これってアウト?~アイテムボックスに女の子入れたら全員怒るのに誰も出ていかないんだが~ 作:塩味ななと
【観測ログ:セクター・グラデュエーション】
対象:卒業という名の境界線における思考残渣の抽出
⚠️ WARNING: 観測者(システム)への警告 本記録には、高度な情緒的ノイズおよび未定義の熱量が含まれています。
「思考残渣」の過剰な蓄積を回避するため、処理の破棄(スキップ)が必要な場合は直ちにプロトコルに従ってください。
ダンジョン創造者の視点による、非定型的な生命活動の記録です。
【観測者(システム)への警告】
本セグメントには、予測不能な「運命のダイスロール」が含まれています。
出力された地名および展開に矛盾が生じた場合、直ちに当該データの「処理の破棄(スキップ)」を推奨します。
◇ ◇ ◇
あらすじ
卒業式当日、俺は「思い出」を作るために踊ることを決めた!
クラスメイトたちの笑い声と、副担任の呆れ顔を背に、
サイコロが導いたのは、新たな戦場への入り口だった。
スキル発現、そしてダンジョンデビュー!
物語は、予測不能な加速を見せる――!
◇ ◇ ◇
いつものように、俺のお腹を枕にしてプレイしている。もう俺は太ってないから、プルプルでほわほわの弾力マシマシぽよんなお腹じゃないはずなのに。それでも、六花は匂いが良いんだって言う。
「カレーチャーハンの匂いしかしないけど」
鼻先を寄せて、むず痒いほどに執拗な嗅覚が俺の腹部を撫でる。
「そーゆーんじゃないから!今日もパンツの中に射精してよネ!」
熱を帯びた要求と、逃げ場のない距離感。俺の精子の匂いが好きらしい。……で、その直後にケンカになった。理由はこうだ。
「ダンジョンデビューは私が高校卒業してからにして。じゃないとおにいちゃんに襲われたってお父さんに言うから!」
六花が俺の洗濯済みの、清潔なパンツをスンスンと嗅ぎ回る。集中力を削ぎに来るその執拗な仕草は、もはやゲームにおけるズルそのものだ。リアルでの影響力、反則コンボ。それに対抗しようと、俺は腹筋に力を込めた。
「ムリムリ、それは父さんも信じない。フンッ」
ギュッと腹を固めて六花の頭を跳ね上げる。だが、その勢いが仇となった。弾力のある頭部が戻る反動で、俺のお腹へ思い切り拳がめり込む。
「げぼぉ」
胃の底からせり上がる不快感に悶絶していると、落としたすにゃっちが容赦なく六花の頭に直撃した。
「もみたりんッ!」と天穿峰春闘の1%根性復帰時のセリフを叫んだ。そして俺の洗濯済みのパンツをまたもや引っ張り出して匂いを嗅いでから俺に投げてきた。そして「負けたから許さない」
痛かったようだけど理不尽すぎる。あ、天穿峰春闘の1%発動根性発動も同じだ。
さっき思いっきりズルをしたのに、その報いを受けるのが俺というのは何というのもマジで理不尽設計。結局そのまま勝ち負けの争いに発展し、六花はとんでもない条件を突きつけてきた。
「じゃあ、制服をくれたら許してあげる(´▽`)」
笑顔の裏にある強欲な瞳に抗えず、俺は折れて制服を渡した。ベッドの上で着替える衣擦れの音。
「きゃっはー、おにいちゃんの第二ボタン欲しい女子ざまぁ( `ー´)ノ」
歓喜に震えながら、ベッドの上でピョンピョンと弾む身体。その躍動感すらもゲームのテンションを加速させる。
「はい、裾直ししてくれたら許してあげる」
要求が止まらない。俺は抗議のつもりで裾をまくったが、結果として左足はダンススタイルに晒される形になった。
「ヾ(@⌒ー⌒@)ノヾ(@⌒ー⌒@)ノ」
リズムに乗って踊るような挙動。機嫌を取り戻した六花とともに、俺たちはそのままゲーム漬けのコースへと突入した。
画面の中で、俺が、『富岳颯月(ふがくそうげつ)』のインテリコンボをミスった時、
六花が『天穿峰春闘(てんせんほうしゅーと)』の三ゲージ秘終激を繰り出す。それが決め手となり
