俺の性癖のせいで淫魔が支配する貞操逆転異世界で、自分をボコボコにした強い女たちが奴隷になるチートスキルでハーレムができてた 作:ショムカオルコ
「くそっ! なんでこうなった!?」
「いいから走って!」
ミレイが全力疾走する俺の耳もとで叫ぶ。
俺はミレイをおんぶして森の中を全力疾走していた。
ミレイの肩越しに振り返って、追いかけてくる大量の魔物を視認した。
俺とミレイは同時に舌打ちする。
「なんであいつら追いかけてくんだよ!?」
「私の魔力が切れたって確信したからでしょ。ダーリンが私の魔力を吸わなきゃこんなことにはならなかったってこと!」
「もとはと言えば、お前が俺をこんなとこまで連れてきたのが悪いんだろ!」
「そんなことより前見て!」
気づけば前方を魔物の群れに塞がれていた。
俺とミレイは完全に魔物たちに囲まれていた。
まだ警戒をしているのか、あるいは隙を狙っているのか、魔物たちは様子をうかがうようにその場から動かないでいた。
ミレイが耳もとで囁いてくる。
「ねえ、ダーリンのスキルって魔物相手にも効くの?」
「今のところ試す予定はないぞ。お前こそ飛べないのかよ?」
「そんな余力があるなら一人で逃げてるから」
「じゃあどうするよ、この状況?」
ミレイを背負ってこの魔物の大群から逃げるのは不可能だ。
かといって、俺一人でこの魔物たちを全て処理をするのも困難だ。
「いちいち数えるのも面倒だな」
下手したら百匹はくだらないだろう。
この数の魔物がずっと森で身を潜めていたことからも、ミレイの力がどれだけ強大だったかが分かる。
ミレイを背中に背負ったまま剣を構える。
一点突破するしかないか。
あるいはもう一つ手段はある。それは時間を稼ぐことだ。しかし、果たして——
この状況をどう打開するか巡らせていた思考を断ち切るように、獣の断末魔の絶叫があがった。
魔物の群れの奥で血飛沫があがる。
魔物が一匹、また一匹と血しぶきを上げては倒れ、群れが割れていく。
赤い血で染まった道を、一人の女が歩いてくる。
揺れる黄金の髪。
切れ長の双眸で、魔物には目もくれず俺とミレイを見ていた。
細身の身体を包む黒のジャケットに、タイトなスラックスに身を包んだその女の手には、異様に刀身が長い黒剣が握られていた。
「セルフィア・アルクス……!」
ミレイが俺の耳もとでつぶやく。
「この人が……」
魔物たちは自分たちの同胞がやられたというのに、時が止まったように固まってしまっている。
ようやく一匹の魔物が我に返ったように、突然現れた女に襲いかかる。
魔物がまた死体に変わる。
俺もミレイもなぜか指先一つ、動かすことができなかった。
また一匹。また一匹。魔物たちが血の海へ沈んでいく。
一斉に襲い掛かった魔物たちは、30秒にも満たない時間で全て屍にとって代わった。
「あなたがアキトですね」
冬の湖水のような穏やかな瞳に見つめられて、俺は無意識に息を呑んでいた。
セフィリアは返り血一つ浴びていなかった。
「はじめまして。ケルビナから話は聞いています」
「え、ああ、アキトって言います」
あまりにも自然に握手を求められて、俺は戸惑いながらも差し出された手を握った。
近くで見ると、セルフィアはゾッとするほどの美人だった。
長い睫毛が影を落とす双眸には、魔物と対峙していた時にさえ殺気を感じられなかった。血が通っていないかのような白い肌。品の良い微笑を湛える小さな唇。
しかし、その笑顔も含めてどこか作り物めいているように見えた。
三桁にも及ぶ殺戮の後だというのに、僅かな感情の昂ぶりさえ感じなかった。
「そして、あなたが淫魔ですね」
明日の天気を確認するような調子で、セルフィアは俺が背負っていたミレイに視線を移した。
決して強い口調ではないのに、俺もミレイもしばらく口を開くことができなかった。
「どうしてコイツが淫魔だって?」
一瞬、このまましらばっくれようかという浅ましい思考がよぎった。
「アキト。あなたの腹部や脚の刺し傷を見れば容易に想像がつきます。もっとも、傷の割にはお元気そうですが」
「見てのとおり、丈夫なのが取り柄なんですよ」
背中にイヤな汗が広がってくのを感じる。
「……ああ、そうだ言い忘れていました。危ないところを助けて頂いて、ありがとうございます」
思わず矢継ぎ早に喋ってしまう俺だった。
事前にどうやって会話の口火を切るかも考えていたというのに。
「今、ケルビナさんから話は聞いてるっておっしゃられていましたが、それって……」
とりあえず、まずは目の前の剣士が確認しようとしたところで、
「そうよ、アキトさん」
数人の女性を背後に従えていたケルビナさんが答えた。
「私が頼んでセルフィアに先行してもらったの。正解だったようね」
ここまでケルビナさんの存在に気づかなかったことに、改めて俺は自分が動揺していることを自覚する。
「わぁ~、ケルビナさぁん、迎えにきてくれたんですかぁ? ミレイ、嬉しいですぅ」
ミレイが俺の背中から下りて、場違いな甘ったるい声でケルビナさんに声をかけた。
無駄にその場でクネクネして、いかにも嬉しいですといったリアクションをしてみせた。
いや、この状況で何を考えてんだ、コイツは。
どう考えてもそのぶりっ子でこの状況を切り抜けるのは無理があるだろ!
