これってアウト?~アイテムボックスに女の子入れたら全員怒るのに誰も出ていかないんだが~ 作:塩味ななと
【観測ログ:パーソナルスペースの崩壊および情緒的ノイズの検知】
警告:本記録には、観測者の予測モデルを著しく逸脱する「異常な距離感」と、それに伴う生体反応(動揺・困惑)が含まれている。
情報の受容において、個人の境界線が消失する現象に留意せよ。
不適切な干渉、あるいは過度な情緒的同調は、思考残渣として処理の破棄(スキップ)を推奨する。
◇ ◇ ◇
あらすじ
【アイテムボックス×ゲーム知識】スタートアップ資金で手に入れたのは、意外すぎる武器「トンファー」!
持ち前の(?)距離感で美女店員を圧倒しながらも、着実に準備を進める。
次なる目標はポーター登録――果たして無事に生き残れるのか!?
◇ ◇ ◇
登録は簡単だった。言われたとおりに流れに乗ってボーっとしてたら終わってた。強面教官にはめっちゃ嫌われた。本キックはいてぇよ(´;Д;`)
鈍い痛みと、教官の怒鳴り声がまだ耳の奥に残っている。
まあいいや。
ここはSENNDAI大規模ダンジョンのロビー内の受付。マジででかい。ずーっと広がっている。しかし俺が見るのはロビーではない。眼の前のめっちゃ可愛い受付女子。それ以外見る価値ないね。
視界のすべてが、カウンター越しに微笑む彼女達の存在感に塗りつぶされている。
早速、新人であることを告げIDを見せて色々お世話してもらった。質問されたけど、正直、説明はまったく頭に入っていない。
「スタートアップ資金で買い物ができますがどうしますか?」
「買います、どこで買えますか?」
受付女子めちゃくちゃ可愛い。これはSNSで盛り上がるのわかるね。カウンター越しにズズイと距離を攻めていく。鼻先が届きそうなほどの距離感に、自分でも少し無自覚な熱を感じる。
「あちらの販売エリアで買えますよ。買い物が終わったらまた来てください。ポーターの登録がありますからね」
彼女の瞳がわずかに泳ぎ、困惑したような色が混じる。
「ありがとうございます」
さあ、大いなる目的が近づいてきた、と勢いよく立ち上がりカウンターを後にした。
テクテクテクテク と向かう先に、展示品が並べられているコーナーがある。
スタートアップ資金制度を使って売店で買い物だ。販売コーナーには背の高いクール系スレンダー美女がいた。武器も整えて展示してあるが見向きもしない。
「武器ください。短めの棒みたいで片手剣サイズとかありますか?」
と俺のいつもの距離感。
「はいはーい、こっちの片手剣ではダメですか?」
さすがプロ、冷静に対応するクール系美女。胸元には『早坂』と名札がある。
「はい、刃はいらないです。折れないバットみたいなのがいいんですけど」
「分かりました。バットですね、裏を見てきます」
彼女は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに表情を戻すと背を向けた。
コツ、コツ、コツ、コツ。
軽快な足音で彼女が裏へ回っていった。
◇ ◇ ◇
「なんだあいつ距離ちけーっつの。顔ちけーんだよ。みじけぇ棒なんててめぇの股間にしかはえてねーよ。嫌がらせかなにかか?」
物陰から漏れ聞こえてくるのは、先ほどまでのクールな声とは似ても似つかない、苛立ちを含んだ毒づきだった。
ゴソゴソ、と棚を漁る音が響く。
「棒は長いのなんだよなぁ。ダンジョンデビューか、卒業シーズンだもんな、しかし最初は刃物系憧れるもんなんだが」
独り言が多いが手は止まらない。
ゴソゴソ……。
「いやいや初心者に人気ウンチレベルの武器あったわウヒヒ修業した人しか使わない玄人武器。これ半分バットだろイケるか?打てるか?いや売れるのか俺・・・やってみるかウヒヒ」
物陰から聞こえる声は、今度は妙に浮足立っている。
コツ、コツ、コツ、コツ。
再びこちらへ戻ってくる足音が近づいてくる。
「ありました。ご要望に(ちけぇ!)中国で使われていたトンファーを参考に作られたトンファーです(やっちまった、間抜けなこと言った、これくらいしか言えることない、他に情報あったか俺?)修業した人にとても人気です(これはキツイ)。海外では警察でも導入してたりします(戦うのはモンスターだ、この情報はいらねぇ、クソ何も出てこねぇ情けねぇ)。素材は土属性石から生成した土を特殊製法で・・・(ちけぇ! お前俺に恥をかかせに来たのか?)ひゃ」
説明の途中で、彼女の声が跳ね上がった。想定外の距離感に、明らかに動揺している。
「ちょっと借ります」