「我が四十八手に勝る技なし!(かくかく)!」
天穿峰春闘の決め台詞と六花の鼓膜を震わせる叫び声とがハモリ、コントローラーを叩く激しい音。
「近所迷惑でしょ!」
壁越しに響く母さんの怒声が、現実へと引き戻す。それでもゲームは止まらない。ふと視線を上げれば、窓の外は深い闇に沈み、夜も更けていた。
◇ ◇ ◇
翌日、お昼過ぎに登校し、教室へ向かうと、そこには涙を流す女子生徒たちに囲まれる担任教諭の姿があった。
「めちゃ泣いてる」
その光景は、あまりにも重苦しく、見ていられない。これはまずい。俺は静かにその場を離れ、影の薄い副担任を求めて職員室へと足を向けた。
ガラッ――。
扉を開けると、そこは騒がしい熱気に包まれていた。担任を持っていない科目担当までもが女子生徒たちに囲まれ、教室のようなにぎやかさだ。目的の副担任は、事務机に座っていた。俺はそいつに声をかける。
「やっぱりこっちに来たか。私服で証書を受け取りに来た生徒は初めてだ。それから卒業式にニンニク臭を纏っている生徒も初めてだ」
ぶつくさと小言が飛んでくる中、俺は事務的に証書を受け取った。
「ばいばい、高校。おさらばよ」
財布と端末を放り込んだ肩掛けポーチへ、証書の筒を押し込もうとする。だが、入らない。無理に詰め込もうとしても、硬い筒が拒絶するように手応えを返す。
「これ、いりません」
俺は無造作に筒を突き返した。
「持ってけよ。卒業記念品だぞ」
「証書以外はいらねぇ、スキルが発現したら証書も捨てるし。しかしこれも思い出か」
そう呟きながら、俺は筒をボコボコと力任せに潰した。ぐにゃりと折り曲げ、無理やりポーチの隙間にねじ込む。
「(; ・`д・´)おまえ……?」
呆然とした顔で、副担任がそのしぐさを見守っている。ウチの高校は確かにアホ偏差値だ。だが、流石にそれはやりすぎだろう。
俺はサイドのポケットから十二面サイコロを取り出した。もう片方の手には端末。画面にはメモが表示されている。1から12までの数字。その横には、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡、神戸、広島、仙台……と、大規模ダンジョンが出現した地名が並んでいた。もちろん俺が書いた。
「このサイコロが俺の人生を決める( ̄▽ ̄)」
SNSの情報によれば、地域によってスキルの発現傾向は異なるらしい。大規模ダンジョンごとに個性があり、出現するモンスターも違う。攻略に有利な場所もあるという話だ。配信ドラマとは一線を画す、生々しい現実のルール。
……こういう情報は元カノがよく知っていた。彼女は情報通で、俺は現場主義。つまり、俺は覚えていない。
ぽいっ、と副担任のデスクにサイコロを投げる。
コロコロコロコロ……。
ジー(゜゜)と、視線でサイコロの行く末を見守る。静止した時間の中で、音だけが響く。
コロコロコロコロ。――8。
メモの8番目には、『仙台』と書かれていた。
「仙台か……近い。すぐじゃん」
俺は転がったサイコロを拾い上げ、北の方角を指さした。
「はい、れっつご」
その指先は、図らずも副担任の頭の上に乗っている。
「黒井、俺のことガン無視だな。舐めてるのか?(-_-メ)」
不機嫌そうに腕を払いのけ、副担任が立ち上がる。
「やりますか? 俺、避けますよ?」
逃げる隙を与えないほど、ぐっと距離を詰めた。
「(゜∀゜)ニンニク臭さが直撃するほどバグった距離感……そうだった、コイツ、中学のころ……可愛い子をナンパする男を見かけるとファイト吹っ掛けるやべぇやつだった」
至近距離で漂うニンニクの香りに、副担任が顔をしかめながらも、記憶を辿るように視線を泳がせる。
