いさせてしまったのならすみません。あくまで、そういう方法も取れますよということをお伝えしたかっただけなのですが……実際、するつもりは全くありませんのでご安心ください」
「それは……どうしてなのか聞いても良い?」
困惑しつつも、一之瀬が問う。
単に勝利への意欲が欠けているから、なんて理由ではないだろう。もっと純粋な部分で土岐にメリットが無い、或いは軽視できないだけのデメリットがあるからこそその手法を取らないのならば、それらを解決すれば戦法を使わせられる可能性がある。
だがそれは非常に分の悪い賭けだ。優待者が依然として絞り込めていない現状では、土岐に結果を操作されるだけ。最悪、気まぐれで優待者を見抜かれてゲームセット、Aクラスの一人勝ち、ということもあり得る。その流れになった際、オレには止める手立てがない。今の今までクラスの日陰者として過ごしてきたオレが、急に場を仕切りだすのはあまりに不自然だ。この場においては有効に使える手駒さえない。……早めに見繕う必要が出てきたな。
「コールドリーディングは相手から得られる情報量で精度が決定します。見聞きするだけでなく、直接触れることも大事なのです。脈拍や筋肉の僅かな伸縮も感じ取る必要がありますから。でも、それをやるには憚られるだけの理由がある。だって、あんまり他人に触れていると――」
一呼吸置き、彼女は慈愛に満ちた表情で言葉を繋げた。
「恵ちゃんが嫉妬しちゃいますから」
軽井沢が嫉妬する、ただそれだけの理由でその理不尽な戦法を取らない。やはり土岐は、どこまでも軽井沢至上主義なのだと、ここで再確認させられる。あれほどの身内への執着心は、オレには持ち得ないものだ。ほんの少し、彼女らの関係性が羨ましく思える。オレにもいつか、誰かを守りたいと思えるような、そんな日が来るのだろうか。聖母のような面持ちで軽井沢を愛でる土岐の姿を見つめながら、益体もないことを考えるのだった。
「お、お前な……そんな理由で勝ちを捨てるのか?」
呆れ果てる町田に、土岐は深々とため息を吐く。もはやロクに視線も合わせない。
「貴方がどう思おうと勝手ですが、私は恵ちゃんが嫌がることはしませんよ。だから絶対にやりません」
絶対に、とまで言い切る彼女を前にして、埒が明かないと見切りをつけた町田が引き下がる。最後まで物言いたげな表情はしていたが、やはり深くは踏み込んでこない。根底に土岐への恐怖心が見え隠れしていた。
ひとまず、戦法が強行されないと分かって幸村たちもほっと安堵したようだ。
しかし、だからと言って状況が好転したわけではない。変わらず優待者の影も掴めぬまま、時間だけが過ぎていく。むしろ無為に浪費してしまったと言っても過言ではない。かと言って焦ったところで素直に名乗り出る優待者が居るはずもない。二回目のディスカッションも、進展のないまま終了時刻を迎えようとしていた。
「うーん、やっぱりままならないねえ。土岐さんのアイデアは強力だけど、私にはちょっと出来そうもないし……ま、焦らずやっていこうか」
一之瀬がそう締め括って、今回はお開きとなった。後はアナウンスが鳴るまで各自自由にする流れに。オレも肩の力を抜いて背もたれに上半身を任せる。
「恵ちゃん、なんだか眠そうだね」
ふと、土岐たちの会話が耳に入った。彼女らはこのグループにおける不確定要素、特異点と言ってもいい。自然と世間話にも興味が湧いた。気づかれぬよう、こっそりと聞き耳を立てる。
「まあねー。昨日も遅くまでシてたし、睡眠不足かも」
「じゃあ今夜は早寝しちゃう?」
「……軽くなら、シてもいいよ」
「ふふ、そっかあ。甘えんぼだねぇ」
互いの肩や腰に触れ合う濃密なスキンシップ。周囲に甘ったるい空気を振りまきながら行われる他愛のない会話。それぞれを見つめ合うその瞳に色欲の影が浮かぶ。校内のカップルの中でも、ここまで性に奔放な組み合わせは未だかつてないのではないだろうか。同性なら尚更に。
「ねえ恵ちゃん。試験、楽しい?」
軽井沢の腰を抱きながら、土岐が蕩けるような声色で問う。オレたち余所者には決して向けられない、身内だけに響かせる専用の声音。普段の貼り付けたような何処か無機質な語りとは明らかに違う性質だ。
そんな甘やかな問いかけに軽井沢は不満げに口を尖らせ、ふるふると首を振った。
「ぜーんぜん。なんか思ってたのと違うっていうか、もっとこう、人狼ゲームっぽいの想像してたんだけどなあ……正直、つまんない」
「そっか」
――マズいな。
二人のやり取りを見聞きし、オレはこの卯グループの結末を悟る。視界の端で、土岐が徐ろに懐から携帯を取り出した。今のオレに、彼女らを止める手立てはない。手駒が居れば或いは――いや、土岐と軽井沢が同じグループに配属された時点で、こうなる運命だったのかも知れない。世の中、どうしようもないことの一つや二つはあるものだ。堀北には悪いが、今回ばかりは運がなかったとしか言いようがない。オレが最初から表舞台に立っていれば、結果は違ったのだろうが……。