逃げ場のない距離で、無造作にトンファーを手に取る。
手に馴染む重みを感じながら、軽く振ってみる。その素振りは、決してバットのそれではなかった。
「これにします。もう一本ください。あったらでいいんですがもう少し長いやつお願いします」
「持ってきます(買うのか!しかも・・・笑わないし突っ込まないいいやつじゃねーか)」
早坂さんは、さっきまでの苛立ちをどこへやら、ニッコリとした営業スマイルで対応した。
コツ、コツ、コツ、コツ。
「しかも結構振り方とか様になってたな。経験者・・・じゃねーな。トンファー欲しかったらトンファーくれって言うだろうし、振り方は剣だったし、いろいろちぐはぐなやつだ(ー"ー)まあいいか」
彼女は小さく息をつきながら、どこか納得したように肩の力を抜いた。
戻ってきた彼女に対し、
「フンフンフーン」
と鼻歌を歌いながら、足を振り回したり踊るような奇妙な動きを見せる。
「ギョギョ(; ・`д・´)(おいおいなんだコイツへんちくりんな動きしてんぞ、いいやつかと思ったがヤベー心底ヤベー奴だこんなところで踊ってんじゃねーよ)」
カウンター越しに突きつけられるその異様なステップに、早坂さんの表情が引き攣る。
「フンフンフーン」
鼻歌交じりに、まるでゲームアクションを再現するかのような勢いで蹴りを放つ。脳内は天穿峰春闘敗れたり、という感じなのだろうか。ドヤッとした顔まで決めている。
「お客様お会計はこちらで(だから近いっつーの!あと1cmきたらこのトンファーが暴れるぞ・・・て距離キープかよ)」
思考が追いつかず、さらにそのオチが見えない展開に、早坂さんは頭を抱えたくなる衝動を抑える。
「このブーツもください」
「ありがとうございます(見どころあるな足元大事だぞ・・・さっきのは蹴りの動きだったのか?わからねーこんなチグハグなヤツは初めてだ)ところでさっきの動きは?何か武道の経験でも?(ちけぇ!初対面の距離感オカシイだろギリギリ責めすぎだぞ)」
早坂さんは思わず身を引いて距離を取ろうとする。
「ゲームでしししししししし」
発言が途切れることなく、おにいちゃんの身体がガクガクと震え始めた。
「お、おい大丈夫か?(おいおいいろいろぶっ飛びすぎだぞコイツ)」
異様な光景に、早坂さんの声が強まる。
「すいません。トラウマがありまして。ゲームやりこみました」
額から大量の汗を流し、アセアセとしている彼に対し、六花がポケットから取り出したハンカチ(おにいちゃんの匂い回収用)で、その汗を拭う。
「ラノベの知識やゲームの経験はダンジョンでも活かせるっていうから頑張ってください(トラウマかよ、あの反応は相当な経験だな。可哀そうだが過去は変えられん、乗り越えろよ少年)」
彼女はどこか他人事のように、それでいて少しだけ同情を込めて送り出した。
「ありがとうございます。ポーターですが頑張ります」
「ポーターかよ!ほわぁ( ゜Д゜)あ、失礼しました。あの、はい、なんというか・・・ご不運を(トコトン調子狂うぜ)」
思わぬ職業回答に、彼女は目を見開いて呆然とする。
「失礼します」
丁寧にお辞儀をして、彼は受付カウンターへと戻っていった。その背中を見送りながら――。
「ありがとうございました(態度は丁寧なんだけどなぁオタク紳士ってやつか距離感ですべてぶち壊しだな。俺の出会った人間の中で完璧オンリーワンでナンバーワンだぜ。ポーター契約ならトンファー買うより小盾がいいだろが、あほくさくて一生記憶に残るぜ)」
早坂さんは、去っていく背中に向かって小さく呟いた。
「海莉ちゃん、今の友達?近かったけど」
ふいに声をかけてきたのは、もう一人の鑑定女子。他のスタッフに比べると地味で、ぽっちゃりとしたおとなしそうなメガネっ娘。名札には『桜井』とある。
「ちげーよ、あいつ死んだな確定だ一年生きてたら股開いてもいい位確定だな。あの距離感は余裕で即死確定だわ・・・」
早坂さんは、呆れたように溜息をついた。
「(•_•)(•_•)」
桜井さんの瞳が、メガネの奥でぱちくりと瞬く。
「まあ残念だが俺が股を開くことはないな」
「(•_•)(•_•)」
またしても、桜井さんの目がぱちくりと動いた。
「あ、いやいや、あいつは初対面だけど友達みたいな?お客様だけど違うみたいな?(やべー股とか言っちまったよ)」
急に顔を赤らめ、変な汗をかく早坂さん。
「二人だけの内緒だね」
「うん(彩葉のためなら何でもできるいつでも抱いてやるぞ)」
彼女は照れ隠しのように、力強く頷いた。
To Be Continued