「うちの高校の美少女達を助けまくってた。評判は良かったがキモオタチビデブ距離感バグり過ぎて……全然モテず……偏差値低くてかわいい子が多いこの学校でとびっきりの彼女ができたけど浮気されてショックでこんなにやせ細り……お前もつらい人生だったんだな。前言撤回する。いってよし」
「心の声に悪意を感じます。それからトラウマえぐるのやめてください。元カノは……存在しませんでした(-_-メ)」
向けられた視線が痛い。俺は平静を装いつつ、心の中で盛大にツッコミを入れた。
「意味わかんねーよ、早く行け。俺も、女子生徒に囲まれる予定があるんだ」
「嘘つき、あなたはいつも孤独でした」
図星を突いたのか、副担任の眉間に深い皺が寄る。背後からは、まだ教室に残っている女子生徒たちの涙交じりの声が、波のように押し寄せてくる。
「トラウマえぐるのやめてください。女子生徒は……存在しませんでした(-_-メ)」
副担任が、まるで自分自身に言い聞かせるように力なく呟いた。
「先生、キャラが変わってますよ」
「お前はもう部部外者。猫を被る必要はない」
彼はそう言って、眼鏡をそっと外した。剥き出しになったその瞳には、どこか吹っ切れたような、諦念に近い色が宿っている。
「そうですか。モテない理由が分かりました」
「うるさいよ。早く行け。それから……卒業おめでとう。探索者だっけか?頑張れよ」
少しだけ声のトーンが和らぎ、彼はぶっきらぼうにエールを送った。
「はーい。先生は素の方がモテると思います。さようなら('ω')ノ」
軽快に手を振り、俺は背を向けた。だが、振り返るとそこにはもう、別の騒動が待ち構えていた。
「キャー黒井くん、学校来てたの?」
一人の女性が弾んだ声で駆け寄ってきた。同じクラスのみわだ。彼女を含め、いつも一緒の仲良し女子5人組――みわ、アイリ、ケイ、ひなた、アキ。彼女たちが俺を見つけて、一斉に視線を向けてくる。
「久々じゃん」
「ウンチ長すぎだよ」
アイリが笑い、ケイが容赦なく、かつて俺が無断下校した理由を突きつけてくる。
「お薬あるよ?」
ひなたがカバンをガサガサと弄り、小さな袋を差し出してきた。優しさの中に、明らかに「わざと」やってる感が見え隠れする(。´・ω・)?
「式来ないとかー意外とピュアだったんだねー」
アキがニヤリと笑う。さっきまで科目担当教諭を取り巻いていた彼女たちのグループが、そのまま俺の領域へとなだれ込んできた。
「うん、証書貰った('ω')」
俺は少し誇らしげに肩掛けポーチを掲げてみせる。
「ちっさ」
「入んないっしょ?」
アイリとケイが、左右からポーチをグイグイと弄り回してくる。
「でも、なんでダンスファッションなの(。´・ω・)?」
みわが俺の服を掴んで、フリフリと揺らした。
「今日は卒業式だよ?」
「アホくない?」
アキが、グイグイしていた俺のカバンをペシッと弾く。
「これからダンス?」
「これからダンジョン」
胸の高まりが抑えきれない。口角が勝手に上がっていくのが自分でもわかる。
「ダンスでモンスターは倒せないよ?」
ひなたの言葉は、なんだか的外れな基準に基づいた審査のようだったが、そんなことはどうでもいい。
「あほかよー( ´艸`)」
「コイツ、アホだ( ´艸`)」
「黒井、センスありすぎ( ´艸`)」
「つーか、それで来るなら、式の間に踊ってくれたらよかったのに」
「アリアリ!」
「校長の話はいらない!黒井のダンスの方が良い」
「そしたらめちゃ思い出になったのにー」
『思い出』。その響きに、俺のスイッチが入った。
「( ゚д゚)ハッ!思い出・・・大事( ー`дー´)キリッなら、今から踊る」
突如として職員室の真ん中でステップを踏み始める。
「うるせぇぞ黒井―――!( `ー´)ノ」
学年主任の手が、俺の頭を力強く押さえつける。えー?(゜o゜)と絶句するクラスメイトたちの視線。だが、主任はふっと目を細めた。
「今日は・・・良いぞ(^^)」
To Be Continued