「そう、ミレイちゃんを迎えに来たの。あなたを拘束するためにね」
俺は背中に冷たい汗をかきながら、ミレイの横顔を見た。
ここからが、俺たちの即興劇の始まりだった。
「……ふーん。私は完全に手の平の上だったってわけね」
ミレイが一瞬、俺に視線をやると、今度はあっさりと演技を辞めて肩をすくめた。
「ずっと演技してたってわけね」
さすがにこの声帯を丸ごと取り替えたような声の変化と、態度の変貌にはケルビナさんも目を丸くしていた。
「お互いさまじゃない? 私のことを疑っていながらそんな素振りは見せないし、しっかり罠にハメてくれちゃってまあ」
今度はミレイが俺の腕にしがみついてきた。
「ねえ、ダーリン? ケルビナさんって性格わるくな~い?」
「いや、お前の方が間違いなく悪いだろ」
「ひどっ!」
ミレイがわざとらしく俺の腕から離れてのけ反った。
ミレイが何を考えているのか、俺はなんとなく理解した。
コイツは俺が動揺していることを見抜いたのだ。だからこんな道化を演じているのだ。
まったく、つくづく強かな女である。
俺は深く息を吸った。
「ケルビナさん、今回の依頼の本当の目的はやっぱりミレイの正体を見定めることだったんですか?」
俺がそう聞くと、ケルビナさんはあっさりと頷いた。
「……アキトさんなら気づくと思ってたけど。それにしても本当に淫魔を倒せるのね」
ケルビナさんは今の状況から、ミレイが既に俺によって無力化されていることを察したのだろう。
「それで? 今後、ミレイはどうするんですか?」
「拘束します。その淫魔には確認することがあります」
俺とケルビナさんの間に、セルフィアが割って入るようにそう答えた。
「拘束ね。コイツには色々と聞くことがあるんでしょうけど、その確認作業が終わったらどうするんですか?」
「それをあなたが知る必要はありません」
穏やかな笑みはそのまま、セルフィアは言った。
「それは困りますね」
「困る?」
「実は俺、いずれは旅に出ようと思ってまして。さっき魔物の集団に襲われて改めて思ったんですよ。やっぱり旅に出るなら強いパートナーがいないと、って」
いくつかミレイの利用価値については今の今まで考えていたが、もっとも私利私欲なことと言えばこれしか思いつかなかった。
「まあ今はこのとおり、自分の足で歩くこともままならないぐらい弱ってますけどね」
俺はミレイの背中をバンっと叩いた。
ミレイがイラッとしたように無言で俺をにらむ。
「それは許容できませんね。アキト、あなたがその淫魔を退けたことは事実のようですが、回復すれば再び牙を剥くことは想像に難くありません」
「断言します。コイツはもう俺に危害を加えることはできません」
「どういうこと?」
それまで静観していたケルビナさんが口を開いた。
「こういうことです。ミレイ、おすわり!」
「へ?」
ミレイは構えていなかったのか、俺の言葉を聞くと呆けた顔で正座を崩したような体勢でぺたんと座った。
「ちょっと、急すぎるんだけど?」
ミレイが抗議の声をあげるが、俺は構わず次の『絶対命令』を発動した。
「ミレイ、今度は逆立ちしろ」
ミレイが俺に言われるまま、地面に手を突いて逆立ちをしようとして地面を蹴る。
しかし、そのまま背中から落ちてしまった。
「……お前、逆立ちできないのか?」
「……逆に聞きたいんだけど、なんで私に逆立ちさせようと思った?」
そんな俺たちの間抜けなやりとりを見ていた、セルフィアが口もとに手を当てる。
「これは……アキト、あなたは淫魔を制御できるのですか? 言霊か何かですか?」
「詳しくは話しませんが、ある一定の条件を満たしたら、このように操ることが可能です」
俺の言葉にセルフィアとケルビナさんが顔を見合わせる。
「なんならもっとこの淫魔に愉快なポーズでもさせましょうか?」
「ちょっと!?」
セルフィアの口もとから微笑が消えていた。
「……しかし、命令をしていない時ならあなたに危害を加えることは可能でしょう?」
「それも今のミレイには不可能です」
当然、そういった質問が来ることは予想している。
俺は隣で地面に座っていたミレイの両頬を包み――キスした。
「んっ――」
ミレイが一瞬、目を見開いたが俺の意図を察したのか、俺の舌に自分のそれを必死に絡ませてきた。
「……今のは?」
ミレイとのキスを終えた俺に、セルフィアが怪訝そうに聞いてきた。
ケルビナさんもさすがに俺の行動の意図が掴めなかったのか、片眉が上がっていた。