「じゃあ、終わらせちゃうね」
「うん」
土岐が手元の端末を操作し始めた。誰にも悟られぬよう、オレは小さく嘆息する。
『卯グループの試験が終了いたしました。卯グループの方は以後、試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』
程なくして、室内にアナウンスが鳴り響いた。弛緩していた空気が一気に緊張感で張り詰め、居合わせた誰もが呆然とスピーカーを凝視している。
「卯グループって……ここじゃないか! どうして急に試験が終わったんだ!?」
椅子から腰を浮かせ、取り乱す幸村。衝撃でズレた眼鏡を直す余裕もないくらいに動揺している。町田も、浜口も、真鍋も、伊吹も、一様にして呆気に取られ身動きできずにいた。何がなんだか分からない、皆の顔にはそう書いてあった。唯一、素早く困惑から復帰した一之瀬だけが、信じがたいようなものを視る目つきで土岐たちを視界に収めている。
グループを混乱の渦中に陥れた彼女らは悠々と席を立ち、何事もなかったかのように軽い足取りで部屋を出ていこうとする。
「待って」
扉の方へ向かおうとした土岐と軽井沢を、一之瀬の通りの良い声が呼び止めた。その声に対し、軽井沢は仄かに眠たそうに、土岐は薄く笑い顔を浮かべながら振り返る。
「どうしました? 一之瀬さん。試験はもう終わってしまいましたが」
白々しい微笑みで土岐が尋ねる。人の神経を逆撫でするような声色であっても、彼女の持つ独特の雰囲気が二の足を踏ませる。けれど一之瀬は、臆することなく一歩を踏み込んだ。
「今メールを送ったのって、土岐さんだよね」
確信を持った指摘に、成り行きを見守っていた全員がざわめく。
コールドリーディングを使わない、皆の前でそう明言した彼女が手のひらを返して反故にした挙句、真っ先に抜け駆けした。その事実が、彼らの何処か浮ついていた心に重苦しい現実としてのしかかる。
「ええ、それが何か?」
悪びれもせず、一切否定もせずにあっさりと肯定する土岐。直ぐ様、我慢ならないとばかりに怒りのボルテージを上げた幸村が興奮気味に詰め寄った。
「どうして先走った!? あれは使わないんじゃなかったのか!?」
「使ってませんよ。元から優待者が誰なのかは知っていましたから」
「元から知っていただと……? 一体いつからだ!?」
「最初から。具体的には、優待者宛てにメールが届いた時点で既に把握していましたよ」
「そんなばかな! 不可能だ!」
「可能だからこうなってるんじゃないですか」
有り得ない。受け入れがたい真実に、青ざめた幸村が片膝を突く。
「待て土岐。本当に優待者を回答したのか?」
焦った様子で、部屋の隅から出てきた町田が問う。他の男子たちも焦りと困惑の入り混じった表情で彼の後ろに続く。
「回答しましたよ。100%、確実に合っていますので心配しないでください」
まるでしつこい羽虫を見ているような、鬱陶しげな感情を隠そうともせず、表情を歪めた土岐が口調を早めてあしらう。一刻も早くこの場を去りたい、そんな心情が現れている。現に、肩を抱き寄せた軽井沢を頻りに気にしていた。なお、軽井沢本人は呑気に欠伸を見せているが。
「……本当なんだろうな?」
「疑り深い人たちですね。試験結果が発表されれば、嫌でも分かりますよ。答え合わせはその時にどうぞ」
訝しみ、疑ってかかる町田たちに土岐はため息混じりにそう言って視線を外す。
「土岐さん、最後に一つだけ聞かせて貰ってもいいかな?」
扉の取っ手に手をかけた土岐に、今度は一之瀬が声をかけた。度重なる足止めを喰らい、彼女と言えど怒りを露わにするかと思われたが、声の主が一之瀬だったこともあって、むしろ表情が和らいだ。同性であるからなのか、それとも何か他の要素が起因しているのか。もしくは、カップル同士で何か通ずるものがあるのかも知れない。
「ええ、いいですよ」
「どうしてこのタイミングなの? 初めから優待者が分かっていたんなら、試験が始まる前に回答しちゃうことも出来たはず。それなのに、貴女はそうしなかった。……どうして?」
真面目な表情で一之瀬が質問する。その問いかけの行方を、オレを含めたグループの全員が固唾を呑んで静観に徹していた。開始前から問答無用で終わらせられたにも関わらず、二回目のディスカッションまで引き伸ばした彼女の真意。胃がキリキリと痛むような静寂の中で、それが明かされるのを待つ。待つことしか出来ない。
やがて、白雪のような手先で軽井沢の頬を撫でた土岐が、にっこりと眩い笑顔を咲かせてそれに答えた。
「恵ちゃんが退屈そうにしていたので」
たったそれだけ。簡潔に理由を述べて、二人は扉の向こうへ消えていった。ぱたん、と扉の閉まる音が、やけに耳に残った。
最初からこの話し合いは全て土岐の掌の上――――いや、