「淫魔はキスで相手の魔力や精気を吸い取ることができます。だけど、俺はこのとおりピンピンしてます」
「……つまり、あなたに危害を加えることはできない。そう言いたいのですね。しかし、あなたたちがここまでのやりとりまで計算して共謀していないと言えますか?」
自分のこめかみを伝う汗が増えていることに気づきつつ、俺は開き直るように答えた
「それならそれでよくないですか? 今のキスで俺には何も起こらなかった。少なくとも現時点ではコイツは俺の言うことは聞く、ってことの証明でしょう?」
はっきり言って穴だらけの理屈だったが、俺はそのまま言葉を続けた。
「それにこの問題も命令で解決することが可能です、俺ならね」
俺はミレイの背中に手をやった。
「あなたたちがこの淫魔に何をするつもりかは知りませんが、コイツが持つ情報を洗いざらい吐かせたいんでしょう? でも難しいと思いますよ」
俺は笑って言ってみせた。
「この女はプライドが高い。あきらめも悪い。ついでに性格も悪い。人間に捕まった挙句喋らされるなら、その前に命を絶つことを選ぶでしょうね」
「まあ、それは言えてるかも。何もかもアンタたちの思惑どおりに進むってのも面白くないしね」
ミレイが挑発するように鼻を鳴らす。
ミレイはふてぶてしく腕を組んでいるが、状況的に一番余裕がないのはコイツだ。
「でも、俺ならコイツを操って情報を吐かせることもできる。あなたたちが知りたいことをね」
「今のアキトさんの話と、今後のことを踏まえれば、ミレイちゃんの扱いについて一考するのはありかもね。セルフィア、どう?」
ケルビナさんがセルフィアに呼びかける。
セルフィアは何も言わない。表情も全く変化を見せない。
辛抱強く続きを待っていたが、次の言葉は俺をゾッとさせるには十分だった。
「……仮にその淫魔の翼を切り落とした上で、空を飛べと命令したらどうなりますか?」
俺は言葉を失った。
質問の内容に、ではない。
セルフィアの身にまとう雰囲気に初めて殺意のようなものが湧いたからだ。
「それは……」
次に言うべき言葉が喉に詰まって出てこない。
足元からこれまで感じたことがない恐怖が這い上がってくる。
「えぇ!? こわすぎぃ! この人頭おかしいですぅ! ダーリン、助けてぇ!」
ミレイがぶりっ子モードでまた俺の腕を掴んで、ぶんぶん振り回してきた。
呆然としていた俺を叱咤するように、ミレイが俺の腕に爪を立ててきた。
この期に及んでミレイは誰よりもタフだった。
自分が一番追い詰められているくせに。
俺よりよほど肝が据わっていた。
ほんと、コイツは……!
「さっきセルフィアさん、あなたも見たでしょう。コイツが逆立ちをしてマヌケに転がっていくのを。本人ができないことはできないし、物理法則を無視することもありません」
「つまり、あなたの魔術はそこまで万能じゃない、ってことですね」
「おっしゃるとおりです」
俺はそう答えると、セルフィアの瞳に暗い光が灯ったような気がした。
「では——あなたが死んだらどうなるのですか?」
俺はその質問にはすぐには答えなかった。
なぜならそれこそ、俺がセルフィアから引き出したいものだったからだ。
俺は言った。
「ミレイ、翼を出して空を飛べ」
一つ、俺とミレイが運がよかったのはセックスしたことだった。
アホみたいな話だがアレのおかげでミレイは翼を顕現させる程度の魔力だけは残っていた。
ミレイが翼をはためかせて空中に飛び上がる。
「……いったい何をする気ですか?」
「実は俺の命令の能力にはもう一つ、こういう使い方があるんですよ」
俺は空を飛んでいるミレイに向かって叫んだ。
「ミレイ、俺が手を叩いたら頭から落ちろ」
さっきと同じように『絶対命令』を発動する。
そして、思いっきり手と手を合わせた。
乾いた音が森に響き渡る。同時に、
「ぬぁっ!?」
想像していたよりずっと派手にミレイが空から叩きつけられるように、頭から落ちた。
そう、これはマオと出会った日、森と宿で行為に及んだ時に発見したスキルの使い方の一つだった。
その光景を見たセルフィアが初めて目を見開いた。
「まさか……」
「そうです。条件をあらかじめ指定しておけば、それが起きた時にミレイは俺の命令を絶対に実行するんです」
俺はまだ地面に突っ伏したままのミレイに歩み寄る。
頬を地面の土で汚したミレイが、俺を焚き付けるようににらみつけた。
俺は言った。
「——俺が死んだら、いかなる状況だろうと必ず自害しろ。この命令は二度と解くことはない」